軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第293話 「生まれてきた意味を知る」

言いたい放題言ってくれる。

森エッティ教授はあのように言ったが、リフレの街とテューア草原の持つ特異性に気付いた時点では、あれが最適解だったはずだ。

レアがあの街に気付いたのは転移サービス実装2日目のことだった。つまりその時点ですでに1日の遅れを取っていたとも言える。

教授はその段階で他に気付いていたプレイヤーはいなかったと断言に近い言い方をしたが、そんなことはわからない。ヒルス王都を支配できたおかげでもあるが、あの時点でレアは複数の地図を入手していた。運営にもらったものはブランに渡してしまったが、同じように運営や、あるいはゲーム内の貴族と何らかの取引をすることで地図を手にしたプレイヤーがいなかったとは言い切れないはずだ。

しかし、教授がリフレの急速な発展からわずかな違和感を見い出し、こうしてここにやってきたのもまた確かである。

結果論ではあるが、用心しすぎたことは失敗だったということなのだろう。

あの時は時間もなかったためそんな考えも浮かばなかったが、一言ライラに相談していればこの事態は防げていたのかもしれない。

どうやらライラはうまくやっていたようだし。

もっともレアの拙速な行動のせいで芋づる式にバレてしまったが。

「──私は自分について、異邦人ですよと自己紹介したんだったかな。していなかったと思うのだが。

にも関わらず、おそらく異邦人にしか通用しない用語を並べ立てて、実にいい気分で語ってくれる。

まあ、そうした単語を文脈から推察しながら聞いてみればだ。なるほど実に興味深いお話だと言えなくもない。

しかし私はあくまでここヒューゲルカップの領主であって、フェリチタの領主ではない。ヒルスのリフレに至っては国からして違う。

何度も言うようだが、私には全くなんの関係もない話だと言わざるを得ないな。貴方は一体何をしに来たんだ」

ライリエネが再び教授を牽制する。

しかし教授はどこ吹く風だ。

というよりも、教授は形の上ではライリエネと会話をしているが、実際にはライリエネのことなど見ていないのではないだろうか。

なんとなくだが、教授の意識がライリエネには向いていないのがわかる。

そうした気配や意識というものは、実際にそこにあるのではなく、そこにいる生き物の仕草や動作によって形作られるものだ。そして仕草や動作から読み取れることであれば、訓練や経験によって感じ取る事ができる。

故にゲームの中と言ってもこれほどまでに再現度が高いのであれば、相手の意識の向いている方向がどこなのかは薄っすらとわかる。『魔眼』のようなスキルがあるならなおさらだ。

もちろんそこまで看破するためには相手の癖などをある程度知っていなければならないが、この教授は何というか、非常に個性的な人物だ。これまでの長いひとり語りでなんとなく行動の癖は把握できた。教授を観察するくらいしかすることがないためとも言えるが。

人と話すのは得意ではないが、人の身体の動きに関しては自信がある。

まだ確証はないが、この教授の意識が向いているのは目の前のライリエネではなく、この部屋の隅だ。

つまり、ここである。

おそらく教授はレアとライラがここにいることに気付いている。

今更『鑑定』などの余計なことをするつもりはないが、教授がもし『真眼』を持っているとしてもレアは対策済みである。

となるとバレていたとしたらライラのせいだろう。

「ふむ。他の聴衆に向けて話していると言っても、貴女自身も聴衆であることには変わりない。確かに関係ない話ばかりでは面白くないだろう。

そうだな。ヒューゲルカップ領主とフェリチタの関係か。

それを明らかにするためには、もうひとつ話しておかなければならないことがある。

次はその話にしよう。私が他ならぬここ、ヒューゲルカップの領主に会いに来た理由だな。

私が貴女を、というかヒューゲルカップの領主について不審に思ったのは、ヒルス王国の実際の滅亡のタイミングについて改めて考えたときだ。

公式発表から考えるに、ヒルス王家が滅び去ったことで判定されたのは間違いない。

これは以前にSNSだかどこかに書いたことがあるが、判断基準がそれというのは客観性という観点において非常に曖昧だと言わざるを得ない。王族を名乗る何者かが現れた時、外国からではその真偽を確かめることは困難だからだ。

