軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第153話先生お客さんです

「わ! わー! このドアは……ひょっとしてひょっとすると、アレなのでは!?」

「……わー。もう何でもありだ」

部室の非常口を使って、大興奮の如月副会長はすこぶるツボに入ったみたいだが、八坂生徒会長は見ただけで疲れたらしい。

生徒会長と副会長を連れてやってきたお馴染みのカフェは、どういうわけか雰囲気が新たに整えられていた。

一先ず僕が先行してカフェに入るとカランとベルの音。

そして響いてきたのは、落ち着いた雰囲気のミュージック。

新しく導入されたジュークボックスから流れ出る味のあるジャズ音楽が僕らを穏やかに迎え入れた。

そしてどこかノスタルジックなベスト姿のマスターと、市松模様の和装をしたケットシーたちのお出迎えである。

店内を覗き込むとしかしそこにはカウンターの席に座り、グラスを傾ける龍宮院先生が熱っぽいため息を吐いて、琥珀色の液体を飲み干していた。

「ふぅ……なんだか私は疲れちゃったよ、マスター」

「……飲み過ぎですよ。そのくらいにしておいたらどうです?」

「いいだろう? 私の勝手さ。少しくらい……飲みたい気分なんだから。聞いてよマスター? 職員室の空気が気まずいんだ。でも詳細なんて説明できるわけないでしょ? 私のレベル100超えましたよって? ただのバカじゃない? 正式に鑑定したらぶっちぎりで世界記録な気がするんですけど?」

「先生」

ちょっとこの寸劇はぶった切らせてもらおう。

この人は見るたびになんかおかしくなっていくなと、呆れるを通り越してちょっと感心してしまった。

普段の僕であったなら、カウンターのちょっと離れた位置に座ってグラスをスライドさせるくらいの気の利いたジョークをかっ飛ばせたかもしれないが、とにかく今は間が悪かった。

「……え?」

「生徒会の方がいらっしゃってますよ」

「……なるほど」

龍宮院先生は僕らに気がついて、一瞬表情を強張らせた。

そして何事もなかったかのようにスッと表情をフラットに戻したと思ったら、すぐにイケメン風に微笑んでいた。

「いらっしゃい。八坂君だったかな?」

気持ちはわかるが、もはや手遅れなような気がしないでもない。

だってほら、八坂生徒会長なんて動揺しすぎて、普段表に出さない焦りが顔に出ているもの。

「……先生。勤務時間中に飲酒はいかがなものでしょうか?」

「いやいやさすがに飲んでないよ。麦茶だから……本当だよ?」

「……なんというか。先生の意外な一面を見た気がします」

言葉を選んで、マイルドに憧れの冒険者にツッコミ対応する八坂生徒会長は頑張っていた。

「アハハハ……ちょっと遊んでいただけなんだ。ここ、面白いだろう? 軽食くらいなら用意できるようになったから食べていくといいよ」

「いえ、結構です。実は生徒会にご協力いただけないかと思っていまして」

淡々とさっそく本題に入った八坂生徒会長に、龍宮院先生はおやっと片眉を上げていた。

「……んん? 協力っていうと……私にダンジョン探索の指導依頼かな?」

「いえ、サブカルチャー研究部と合同で探索の打診です。もちろん顧問である先生にご協力いただけるのなら幸運なことですが」

だがそう聞いたとたん、龍宮院先生は驚き顔を浮かべて、そして今度は妙に真面目な表情になると、こちらを向いて座り直した。

「それは……うーん……まず、いいの?」

これは僕らへの質問だろう。

僕が頷き、続いて浦島先輩も頷いた。

「ならまぁ……しかし。いったん言わせてもらうけど、普通じゃないからやめた方がいいよ?」

そしてまさかの身も蓋もないセリフに八坂生徒会長は眉間にしわを寄せていた。

「普通でないことは分かっています。その上での申し出です。この研究部で製作した動画についてはご存じですか?」

「知っているよ。だが、君達も有益だと言うのならその動画を一般生徒と同じように活用してというのではダメなのかい?」

「それでは生徒を守れません。この学園にいる生徒はすべてが命懸けと言うわけではありませんから」

「うーん。情報を得て向上心が芽生えたと言うのなら結構じゃないか。生徒会が頑張っているのはわかるよ。ダンジョンに変化があればマッピングをし、危険なモンスターが現れれば警告し、見回りまで頑張っているなんてなかなかできる事じゃない。でも君達もまた生徒だ。ダンジョンの中では慎重であるべきだし、君達がリスクを増やし過ぎる必要はない。ダンジョンの中では生徒とはいえ自己責任だよ」

