作品タイトル不明
432.アリの目集め
女王アリの目は、ランダムで入手できるが上限はあるようだ。パーティーの最大人数が十人なので、十個まで。アライアンスを組んで経験値分配まではできるが、この十個の上限は変わらないようだ。それでいてレアドロップなので十出ることはほぼない。
俺たちは周囲のアリの巣穴を全部潰してから女王アリに挑めば、七人でなんとかなるようにはなっていた。
ということで、アライアンスはお断り。現在女王アリ順番待ち中。
『案山子のご飯は今日も美味しい』
『大満足なのじゃ~』
『食べ過ぎ注意ッ! EP分だけにしてねッ! 今日は長丁場だよッ!』
ログインしてすぐアリダンジョンに突撃し、各部屋を崩壊させて行ったところで俺たちが女王アリ狩りをするという情報はすぐ広まったようだ。
みんな耳敏い。
各部屋倒すの面倒だからね。結構な数がある。
便乗女王アリ狩りを目指した中堅クランがやってきて、一緒になって各部屋を撃破しだした。
で、女王アリに挑む。
実際倒せるのかは知らないが、女王アリの部屋の前で順番待ちの長蛇の列ができていた。
十クランほどが並んでいる。中堅所はアライアンスを組んでいるらしいので実際五チームくらいなのだが、ちょいちょいソーダにアライアンス依頼が来ているようだ。
今回は女王アリの目をメンバー分が目標なのでお断りしています。
『チラ裏スレがはかどってるわよぉ~♪』
悪口いっぱいだそう。
『名指しあったら通報するから教えて』
『さすがに名前は出さないわね~面白いわ~』
みんなは掲示板を眺めて暇つぶしをしている。ピロリはこの中にいる誰が主な書き込み主かを模索中。
ソーダと八海山は市場調査。
半蔵門線はニンニン言ってる。
『そろそろこの納期が厳しい生活ともおさらばしたいのじゃ』
柚子は香水瓶で成り上がって、アランブレの貴族のお抱え香水瓶師になったそうで、前より物量を作らなくてよくなったそうだ。その代わり特別な瓶を作る機会が増えて、酒瓶じゃないものの、創作意欲は刺激されたとか。それなりに楽しんでいるらしいが、以前からの繋がりの商店へ一定量卸すのはまだまだ続きそうとのこと。
『俺っち、お肉がもう少し必要になったかもッ……』
『あ、シャトーブリアンですか? シャトーブリアンのシャトーブリアンが必要ならヴァージル誘うけど』
『ちょっとお願いしたいッ! 評議会のおもてなし料理に使いたいって、師匠が言うんだよねッ』
『評議会?』
『エルフのお貴族様たちが、定期的に集まって食事会という名のバチバチやりあいをするんだけど、今回師匠が総料理長なんだってさッ! いいとこ見せたいみたいッ! ちなみに俺スーシェフポジションで潜り込むッッ!!』
『案山子殿はまたわけわからんところに足を突っ込んでいるでござるね』
スーシェフって何?
さて、一番暇な俺は、溜まっていたメールの整理整頓中。
アリンさんとのやりとりが一番いらないな。アリンさん、写真を送ったお礼の手紙に延々と感想くれるんだけど、いらない。なんなら、いらないってはっきり言った。言ったけど聞いてくれやしない。
日々ヴァージルのかっこいいところを聞かせてもらっております。
ローレンガのヴァージルに関しては、スクロール山盛りの感想メールいただいてます。
もう本人に言えばいいのに。
と、ちょうどメールが舞い込んできた。
珍しい。ウロブルのブラウン先生からだった。
内容は、この間言ってた修復の話だった。一度立ち寄ってくれとのこと。近いし、アリ討伐が終わったら行ってみよう。まあ、今日は無理かもしれないが。一個も出ないこともあるんだ。レアはやっぱり大変だ。
結局時間切れで、各部屋のモンスターが復活し、女王アリ弱体化を一からしないといけなくなったので、あと女王アリの目が二つ足りないところで終了。また今度ということになった。
俺たちのクランだけだと毒をわんさか使う羽目になるので、また補充しないといけない。ただ、今はゲーム時間内二十時。ワンチャン起きているかなということで学院へ飛んだ。
準備室の扉を開けると、ブラウン先生がソファにだらっとしている。
「こんばんは~」
「よお、メール見たか」
「はい。やっと用事が終わって、遅いかなと思いつつ」
「なあに、研究者の夜はこれからよ。時間はあるのか?」
「夜明け頃までなら」
ということでせかせか歩きの後ろを必死でついていき、一つの部屋に案内された。
「うちの弟子連れてきたぞー」
今まで見てきたのはどちらかというと実験器具に溢れた研究室ばかりだった。ブラウン先生の部屋はなんかとっちらかった部屋だ。ただ、引き寄せしまくってるのか散らかってるものは一ヶ所にまとめられている。
だが、この部屋には本がある。
いや、部屋が本だった。
「おおお……壮観ですね」
「片付いてないだけだ」
いやいや、人のこと言えないだろうと思いつつ、ぐるりと見渡す。本、だらけ!
オルロさんの自宅は、本好きがうらやむ壁一面の本棚。しかも整理整頓がバッチリの素敵なおうちだった。
しかしここは、山積みの本タワーがいくつもできている。
「弟子?」
「話したろ。修復師だよ」
「お前、いつから修復師になったんだ?」
「弟子は、生活魔法の方! その弟子が修復師もやってたの!」
声だけ聞こえていたが、ブラウン先生がそう言い切ったところで、本タワーの向こうから人影が現れた。
「腕は?」
「駆け出しです!」
いや、もうちょっとレベルは上がっているけれど、ボサボサ頭でグレーになりかけてる白衣の人が出してくる修復依頼が怖い。すごい本が現れそう。
無精髭がすごい、ボサボサ黒髪の白衣だったものを着ている男性は、そのままさらに奥の本タワーに踏み込み、やがて手に一冊の本を持って帰ってきた。
部屋の大きさそこまで広くないのに、アマゾンの奥地から生還してきたような……埃だらけ。一メートルくらいを行って帰ってきただけなのに。
「もう少し片付けろよ」
「全部が、あるべき場所にある。いじられては困る」
「じゃあせめて学生に掃除させろよ」
「それならまず奴らに生活魔法を教えこんでくれ」
「やだよ面倒くさい」
と、面倒くさいを突き詰めて生活魔法研究室を作り上げたブラウン先生が拒否した。
「この本なんだが、汚れや破れが酷くてね。掠れて読めない文字が多い」
「おー……ひどいっすね」
この間図書館でやったやつよりボロだぞ!!
「まあダメ元だ。ちなみに、ウロブルの修復師には断られた」
「えっ!?」
「こんな風になるまで放っておくやつの本を修復したところでと、鼻で笑われた」
「正論パンチ……」
え、貸本屋さんだよね。
ガチで怒られてるやつやん……。
「お前、そこから頼み込むまでの流れだろうが」
ブラウン先生からも注意が入ります。
「いつもそれで修復費用をつり上げられる」
「それはたぶん、適正価格なんじゃ?」
普通に修復大変なんだと思う。
「とにかくあの女は好かん」
「おう……相性の問題」
しかし、俺も適正価格がわからなかったりする。どうしよう。とにかくボロボロ過ぎるのだ。
「師匠にお伺いたてようかなあ」
俺のつぶやきにボサボサさんが眉をつり上げた。