作品タイトル不明
412.ファンルーアの領主と本
古くボロボロの本を、アンジェリーナさんが修復していく。あの道具は俺も持っていたな、とか、俺よりもずっと早く終わらせているなあなんて思いながら、見守ること三時間。
三時間あっという間!
アンジェリーナさんの横顔見てる間に時間が飛ぶように流れた。もちろんスキップ表示はずーっとでているんだが、スキップするなんてもったいなくてできない。
綺麗な指先が弾むごとに、きらりと本のページが光る。
ちなみに、これを俺がやったら多分三時間じゃ終わりませんよっと。
「さあ、これでどうかしら」
「おお!! 素晴らしい。まるで昨日出来上がったかのようだ」
「アンジェリーナさん、本当にうっとりするくらい的確で素早いお仕事でした。学ぶところがとても多かったです」
事実、グレー表示だがスキルが並んだ。
「セツナくんも数をこなせばできるようになるわ。少しずつよ」
「はい! 精進します」
領主様は頬ずりしそうな勢いでできあがった本を眺めている。
「すぐお礼は準備するが……夜通しだったろう。もしよければ部屋を用意するので仮眠していってくれたまえ。食事が必要ならそちらもすぐ準備できる」
俺はどっちでも大丈夫だけど、アンジェリーナさんは本当に疲れているだろうから休んでいくなら俺も付き合いますよっ! 暇つぶしならいくらでもできるし。ファンルーアの貸本屋に行って……ああ、忙しいのか。この流れだと開いてなさそうだな。
まあどうにかなる!
「それではお言葉に甘えて、仮眠してからアランブレに戻ります」
アンジェリーナさんの言葉に領主はうんうんと頷いていた。
俺も一緒になって頷く。
それではそのようにと、俺たちは部屋を移動する。領主はウキウキ顔を隠さず俺たちとは別の方向へ向かった。確かあれ、前に話し聞かされて、寝落ちしてた部屋がある方向だ。
アンジェリーナさんはさすがに疲れたと食事は起きてからということで部屋へ向かった。さて、俺はどうしよう。
「セツナ様、伯爵様がもしよろしければ好きな本を読んでも構わないというお話ですが、どうされますか?」
「え、いいんですか? 高価なものも多そうですが」
「修復師になるくらい本を愛しているのだからとおっしゃっておられました。あまり表に出回っていない本もございます。こちらへ」
と案内されたのは先ほどの本がずらりとならぶ部屋だ。
どうしても、『預言の書【未完】』に吸い寄せられてしまった。
あと四つの宝石が嵌まったら何が起こるんだろう。手持ちの透明を嵌めてみたい気もするが、ううん、やっぱり惜しいので内緒だよ!
「おや、君もそれに興味があるのか?」
【気配察知】さん!? やめてよっ! なんで伯爵様が後ろから突然現れるんだよ。
「オレンジ以外の宝石も綺麗だなと見ていました」
「宝石だけでもかなりの価値があるだろうね。おかげで不審人物の侵入が後を絶たないんだ」
「えっ!? やっぱり宝石狙いですか」
「さあどうだろう。警備の者が優秀で助かってはいるがね。我が家には希少本も多い」
「本当に、すごいですね。図書館も壮観でしたけど、個人のお屋敷にこれだけ本が並んでいるのは見たことがありません」
オルロさんちよりも並んでいる。
しかし、侵入者か。預言書だと知っていて狙っているってことか?
知っていたら……神殿が普通に正面凸してきそうな気がするのだが。
「まあ、私も阿呆ではない。実はね、宝石はもう一つすでに見つけているんだ。全部嵌めておくなんてことはしないさ」
おっさんが俺に向かってにやりと笑う。
「いやあの、俺にそれをばらしたらダメでしょう?」
「何を言う。君は私にのこのことオレンジの宝石を持ってきた。だろう?」
甘ちゃんか?
「ここに揃ってるから持ってきて、安心させて揃えさせようとしているかもしれませんよ?」
なんだって!? みたいな顔してる親父……阿呆だろこいつ。
「……そのような可能性は考えてもみなかった」
でもこのおっさんちょっと楽しいなw
預言書関連でも役に立ちそうだ。
「まあ、でも宝石の一つを別に置いてあるのは悪くないですね! そのままにしておくといいですよ。さらに、透明の宝石は俺が持ってますから、たとえ本を狙っても宝石は必ず二個足りない」
にやりと笑うと、驚きののち、伯爵も笑う。とても悪い笑みだ。
「セツナ君だったね。うちの屋敷にはいつでも入れるようにしておくよ」
「ありがとうございます。残りの宝石がありそうな場所に見当はついていないのですか?」
「残念ながらね。ここまでも、長い年月かけてやっとここまで集まったんだ。私の代で全部揃うかもわからない。ただ、この宝石はどうも自然としかるべき人物の手に渡る、そんな手記が先々代の日記にあってね」
「しかるべき?」
「私にもよくわからない。だが、今この状況を考えるに、しかるべきときが来ているのかもしれない。宝石が二つも見つかるなんて、今までなかったんだ。何か情報があれば人をやろう。君も、新しい話が入ってきたらぜひ連絡をくれ」
これは、伯爵様とマブダチ!! と思ったが、フレンドは来なかったです。さすが伯爵様。一筋縄ではいかないぜ。
思わず透明の宝石をばらしたが、そんなに悪くないルートな気がする。よしよし。
その後は蔵書を眺めて過ごした。預言書関連もいくつかあったが、どれもこれも与太話というか、きっとこんなものだみたいな何も根拠のない希望的な物語ばかりだった。
クーピリオン伯爵曰く、ここにある本はそんなものばっかりだそうで、確かな手がかりはないということだ。
ちなみに、伯爵はこの『預言の書【未完】』は預言書だとはわかっていない様子。ただ、野生の勘で何か大切なもの、とても希少なもの。ならば預言書だろう!! みたいな連想ゲームで確信しているそうだ。
俺も話を合わせてきっとそうですね!! ってキャッキャしておいた。
大当たりですよクーピリオン伯爵様。
「預言の書はな、色々な組織が血眼になって探しているんだよ。王国はもちろん手に入れたい。神殿は正当性を主張する。それ以外に、力を手にしたいと願う者たちが探し続けている」
「伯爵様は預言書を手に入れたらどうなさるんですか?」
「ん? 私か? そんなの決まってるだろう。一番に読むんだよ」
うん。本が好きな人。
「その後は王家にでも渡して恩を売るさ。来訪者の君は知らないかも知れないがね、それぞれの都市は自治を任されている。領地の力がものをいうのだ。王家に恩を売って孫の代まで安泰でいたいねえ」