にもかかわらず、公式やシステムのみならいざ知らず、とある街では一介の騎士に至るまでその事をほとんどタイムラグもなく知っていたと言うじゃないか。

だから最初は、この大陸の王族というのは、何らかの手段で他の王族の生死を知ることでも出来るのかと考えていた。

しかし一方で、他の国では全くそんな話は出ておらず、実際にヒルス王国滅亡が大陸中に広まったのは数日から数週間は経ってからだ。

この事と、そのとある街というのがオーラル王国の街だったこと、またオーラル革命の引き金となったのがヒルス王族殺害であることから、ヒルス王族を直接殺害したのがオーラル王国だったからこそ、他国に先んじてヒルス滅亡を知っていたのだと考えた。

この考えには一見矛盾がないように見える。

だが1つだけ、腑に落ちない点がある。

それはこの「とある街」というのが、他ならぬここヒューゲルカップであるという点だ。

ヒューゲルカップと言えば、その領主は王女の考えに賛同し、オーラル王国軍事クーデターを後押ししたとされている人物だ。

時間的に考えると、ヒルス王家が滅んでから件の騎士がプレイヤーに情報を漏らすまで、ほとんど間が空いていない。

仮にオーラル王女が父王の非道に胸を痛め、それをヒューゲルカップ領主に相談し、クーデターに踏み切ったとするなら、ヒューゲルカップとオーラル王都の距離を考えるとどれだけ短くとも1日はかかるはずだ。

ヒルス滅亡が王女から齎されたのであれば、王国滅亡直後というタイミングでヒューゲルカップの騎士がその事実を知っているはずがない。また王女から齎されただろう情報を、部下の騎士が街で吹聴しているなど普通に考えて有り得ない。

王族殺害がヒューゲルカップで行われたとすれば辻褄は合うが、王族殺害を知った王女がクーデターを決意したとするなら、よりにもよってそんな街の領主に相談などしないだろう。

となると、いずれにしても王女は嘘をついていることになる。あるいは、王女に嘘を吹き込んだ者がいることになる」

ライラのばら撒いた噂について、特に言及されていなかったため気にもしていなかったが、確かに教授の言う通り、時間的に辻褄が合わない。

主な通信手段が伝書鳩であるヒルスやオーラルならなおさらだ。

「王女の嘘については後にしよう。

まずは、なぜそのタイミングでヒューゲルカップの騎士がヒルス王国の滅亡について知っていたのかだ。

考えられる可能性はいくつかある。

ひとつめはこの騎士がプレイヤーだったから。

ヒルス王国が公式サイトの国家のリストから消されていたのは目ざといプレイヤーなら気がついていた。

この騎士がそうしたプレイヤーであり、またプレイヤーでありながら領主に騎士として仕えていたとしたら、可能性としては有り得ないでもない。

しかし、実際にこのヒューゲルカップに来て聞き取り調査をしたところ、この時にヒルス王国滅亡の報を広めていたのは単独の騎士ではない。

複数の、言ってしまうと騎士団全体だったそうだね。しかもその騎士たちが主に話していたのは、街を訪れた商人たちにだったらしいじゃないか。SNSにあれを書き込んだプレイヤーが噂を聞いたのはどうやら偶然だったようだな。

仮に噂を流布していた騎士がプレイヤーだったとしても、まさか騎士団全てがプレイヤーだったとは思えないし、一介の騎士が騎士団全体に影響力を持っていたというのも考えづらい。街から街へ移動する行商人中心に噂を流していたことから考えても、明らかに組織的な情報操作だ。

