軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第207話様子がおかしい店員のお姉さん再び

さて店には入ることができたけど、今回の依頼は店員なら誰でもいいわけじゃない。

そして目星をつけていた店員さんは、厳しい表情で探索者用水着コーナーなるディスプレイをミリ単位で調整していた。

「……むむむ。やはりもうちょい角度をこっち向きに……いや根本的にどうなの? 奇抜さがそもそも足りなくない? こういうのはどう? 男性用水着を女性のマネキンに、女性用水着を男性マネキンにしては……ハッ! 天才?」

……見込み違いも甚だしかっただろうか?

どうしよう? 回れ右して帰ろうかな? っとちょっと考えていると目が合ってしまって、回りこまれてしまった。

もはや逃げられない。

「いらっしゃいませ! ようこそ! 冒険者専門店ユグドラシルへ! これはあの時のお客様。ご来店ありがとうございます!」

「……あ、先日はどうも。少し相談したいんですが?」

「はい。何をお探しでしょうか? ここは日本一バリエーションのあるお店として有名ですから、きっとご期待に沿う商品があると思いますよ?」

こうなってしまったら仕方がない、僕が覚悟を決めてたどたどしく相談すると、自然な問いかけが返って来た。

ほう? 日本一とな?

そいつは期待してしまう謳い文句だけど、実際見てみるまではどれほど信用できるものか?

ならば遠慮なくと、鎧姿でついて来たヴァルキリーを前に出して頼んでみた。

「彼女の衣装をお願いしたいんです」

すると店員のお姉さんはなるほどーと深く頷いていたけれど、目つきが猛禽のそれだった。

「……気になってはいましたが。はぁ……お客さんは衣装製作者のツボを突くモデルを連れて来てくれますねぇ。いやぁお美しい」

「ん? 衣装製作者?」

ひとしきり感嘆のため息を吐きながらヴァルキリーを眺めていた店員のお姉さんだったが、いきなりスイッチが入って接客モードに移行した。

「それでは、要望を窺っても?」

しかし直接ヴァルキリーに質問し始めたので、僕は慌てて割って入った。

「ああ、要望は確認しているので、僕が。ですが、何分女性物の衣装について、僕も彼女もあまり詳しいとは言えず……できれば助言をいただけたらなと」

「そうなんですか? ……ふむ。わかりました」

多少怪しむような視線にドキッとしたが、何とかなったか?

僕は内心大いにドギマギしながら、さっそく要望を伝えていった。

「えーできれば普段使いできる仕事着を探しているんですよね。特に決まりはないんですが学校に出入りしても違和感のない服装がいいです。あとは、ダンジョンに潜ることもあるので、きちんと身が守れるものがいいですね」

まぁ主にヴァルキリーはダンジョン内の売店辺りで活躍予定だ。

ちびっ子天使単体での接客はちょっとまずいかなと思い出したしだいである。

事実松林君を雇ったことで状況は改善したわけだし、コミュニケーションに難があることは間違いないから接客は難しそうだが、見た目だけでも大人とセット運用は悪くはないと思われる。

ただ妙な注文だから、眉の一つも顰められると思っていたが店員さんは特に気にした様子もなくむしろ楽しげだった。

「ほほぅ……学校用の仕事着ですか。ですとスーツが無難ですが……制服も含めてそう言うものは特にラインナップが充実していますからご安心ください。事務員用でしょうか?」

「ここみたいな売店ですね」

「店員の制服のようなものをお探しですか?」

「はい。少し変わった立地なので特徴あるやつがいいかもしれません」

「……ほほう、それは中々心躍るオーダーです」

そうなんだ。

しかし制服も充実しているとは、何でそんなもの充実してるんだろう?

疑問に思いながら、差し出されたタブレットで商品をチェック。

ただ想像の10倍は種類が豊富で、僕は喉の奥から笑いが漏れた。

ニコニコ笑う店員のお姉さんはさも当然と言う風に解説を続けていた。

「制服の需要って結構あるんですよ。ダンジョンはどこにでもありますからね。探索者の方々がどんな時でも力を発揮できるよう、様々な職種の強化服があります」

「……強化服って具体的にどんな感じなんです?」

「そうですね、ダンジョン素材を織り込んだものが多いです。モンスターの素材は最高の素材ですね。扱いは難しいですが、いくつか安定した加工に成功した素材もありまして、糸はその最たるものです。後は純粋に防弾や防刃を念頭に入れた従来の技術で作られた物。こちらは魔力耐性が今一なのでやっぱり劣化が早いです」

