軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第264話 「遺跡牧場」

なるべく壁ゴーレムを破壊しないよう気をつけながら、ミスリルゴーレム達を連れて遺跡を出た。

レアたちが撤退した後の遺跡は静まり返っている。

おそらく最初に入った時同様、壁ゴーレムたちは整然と並び、一本の通路を形成しているのだろう。

レア、ライラ、ブランはそれぞれ10体ずつの壁ゴーレムを『使役』してその中に紛れ込ませてある。誰かの眷属になってしまったことで製造ラインからの初期命令が消えてしまい、どうすればいいのかわからなくなっていたようなので、INTを上げ、とりあえず周りに合わせて行動するように命令しておいた。

彼らにはミスリルゴーレムたちと併せてインベントリのレクチャーを行ない、フレンド登録もした。ライラ風に言えば躾を済ませたといったところだ。

「ブランちゃん、この遺跡ですることももう終わりそうだし、今のうちにSNSでルート村とかドラゴンのこととかちょっと調べてもらってもいい? もしかしたら何か進展とかあったかもしれないし」

「わかりました!」

ブランにはまだNPCのインベントリについて教えていない。

今のブランが些細なミスから情報漏洩をするとは思えないが、ひとつの区切りとして、シェイプ王国の陥落の祝いとして教えることにした。それまでは秘密のままだ。

「んー。ルート村、っていうワード自体が無いですね! ドラゴンに関してはヒューゲルカップ?のあのアビゴル君についてだけでした!」

「そっか。やっぱりプレイヤーの中ではマイナーな情報なのかな。ありがとう」

ブランが口を半開きにして虚空に視線をさまよわせている間に作業は済ませておいた。

これならば監視も管理も容易だろう。

また天井裏の製造ラインに触れたことでわかった事実がある。あの壁ゴーレムたちが攻撃してくる条件だ。

どうやら彼らは、遺跡の扉を正規の手段で開けずに侵入した者を攻撃するよう命じられているらしい。

ライラは外見で壁ゴーレムを仲間判定していると考えていたが、そうではなく、元々遺跡内で生まれた壁ゴーレム達は「正規の手段で扉を開けずに侵入した」わけではないため、攻撃されなかったようだ。

つまり扉を開ける方法を知っているかどうかをセキュリティパスにしているということである。よくできたシステムだ。

もしかしたらキーファの宿屋に引き上げた書物の解析がすべて終われば、この扉も開ける事が出来るようになるかもしれない。

「この扉、ちゃんと機能するようになるのなら、遺跡の壁はそのうち直しておかないといけないかもね」

「いや今まさにちゃんと機能してるでしょ。鍵がわからないだけで」

「レアちゃんにとっては自分に従わないモノは全部壊れてるって認識なんだね……」

しかし残念ながらアリたちは穴を掘るのは得意だが、穴を埋めた経験が少ないためそちらはあまり得意ではない。

「でも壁直しちゃったら、王子様たちも扉から入ろうとするよね。何かの間違いで扉が開いちゃったら、王子様たちは祭壇まで直行できちゃうことになるけど」

その方法を記した書物が城の書庫にあったとしても、今はもう無い。

開けられるとは到底思えないが、可能性はゼロではない。

広間には扉に従わないゴーレムも忍ばせてあるため、正規の手段で入場したキャラクターであっても止められないこともないだろうが、その時に他のまともなゴーレムたちがどう動くのかわからない。

「じゃあもうこのままにしておこう。となりに穴が開いてるのにわざわざ扉を開けようとはしないでしょ普通」

ひとまず、この遺跡でするべき事は済んだ。

あの祭壇を利用してケリーたちやモニカを幻獣人に転生させてやりたい気持ちもあるが、仮に必要となるアイテムの入手に時間がかかるようだと二度手間になる。

遺跡を監視しておけば、もしもペアレ王国が貴族を増やそうとすれば、自ずとそのアイテムもわかるはずだ。

王子を見る限りでは幻獣人の特典はルックスと『使役』関係だけであるようだし、それなら現状でも大して困ることはない。

必要な手札がすべて揃ってからでいいだろう。

外で待っていた女王やオーラルスキンク、スクワイア・ゾンビたちをどうするかは少し悩んだ。

しかし監視要員が遺跡内だけというのも不安ではあるし、ここは森全体の監視も兼ね、クイーンベスパイドに命じて地下に巣を作らせ、そこに全員を待機させておくことにした。

彼らの餌は地上の風虎たちだ。

獣人たちを襲ってしまえば魔物が棲みついている事がバレてしまうだろうが、風虎だけならば誰に襲われたかまではわかるまい。王子たちは定期的に何者かに倒されてリスポーンする風虎を見て、いつまでも侵入者の影におびえ続けることになるだろう。

