軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第342話 「バーグラー共和国」

ボグダン・ボグダーノフ王の説得に成功したクロードたちは、非公式のSNSでかき集めたアウトローなプレイヤーたちの助けを借り、新たな国家「バーグラー共和国」の樹立を宣言した。

まだ領土さえまともに持っていないため、現状では国と言っていいのかわからないが、いつか国としてちゃんと走り出した暁には名前にもある通り、共和国として出発する予定であった。

これは国王として主権を持ちたくないというボグダンの意向を受けてのものでもある。

共和制という概念はこの大陸には無いようだったが、国家の形態をいくつか説明している時にボグダンが一番興味を示していたのが共和制だった。

クロードたちにしても、やりたいのは真面目な国家運営などではなく他から略奪を繰り返すならず者国家であったので、国王として担ぐボグダンが口うるさく言わないのであれば都合が良かった。

ボグダンという国王がおり、そして共和主義を例えば憲法などで定めるとすればこれは立憲君主制とも言える。

しかし歴史上では共和制を敷いていても国王を擁立していた国もある。例えば選挙などによって終身元首を定めたり、特定の家系の貴族を世襲制で首長に据えていたり、その形態は様々だ。

どちらでもよかったが、名前のインパクトもあるし、ここは共和国で押し通す事にした。

他のプレイヤーたちに伝えておいた集合場所はシェイプ王都ではなく、少し離れた位置にあるロッチアという街だ。

ボグダンは首都とするならザスターヴァとかいう田舎町がいいとか言っていたのだが、あいにくその街は例の巨人型モンスターに真っ先に落とされている。

現在は安全のためとかいう名目で立ち入りが禁止されている。周辺の監視をしているのはいつか見たような怪しげな兵士たちだ。

今ならわかるが、あの者たちはこの国を裏から牛耳ろうとしている例の商会の手のものだろう。今堂々と敵対するのは得策ではない。

最終的にはそこを目指してもいいが、まずは組織として態勢を整えてからだ。

挙兵に関しては、隙があればシェイプ王都ですることも選択肢のひとつではあったが、戦争イベントの開始から間もなく、王都には各地から騎士団や傭兵たちが集まり始めていた。そんな中で目立つことをするのは 躊躇(ためら) われたし、その一団がどこかに去ってからも、例の商会の関係者らしき者たちが何やら王都に集まってきていた事もあり、断念せざるを得なかった。

荷馬車のようなものもあったし、あの商会の商品が何かを考えれば、食糧を王都に集めていたと見て間違いない。

「まあ、宣言したっつっても、この街を占領してSNSで書き込んだだけだけどな」

「占領はともかく、SNSってのはかなりの宣伝になっただろ。プレイヤーなんて大陸中にいるし、イベント中だからそれ系のスレチェックしてるやつも多い。噂レベルだとしても、もうすでに大陸中に知れ渡ってるはずだ」

「まあな。俺らだってペアレの田舎町の独立の話知ってるくらいだしな。逆もあるわな」

クロードとジェームズの雑談に菜富作が混じってくる。

「それに占領したっていっても、別に武力で無理やりやったわけじゃない。歓迎とまでは言わないまでも、領主や住民の人たちとは今の所うまくやってる。

街の人達に抵抗する気力が残ってなかったこともあるけど、この状態でわずかに残ってた食糧なんかを王都に吸い上げられたのも理由だと思う。

みんながインベントリの食糧を供出してくれたおかげだね」

共和国の幹部であるという事もあり、今ではこの3人は大抵つるんで行動している。殺し合いから始まった関係であるなど嘘のようだ。

街の占領に際し、略奪が出来なかったのはいささか残念ではあったが、今のシェイプの街で略奪や殺戮をしたところで大して旨味はない。それはクロードも、そして他のメンバーたちもわかっていた。

アウトロー板で集めたメンバーたちにも、菜富作やボグダンの存在が建国には不可欠であることを説明していたこともあり、表向きは行儀よく革命ごっこをする事に異を唱える者は居なかった。

