軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第244話僕は案外ちょろいらしい

100階層なんて学園に入学した時点では、存在することすら未知な階層だった。

だが僕らは今、それを目にしている。

言ってしまえば何かの間違いだ。

場合によっては足を踏み外したとも言えるのかもしれない。

どこか浮足立っているような不思議な感覚を味わえているのは、たぶん数字のマジックだろうと僕は曖昧に笑った。

「……我ながら、ただ区切りがいいだけで特別な気分になれるんだからちょろい奴だよ、僕ってやつは」

「いやいやいやいや。その特別な気分、絶対それだけの理由じゃないでござるよ? 何でござるかあの禍々しい城は?」

桃山君が驚いているのは、今から僕らが目指す場所のことについてに違いない。

暗雲で全貌が見えない、巨大な城。

その中に100階層の守護者はいるらしい。

「……いかにもだなぁ」

浦島先輩は感想を漏らしていたが、周囲にいるモンスターの集団の方が気になるようで、それはあまりにも当然だった。

今まで辿って来た階層にいたのが野生の動物だとするなら、ここにいるのは軍隊と呼ぶのがしっくりくる。

ただしそれは様々な種類のモンスターが武装して纏まっている、ダンジョンの集大成みたいな軍隊だった。

「数字は無関係とは言わないけど……あのいかにも魔王軍みたいな化け物の群れのせいじゃない? 足踏みで地面って震えるんだね。ライブとかで感じたことはあるけどさ……正直に言えば雰囲気は真逆だわ」

確かにこの閑散とした大地に感じる振動は妙に不安を掻き立てる。

地面が震えているのか、自分が震えているのか、僕もよくわからない。

ゲーム世界の勇者は世界を揺るがす統率された化け物の群れと戦うなんていうのは、基本中の基本なのだろう。

なんなら、安直まであるチープな展開なんだろうけど、いざ自分が直面すると冗談ではない理不尽を感じた。

ただどこかネガティブにも聞こえる僕らの感想に、レイナさんはうむと妙に力強く頷いていた。

「―――ワタシはワタヌキに賛成ですね。案外シンプルな理由で人は浮足立つものです。私も人類初、前人未到の100階層到達なんてバエる偉業はさすがに出すコメントは死ぬほど悩みそうです」

「悩む尺度が違いすぎて尊敬するまであるなぁ。……でもまぁ確かに、ここで逃げ帰ったら99階層制覇だもんね。どうせ盛り上がるなら100階層制覇の方が圧倒的に華がある」

「その通りです! そういうの大事ですよ! それに見栄えのいい見出しだけでは片手落ちです! そこに至るまでのストーリーをこれからビシッとキメられるかが重要でしょう?」

レイナさんはもう我慢しきれないと言うように、足取り軽く歩み出す。

迷いはなく、僕が作った彼女のステージも付きしたがって大気を帯電させていた。

「ぐだぐだ心配事なんてもったいないです。ワタシはキメますよ。みんなも準備はOKですか? 最高にカッコイイキメ台詞を頭に思い浮かべてください。夏の思い出を死ぬほどカッコヨク彩る最初のサムネにふさわしいやつぶちかましましょう!」

おもむろにギターの演奏が始まると、僕もスイッチが切り代わるのを感じる。

恐怖を塗りつぶすようなその前向きさはとても力強く、一歩下がりそうな体を引っ張ってくれる。

レイナさん式の励ましは力が湧くね。

そしてため息交じりに一番後ろにいた龍宮院先生が続いた。

「まったく……学生はすごいな。無謀にしか見えないのに、ここまで来てしまったら信じるしかないじゃないか。私もできる限りの事をするから、やりたいようにやってみようか?」

後ろから後押しするような言葉は、僕の背中まで押して来る。

どちらもタイプは違うけど、新しく参入してきた二人からこうまで厚い信頼を向けられると、なんだかむず痒い。

浦島先輩も桃山君もすでに刀を構え、鞭を取り出し。

僕の言葉を待っていた。

僕はあんまりこういうのは得意じゃないんだけどと燃える頭を掻いた。

「カッコイイかはわかんないからね? 今回は……単純に今までコツコツと準備してきた備えを、解放してやるだけなんだから」

まずは数には数を。

ボンと僕の頭の炎が気合で燃え上がるのを合図に、パーティメンバー全員が自分の相棒達を呼び出してゆく。

夥しい数のテイムモンスターの召喚で飛び出してくるのは、こちらもまさにダンジョン攻略の集大成と言うべき軍勢だった。

「じゃあ―――勝つべくして勝ちましょうか! 100階層丸ごと僕らで全部いただきです!」

「それ最高ですね! アゲていきましょう!」

「はははっ! 欲望剥き出しのいいセリフじゃん! じゃああの城も私達のもんだ!」

「クゥ~! では拙者が血路を開くでござる! こいつが武士の本懐ってやつでござるか!? この時代にこの感覚を味わえてる人間はそうはいないでござるよ! 漲って来た! 漲ってきたでござるなぁ!」

「私の知っているダンジョン攻略とは違うけど……この状態で黙っていられたら探索者なんてやっていられないか」

今のアドレナリンの量にふさわしく、まずは景気よくいってもらおう。

戦場全体に渦巻く濃密な魔力は、レイナさんの恰好のエネルギーだった。

「さぁ行きますよ! まずは一発目です!」

奏でるミュージックが盛り上がり始めたその時、チャージが終わった一発目は敵の軍勢のど真ん中を貫き、薙ぎ払い、僕らの道を切り開いた。