巣を作るといっても地下のかなりの部分は遺跡に占有されている。自由に掘ることができるわけではない。

そこで遺跡の周辺を囲みつつ、森の外まで続く広大な巣を掘らせることにした。

急ぐ作業でもないため、女王にそれなりの経験値を与え、配下を増やしつつ気長に行なうよう命じておいた。

「ていうかこれ、うまく祭壇の部屋の位置がわかれば、広間を通らずエントリーできるかもね」

「祭壇の間に裏口を作るのか」

中のゴーレムとうまく連携させれば位置も把握させられるだろう。

ミスリルゴーレムにはついでに壁ゴーレムたちとフレンド登録させてある。地下の掘削作業に彼らを帯同させ、中の壁ゴーレムと連携しながら作業をすれば不可能ではない。

「一応、いつでも開通させられるようにだけしておこう。何かの時に使えるかも知れない」

「ねえ、そろそろ3時間過ぎてない?」

「あ、そうだった」

眷属たちへの指示を済ませ、レアたちは豪奢な天幕へ入った。

天幕の中に横たわる第2王子の体には変化がなかった。

その胸の上にそっと置いてある王子の首も同様だ。

「……やはりリスポーンはしていないね」

「まあそうだね。それについてはどのみち今は検証できないし、あとはこの状態で蘇生させられるかどうかを調べて、清らかな心臓の効果を確認すれば実験は終了かな」

「これ生き返らせたらどうなるの? すぐ起きるの?」

「たぶんね。だからブランはどこかに隠れておいた方がいいかな。わたしたちは『迷彩』で姿を消してから『 復活(レスレクティオ) 』を使おう」

目を覚ました王子は天幕を飛び出し、遺跡の前で膝から崩れ落ちた。

レアたちはそれを確認すると、彼の眷属がリスポーンしないうちにと速やかに『召喚』で森を脱出し、この日はそれぞれのアジトに戻って休んだ。

翌日、遺跡の森地下のアリの巣にジャンプした3人は、一晩で森の外まで掘られていた地下道を歩き、地上に戻って街道を目指した。

地下道の出入り口は目立たないよう街道と反対側に作られていたため、街道に戻るには森を迂回する必要があったが、『飛翔』を持つ3人にとっては大した問題ではない。

森が深いため上空からでは王子たちの様子は窺えなかったが、アリたちや壁ゴーレムからの報告では頑張って遺跡にアタックしているらしい。

今のところ、探索部隊は壁ゴーレムに押しつぶされて天幕でリスポーンというのを繰り返しているようだが、王子自らが隊を率いて突入すればもしかしたら祭壇の間まで到達できるかもしれない。

もっともそこまでは予定しているので問題ない。

レアたちの使役した壁ゴーレムたちは、種族や外見こそそのままだが能力値は他の正規の個体の数倍にまで引き上げられており、その気になればあの遺跡はいつでも制圧可能だ。

壁ゴーレムは種族的にはブロックゴーレムらしく、その種族特性は野生のロックゴーレム、というか火山周辺にいたロックゴーレムとは違っており、経験値を得ることで巨大化するといった特性はなかった。代わりに「ブロック」という特性があり、それがあの形状を形作っているようだ。

この仕様は考えてみれば当然である。もし野生のゴーレム同様に経験値を得る事で成長していくとしたら、ゴーレムが侵入者を撃退するだけで遺跡は内部から崩壊していくことになる。なにせレアたちが壁と見紛うくらいであるし、全長は最初から天井ギリギリだ。

おそらくだが、ゴーレムの製造ラインにそうした特性を決める何らかの仕組みが仕込まれているのだろう。

アーティファクトによって生み出される魔法生物という意味ではホムンクルスも同じはずだ。

であれば、もし墜ちた天空城の中からホムンクルス製造に関するアーティファクトが発掘されれば、それらの特性を弄って好みのホムンクルスを生み出すことも可能かもしれない。

「パストの街のこっち側の街道に盗賊がいなかったのは、あの王子様が掃除してくれてたからなんだね」

「自国の治安を守るという意味では当然のことをしていただけだから、別に褒められるような事でもないけどね」

ライラはそう言うが、ライラの騎士は確かに自国内の治安は守っているのかも知れないが、勢い余って周辺国家に対して盗賊行為を行なっている。

盗賊にだって縄張りくらいはあるだろうし、オーラル国内や周辺から別の場所に狩り場を移した盗賊団もいくつもあるはずだ。

つまりペアレやシェイプ、ポートリーの治安が悪化しているのは元を辿ればライラのせいであり、あの第2王子もライラにだけは偉そうに言われたくないに違いない。

「それより、村が見えて来たよ。あれがルート村かな? 城壁みたいなものはないけど、ドラゴンのいる近所の山とやらは魔物の領域じゃないのかな」

「城壁なんて建造するの、めちゃめちゃお金かかるからね。いちいち田舎の村にまでそんなことやってられないよ。そのあたりも含めて税金が安かったり、国とか近くの領主から衛兵隊の派遣とかがあったりするものなんだけど、ペアレはどうなのかな」

その仕組みはあくまでヒューマンの国家での事だ。ヒューマンが他種族に対して優位に立てるのはその数の多さくらいであり、それを維持するためにはそうした社会保障制度が必要になる。

しかし獣人はヒューマンに比べ戦闘力が高めのため、そのようなことをしなくとも辺境で暮らしていける可能性もある。

ケリーたちが生まれた村というのも、おそらくそういう村だったのだろう。

辺境にありながら城壁もなく、近くの領主の治める街からの軍事的援助もなく、ゆえに周囲の魔物の動向や飢饉などによって容易に危機に陥ってしまう。

ケリーたちは具体的に自分たちの生まれた村の場所などは覚えていないようだったが、獣人の村であり、彼女たちが国を跨いでヒルスに逃げてきたという言葉から考えれば、おそらくペアレの南部辺りのはずだ。

もしかしたら今頃、ライラの配下の盗賊団に滅ぼされてしまっているかもしれないが、もしまだ残っているようなら時間のある時に探しに行ってもいいかもしれない。

といってもケリーたちは故郷にもはや全く何の感情も持っていないようなので、単なるレアの好奇心に過ぎないが。