軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第132話属性祭壇

さて、ちょっとしたトラブルもあっていったん仕切り直した次の日、僕らは再び95層の地を踏んでいた。

今回は引率は無し。流石に前回は龍宮院先生に無理をさせ過ぎてしまったみたいである。

申し訳ないが、急ぐに値する目的はちゃんとあった。

その目的は一つ海を越えた先に見える、もう一つの島にあった。

「何があるんでござるか?」

「魔法属性を変化させられる祭壇」

「……マジで言ってるでござるか?」

「マジだよ。その祭壇で祈りを捧げると、自分の魔法適性を一つ代償に、別の属性を手に入れられるらしい」

桃山君が戸惑うのも無理はないけど、それを可能とするのが祭壇の特別なところだった。

僕なら水の属性一択だから、入れ替える形になる。

しかし今回その恩恵にあずかれるのは自分だけだとなんとなく僕は分かっていた。

「だから……申し訳ないけど、あんまりみんなには意味ないかな?」

一応確認すると浦島先輩、桃山君、レイナさんの3人はそうかもと頷いていた。

「そうでござるな……拙者闇の属性は気に入ってるでござる」

「ワタシも雷大正義ですね」

「土に特別思い入れはないけど……変えたい属性も特にないかなぁ。というかワタヌキ君って光属性じゃないんだ」

「あれは聖騎士のジョブで後天的に生えたやつですね。本来は水です。相性はいいみたいですけど、なくても大丈夫みたいなんで変えてみようかなって」

「へー。なんに変えるの?」

「空間属性です」

ただ、おそらくはあまり聞きなれないであろう属性に、みんな戸惑い気味に首をかしげていた。

「超すごそうなやつ来たじゃん」

「……何でござるそれ?」

「レアな魔法属性だよ。だけど、こいつを習得できると……凄い恩恵がある」

「なんです?」

聞いてくれたレイナさんに応えて、僕はテンションのままにネタバラしをした。

「なんと! ネットがカフェでも使えるようになる!」

確実に画期的なので自信満々に教えると、ギョッとした視線が一斉に集まった。

そうなのだ。空間属性は文字通り空間に干渉する魔法属性だ。

本格的に操ることができれば、現実の空間だって干渉できる、実に夢のある属性だった。

地上では精密機器が発展している昨今、それが当然のように使えないダンジョンではサブカルの民は生きづらい。

しかしこの魔法はその突破口になるという話だった。

「ま、マジでござるか!? じゃあ携帯も!?」

「どどどどどういう事です!」

「革命じゃないの!? 絶対いるやつじゃん!」

「……ですよねぇ。いりますよねぇ! まぁ聞いての通り空間に干渉する魔法ですから、地上とダンジョンの空間を繋げるってだけです。要は地続きだけど、地上とダンジョンは別の空間なんですよ。だから電波と相性が悪い。それを強制的に繋げることを可能にするのが空間の属性魔法ってことらしいです」

ざっくりと攻略君情報を開示したが、僕自身あまりよくわかってるわけじゃない。

だが大事なのはデジタル機器から切り離され、何世代も文化後退したダンジョン探索者学生を部分的にだが救済できる可能性があるという事だ。

もちろん空間魔法を習得したところで、様々な制約は存在する。

しかしスマホもタブレットも使い放題となった時、僕らはデジタルの青春を再び謳歌するのである。

さて、昨日のイカダを改造してレイナさんのボードに結び付け、即席の浮遊装置を作り出した僕らは隣の島に向かった。

沈む海を抜けて南国風の島に上陸すると、さっそくゴリラよりもでかい猿がノッシノッシと闊歩しているのが確認できた。

「……この島はかなり難易度が高いです。あのでかい猿は出口を守っているように見せかけて実は祭壇を守ってます。祭壇に近づけば近づくほど攻撃は苛烈になって行く。……しかし今回僕はとあるアイテムを手に入れて来ました……」

