軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第298話 「はい2人組作って」

そのままさらに数分が経ち、これはもしかしたら運営をコールした方がいいのでは、と思い始めたところで教授の変化が終わった。

一回り小さくなった教授が立っていた。

「……小さいオッサンだ」

「小さいオッサンだね……」

それ以外に言いようがない。

もともと教授が羽織っていた、インバネスコートに似たローブがぶかぶかになっていることからも明らかだ。

「ずいぶん時間がかかっていたようだけど、何かあったの?」

「ふむ。実はもう一度アバターの外見を調整するチャンスが与えられたのだが」

通常の転生においてはそのような事はない。

確かに現在が例えばゴブリンやスケルトンだったとして、そうした種族から普通にヒューマンなどに転生できるわけがない。

アナウンスでは同性能のアイテムはゲーム内でも入手可能と謳っていたが、同条件で使用可能かどうかについては言及されていなかった。

あるいはゲーム内でそれらのアイテムを入手できた場合でも再メイキングは可能なのかもしれないが、そうしたアイテムの情報は全く出てきていないため不明だ。

しかし、初期種族へ転生可能なアイテムでキャラクターリメイクが可能だとすると、容易に他人になり済ますことが出来てしまう。余分に金を払わされるだけの事はあるということだろうか。

と思ったがそういうわけでもないらしく、顔などの造形や年齢性別、身体的な特徴はどうにもならない。あくまで種族が変わることによって大きく変化する可能性のある身長や肉付き、そして毛の生え具合だけらしい。

レアもライラも自分で使用する予定がなかったのでノーチェックだったが、その辺りのデータは有志によってまとめられているようだ。

当然個人差のあることだろうし、信頼できるデータとしてまとめられるという事は、1人で何個も使用したプレイヤーが何人もいるという事である。恐ろしい話だ。

「もともと私はエルフでね。ゲーム開始時は標準的な体形になるよう調整してキャラクタークリエイトをしたのだったが、ホムンクルスにおいてはどうもベースが少し違うようでね。それまでのパラメータをそのまま適用したところ、顔のむくんだドワーフのようになってしまったのだ」

