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参観日に婚約破棄をするなんてとんだ大馬鹿者ね……え?私の婚約者!?

作者: へんりん毎朝7時投稿

本文

「婚約破棄だ!俺は婚約破棄してやる!」

学園のパーティ会場のどこからか、男子生徒の大きな声が聞こえる。

どこの誰だか知らないけれど、とんだ間抜け者がいたものね。ただでさえ学生の婚約破棄なんて、自身の力を勘違いした愚かな行為なのに、今日はそれだけじゃすまない。本日は、我々の保護者、貴族の皆々様が訪れる参観日だったのだ。

今絶賛行われているパーティは、参観日終わりのお疲れ様会のようなもの。通称、学園による貴族へのゴマすりパーティだ。

そんなタイミングで婚約破棄をしようというその胆力。むしろ将来大物になるかも知れない。……人の気持ちが分からない時点で、国を治める貴族として大成しないのは明らかだけれども。

「おい!隠れてないで出てこい!ファーミラー!」

……今、私の名前が聞こえたような。き、気のせいよね。だってファーミラーなんてありふれた名前――では無いわね。ま、まぁ聞き間違いよ。鏡に驚いた可能性もあるもの。ふぁー!ミラー!なんちゃって。

「ファーミラー!どこだ!」

次はしっかり聞こえた。確実に私の名前。それに声も、ものすごく残念ながら聞き覚えしか無い。

私は大人しく声の方向に向かった。

「ここです。どうなさいましたか、オオバーグ様?」

「どうしたもこうしたも無い!俺が肉を上手に切れないことを知っているだろう!なぜ俺の側におらんのだ!遅すぎて婚約破棄してやろうかと思ったぞ!」

うわぁ。

周囲の皆様の顔をしっかり見てください。超ドン引きですよ?先ほどまであんなに楽しそうに食事されてたのに。一人を除いては、誰もご飯を口に運ぼうとすらしていない。一人、懸命にスパゲッティをむさぼっている人を除けば。……あのスパゲッティ、そんなに美味しいのかしら。後で食べに行きましょ。

「何事かと思い隠れて聞いていたが……貴様!なんだその理由は!」

突如、私の後方からオオバーグなんかを凌駕するほどの怒鳴り声。振り返らなくても分かる。私の父だ。私が愚弄されて怒っているのだろう。ありがたい父だ。

「側にいないから婚約破棄だぁ!?意味分からんこと言うのも大概にしろ!なんでお前みたいな奴に私の可愛い娘が肉を切ってやらんといけんのだ!――私なんて、娘にアーンしてもらったのは十年も昔なのだぞ!」

やっぱりありがたく無いです。帰ってください。隣にいらっしゃるであろう母だけで十分です。

「そうなのよ!もうこの人、すごく甘えん坊でね?ファーミラーからアーンを断られた日は本当大変だったのよ!口くさいのかなぁとか、あごひげが嫌なのかなぁとか、涙ポロポロこぼしちゃって!」

「ファ、ファーレド、それは言っちゃダメじゃ無いか。私の威厳がなくなってしまうよ」

「あらそう!?じゃあ今のなし!この人、格好よくて威厳たっぷりなんだから!」

二人とも今すぐ荷物をまとめてください。金輪際、学園に近寄らないでください。二度と友達の前に顔を出さないでください。

「トウッ!」

突如、目の前にいた婚約者のオオバーグが、何者かに蹴りを入れられる。

オオバーグは少し空中に浮き、地面に倒れた。

「と、父さん!なんで蹴るんだよ!」

「シャンデリアの上から隠れてみていたが、なんだお前は!そんな事で男がつとまるか!男なら、肉の一枚や二枚切らずに食え!」

ツッコミ役が不足しているにも程がある。シャンデリアの上から見てたのかぁ――とはならないでしょう。そんなとこから見てないで、普通にパーティに参加してください。うちの親が普通に見えてしまうじゃないですか!

「あなた、蹴るだけじゃ何も解決しないわよ」

「す、すまない」

「蹴るなんて一瞬で終わって反省できないじゃない。指を一本一本折っていくべきだわ。そうすれば十回も反省できるじゃ無い?」

「さ、さすがにそれはやり過ぎでは……」

もうめちゃくちゃだ。私の後ろでは、怒鳴りながら事あるごとに昔話をする父と母。目の前では力関係のわかりやすいオオバーグの父と母。あの傍若無人で有名なオオバーグですらタジタジだ。

しかしこれ、どうやって納めましょう……

「まったく、皆が困っておるではないか。どれ、余が場を納めてやろう」

また別の人の声。新しいおじさんが場に召喚された。

瞬間、私の父母、オオバーグの父母がその人物に向かって頭を垂れる。私も急いで頭を垂れる。まさか現国王まで現れることになろうとは。

「ふむ、オオバーグ殿は余が誰かしらんようだな。良い良い。今宵は孫を遠巻きに、壁と同化しながら観察するしがない老人じゃからな」

ツッコめない。その地位でボケか本当か分からない発言をするの、止めてください。確認できるまで気になって眠れません。

「だが、婚約者に対する態度はいかんな。あれでは百年の恋も冷めるという物だ。そうだな。とりあえず婚約は破棄した方が良さそうじゃ。――加えて罰をと思ったが、家に帰ったら相当な事になりそうじゃな。余から何か言うことはないが――君はどうかな?」

国王が私の方を見る。後ろをチラリと振り返ると、父母が行けと言わんばかりに目配せをする。

「ありがとうございます、ハライン国王。僭越ながら一言――オオバーカ、肉ぐらい自分で切ってください。二度と私に関わらないでね」

******

その後、オオバーカは彼の両親に引きずられて帰って行った。とりあえず数日経った今も、彼が学園に戻る気配はない。素晴らしい教育が施されていることだろう。というかむしろあの家庭環境で、あそこまでよくひん曲がった性格になれた物だ。

ちなみに、後から知った話だが、国王は実際に壁と同化しながら、お孫さんの授業を聞いていたそうな。……貴族って変な人しかいないのね。