軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第328話 「優柔不断と剛毅果断」

ついに戦争が始まってしまった。

ウェインはこのゲーム世界というのは、人類同士の対立がない素晴らしい世界だと思っていた。

しかしそうではなかった。

対立していなかったのはあくまで対立する理由がなかったからであり、それは魔物という共通の敵が存在していたからに他ならない。

システムメッセージにもあったように、そのバランスが崩れてしまえば、危うい天秤の上に乗っていた平和という名の重石は光のとどかない暗がりに落ちて行き、二度と拾い上げる事は出来なくなってしまうのだ。

この状況の引き金を引いてしまったのは間違いなく自分たちだ。

しかしそうしなければあのゾルレンという街がどうなっていたことかわからないし、仮に何もせずにゾルレンが滅びるに任せていたとしても、おそらくペアレ王国はその責任をポートリーやオーラルに求めてきただろう。

理不尽極まりない言い分だが、先に不法に武装勢力を入国させていたのはポートリーである。

その点を突かれれば言い逃れはしづらかったはずだ。

引き金を引いたのは自分たちだが、お膳立てはすでにしてあったのだと言える。

そして自分たちが引かずとも、誰かが引き金を引かされる羽目になり、結局戦争は起きていただろう。

第七災厄の介入さえ阻止できていればもう少しマシな状況になっていたかもしれないが、気づいた時にはすでに遅かった。

あの黒幕らしいというローブが彼女だったというのなら、事態は前回イベントの時点で既に進行中だったということだ。

ともすれば、彼女が大天使を倒したというのも大陸に不和を撒くための布石だった可能性さえある。大陸の歴史から言えば、人類の共通の敵としてあれほど象徴的な存在もなかった。

そして表向き、反撃以外で事を起こしていない第七災厄は、人類の敵としては先代の第六よりも知名度が低い。全ての人が団結する為の象徴となるにはまだ足りない。

「……今さら言っても、だな。それに第七災厄を止めていたとしても、首謀者がペアレ国王なら、何かしらの形で戦争は起きていたんだろうし」

「独り言だってのはわかっちゃいるが、敢えて突っ込ませてもらうと、そもそも止めようと思って止めれるような相手じゃねえだろ」

ギノレガメッシュだ。

彼も今回の件については思うところがあるのだろう。

ウェインとギノレガメッシュ、そして明太リストは今ウェルス王国に来ていた。

今回、シュピールゲフェルテはクランとしてまとまって動くのではなく、各々がそれぞれ出来る事をするということで方針が決まっていた。

基本的には戦争の早期終結を目指すことになるが、それが叶わない場合でも最大限被害を減らせるように努力する。

オーラル王国にはヨーイチたちをはじめ、クランメンバーのほとんどが行っている。

またシェイプ王国では、引き続きアマテインやその手が暖かたちが現地のプレイヤーと協力してサポートをするつもりらしい。

ポートリー王国は旧ヒルス領によって物理的に隔てられた位置にある事もあり、当事国の中では最も戦火から遠いと言える。

消去法というわけでもないが、ウェルスにはギルや明太リストの知人も多いため、いったんこの国で様子を見ることにしたのだ。

ペアレとの国境線はかなり警戒度が増しており、ペアレからウェルスに移動するのは事実上不可能だったが、プレイヤーであれば関係ない。

まただからこそ各国でのプレイヤーの信頼度というのは揺らいでいるとも言えるが、全体で言えば純粋に戦力として無視できない規模があるのも確かだ。

それはここウェルス王国でも同様で、国はプレイヤーの囲い込みに走っているとの噂もあり、実際にウェインたちも騎士に声を掛けられていた。

ウェルス王国が被害を受けるのは望まないが、かといってそのためにペアレ王国の住民を攻撃するというのも考えられなかったため、国からの申し出については保留にしてあった。断るつもりだったが、断ってしまうとウェルス国内にいられるかどうかわからない。