「スーツに、作業着……デザイン凝った奴も結構あるなぁ」

「ありますね。ホラ、ダンジョンの受付も……私もですけれど着ている服は魔力耐性もあるので、魔力を流せば銃弾も通しません。このままダンジョンにも潜れるんですよ」

そう言えば、ダンジョンの受付さんも似た感じのデザインだったかもしれない。

冒険者ギルドの受付け風、明るい色の女性用パンツスーツにスカーフを巻いたスタイルの服は、仕立てがしっかりしていて、安っぽさが感じられない高級感があった。

「彼女、かなり大柄だと思うんですけど、サイズとか大丈夫ですかね?」

「大丈夫ですよ。というよりもちゃんとしたものを作るとオーダーメイド品も多いですよ」

「……そうですか」

まぁそうだろう。僕も学校に入る時、支給された物はオーダーメイドだと聞いたことがあった。

あまりピンと来ていなかったが、こうして話を聞くとすべての学生に特注品を作っているんだとしたら、ずいぶん力の入っているものだった。

「ではちょっとお待ちくださいね? 撮影よろしいですか?」

「はい大丈夫です」

そう言って店員さんがパシャリとタブレットでヴァルキリーの写真を撮影すると、モニターに外見が映し出された。

「一旦画像で既存のデザインを着せ替えられますので、印象を確認してみてください」

「おおすごい……」

すぐさまデジタルで着せ替えとは面白いことができるもんだ。

衣装をどんどん着せ替えられて、見た目もよく似ていたので想像がしやすい。

しかしスーツと作業着はともかく、オーバーオールやらキャビンアテンダントやら。

更には……ドレスやバニーなんてものまであるのだからバリエーション豊かだという自己申告に嘘はないみたいだった。

「というか……後半極めて特殊すぎませんか?」

僕はつい口にしてしまった。

だが受付のお姉さんは笑顔のままやんわりと首を振っていた。

「ニーズがあるだけです。探索者の戦闘能力はボディーガードにもってこいですから。パーティーなんかでの要人警護にタキシードやドレスタイプも大変人気があるんですよ?」

「……バニーも?」

「バニーどころかですよね。レースクイーンに水着……使いどころが分からないものまでそれはもう……まぁうちの店舗だけだと思いますけど」

「やっぱり特殊なんじゃないですか」

「特殊に決まっているじゃないですか。あとは立地のせいです。ちなみに私の趣味は一切関係ありません」

語るに落ちてないですか? お姉さん?

しかしその趣味を反映した結果がこの前の白ランだったりするわけだ。

かなり面白いな。隣でジャージ買ってる場合じゃなかったかもしれない。

僕はふぅと息を軽く吐きつつ、認識を修正した。

「……ユグドラシル半端ないですね」

「最高の誉め言葉ですわ。しかしお客様、今一決めきれない御様子ですね? もしよろしければ、私の方でアドバイスをすることもできますよ? ……なんなら他に何枚か付けて、50パーセントオフで結構ですが?」

「え? いいんですか? なんのセールです?」

あまりにも大判無るまいすぎる提案に驚いていると、店員のお姉さんの目がそれとなく逸らされていることに僕は気が付いた。

「えー……白状すれば、先日ご購入いただいたお客様方の装備……いえハバキリさんの装備一式は、発掘品のリメイク品でして。旅行に来たかわいい学生さんに最高の装備を見せてあげようとそんな意図があった物でして」

「……ええ、なるほど?」

それはなんとも美形少年特典が充実しているお店だった。

「値段の時点でこれは無理ですよー、そうですよねー! アハハー……なんて冗談を交えつつ、後にお手頃装備を選ぼうとそんな意図もあったわけでして」

「その割に着せ替えの跡がえぐかったような?」

「それは……ハバキリ君の魅力が私を狂わせたとしか」

「……そこはずっと隠しておいてください? 事案ですよ?」

「……ご内密にお願いします」

なるほどそれはなんというか公私混同が過ぎた話だった。

「そう言うわけで、まさか一括払いでご購入いただけるとは全く思っていなかったんですよね……」

まぁ言わんとせんことはわかるし、そんな雰囲気は感じていましたとも。

なるほど? 心理的に未成年の見習い探索者にプロ仕様の装備一式を売りつけたことに罪悪感を感じていると?

「……それで、罪滅ぼしにサービスしてくれると? 逆に悪いですよそれ」

ただ購入を決定したのは僕自身だ。

事実いい装備ではあったわけで、ぼったくられたわけでもない。

そう思ったのだが、意外にも店員さんは譲らなかった。

「いえいえ。有望な探索者さんと見込んで、細く長い取引をお願いしたいなと。……どうです?」

「そんなものですか?」

「えぇ。貴重な仕入れ先でもありますので」

話を聞き、僕はフームと唸る。

何だかなぁと言う話ではあったが、僕とて安くなることが嬉しくない訳ではなかった。

けっこう強引な提案にも聞こえるけど、おいしい話にも聞こえる。

ただ、ちょっとだけ主にハバキリ君周りの話を聞いていると、この人大丈夫かな?と思うところはあるんだけど……気前がいい人であるのは間違いない。

こういう時、あえて飛び込むダメなやつ、それが僕である。

「是非! お願いしたいのですが!」

「承りました! おまかせください!」

二つ返事の勢いがすごい!

真の思惑は何なのかは知らないが、甘んじて受け入れよう。

正直元気のいい返事は益々心配になったが、隠しきれない同志の匂いは一定の信頼を僕に植えつけていた。

「では、イメージに近い物をいくつかお選びいただけますか? ご要望があれば承りますよ」

「そうですか? じゃあ……」

僕はいくつかタブレットの商品を選び、要望を伝える。

何が出来上がるのか、今から完成が楽しみだった。