軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26現ナマ様との邂逅

「さ、乗って下さい」

「う、ぁ……」

思わず、声が漏れてしまった。

う、馬まで 魔導人形(オートマタ) で出来ている馬車なんて、初めて見た……!

もちろん、乗り心地もスプリングやサスペンションが効いていて、悪路でも全然、ガタガタしない。

乗合馬車ではひたすら繰り返す振動に臀部が炎症を起こしかけたが、この馬車なら一日中乗っていても、お尻はつやつやのピカピカだ。

「では、バードラ、アルスのところまでお願いしますね」

『かしこまりました、旦那様』

「う、馬が喋っ……!?」

い、いや、違う。

確か、 魔導人形(オートマタ) は全部バードラ様が操作されてらっしゃるから……こういう会話も成立するんだ……!

聞けば、バードラ様は「公爵家の執事」と「マリクル様の魔法の先生」と「年上の悪友」を足して割ったような方だそうだ。

御年70は超えているらしいのだが、高い魔力で老化を防いでいるため、30代くらいの見た目を維持しているのだとか。

何でも、マリクル様のおじい様の代から仕えてくださっているすごい方らしい。

そ、そんな大魔導士様だったんだ……!

てっきり、ちょっとお姉さんなメイド長のイメージでした……

「ふふ……バードラが……お姉さんっ……!」

何故か、マリクル様にはわたしのイメージがツボにはまってしまったらしい。

いや、でも……女のわたしよりドレスに詳しいメイド型 魔導人形(オートマタ) を操る方が男性とは思わないじゃないですか!?

音声は人形に合わせて女性的だし……

「すいません、そうですよね……いえ、でも、あの、無精ひげの顔を見知っていると……つい……ふふっ、ぷくくっ」

わたしの言動がおかしくて嗤われているはずなのに、何故かマリクル様だとバカにされている感じも、蔑まれている感じもしない。

むしろ、つられてこっちまで笑顔になってしまう。

そんな話をしているうちに、滑るように馬車は目的地に到着した。

「へぇ? 君が僕のマリクルを射止めた伯爵令嬢かい?」

えっ!? えっ!? えええええっ!!!

わたしは、目の前に立つ……この国の『銀貨』に描かれている男性の笑顔に声も無く絶叫していた。

『退魔の勇者』『救国の英雄』『聖剣の剣士』……数多あるサーガにも謳われ、大量の二つ名を持つ彼は、この国の王太子殿下だ。

魔王討伐隊のリーダーを務め、マリクル様とも一緒に戦った歴戦の戦士にして最強の勇者。

そ、そうですよね……レンロット公爵家当主であるマリクル様のご友人だもの……!

それは、漁師のおじさんや海女のお姉さんって訳がないですよね……!

アルス様……王子様、というよりも「戦う者」として均整の取れた肉体はまるで芸術品だ。

涼やかな青い髪の美丈夫の微笑みは、この国に生まれた者なら絶対に一度は見た事があるはず。

なぜなら、この国では、国王陛下のお顔が『金貨』に。

そして、王太子殿下のお顔が『銀貨』に描かれるのが風習となっているのだ。

姿写しの魔法による精密加工のおかげで、国民の誰もが王族の顔を知っている。

ちなみに、貨幣には即位時点のお顔が描かれ、退位された場合には図案が入れ替わる。

そのため、歴代の王族の中でも、どなたが一番イケメンなのか……という、ある意味ちょっと不敬な話題が、庶民にとっては絶好の話題の種だったりする。

なお、空位の場合は国の紋章へと差し替えられるのがしきたり。

普通、通貨の価値は「金」や「銀」の含有量によって評価されるのが常なのだが、アルス様のお姿を写した銀貨に関して言えば、このイケメン顔が奇麗に刻印されているものの方が価値が高い! という珍しい現象が起きている。

もちろん、歴代銀貨の中でもダントツ人気。

特に銀は柔らかい素材だから、使ううちにすり減るのが常なのだが、奇麗な状態の銀貨で支払うと国中の女性が喜ぶので価値が吊り上がっている。

まさに、現ナマの微笑み。

うわぁぁぁぁぁぁ!! どうしよう!?

現金様が笑ってらっしゃる!! 銀貨様が動いてらっしゃる!!

「ふふっ、マリクルのヤツ……なかなか、目は確かなようだね。流石、僕の親友だ!」

ぴかぁ~っ!!

銀貨100万枚の笑顔がまぶしいっ!!

嗚呼、わたしの金運は今ここで尽きたんじゃないかしら?

元々あまり縁が無いのに、生の銀貨様と直接お話しできたなんて……!

落ち着いて、ミルティア!

大丈夫! わたし、銀貨なんて高価なもの、持ったこと無いから!! 見たことあるだけだから!!

銀貨はどんなに奇麗でも、そのままでは煮ても焼いても食べられないからっ!!!

「は、はいっ!! お、お初にお目に掛ります、殿下! み、ミルティア・リランと申しますっ!!」