またこれまで取り締まられる側だった事で鬱憤が溜まっていたというのもあるのだろう。

腐った警察組織などのように、表向き市民の安全を守りつつ、裏では悪事に手を染めるという一風変わった悪党プレイに憧れる者も多かった。

クロードやジェームズもそれには若干の興味がある。

今はそのための雌伏の時だ。

きちんとした国さえ出来てしまえば、あとは権力を笠に着てやりたい放題できる。

「でもこうも堂々と建国宣言なんてしてしまえば、王都から騎士団でも送り込まれてもおかしくないと思ってたけど、びっくりするほどなにもないね」

「──おそらくだが、今シェイプ王国はわしらに関わっておる余裕などないのだろう。

これはわしの言葉が招いた事でもあるが、今のシェイプ王の目には隣国ペアレの王族と、ペアレに眠る遺産しか映っておらん。

ゆえに足元とはいえ、木っ端な反逆者の事など意にも介しておらんのだろう」

確かに、以前に見た王の姿は、怒りに燃える幽鬼かなにかのようだった。

あの勢いのままに行動しているのなら、ちょっと反逆者が出たところで気にもしないだろう。

全ては憎き仇であるペアレを倒してから。そう考えていても不思議はない。

「あー。たしかにな。あん時の王サマ、かなりキテたもんな」

「そうだな。そいつに関しちゃ、ある程度裏は取れてる」

「というと?」

クロードの言葉に菜富作が疑問の声を上げた。

この情報は公式SNSから得たものではないため、菜富作が知らないのも無理はない。

「王都には今、ほとんど戦力がねえらしい。何でも、現有しているほぼすべての騎士を総動員してペアレ遠征に当ててるって話だ。

仮に王サマが俺たちの事を認識していて、どうにかしなきゃならんと思ってたとしても、どうにも出来ないってことだ」

公式SNSで語られる情報というのは当然ながらプレイヤーが得た情報になる。

なのでこうした内容も、シェイプ王都にもしプレイヤーがいれば、普段であればSNSに流れていても不思議はない。

しかし現在は戦時中だ。

今シェイプ王都にいる一般的なプレイヤーというのがどういうプレイスタイルの者なのかはわからないが、仮に積極的に戦争に参加したいと思っていて王都にいるのであれば、普通に考えてシェイプ王国に肩入れする気がある者だろう。ならば不利な情報であるこれらを書き込むはずがない。

また戦争に興味がないプレイヤーであるなら騎士団の動きもそれほど気にしないだろうし、わざわざ関連スレに書き込む事もない。

そして他国に手を貸すつもりで潜入しているプレイヤーが居たとしたら、せっかく得た情報を不特定多数に流したりはしないはずだ。そういう情報は自国の関係者にのみ伝えるだろう。

これらのことから、公式SNSでは全体的に国が特定されるような書き込みは控えられているのが現状だ。

どこの陣営も同じような事を考えているのだろうし、興味がないプレイヤーのほとんどは旧ヒルス王国に逃げ出している。

堂々と書き込んで連絡を取り合っているのはシュピールゲフェルテとかいうクランの連中くらいだ。そしてそのクランのシェイプ方面担当者は騎士団にくっついてペアレに遠征に行っているらしい。成果はいまいちのようだが。

そんな中でクロードがどうやって情報を得たのかと言えば、当然仲間のPKたちからである。

PKをはじめとするアウトローなプレイヤーたちは、長いこと体制から隠れ続けてきた者たちだ。それは手を取り合って決起すると決めた今でも変わらない。

バカ正直に本拠地に全員集まるような事などしないし、構成メンバーの何割かはさまざまな都市や国に散らばせてある。

シェイプ王都に忍ばせているのもそのうちの誰かだ。

前述のシュピールゲフェルテの書き込みでも「シェイプは総力戦の構え」とあったし、この情報の確度は高いとみていいはずだ。

「なんと愚かな……。ではこの街の、いや周辺の街から食糧を王都に集めていたのは戦争のためだというのか……。

確かにペアレを討たねば未来はないが、たとえペアレを討てたとしても、その時国民が死に絶えておればどのみち未来などないというに……」

「だよなあ。まったく馬鹿な王サマだぜ。

おっと先に言っとくが、王サマが馬鹿なのはおっさんの、ボグダン王の責任じゃねえぜ。だからこれは別にボグダン王のせいじゃない」

「……うむ。すまんな」

馬鹿な国王の背中を全力で蹴飛ばしたのはボグダンだが、それは別に言う必要はないし、本人もわかっているだろう。ボグダンがわかっている事をわかっていてクロードがこう言った事もわかっているだろうし、お互いにそれを言わないのは大人の優しい嘘というやつである。

「──となると……。俺たちが国を建てるために一番手っ取り早いのは、やっぱり王都を攻撃するってことになるのかな。

シェイプは今どの都市もこれ以上ないくらい手薄だし、どこを攻めても多分落とせると思う。普通に考えれば、そうやって賛同者というか、実効支配している地域を増やして既成事実を作っていくのがいいのかもしれないけど、あまり時間をかけてもいられない。街の人達の体力はどんどん無くなっていくだろうし、俺たちのインベントリの食糧も無限じゃない。

とっとと王都を制圧して、この国の中枢を掌握し、戦争のどさくさに紛れて周辺諸国に俺たちの存在を認めさせるんだ」

菜富作の案は悪くない。確かにそれが一番手っ取り早いだろう。

しかしひとつだけ問題がある。

「だが、俺たちの敵は何も正規軍だけってわけじゃない。

シェイプ王都には武装商店つうか、要はマフィアのフロントみてーなヤバい商会がいくつもある。しかも多分だが、その商会は全部グループ会社だ。あいつらが全力で抵抗してくるとしたら、こっちが何人いたとしても多分勝てない」

