作品タイトル不明
411.ファンルーアのお屋敷にて
飛行船の甲板で黄昏れ、やがて到着のアナウンスが響く頃、客室で仮眠をとったアンジェリーナさんがやってきた。少し眠たそうな表情がとても刺激的です。
ああ、守りたいこの存在!
くっそー。ヴァージルううう……。
そんなヴァージルからは先ほどハトメールが来ていました。『とても素敵な人だね。頑張れセツナ』だそうです。
イケメェンの余裕だこれは。くっ……。
「はやいわね。これが聖地向け便ならもっとかかるんでしょうけど」
「おはようございますアンジェリーナさん」
NPCは基本衣装を変えない。それでもTPOに合わせて多少の変化はある。
今日のアンジェリーナさんは旅装として黒のフード付きローブをまとっていた。ヴァージルがちょっと異常だ。なんでこちらが提供した服を普通に着られるんだ。
さらに仕事用の鞄を持っている。俺も【持ち物】から取り出して並んで歩こうかと思っていたが、あくまで弟子としてのポジションなのでやめました。なんならアンジェリーナさんの鞄を持って歩いてもいいくらい。
ただ、修復師の仕事道具だから、他人には触らせたくない等はありそうで、持ちましょうかと言い出しづらくなっております。
ぐぬぐぬしながら飛行船を下りると、えー、目の端にクランメンバープラス、女の子たちが。なんで、君らが追いかけるべきはヴァージルだろうよ……。アリンさんがアンジェリーナさんの死角で手を振ってる。
やめてっ!
「ファンルーアの領主様、クーピリオン伯爵様は、かなりの本の蒐集家でね。集めるだけじゃなくて読み込む方なの。本、知識を集めることが好きなのよ。その過程でかなり傷んだ本を買うことがあって、よく依頼をいただくわ。今回はファンルーアの貸本屋に持ち込んだけれど、店主が今少し忙しいそうで、私に依頼が回ってきたってわけ。わりとよくファンルーアからは修復の依頼が流れてくるの。セツナくんも腕を上げたらお願いされるかもしれないし、私から回すこともあると思うわ」
「任せられるよう頑張ります」
「図書館の本の修復はもうほぼ完璧って聞いているわ」
「新しい道具も揃えられましたし、さらに頑張りたいと思います」
そんなことを話しながらファンルーアのお屋敷に。
メインクエストで、兵士に連行されて来たんだよね~。いぇーい、クーピリオン伯爵、覚えてる~? 変わらずのお姿。中肉中背薄茶の髪に薄茶の目をした中年男性だ。
とはいえ、お貴族様なので向こうから話しかけられない限りはこちらからは何も言わないよ。
「やあ、アンジェリーナさん。いつもすまないね」
「いえいえ。また新しい本を見つけていらっしゃったのですね」
「そうなんだよ。ちょっと伝手でね。ただ、状態が酷すぎてなあ。またアンジェリーナさんの腕に頼らねばならなくなったんだ……そちらは?」
俺の姿に目を留めて、クーピリオン伯爵が首を傾げる。
俺は軽く頭を下げたまま動かない。……運営からの強制頭下げが入りました。こうしておきなさいよってことだな。
「実は弟子をとりまして。セツナといいます。やっと半人前から一歩踏み出したところですので、今色々な修復を見せるため連れて回っているところです」
「ほうほう……んん? 君、どこかで……」
あ、OKなやつなのか。
「以前一泊させていただきました。その節はありがとうございました」
執事が伯爵のそばへ寄って行き、耳元で何か囁く。
「ああ! あのときの!! こちらこそなくしていたものを見つけてもらって助かったよ」
思い出したのか笑顔になる。お、好感度上がってる。変なの連れてきたってアンジェリーナさんが怒られなくてよかった。
「あら、お会いしたことがあったのね」
「かなりまえのことですが」
夜も更けているのだが、それでも構わないというクーピリオン伯爵の意向で来ており、早々に問題の本の元へ案内された。
「おお……すごい」
壁一面ずらりと本が並ぶ。見せる本棚になっていて、立派な装丁のものが多い。そして部屋の中央にガラスのケースに入った例の宝石が嵌まった本があった。
……俺のベッドよりいいクッションの上で寝てやがるぜ。
「ああ、これが先日君が持ってきてくれたオレンジの宝石を嵌める本だよ。ほら、くぼみが七つあるだろう? 我が家にはすでに赤青と君の持って来てくれたオレンジがある。残りは黃黒透明緑だね。もし嵌まりそうな宝石を見つけたらぜひ連絡をくれ。お礼はたっぷりするよ。何せ我が家の家宝だからね」
ハッハッハ! と笑ってらっしゃる。
「宝石を嵌める本なんて、いったいどんな内容なのかしら」
アンジェリーナさんも驚いていた。
「それがなあ。残念なことに白紙なんだ。中は何も書かれていない。たぶんだが……内緒だよ? 本にそこまで興味はないが、知識人として持ってはおきたいだろう? ご先祖様が見栄を張って作らせた物だと思うのだ。せっかく作ったのだから自分の日記でも書いておけばよかったのになあ」
ハッハッハと笑いながらその隣の部屋へ誘われた。
ほとんど無意識に【鑑定】をする俺は、その内容と、そのあとの空白に固まってしまう。空白はまだ見ぬ領域。
内容は、『預言の書【未完】』。
メインストーリーだけどさあ~!!
不意打ちとは卑怯なりぃ~~!!
……ちょうどいいや、アンジェリーナさん関連そっとしておけをこれで脅すか。
セツナ:
台詞を変更します。
『二度とその口を開くな。詮索したら預言の書に関する情報は一切渡さぬ。』で。
ソーダ:
おお!! まあ、メインでファンルーアの伯爵様、なんかやってたもんな。
案山子:
食材集めてばっかりでッ! 宝石集めるのやってないし、見つかってないッ!!
半蔵門線:
パン屋の娘さんが持ってたダイヤモンド渡すでござるか?
セツナ:
いやー、とりあえず今は渡す気はないです。今日は別件できているし。
アンジェリーナさんとの小旅行が目的!!
ピロリ:
ばっちり写真とれたわよっ♪
後で送るわねー!!
ソーダ:
俺は動画撮ったぜ。
あと、親衛隊スレにセツナの機嫌損ねるなよって言っておいた。
アリンさんが自治してた。
セツナ:
アリンさん……なんかまた写真送っとこ。
ゲーム外で見られるようにね。
八海山:
ただ、イェーメールはプレイヤーも多いし、誰かしらには見られてるかもしれないな。
預言書の事柄ってのはどの程度のものかな?
セツナ:
預言書【未完】ですね。
ソーダ
えっ!?
……嘘だろ?
セツナ:
宝石全部嵌めたら完成体になるのかなあ。
ありそうだなんのかんのとクランチャットが賑わう中、問題の本があるテーブルの前に来た。
これまた曰くありげなボロボロの本だった。
「仕事のしがいがありそうです」
「余計なことはしない方がいいだろうと思ってね。かなりひどい有様で申し訳ない」
「いえいえ。それじゃあ、始めましょうか」
アンジェリーナさんが俺を見て笑う。