であれば仮にプレイヤーが関与していたとしても、その人物は騎士団全体に影響力を持つもっと上の存在だろう。

ふたつめの可能性は、単に騎士の彼が王族殺害に関与していたからというものだ。

システムとしてのヒルス王国の滅亡そのものは知らなかったとしても、亡命してきた王族を全て殺害したとなれば、事実上国は崩壊したと言っていいだろう。そういう意味で噂を流したという可能性だ。

この場合、もしその騎士がプレイヤーであれば、ひとつめの可能性と合わせて、システム的にも王族の存亡が国家の存亡にリンクしていることに気がついたかも知れないな。

しかしこの場合でもやはり、組織的に情報操作をするにはより上位の存在が不可欠だ。

以上のことから言えるのは、まず間違いなく噂の流布は領主の指示で行なわれたということ。

そしてこの時点で王国滅亡を知っていた者は、プレイヤーか、王族殺害犯しか居ないだろうこと。

つまりヒューゲルカップの領主は、プレイヤーであるか、王族殺害犯であるかのどちらか、あるいはその両方だ」

確かライラの話では、王家と国の関係については貴族階級であれば知っていたとの事だった。しかしその事実は街の住民への聞き込みからではわからないことだ。

それを考えれば教授の推察は素晴らしい精度と言っていい。その部分以外はほとんど正解だ。

『魔眼』でライラの様子を確認する。

細かな表情まではわからないが、眉間にシワが寄っているようだ。

普段あれだけレアに対して、顔に痕が残るような強い表情をしないように言っているライラである。おそらく無意識だろう。これは相当苛々しているらしい。

まさにライライライラである。

「──」

あぶない。

もう少しで吹き出してしまうところだった。このジョークはここ数年で最高の出来と言えるだろう。単にダジャレというだけでなく、回文としての要素も併せ持ち、たった2つの文字から構成されていながら、確かな意味も持っている。何となれば、このジョークの為にライラは生まれてきたのではというほどだ。いや、どうでもよかった。

幸い教授はこちらの様子に特に気付いた風でもなく、話を続ける。

「ではなぜ、領主はこのような噂を流したのだろうか。

ヒルス王国が滅んだこと。これが広まる事によって、領主に何の得があるのか。

いつかどこかに書いた気もするが、この大陸の国はどこも国家というより都市単位でのまとまりが強い。都市国家群と言ったほうがいいかもしれない。そんな政治形態だ。

であれば仮に国が滅亡していたとしても、地方の街の領主や住民がそれを知るのはリアルタイムではない。必ず数日のタイムラグは生まれるはずだ。

滅亡の噂を広めることは、このタイムラグを減らしていくことに繋がる。噂の出どころがヒューゲルカップであることを考えれば、当のヒルス王国内においては西側から徐々に広がっていくことになるだろう。

ヒルス西側の街にしてみれば、東にある王都はすでに滅んでおり、自分たちを守る騎士団もおらず、しかも王都には魔物が巣食っている。自分の街もいつ襲われるかわからない。

となれば考えるのは1つだ。守ってくれそうなところに逃げ込むしか無い。

幸い隣国のオーラルは同じくヒューマンの国家であるし、文化的にもそう差はない。

ヒルスからは難民がオーラルに押し寄せるはずだ。その防波堤になるのはオーラル最東端の街、ヒューゲルカップだろう。

この時点ではリフレの街もまだ発展の兆しさえ見せていなかったこともあるし、なんとなればリフレの住民も街を捨ててオーラルに逃げていたかもしれないな。

難民が悪いとは言わないが、領主にとって益のあることとは思えない。少なくともわざわざ自分から状況を加速させるような事ではないはずだ。

つまり噂の流布は領主にとってデメリットしかないと言える。

そこで私は、噂の流布の目的は単に広めることではないのではないかと考えた。

不特定多数に広めることが目的でないのなら、考えられるのはこの情報を特定の誰かに届けたいという事だ。

その誰かと直接コンタクトを取る手段が無いために、難民が押し寄せるリスクを犯してでも、噂という手段でこれを行なった。

ではその特定の誰かというのは誰なのか。

考えられる可能性は2つある」