作品タイトル不明
416.【番外編】イースターXの挑戦2
こういったイベント、情報が秒で広まる。第七都市のイースターXもすぐさま発見されたようで、船を漕いでいる間に八海山が行く先を把握していた。第七都市南の山側。ログハウスのある方だ。
山の中腹あたりに人だかりができている。
現在プレイヤーが多いのが、第一第二、そしてこの第七都市だから仕方ない。
『わりと遠くからでも話かけできそうだぞ』
パーティーチャットでソーダが言うので俺も目を合わせてみると、確かに会話ができた。
イベントNPCと話すときはフレンドチャットのようなウィンドが開くのだ。オープンで話しているが、周りとの会話と重ならない。ミュートまではいかないが、他プレイヤーの声が極力落とされ気にならなくなる。
「やあ、君は来訪者か。いろんな場所へ行く旅人だよね。よかったら卵作りに参加しないかい? 卵はいいよ。あのつるりとしたフォルム。可愛く色づけしたくなるよね!」
「あ、はい。そうですね。参加したいです」
「オーケイ、エッグパーティーへの参加チケットだよ。まずは卵を捕まえてきて! どんな卵でもいいよ」
卵は採取するんじゃなくて捕獲なの?
ちなみにイースターXさん、ピンク色のウサ耳に、ヴェネチアのお祭りの仮面をしていた。仮面もピンク。衣装はどこかの手品師みたいだ。黒い燕尾服。怪しさに拍車がかかる。
『参加チケット手に入れたのじゃ』
『んじゃ、ちょいクランハウス戻ろう。人が多すぎる』
『りょ~』
とにかく卵を手に入れないといけないということで、卵がとれる場所を目指すのだが……。
「どこもかしこも人が多そうだ」
すでに狩り場が人で溢れているらしい。卵は鳥系、爬虫類系がよく採れる。
「ドロップなの?」
レインボーシータートルみたいな。
「普通はドロップね。卵だもの」
「でもさー、捕まえてきてって言ってたよ」
俺が先ほど感じた違和感を伝えると、みんなログを辿っている。
「本当だ。捕まえてって言ってる」
「すぐ、採取の方向に考えてしまっていたな」
八海山が考え込んでいる。
「あー、面倒で放っておいてる卵ならあるわね。ほら、あの火山マップのやつ」
火山? 熱いヤツ?
「火ネズミの皮衣?」
「衣じゃないけどな。そういえばあったなあ。温泉卵」
「え、温泉……?」
そんなこんなで火ネズミマップです。
『ヤマアラシ……二体にならないよう注意な。火山の方に向かって地獄温泉を目指す』
『セツナ殿、水付与お願いするでござる』
『あ、私も』
『了解です……俺も水付与しようかな』
『そういや、水多くなってるんだったな。あれ、これ結構いけるんじゃね?』
かなり、いけましたね。
強い!
水属性に弱くはあったが、付与した剣で切るとあからさまに弱る。
「【濁流】」
火ネズミの数が多いときはこれで押し返す。すると、水ダメージによってこちらへ近づくことに恐れをなすのか、再攻撃に結構時間がかかるようになる。
『やべえ、このマップも余裕の効率に……傘の出番なしじゃん』
火ヤマアラシを針の発射前に倒しきったときはソーダが喜びで躍っていた。
二匹ヤマアラシが来たときは柚子が一匹を一時停止させている。【フロストサークル】と【フロストダイス】。魔術師の二重詠唱は強い。安定して狩ることができた。
クランメンバーが大喜びしている横で俺が考えていたのはミュスのこと。火ネズミはネズミなのだ。ネズミはこの世界に別にいる。
つまり、ミュスはネズミでなくミュスと名前がついている。
やっぱりあいつは特別なモンスターなんだなとあらためて思った。
ソーダの言う地獄温泉まで、十匹以上の火ヤマアラシを退治しようやく辿り着いた。
『ここの温泉卵はそれ自体がモンスターなんだよ!』
『卵も触るとヤケドのデバフがつくぞ』
『じゃあどうやって捕まえる??』
俺に触るとヤケドするぜの卵さんの捕獲!?