ウェルス王国に付くという事は当然ペアレ王国と戦うということであり、事によってはつい先日守り抜いた街をウェインたちの手で破壊するなどという事にもなりかねない。

これほど虚しい事はないだろう。

「……とりあえず、ウェルス王都は今のところ平和だね。住民も少しぴりぴりしてる感じはあるけど、これは戦争って言うよりは国への不信感のためかな……。

ファームやもんもんたちもこの王都にいる……んだろうけど、さすがに探し出すのは難しいな」

明太リストが街を見渡しながら呟いた。

ファームやもんもんというのはウェルスを中心に、というかウェルス聖教会の周辺を主な活動場所としてプレイしているプレイヤーの名前だ。

より正確に言えば活動場所は聖教会ではなく聖女の周辺なのだが、聖女は結構フットワークが軽く、簡単に国外に行ってしまうため追いかけるのは容易ではないらしい。

現在はその聖女も国に戻っているようだが、聖教会の総本部、大聖堂にて静養している。と、表向きはなっている。

しかし実際のところは政府によって半ば軟禁状態にされているというもっぱらの噂だ。

これはSNSで過激な発言をしていた彼らからの情報でもあるが、街の人たちの認識でも同様のようだ。

政府のこの措置には王都の住民も反発している。その理由はプレイヤーたちによって聖女の活動が広く知らされていたからだろう。

人道的には聖女は何ら間違ったことは言っていないし、話だけ聞いていれば確かにペアレ王国が諸悪の根源である。

聖女のファンであるプレイヤーならそのあたりを誇張して触れまわったのだろうし、住民感情の悪化も致し方ない。

平和だった大陸に余計な火種を、という政府の思いもわからないでもない。しかしあの時聖女が庇っていなかったとしたら、即刻ペアレとポートリー・オーラル連合とで戦争が始まっていただろう。

「SNSで呼びかけてもリアクションねえのか?」

「ないね。まあ一応戦争だし、ペアレ派のプレイヤーに見られる危険性のあるSNSじゃコンタクトを取る気は無いみたい。そもそも僕らは別にウェルスの所属って表明しているわけじゃないし、信用できないってことなのかもしれないけど」

「どうかな。この王都の状況を見る限りじゃ、ハセラたちが信用していないのはペアレ派以上にウェルス王国派だっていう気もするけど。

こんなことで国を分断してる場合じゃないのに……」

「だな。今はシェイプがペアレに侵攻を始めた事で、ペアレもそっちに戦力を集中させてる。結果的にウェルス側への圧力は減っちゃいるが、それもいつまで続くかわからねえ。

本格的に開戦しちまう前に、何とか訳わからん事はやめさせねえと……」

「本当言えば、開戦自体を止めたいところなんだけど、さすがにそれは無理か」

「今さら、だね。

公式大規模イベントとして始まってしまった以上、被害を最小限に抑えるには、たぶんペアレ王家を一刻も早く倒すしかない」

明太リストの言う通りなのだろう。

しかしさすがに一国の王家を倒すなど、少数のプレイヤーパーティやクランで可能なことではないし、ペアレは今特に獣人以外の種族についての入国を禁じているという話もある。

転移で移動したとしても獣人以外のプレイヤーでは王都に近づくことも出来ないだろうし、獣人プレイヤーだけで王城を制圧出来るほどの人数を集めるのは難しい。

結局は他の国に協力し、軍事力によってペアレ王国を打倒するしか道はないというわけだ。

ペアレに隣接するウェルス、オーラル、シェイプが協力すれば戦争の早期終結も夢ではないが、シェイプはすでに独自に軍事行動をとっているし、ウェルスは政府と聖教会の折り合いがつかず、ゴタゴタしてとても派兵どころではない。

シェイプの動きに合わせる形でオーラル・ポートリーがペアレを叩くのがもっとも合理的な案だが、一方的に宣戦布告をされた形のオーラルは戦争自体に対して消極的で、比較的やる気があるポートリーにしても、兵站をオーラルに頼るしかない現状ではオーラルの意向を完全に無視する事は出来ない。

