作品タイトル不明
414.耳の遠さに効くものは?
耳が遠いエルフのお爺さんはコーネリアスさん。生成りの長袖のシャツに焦げ茶のエプロンをしていた。甘い香りが奥からする。
「弟子のソールさんから紹介いただいてきました! セツナと言います!」
「弟子だぁ? ヒューマンの弟子はおらん!」
最初の数文字しか聞き取れてねえっ!
「セツナです!」
「ああん? ツナ? あ?」
うええん。助けてぇー。
「ふふ、コーネリアスお爺ちゃん、高齢でね、お耳が少し遠いのよ」
途方に暮れていたらとおりすがりのご近所さんが話しかけてくれた。
「ソウトゥースオークの実のキャラメル和えが大好きでね。あれを食べると少し耳の具合がよくなるのよ。そこの先にある菓子屋さんにたまにあるから、それをお土産に持っていくといいわよ」
木の実を喰ったら耳がよくなるなんて話きいたことありませんが?
絶対これ、食べたいだけやろー!!
とはいえ、メインクエストを進めるためには仕方ない。買いに行くかあ。
「いらっしゃいませ~」
店内は小さな個人経営洋菓子屋さんって感じだ。可愛い。赤と白と緑のタータンチェックな布が商品を置いてある台に敷かれていて、その上に籠が乗って商品が飾られている。
生クリームなどのケーキではなく、焼き菓子系のお店だった。
「こんにちは、ソウトゥースオークの実のキャラメル和えってありますか?」
「あらごめんなさい、元々供給不足でね。最近手に入ったんだけれど、もう全部売れてしまったのよ」
まかせろっ!!
ソウトゥースオークの実は何かあるかもしれないと全部売らずに多少持っている。エルフが大好きなら袖の下になるかもなって話になったんだ。
「材料を持ち込んだら作っていただけますか?」
「ええもちろん! 大歓迎だわ」
ということで秘蔵のソウトゥースオークの実です。
「まあ!! 本当にいいの? 誰かに渡す分じゃなかったの?」
「実は最近ソウトゥースオークの実を採って来ているのが俺の友人たちで、手元に残していた分なんです」
「ああ、あなたたちがミラエノランの救世主だったのね。ありがとう。さっそく作るわ。キャラメル和えでいいのよね?」
「はい。残りはどうぞ、売り物にするでも、ご自身で楽しむでも」
キャラメル和えはすぐできた。持ち込みなのでかなりお安くなった上、残りを買い上げてくれたのでお金ももらいました。ありがたくいただく。
キャラメル和えの入った瓶を携えて、いざ参らん!!
家の扉をドンドンドンとノックする。
耳遠いんだろう? ちょっとあらっぽくても許されるだろう。
しばらくして再び扉が開く。
「んあ? どちらさんかね」
「初めまして、セツナと言います。お弟子さんのソールさんに紹介されて参りました!」
「あんだってぇ?」
と言われたので、瓶をチラ見せ。
目の色が変わった。
「こんにちは、セツナと言います。お弟子さんのソールさんに紹介されて参りました」
「おお、ソールか。あやつは元気かの? 第五都市だったか、研究を研究をと言っていた男だったなあ」
耳通りよすぎるだろう。
絶対意図的だ。
「ソールさんから預かってきたものです」
と、ミトさんのノートを渡す。
「俺もちょっと闇の魔物について興味がありまして。お話を聞かせていただけると嬉しいです。あ、これ土産のソウトゥースオークの実のキャラメル和えですっ!」
聞かせてくれないなら帰っちゃうぞー。
という俺の心うちがわかってか、部屋に招き入れられた。
「おじゃましまーす」
入ってすぐの部屋はキッチンがあるリビングだった。
「研究者ならこっちだよ」
研究者ではないんだけどね。
そういってさらにもう一つ奥の部屋へ。そこにはたくさんの張り紙が山ほどあった。
「そこら辺のほら、空いてるところに椅子の資料を動かして、そう、座りなさい」
最初にチラ見したミトさんの家を彷彿とさせる足の踏み場のなさ! 研究者ってこんなのばっかなのか? いや、ブラウン先生はだらっとしてるけど部屋は綺麗だな。きっと【引き寄せ】とかでやりくりしているんだ。
自分はロッキングチェアに座り、ミトさんのノートをペラペラと眺めている。
「ふむ……よくこれだけ調べているな。君は、これを読んだのか?」
「いえ? 俺に渡されたものじゃないですし、人のノート読むのは悪いかなって」
個人的なものだしね。たぶんミュスのことだろうけど。
「誠実と言えば誠実。チャンスを得る気概がないといえばそうともいえる……これは、預言書について色々とまとめたものだ。この人物は預言書を盗み出したのが本当に錬金術師だったかという点について熱心だったように見えるが、預言書の意味についてもよく調べているな。君は預言書は何だと思う?」
「ええ……いやー、何なんでしょうね。でも、誰もが欲しているんでしょう? 神殿はわかるし、王族もわかるんですよね。問題は闇に潜むものとやらがなんで必要としているのかってことで、そうなるといわゆる絶大な力を手に入れる、とかそんな話かなと」
適当にまとめてみた。預言書については本もないからなあ。
「そうだなあ。預言書は、まあ、今生きている者が見たことはないのだから何が書かれているかなんて到底わからない。だが、ずっと言われ続けている話はある。私らエルフは長く生きるからな。話が伝聞で劣化する度合いが、ヒューマンよりも少ない。あれは、『すべてを動かす書』と言われているんだよ」
「すべてを? 人はもちろん魔物もって感じですかね」
俺の疑問にコーネリアスさんは肩をすくめただけだった。
「ま、弟子から手紙も来ていたよ。世話になったという話だな。そして、ミュスに多大な関心を寄せていると」
「ええ、ミュスは見つけたら即抹殺です!」
「物騒だなあ」
やつらに権利はない!
「ミュスの属性はもうわかっているな?」
「はい、闇ですね。あと、原初の魔物と呼ばれているのも知っています」
「ほう……」
ソールさん、そこは伝えてなかったのか。
「ふむ……闇属性の魔物の中でもミュスは、あの身体の小ささ、繁殖力、この世界を見張り、闇の魔物に報告していると言われているんだ」
「監視してるって話でしたよね」
「そうだ。人の目よりもずっと多い。奴らは、預言書を狙っている」
「ミュスが狙っているんですか?」
俺の問いにピクリと眉を揺らした。
「ミュスは、それに仕えていると言われている」
ボス的な何かか。まあゲーム的にはそうか。
「私がすべてを知っているわけじゃない。それでも、ミュスは闇の魔物、堕落した闇の使い魔だ」
あ、堕落した!!