『虫取り網っていうアイテムがあるから、それで捕まえるのじゃ! 素早さが大切。はい、せっちゃんに貸してあげるのじゃ』
柚子から、白いネットの虫取り編みをいただいた。
『街の道具屋に売ってるのじゃ。これで飛んできたヤツを捕まえるといいのじゃ。しばらくしたら冷えるから触れるようになるのじゃ』
『当たって殻が割れると、なぜか固まっていない卵が弾けて大やけどな!』
『未だに調理法が謎だねッ! 捕獲も大変だしッ! 料理人たちも半ば諦めてるッ!』
ぐらぐらしてる百度近くの温泉でもゆで卵にならない卵さんらしい。
『近づくと温泉から卵が自主的に自爆攻撃を仕掛けてくるから、半蔵門線とセツナが捕獲のために前線に出て、その後ろに【フロストサークル】、俺は盾で防いで、案山子と八海山とピロリは応援』
必ず役目を振るタイプのソーダにしては珍しい選択。
『ホント、役目がないんだよ。いや、まあ八海山はダメージ食らったところに回復があるし、後ろの警戒は大切』
ということで各人それなりに役目を言い渡されたところで温泉卵の範囲に進む。
【鑑定】が働く。
温泉の名前がフライングエッグ・ランチャー。
そのままやん!!!!
火山の温泉は、ゴツゴツした大きな岩場の間に、お猿さんが入っていそうな雰囲気のとても、羨ましい風景だった。
温泉が煮えたぎっていなければね。
『これ、温泉卵の温度じゃないじゃん!』
『沸騰してるのよねぇ……』
『最初、ジェットバスかと思ったでござるよ』
『死のジェットバスだねッ!』
『ほら、来るぞ』
ソーダの言葉を契機に、ぽんっ、と卵がフライングだ。
『ストレート! アウトぉー』
俺がキャッチしたらアウト判定らしい。まあ、卵からしたらアウトだよね。
いったいいくつ必要なのだろうか?
気づくと他にもプレイヤーが何組かやってきている。
『捕るに気づいたやつら来たな』
『別に普通の卵でも良さそうだけどね~。もしかしたら卵にランクあるかもしれないし』
『そうでなければ、ここの狩り場は温泉まで来るのが大変でござるよ。トレインでもしてきたら……あ、ござぁ!?』
多少の悲鳴を伴い、火ヤマアラシが三匹、狭い山道を駆け上ってきている。
『ああああ、柚子はフライングエッグを凍らせておけーっ! セツナ、【濁流】出して』
「【MP譲渡】」
すかさず案山子がMPをくれた。
「【水付与】【濁流】」
トレインしてきたからもう、もろとも落ちてもらう……はさすがに可哀想なので一応人と人の隙間を狙った。
その後ろに人がいたかどうかは知らんけどね!
そうしたら今度は針攻撃だ。
針の射程距離がめちゃくちゃ広かった。
周囲のプレイヤーに降ってくる。俺たちは慌てて傘を出す。柚子はソーダが守っていた。同じようにここに卵を捕りにこようと思うプレイヤーはそれなりに攻略が進んでいるらしく、傘を出している人たちも多かった。傘だけなら俺たちが流した素材で作ることができたしね。
トレインパーティーは全滅しておりました。
それでも、倒れたまま謝罪しているだけましか。ソーダたちも別にいつものこととしている。ただ、誰も生き返らせることはない。
相手も察したのだろう。このまま待っていても無為に時間を過ごすだけだと。
すみませんでしたの唱和のあと、姿が消えた。
まーね。地獄温泉スペース限られているし、そうなると奪い合いになっちゃうから。辿り着ける猛者だけがきっとここで卵を確保できるのだ。
どのくらいの卵が必要かわからず、また、網の中に卵があるときに次の卵をとると、網の中でぶつかって割れるという、とても現実的なことをしてきたのでなかなか個数が増えない。【鑑定】して、フライングエッグ(冷)になるまで待たないと触れない。
網に一つ確保したら、【フロストサークル】の後ろまで下がり、【フロストサークル】のディレイの間は【投擲】でたたき落とす作業。なかなか時間のかかる過酷なものだった。