軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50《バードラside》魔法と思い込み

「……という事があったんです」

「へ~、三流以下の濁った『ナイト・ローズ』を、『トリニティ・ローズ』に……」

おかげでこちらもお得な買い物ができました、と苦笑いを浮かべる坊ちゃんの様子に、何となく今後、ユズチャ&ベッターラのエンゲジーナ殿から三流以下の『ナイト・ローズ』を山ほど浄化してほしい、という依頼が来る可能性が脳裏に浮かんだ。

まぁ、商売上手なあの娘ならやるだろう。

「しかし、一体どういう事だと思いますか? バードラ」

俺は、坊ちゃんの話を聞いて小さく頷いた。

「まず、間違いなく、ミルティア様の『浄化』の能力でしょうね」

「やはり、貴方もそう思いますか」

こう言っては何だが……うちの坊ちゃんに『浄化』関係の才能は無い。

坊ちゃんの場合は「穢れもろともぶっ飛ばす」とか「汚いモノごと消滅させる」とか「時空の果てに封印する」とか……そちら方向に強い適性があるのだ。

「でも、それなら、どうして……わざわざ、私が触れる必要が……」

「あー……それは、多分」

一番身も蓋も無い言い方をすれば、ミルティア様の「思い込み」が原因に違いない。

本当は、自分自身の力で『浄化したい』と思っているし、それが出来るだけの能力もあるはずなのだが、同時にあの地獄のような実家暮らしのせいで、『自分は魔法を使う事ができるはずがない』という強い強迫観念を植え付けられてしまっている。

彼女は、ここに来た当初から「魔法が使えない」「その教育も受けていない」ことを、かなり引け目に感じていた節がある。

まぁ、この国の貴族と言えば「魔法を使える人」とほぼほぼイコールな訳だから、伯爵令嬢で魔法が使えないとなると、自信を喪失するのも頷ける話だ。

だが、実際……彼女にかけられた『封魔の施術』は、かなり壊れかけていて、ほころびが発生している。

事実、ミルティアの周りでは奇跡のような事がいくつも起きている。

例えば、あの蓄魔石に冬の冷気を閉じ込めるのだって、全く魔法が使えない人間に扱える技術ではないし、あの『養殖池』に至っては、相当高度な「空間操作」系の魔法を重ね掛けしているようなもの。

前者は以前、育ての親である料理長が教えてくれた、と話していたから、恐らく「魔法」だと気付いていないし、後者は「坊ちゃんの力で奇跡が起きている」と思い込んでいるから彼女の中では違和感無く受け入れられたのだろう。

この宝石も同様。

マリクル様(ぼっちゃん) が触れたのだから、きっとどんな奇跡も起こり得る。

ミルティアの中で、そんな信頼にも似た「思い込み」が自身の『浄化』の力を一部覚醒させていたのだろう。

「なるほど……」

「いやぁ、信頼されてますね、坊ちゃん」

「そ、そうですね……」

ツイッとメガネを直すふりをして俺から視線を逸らしているけど、相当、嬉しいんですね? 坊ちゃん。

多分、今の坊ちゃんに尻尾が生えていたら、嬉しそうにばっふばっふと左右に振られていたに違いない。

「仮に、エンゲジーナ殿から、三流以下の『ナイト・ローズ』の浄化依頼がきたら、可能な限り受けてあげた方が良いですよ」

「……別に構いませんが、当家ではそこまで金銭的に困ってはいませんよ?」

宝石の浄化作業は、浄化系の魔力を持つ侯爵以下の令嬢にとって、ちょっとしたお小遣い稼ぎに最適な作業だったりする。

危険が無い……と、言って良いほど少なく、1回当たりの単価がそれなりに高く、消費魔力量が大きい割に肉体的負担は無に近く、目の保養にもなる。

「坊ちゃんじゃありませんよ、ミルティア様の魔法の修行にピッタリなんです」

能力的には問題無いし、これを続けていれば、坊ちゃんのフォローが無くても自力で『浄化』を発動できるようになるのは、おそらく時間の問題だ。

『封魔の施術』を自分自身で打ち破る事が出来たとなれば、聖女の認定は軽いだろう。

下手したら、「大聖女」や「 御使(みつか) い」レベルの魔力保持者となる可能性すら出て来る。

そうなれば、例え実家があの惨状だったとしても、そっちと縁を切って彼女単独で「聖女籍」を得ることもできるし、坊ちゃんの正妻としての箔つけにも申し分ない。

それに、最近では農地に掛けられた呪いを貝殻から作った石灰ですっかり浄化してしまった、とも聞いている。

坊ちゃんの話を聞いて、後日その呪いの跡を調査してみたところ、かなり質の悪い外法が使われた形跡は発見できたのだが、恐らくミルティア様が完全に『浄化』してしまったのか、それとも『呪い返し』をしてしまったのか……俺でも後を追えない程、綺麗さっぱり、呪いは粉砕されていた。

「ま、最初は、手取り足取り腰取り、じっくりしっかりねっとりしっぽり教え込んであげてくださいな」

俺は、ついつい、少し下世話な言い方をしてしまったのだが、

「ええ、わかりました。そうですね……ミルティアには丁寧に魔導の基礎から説明した方が良いですね」

と、顔色一つ変えずに真剣な表情で頷く坊ちゃんの顔を見て、一つの懸念事項が思い浮かんでしまった。

あれ?

この二人って……お世継ぎの作り方……分かっているんだよな? と。