以前に戦った程度の相手なら、クロードやジェームズと同等のプレイヤーが100人もいれば余裕を持って殲滅可能だろう。

しかし一切手を出そうとしなかった謎の用心棒もいるし、それ以上に、そんな強力な用心棒をたかが支店長クラスに用意できるというだけでもあの商会のボスというのは得体が知れないところがある。

実際、そういったマフィアからクロードたちの共和国に寝返ったアウトローなプレイヤーも何名かいるが、彼らは組織の上層部については全く知らないようだった。

「そうか、そういえば王都にはなんか怪しい人たちがたくさんいたね。何の商売してるの?」

「食糧だな。どっから用意したのかは知らんが、高値で食糧を住民やら貴族やらに売りつけてやがった」

ジェームズが憎々しげに吐き捨てた。

以前に全く同じことをしていたクロードたちが言えたことではないが、連中が憎いのも別に嘘ではない。

「……食糧、というか、第一次産業に狙いを絞って襲撃してくる巨人たちと、それに付け込んで高値で食糧を売る商人たち……。

その商会ってまさか、巨人たちと関係があるんじゃ」

「いや、いくらなんでも魔物と手組むなんざ……」

「ありえないとも言い切れないよ。確かあの巨人たちっていうのはペアレ王国の遺跡から生まれた可能性が高いんだったよね。

それを根拠にこの国はペアレ王国に攻め込んだわけだし、つまり獣人たちはその魔物たちを操る何らかの手段を持っているってことになる。

まあ、実際のところは多分、災厄と手を組んだからなんだろうけど」

「つまり、菜富作が言いたいのはこういうことか。あの商会の連中は第七災厄の配下の人間だと」

「うん。まあただの仮説に過ぎないし、配下の人間っていうか、人間に見えても人間かどうかはわかんないけど」

なるほど。ありえないでもない。

というか、それを聞いてひとつ思い出したことがあった。

「待てよ、人間じゃない、か。

確か、ヒルス王国の何とかってダンジョン化した街、あそこのモンスターって身ぎれいなゾンビとか吸血鬼だって話だったよな」

「ああ。そうだな。ゾンビってか、ゾンビに見えてたけど実際は全部吸血鬼だったらしいけどな。全部ちゃんとしたゾンビだった街もあるけど」

ジェームズも思い出したようだ。

「何の話?」

「おいおい。ダンジョンに興味ねえのは農家だからか? お前さん個人事業主なんだろ。ちったあアンテナ伸ばしといたほうがいいぜ。

その街、ちょっと前から骸骨のドラゴンがボスとして君臨してるって話なんだけどな。そのボスの取り巻きが巨人のアンデッドなんだよ。フレッシュゴーレムっつったかな」

「ヒルス王国ってことは、第七災厄の庭だね。

つまり、そのフレッシュゴーレムっていうのはこっちで暴れてる巨人の試作品だったってこと?

それを使って産業を破壊し、その後そのダンジョンの吸血鬼を商会の人間に仕立て上げ、弱みに付け込んで食糧を高く売る……。

なるほど、筋は通ってるね。でも、災厄というか、魔物がそんな事考えるかな」

「考えたのはペアレ王国なんだろうぜ。手組んでんだろ。

つまりこのシェイプの一件は、人間の悪知恵で、モンスターの能力を最大限に使った、極めてタチの悪い侵略戦争だったってことだ」

大抵のサブカルチャー、大抵のゲームでもそうだが、魔物やモンスターというのは高い身体能力の割に頭を使わない場合が多い。

頭を使って行動されてしまうと人間など簡単に滅んでしまうからだろうが、まさにそれをやられたのが今回の件だ。

実際、シェイプはもう少しで簡単に滅んでしまうところだった。

「ペアレ王国め……。許せん……」

「気持ちはわかるが落ち着きなおっさん。そっちは騎士団なり別の国なりに任せておけよ。

俺たちがするべきなのは、一刻も早くこの国を掌握することだぜ。その時ペアレ王国がまだ生きてるようなら、あらためて鉄槌をくだしゃいい」

「そうだぜ。それに悪い話ばっかりじゃねえ。

その商会と巨人、ペアレ王国が繋がってるってんなら、本国が攻め込まれてるってのにあんまりこっちには構っていられねえはずだ。

現に今、シェイプ王都が無事なままってのもそれを裏付けてる。奴らがペアレの手先なら、手薄になってる王都を攻撃しねえ理由はねえからな。

つまり、行動を起こすなら今をおいて他にないってことだ」

こうしてバーグラー共和国軍は翌日、シェイプ王都に襲撃をかける事で一致した。

王都に忍ばせてあるプレイヤーからも商会の様子に変わりはないと聞いている。

ボグダンの意向もあるため奇襲とまではいかないが、態勢が整う前には襲撃できるだろう。