つまり太ったという事だろう。

この現象はレアも覚えがある。何しろレアをベースに生みだされたヴィネアは太っているからだ。そう、あれは太っているのだ。レアが薄、細いわけではない。間違いない。

「その方が面白かったんじゃないの?」

「他人事だと思って……。

まあとにかくそれで調整に時間がかかってしまった。待たせたようだね」

しかしこれは、確かにホムンクルスが迫害されてしまうのもわからないでもない。

身長的に考えてもとても成人男性だとは思えないし、顔や手などのパーツも相似形で縮小されている。

これが生まれたばかりのサリーのように子供の容姿だったのならまだわからないでもないが、立派な髭を湛えた初老の男性である。

非常にリアルな、しかもまあまあなサイズの人形が勝手に動いて話しているようにも見えて、正直気持ち悪い。

「……まあ、いいでしょう。

そこまでやったのなら、これまで通りにプレイするなんて出来ないだろうし、もう開き直って魔物としてレアちゃんの下で生きていくしかない。

貴方を信用しようじゃないか。ようこそマグナメルムへ」

「ちょっと待った。コレはライラが引き取るんじゃないの? 才能を認めたとか言ってたじゃない」

「私の配下はヒューマンがメインだし、こんなのいても困るよ。レアちゃんのところは魔物多いし、今さら1体くらい呪いの人形が増えたところで変わらないでしょ」

「変わるよ。全体の、なんかその、士気とかに関わるって言うか」

「……私に聞こえないところでやってくれないかね。学生時代の苦い思い出が蘇るというか」

教授はぶつぶつキモカワイイと思うんだけどななどと呟いているが、その美的センスには疑問を感じざるを得ない。

「……よし、じゃあ新入社員研修として、バンブのところに送り込もう」

「うーん……。プレイヤー、だとバレるのは仕方ないとして、教授だとバレるのは問題かな」

ゲーム内では誰にも会わないようにするとしても、SNSでの教授の名前には価値がある。

あまり恣意的な誘導などをさせてしまっては興ざめだが、さりげなくダンジョンを宣伝したり、アピールしたりする事くらいはできるだろう。

どうせ書き込んでいる人物の容姿などわからない。

「なら、もう少し色々追加して、教授の面影を塗りつぶそう」

それでいてプレイヤーだとしてもおかしくない程度にはまとめなければならない。

さらに言えば、現行の鑑定アイテムに抵抗できる程度の実力も必要だ。

「なるほど、無垢なる胚だったっけ、ホムンクルスの転生アイテムは。よく言ったものだね」

「あらゆる可能性を秘めているという事か。それを活かせるようになるには相当な努力が必要だけど、何のボーナスもない割に弱くてハードモードな理由の裏返しがこれか」

ホムンクルスである教授に色々と特性を持たせ、賢者の石を与えてみた。

はじめはせっかくのホムンクルスであるし、こちらから悪魔への転生ルートでもついでに探れないかという程度だったのだが、結果はそれ以上に有益なものだった。

教授が言うには、転生先はいくつも出てきたという事だ。

その転生先とは。

マーダークリケット。

リビングメイル。

インファントリーアント。

キャバリエーアント。

おそらくそれぞれ、コオロギ、鎧、歩兵アリを混ぜたために現れた種族だと思われる。キャバリエーアントはアリと鎧があったためだろう。

天使や悪魔が無いのはおそらく能力値的に足りないものがあるせいだ。そちらについては教授はほとんど経験値を持っていないので弄ることができない。

これらの事から、ホムンクルスに無理やり特性を追加すると、それぞれの特性や素材にした種族によって、さまざまな種族に転生する事が出来るらしい事が分かった。

「いや、素晴らしいな! やはりホムンクルスに課金して正解だった! 可能性の塊じゃないか!」

「ううん。どうかな。素晴らしいのは本人にとってであって、こちらとしては運用コストを考えるとデメリットしかないな」

マーダークリケットとかいう聞き覚えのない魔物はともかく、インファントリーアントやキャバリエーアントなら、そもそもアルケム・エクストラクタの素材に使ったりしなければ元々そこにいた魔物だ。

単純にアドバンテージとしてはホムンクルスの分と転生アイテムの分、損しただけである。

ただしリビングメイルは別だ。

ホムンクルスを用意する必要があるが、騎士の怨念とかいうアイテムを探さなくても作成できるというのは大きい。

「じゃあとりあえず、マーダークリケット?にでも転生してみたら? 他の奴は見たことがあるし、知らない魔物は少し気になる」

「いや、それは、いやいやいや、インファントリーアントというのは私をここに連れてきたアリだろう? そのパターンから考えると、どう考えても巨大なコオロギじゃないか。それはさすがにちょっと」

「またそれだよ。どう考えても、というのは恣意的な思考誘導だ。若干のコオロギテイストを残した鎧型のモンスターという可能性だってあるし、なんとなれば殺人スキルに全振りしたスポーツ選手とかかもしれないじゃないか」

「それは……、いやさすがにそれはないでしょ! 騙されないぞ!」

少し教授の地が出てしまっている。やはり見た目より若いのは間違いないようだ。

クリケットというと、日本ではあまり聞かないが、海外ではメジャーなスポーツだ。

状況的に今回は殺人コオロギで間違いないだろうが、確かに殺意の波動に目覚めたクリケット選手という可能性も無いではない。確か、コオロギのクリケットとスポーツのクリケットはスペルも同じだったはずだ。

「嫌なら仕方ないな。明日まで待って、もっと色々混ぜてみるか。今日の分の融合回数は使い切ってしまったしね。ついでにその間、どこか適当な場所で経験値稼ぎでもしているといい。転生先の分岐を増やすためにも必要だ」

しかし教授の表情はすぐれない。いや髭のせいで正確なところは不明だが。

「……確か、『使役』の仕様では、眷属となった者は主君から100%経験値を支給されるという話だったね。運営のアナウンスにそうあった」

つまり暗にこちらの眷属にしてくれということだろう。

厚かましいにもほどがある。

「何、そんなに戦いたくないの?」

「頭脳労働専門なのでね。アクションが必要とされるゲームでは常に難易度はベリーイージーで、死亡時そのまま続けて戦闘に復帰できる仕様のあるゲームなら必ずそれをオンにする」

「……なんでこのゲーム始めちゃったの」

採用は早まったかもしれない。

教授はどうやら詐欺師としての才能に全てを持っていかれてしまっているようだ。

しかし現状ではまだ教授はほとんど何の仕事もしていない。

言ってみればこれは給料の前借りのようなものだ。そうした事に融通が効く企業というのがあるのかどうかは知らないが、だとしても新入社員が言うべきことではないだろう。

とはいえ、確かに教授を戦わせようと思ったら、そこらの野ウサギかネズミくらいしか倒せそうにない。

なにしろまともに伸ばしているスキルと言えば『弓術』くらいしかないが、その『弓術』を有効に活用するためのDEXは全く伸ばされていない。

消費している経験値が多い分、ウサギやネズミを倒したところで経験値などほとんど入るまい。

「まあ、そう言うならしょうがない。ライラ」

「やだよ。稼ぎはレアちゃんの方がいいでしょ」

「あの、そういうやり取りは出来ればフレンドチャットなどで私に聞こえないようにだね……」