軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第280話 「大悪魔」

レミーと同じくらい、中高生くらいで成長が止まったという事は、おそらくこれ以上能力値を上げても同じだろう。その時の消費経験値量は覚えておく。

使用した賢者の石の効果は少なくとも数日は残ったままになっているのはわかっている。

にもかかわらず未だに何の反応もないのは、条件が足りていないからだ。

であれば次はスキルの検証だ。

大天使たちが持っていた共通のスキルを思い出す。

彼らは皆、弓系の強力なアクティブスキルと『回復魔法』、そして『神聖魔法』を『復活』まで取得していた。

過去世界で出会った転生したての大天使もそれは同様で、ついでに『素手』なども持っていたようだが、あれは『回復魔法』の前提に必要なため、そちらの理由で持っていただけの可能性もある。

問題は、この中の何が必要条件として設定されているのかだ。

大天使への転生に弓系のアクティブスキルが必要だというのは少し考えづらいが、あの大天使たちの殺意の高さを思い出せば有り得ないでもないような気もしてくる。

悪魔に置き換えると、『真眼』のカウンターとして『隠伏』があったことを考えれば、隠密系のスキルを上げればいいのだろうか。しかしそもそもこのツリーにはアクティブスキルがあまりない。

『回復魔法』に関してはこのゲームでは種族や属性にあまり関係がなく、アンデッドであってもこれでLPを回復させる事が出来る。

それを考えれば、天使だろうと悪魔だろうと、『回復魔法』に対するスタンスとしては違いはない。

これがキーなら同じく『回復魔法』を取得させればいいはずだが、悪魔が『回復魔法』を覚えて大悪魔になるというのはちょっとイメージに合わない。

対照的、という事なら怪しいのは『神聖魔法』だ。

悪魔であれば『暗黒魔法』になるだろうか。『闇魔法』から派生させないといけないため、少し経験値を喰われることになるが、災厄級に至るのに必要だというのなら頷ける。

イメージとしてもふさわしいと言える。

「とりあえず、『ダーク・インプロージョン』を目標にしよう。違っていたとしても損はないし」

『闇魔法』を習得させ、ツリーを解放していく。

『暗黒魔法』の最初の魔法を取得した時点でアナウンスは来たのだが、とりあえずメモだけして目標の『ダーク・インプロージョン』まで取得させておく。途中で止めて別の事をするとおそらく忘れる。

《眷属が転生条件を満たしました》

《あなたの経験値2000を消費し「大悪魔」への転生を許可しますか?》

意外と安くて助かった。

いや、転生をアンロックするまでに消費した経験値を考えるとトントンだろうか。

転生の許可を出すと、いつものようにマナの光がレアの腕にしがみつく中高生悪魔に収束してゆく。

「……あまり密着した状態で転生に立ち会ったことはなかったけど、なるほど、実際に徐々に変化していくのだね」

光の中で少しずつ変化していく様は薄ぼんやりと見た事はあったが、このように密着していると身体に触れる実感としてそれがよく分かった。

具体的に言うと、腕に押し付けられたふくらみが徐々に大きくなっている。

「……これ小さいままにできないのかな。もう無理か。まあ別にいいんだけど。気にしてないし」

それよりも気にするべきは小悪魔──中悪魔に着せられていたレミーの服だ。

やがて変化も終わり、光が収まった後、レアの腕を抱えて立つ大悪魔の着ているレミーの服はぴちぴちになっていた。

「ああ……! のびちゃう!」

レミーが悲痛な声を上げる。

おそらくもうあの服は着られまい。

「大悪魔の服はアラクネアに発注しておくとして。ああわかってる。レミーの分もね」

相変わらずレアにしがみついたままの大悪魔を見る。

身長は大悪魔の方が少しだけ低い。

年の頃としては20前後だろうか。身長の差と言ってもそれほどあるわけではない。

しかし。

「スタイルはまあ、良いほうなんじゃないかな。知らないけど」

自分と似た顔で自分より背が低く、しかしスタイルはいいというのは少し妙な気がしないでもない。並ぶと自分が特に 薄(・) く(・) 見えてしまう気がするので出来れば離れてほしい。

これらのことから逆に考えると、レアが倒したあの大天使も故精霊王にそっくりだった可能性がある。

ディアスたちから聞き及んでいる精霊王のマッシヴなイメージとあの細マッチョの大天使ではちょっと結びつかないが、体型的な問題だけなら今のこの大悪魔と同様だ。

創造者の基本的なデータを参照して生みだされてはいるが、種族は違うため、そのせいで若干の差異が生じているのだろう。

精霊王がもしドワーフ出身でなかったなら、あの大天使のような容姿だったのだろう。かつての精霊王の姿は、それをドワーフアレンジしたからこそのマッシヴな髭面だったという事だ。いや、髭面だったかどうかは知らないが。

