作品タイトル不明
434.都市計画の地図
第六都市の地下にも下水があり、どうやら領主の屋敷から秘密の地下通路がそこへ繋がっているらしい。というのに気づいたのは【翻訳】さんがお仕事をしたからだ。
ちょっとした走り書き風だったけど、実は隠されたメッセージでしたってやつだ。
「やべーw」
「どうした?」
「あ、いや、すごい、結構仔細に書かれているなと思いまして」
いかんいかん。心の声漏らすな。
というか、ありとあらゆる場所に下水が設置されていた。偉いな。上下水道がきちんとできあがっているって、結構な文明都市だ。
街から離れた場所にある村には井戸があった。
あ、でもローレンガには井戸あったな。ただあれは、幽霊のための井戸だからオブジェだったのか!?
まあ、上水道については深く考えるのはやめよう。所詮ゲームだ。むしろ下水ですよ下水。下水と言えばミュス。
こうやって見ていると、不自然に都市の端の方で下水が止まっている。
……本当に止まっているのか?
下水の役目って家庭から出た汚水を集めて浄化槽へ送って、最終海へって感じだが、ここの下水の水そこまで汚く感じなかったんだよね。さすがにアカンから匂いもない。一方向へ流れていたとは思うが、その先までマップが開かれていなかった。
一度この地図を元に下水の旅してみたいな。ミュス王の宝珠はちょっと置いていこう。そんなに出てもらったら進めないし。
不自然に伸びている通路があって、その方向が次の都市なんだよね。
第一都市アランブレと、第十二都市との間には深い亀裂があるって話だったからそこはさすがに切れているのかもしれないが。
ミュスがこの世界を監視して堕落したものの親分に告げ口しているって話だったし、どこにでも現れることができるのは下水を利用していたから?
いやー、謎が謎を呼んでいい感じに極まってきたな。
ただ、俺みたいにミュスに執着していないとここまではさすがに辿り着けないのだろうか? でも、ダンジョン大好き戦闘大好きっ子もたくさんいそうだし、下水のマップから引っ張っていけるかなって話があったかもしれないな。
今度突撃してみよう。
知識の項目にこの地図がきちんと収まっていた。
本を閉じた後も情報を引き出せることを確認して、先生に返却する。
「ありがとうございましたとお伝えください」
後を頼んで俺はそのままウロブルの街へ繰り出した。
別にアランブレへ向かってもよかったのだが、なんとなく街歩きをしてみようと思った。
何か、虫の知らせだったのだろう。
夕暮れ時だ。いや、もうほとんど日は落ちている。それでもNPCもプレイヤーもたくさんの人でウロブルの街はごった返していた。
道の脇には明かりの点り始めた街灯が並び、屋台から美味しそうな匂いが漂ってきている。今日はこのあたりで何か食べるのもいいなと店頭を物色していると、その場に似合わない男たちの荒々しい声が聞こえてきた。
「いたか!?」
「確かにこちらに来たはずだ」
「お前はあちらを探せ!」
六名ほどだろうか。
彼らは見たことのある衣装を着ていた。
第六都市の親衛隊の黒い騎士服だ。ええ……ここ第五都市だよ?
いかん。奴らは鬼門だ。俺のことではないんだろうが、ここで会ったが百年目をされたら捕まってしまう。不自然にならないように彼らの目に留まらないように移動しようとして、息が止まる。
藍色のストール。
見知った背格好の女性がいた。
俺は素早く人の波をぬってそのそばへ向かう。
後ろからは親衛隊が近づいてきていた。
そばまできて、横顔が見えるくらいになって、やはり彼女だと確信した。
「アンジェリーナさん?」
呼んだ途端、回復の光が見えた。これは、他人には見えないやつだから、この薄暗い人混みの中で目立つようなことはない。
だが、回復してるのだ。
アンジェリーナさんが怪我をしている。
「セツナくん!?」
驚きの声はとても小さく人目を気にしているものだった。
俺は彼女の左腕をとると、ぐいっと引っ張る。
「セツナくん……」
人混みをかき分け向かう先は学院だ。後ろの親衛隊に不自然に思われないくらいに早足になる。
入り口には都合がいいことに見知った人がいた。
「こんばんは、ソールさん。実は俺の修復師のお師匠様なんですけど、ちょっと修復のお仕事、俺の手に負えないレベルのがありまして。一時的に学院に入ることってできますか?」
「こんばんは。修復師ですか。研究者さんの本の修復ですよね……」
「ブラウン先生に確認していただけませんか? 先日言っていた、修復師の師匠を連れてきましたって」
「少々お待ちくださいね」
そう言って俺たちを受付詰め所の中へ招き入れてくれた。
「座っていてください」
俺はアンジェリーナさんを座らせる。ほどなくしてソールさんが帰ってきた。
「ブラウン先生から許可をいただきました。一時的な通行許可証です」
アンジェリーナさんの分を持ってきてくれた。
「それじゃあ行きましょう」
俺が先導してアンジェリーナさんが後をついてくる。歩いている姿に不自然さはないのでそこまで大けがをしているわけではなさそうだ。こっそり胸をなで下ろす。それでも表情が硬いので心配だった。
「俺が学院でお世話になっている生活魔法の先生なんですよ」
ドアをノックすると中から声があった。そういえばこっちから来るのは久しぶりだった。いつも準備室からこんにちはだからな。
「失礼します。ありがとうございました」
「どこまで本当だ?」
「師匠は本当ですよ」
いつもだらっと座っているソファが空けてあるのはアンジェリーナさんのためだろう。俺は彼女にソファをすすめる。
さらにブラウン先生は生活魔法を駆使したコーヒーを入れてくれた。えぐいんだよね、この人の生活魔法。さすが始祖。
「アンジェリーナさん、怪我とかは大丈夫ですか?」
名を呼ぶと、今度は回復が行われなかった。全回復したっぽい。
「ありがとう。平気よ。ごめんなさいね、変なことに巻き込んで」
「いえ、あれって第六都市の親衛隊ですよね」
俺の言葉に立ったままコーヒーを飲んでいるブラウン先生がピクリと眉を動かした。
アンジェリーナさんは頷いてブラウン先生に向き直る。
「お手数をおかけしました。私はアランブレで貸本屋を営んでおります、アンジェリーナと申します。第六都市の貸本屋に行ってきたんだけど、変に疑われてしまってね。噂は聞いていたから面倒に巻き込まれたくなくて逃げてしまったのがよくなかった。普通に質問に応えればよかったわ」
「あんな危ないところに女性一人で行ったらダメですよ!!」
俺の猛抗議にアンジェリーナさんは笑っていた。