「どうしようもないな……。運営がイベント期間をはっきり定めてなかった理由はたぶんこれだ。

泥沼の長期戦になることがわかってたんだ。だから期限を区切らなかった」

「なんとかしてウェルスをまとめ上げて、ペアレの、出来れば王都だけを叩くしかねえな。うまくシェイプとタイミングを合わせられりゃ、被害は最小限に抑えられる」

「そのためにはファームたちを見つけ出して、下らない争いの火種に油を注ぐのをやめさせないと」

「結局はそこに戻ってくるわけか……。ったく、こんなこと、当の聖女さまは望んじゃいねえだろうによ」

シュピールゲフェルテのメンバーは誰しもがこのイベントに責任を感じている。

何をどうしたらいいのかもわからないまま、このねばついた空気の中でもがくように打開策を探しているのも、その焦りからだ。

ゲームのイベントであるのだし、割り切って楽しんでしまうのが正解なのだろうが、経緯を考えると中々そうも出来なかった。

プレイヤーのほとんどが戦争に参加するか、あるいは完全に背を向けて安全地帯のヒルスに移動するかという情勢の中で、ウェインたちは実に中途半端な立場と言えた。

そしてそんな中途半端な者たちの前に、信仰が振り切れたハセラたちが姿を現すわけがないのだった。

***

「改めて見るとさ、ヒューゲルカップの領主ってすげー美人だな」

丈夫ではがれにくいがヒューゲルカップに来るのは2回目だ。

一度目は過去の大天使戦の時であり、このヒューゲルカップの領主とはその時に共闘している。

その縁もあって面会してもらえる事になったのだが、面会の結果はあまり芳しいものでもなかった。

「貴族はたいがい美人だぞ」

「そうだけどさ、なんてーの? 中身もふつくしいっていうか」

「まあ、しっかり領民の事は考えてるって感じしたな。それでいて他国の立場とかについても考えられるっていうか。そのせいで煮え切らない対応になっちまってはいるけど」

「でも領主さまにとって第一は自領民の安全なんだろうし、それ考えたら何も言えないよね……。騎士団はどうせ死なないんだから、なんてわかってても言えるもんじゃないし」

カントリーポップや名無しのエルフさんの言い分もわかる。領主の立場を考えれば当然の事とも言える。

丈夫ではがれにくい達プレイヤーにはSNSをはじめとする各種通信手段があり、森エッティ教授のもたらした地図もあるため 俯瞰(ふかん) 的に大陸の情勢を考える事が出来るが、NPCである領主はそうはいかない。

オーラル王国としては友好国ポートリーの手助けをしただけだという認識だろうし、ペアレの宣戦布告──世界観的にそういう儀礼は無いにしても──を突然受けて寝耳に水の状態で、いかに攻撃されるかもしれないとはいえオーラル側からあえて兵を出すような事はしたくないのだろう。

一刻も早く事態を終息させたいシュピールゲフェルテとしてはペアレ王国の早期打倒を望むところなのだが、事実上大陸一の大国であるここオーラル王国は当てには出来ないという絶望的な状況だ。

運よく何とか面会が叶ったのもヒューゲルカップの領主だけだが、ツェツィーリア女王と懇意である領主が乗り気でないというのなら、それが国全体の意向だと考えて概ね間違いないだろう。

「こっちの事は俺たちに任せてウェインやアマテインはそれぞれやるべきことをしろよ、なんてかっこつけたはいいけどさ、ちょっとどうしたもんかなこれは……」

「さすがに領主や女王に対して強硬に主張するなんて出来っこないしね……。やっぱ他のプレイヤーたちみたいに、割り切って戦争に参加して、それで何とかペアレの首を獲るしかないのかしら」

オーラル王国そのものは好戦的とは言い難いが、そのオーラルに協力するという名目で、国境付近でペアレの住民と戦闘を行なっているプレイヤーたちは多くいる。

ペアレ王国も軍が出張ってきているほどではないが、国境周辺の住民たちは皆殺気立っており、ペアレは特に住民そのものの戦闘力が高めな事もあって、無視できない被害が出ている街もあるからだ。

国境に近い街のひとつであるゾルレンの住民は驚くほど静かにしているが、戦争の原因を考えれば仕方のない事だとも言える。

ある意味では彼らがこの騒乱の一番の被害者だろう。

「あれ、そういえばヨーイチってどうしてるんだっけ。あとサスケもいないな」

「サスケは修行したいって言ってたけど、ヨーイチが引っ張ってったな」

「どこにだよ」

「責任とるとかなんとか……」

「責任? ってまさか……」

「そのまさかだよ。まあ、あいつらの気持ちもわからんでもないし、たぶんどうしようもないだろうけど、まあ今回はやりたいようにさせてやろうぜってな。お前聞いてなかったのかよ。「丈夫ではなしきかない」に改名したほうがいいんじゃないか?」

***

「──ようやく王都か。

しかし、これはどうにかならなかったのか……。俺の美学に反するのだが」

「んなもん、俺も同じだよ。

でもしょうがねえだろ。獣人以外は攻撃されるんだし。だいたい俺はこんな暗殺ミッションじゃなくて修行がしたかったんだぞ。それを無理やり引っ張って来といて、てめえだけ文句言うんじゃねえ」

ペアレ王都には城壁がない。

そのため、入るも出るも基本的には自由だ。

そんな王都に近付く2つの影があった。

全身黒タイツであり、犬のような耳と尾を持つ目付きの悪い男。

そして頭から猫に似た耳を生やし、スカートからは尻尾が覗く、純白の服の男である。