という事は、エルフ出身であるレアの体型は、エルフ特有のスレンダーなアレンジをされたものであるとシステムが認識し、これをヒューマンベースのデフォルトの体型にリサイズした結果、この大悪魔の姿になったと考えられる。少し背が低いのもおそらくそのせいだ。

つまり、なんだそれは。どこにクレームを入れればいいのか。

「──何のアレンジもしていないんだけど。フルスキャンそのままなんだけど?」

クレームの件は後ほど考えるとして、いずれにしても大悪魔の服を作らせるなら身体的特徴は伝えておく必要がある。

背中に広がるコウモリのような羽は2対4枚で、かつて戦った大天使と同じだ。

頭部には角のようなものは見当たらない。

しかし大天使の光輪のような精神耐性は無いのかといえばそうでもない。

どうやら尻から伸びる尾がその役割を果たしているらしく、特性としては「罪の尻尾」というものを持っている。

効果は概ね角や光輪と同じだが、罪の尻尾の方には「この部分が部位破壊判定を受けると金運が悪くなる」というデメリットがあった。

「金運? まあいいや。

能力値としては……。こんなものか。魔王より弱い気がするな。消費した経験値やら種族傾向を考えれば妥当かな」

《特定災害生物「大悪魔」が誕生しました》

《「大悪魔」はすでに既存勢力の支配下にあるため、規定のメッセージの発信はキャンセルされました》

「ああ、やはり邪道なのか。じゃあ天使の方は特殊な条件は要らないのかな。ていうか逆にホムンクルスから悪魔になるための条件てなんだろう」

ホムンクルスで始めたプレイヤーが全く居ないとも思えない。

しかしイベント以外で天使について聞いたことがない以上、ホムンクルスから転生に成功したプレイヤーもいないという事だろうか。

「いやそうとは限らないか。天使に転生したけど、誰にも会わず、SNSにも書き込まずに隠れ住んでいる可能性もあるな。なにせ第三回イベントは天使襲撃だ。どう見ても天使は魔物枠だし、天使に転生していたとしたら、おいそれと人前に出るのは憚られるだろう」

襲撃してきた雑魚天使に混じって嬉々として人類を襲ったという事も考えられるが、この大悪魔を見る限り、天使や悪魔は消費した経験値に応じて外見的に成長していくタイプだ。

ほとんど経験値を与えられていない、生まれたままの天使の状態で襲撃してきた雑魚天使たちの群れに、1人だけ中高生が混じっていたらさぞかし目立つだろう。となれば襲撃に参加していたというのも考えづらい。

「まあ、天使の方についてはレミーに任せるよ。他にも何体か生み出して対照実験を交えつつ、転生条件を探っておいてくれ」

「かしこまりました。衣服は私の方から発注しても?」

「そうだった。この大悪魔の分はわたしが頼んでおくけど、それ以外はよろしく」

大悪魔はレアの腕から離れようとしない。

特に邪険にするつもりもないためそのままにしていたが、自分と似た外見、しかもスタイルがレアより良い人物である。この絵面はちょっと他人に見られたくない。

「きみ、そろそろ離れてくれないか。あー、名前を付けないといけないな。そうだね……」

悪魔としてふさわしい名前は使用不可能である可能性が高い。

モン吉のときのような悲劇は避けなければならない。

「ヴィネ、はダメか。じゃあヴィネアならいける? よし」

大悪魔ヴィネアの誕生だ。

「あー……。びねあ? びねあ!」

自分に名前が付けられたことがわかったらしい。ヴィネアの声はここで初めて聞いた。

INTがまだ低く、こちらの言葉を完全に理解していなかった頃の子狼たちでも名前を呼べば反応していたため、名付けについてはシステムによってサポートされているのだろう。

「というか、きみ、もしかして言葉がわからないのか。生まれたてだからなのかな」

人語と触れ合ったことがあるとは思えない世界樹やスガルたちでさえ割とすぐに適応していたため、言語については考えたことがなかったが、たしかに生まれた瞬間言葉を話すのは無理がある。

「違うな。世界樹やスガルとはフレンドチャットでしか会話したことがない。あれが思考内容を言語化してやり取りしているだけだとしたら、彼女たちは未だに言葉がわかっていない可能性もあるな」

しかしスガルは草原でプレイヤーたちと戦った時、相手の言葉を理解している様子があった。またレアがつい独り言として漏らしている言葉も拾って返している節もある。

生まれたてでは言葉は理解できないが、高いINTによって特別に教わらなくても理解できるようになっていくということなのかもしれない。

「ヴィネアはINTもMNDも相当に高いし、すでに自分の名前は理解しているようだし、これならすぐに言葉も覚えられるでしょう。

よし、じゃあ服が完成するまでわたしが先生になって、きみに個人レッスンをしてあげよう」