龍宮院先生は思ったより突き放すように言った。

何だか意外だが、龍宮院先生が冗談を言っているのではないことはすぐに僕も理解できた。

「それは……また、ずいぶん尖った意見に聞こえますが? 生徒を危険にさらしてもいいと?」

「そもそもダンジョンに潜れと言っている時点で危険じゃない訳がない。それにそういう心配は私達の仕事だろう。未成年に負わせるような責任ではないね。ダンジョンにおける立ち回りは最低限教えているつもりだよ。だけどねそこはダンジョンだ、私達もまた手探りなんだよね」

「手探りですか……」

聞き返した八坂生徒会長に龍宮院先生は頷いた。

「そう。未だによくわからないものがダンジョンだ。だからこの学校で君達に期待されているのは手探りでも挑戦することだ。それを可能にする基礎を学ぶことなんだよ。別に在学中に深く潜ることは重要ではない。慎重に注意深く歩く方法を学んで、これからの人生に生かしてくれればそれで十分だと私は思う」

「ならなおさら。力を手に入れる方法があるなら手を伸ばすべきなのでは?」

ただ八坂生徒会長は納得していないようだが、おすすめはしないと龍宮院先生は首を横に振る。

「いやいや。順当に学ぶのなら止やしないよ。強くなる工夫なら大いにするといい。でも、実際目にした彼らのやり方は……なんと言ったらいいか、今のずっと先、なんなら何十歩も何百歩も先取りした裏技に近い」

「あなたでもそう思うんですか……!?」

探索者としてのプロでもある龍宮院先生の所感は、先輩にとっては予想外過ぎたようだった。

「そりゃ思うよ、ここ50階だっていうんだよ? 馬鹿げてるよね?」

「……」

それはそうなんだよなって顔してますよ生徒会長?

龍宮院先生は、続けて自分なりの考えを披露していた。

「ただ……頭の痛いことに一生徒が、検証して自分の判断で世に出すのを私に止める権利はない。でもさ……君達はまた違うだろう? 君達は生徒の規範となると同時に、ある程度生徒をまとめる権限を持っている。全員が全員本格的に命を懸けてダンジョンを解き明かそうなんて思っているわけじゃない……確かにそうだ。でもだからこそ君達が協力して全員で足並みをそろえて裏技を使うべきかどうか、慎重に判断して欲しいね」

「……そ、それは」

「と、まぁ、いったん自制は求めるけど、正直私自身もどうすべきかわからないし正解はないと思っているよ」

そして最後にそう締めた龍宮院先生はずるい大人だった。

「……なんかズルくないですか?」

「ズルをしたいと言ってきたのは君達だろう? 私が言えるのは生徒の自主性は尊重するってことくらいかな。画期的な攻略を編み出すチャンスを活用したい気持ちもわかる。根本的に強くなることは私達には重要だ、それこそどんな手段を使ってもね? なんて……それこそあまり大っぴらに言えることではないだろうけれど」

「は、はい」

「うん。ではちょっとみんなでどんなことをするのかだけ話し合おうか? あとワタヌキ君は間違っても90階とかぶっ飛んだ階層にいきなり全員連れて行くとかは止めるように。それはサブカルチャー研究部限定でくれぐれもまだ止めておくこと」

「や、やらないですよさすがに」

「ならよし」

少し溶けてきたグラスの氷をカランと揺らして、残った液体を飲み干した龍宮院先生は無事証拠の隠滅を図っていたけど、先生としての威厳は少し取り戻しているように見えた。