もうすでに大猿達はこちらの気配を感じ取って、集まってきていた。

狭い範囲に密集した強力なモンスター達は実質、回避はできない。

しかし手がないわけじゃないと攻略君は言った。

「ど、どこで?」

桃山君が尋ね、僕はためらったが、正直に答えた。

「……スーパーで」

「「「スーパーで!?」」」

ちなみにスーパーはスーパーマーケットの略で間違いじゃない。

バッチリ買って、レシートもあるから立派に一般流通しているらっきょだった。

「そしてそこで買ったものに錬金を施したのがこの……対猿特攻ダンジョンらっきょだ!」

「「「でっか!」」」

「でしょう?」

僕がでっかい瓶にぎっちり詰め直したらっきょの酢漬けを取り出すと、背後から困惑の雰囲気を強く感じるが、あえて言おう―――僕だって不安なんだ。

しかし攻略君の言うことは絶対……! それにせっかく急いで準備したんだからあえてみんなの前で披露する。

「酢の中に手を入れてらっきょを掴み取り!」

「うわ! ダイレクトにいったねぇ」

「酢の匂いが強烈です!」

「ワタヌキ氏……食べ物を粗末にすると炎上するでござるよ?」

「さらにこれを投げる!」

大猿共はこちらを見つけた瞬間、躍りかかって来た。

動きは俊敏、パワーは強力。

口から炎まで噴き出す魔猿だと僕は知っている。

しかしらっきょが僕の手から放たれて、ボボンと煙を吹き巨大化して飛んで行くのを見た瞬間、彼らの怒りは霧散して視線がらっきょにくぎ付けになった。

「「「超でっかくなった!」」」

「きー!」

「うきー!!!」

「キャーキャーキャー!」

でっかいらっきょに飛びついた大猿達は、一斉に飛びついて一心不乱にらっきょを剥き始めた。

もう夢中である。

自分でやったけど全然信じられない光景だが、実はグズグズしてはいられない。

「走って!」

「「「!」」」

何が起こっているんだと大いに戸惑っているみんなを促し、僕らは全力疾走した。

らっきょを撒いて撒いて、どんどん神殿に近づくにつれ、身体がでかくなってくる大猿を抜ける。

そしてついにたどり着いた祭壇には、いつか精霊の守護する階層で見たような陣が輝いていた。

「……行きます!」

祭壇に滑り込んだ僕は手を組んで祈りのポーズを取ると、口の中で復唱していた言葉を呪文のように唱えた。

「空間魔法空間魔法空間魔法! ……ハイ終わり!」

「「「もう!?」」」

「そうです! もういけます! でもぐずぐずだけはできません!」

攻略君の話ではこれで上手くいったはず。

そして急がなければならない理由もバカなものが一つ存在した。

僕は走りながら語った。

「あのらっきょは猿型モンスターを強烈に引きつけます、そして皮をむいている間、夢中で意識を集中させる。しかし……」

「何かあるの?」

「はい。サル達は確かにらっきょに夢中になる……だけどひとたび皮を剥き終わったら」

「……剥き終わったら?」

「今までの比じゃないくらいキレて襲い掛かって来るんです」

そこかしこから、キエェ!っとさっきとは比べ物にならない猿叫がジャングルを震わせ始める。

そしてギラギラとジャングルの奥から見える紅い輝きはどんどん近づいて来た。

「なんで中身の入っているものにしなかったんでござるか!」

「らっきょじゃなきゃダメだったんだもん!」

「来てる来てるよ!」

「レベル上がったのにゾクゾクします! アハハハハ! これは最高にクレイジーですね!」

僕もそう思う!

とりあえず、いつものように逃げる!

でっかいヤシの木が面白いように空を飛び、木をへし折る音が追って来ているのが分かった。

僕らは全力疾走で逃げて、そして猿の指の先が掠るようなところまで追いつめられたが、なんとか次の階層に続く穴に飛び込むことに成功した。

「……あっぶなかった」

「すごい猿でしたね!」

「肝が冷えたでござるよ……。しかし大猿とは……どこか心引かれるモンスターでござった」

息を切らしながら、口々に感想を口にできるくらい楽しんでくれたのならそれでいい。

そして今回の目的達成は、我々にとって大きな意味を持つだろう。

「……いや、お疲れ様です。魔法の属性が変えたくなったら、今のが戦わなくて済む奴なんでよかったら試してみてね?……さて。じゃあ今日の成果を披露と行きましょうか」

「……おおー。いつになく自信に満ち溢れたマスターワタヌキです」

「……そこまでのものなんでござるな。空間魔法」

「……いいじゃない。こういうの嫌いじゃないわね」

僕は立ち上がり精神を集中する。

目標はみんなの拠点カフェ前だ。

空間魔法の最も初歩的な技は、こういうことができるらしい。

目を閉じ―――。開いた目の前には、ミョワンと水面のように揺らぐカフェへの扉が開いていた。

「……すごいでござるね」

「おお! 魔法でもできたんですね! でも……これ転移宝玉でよくないですか?」

「……待て待てこれの真価は風呂とか覗けることじゃない? 空間魔法うっかりスケベって言葉が降って来たんだけど……どう思う? ワタヌキ後輩?」

「先輩エロスイッチ入りすぎです。……桃山君を見習って素直に褒めてくださいません? 配線工事延期にしちゃおっかな?」

「「流石ワタヌキ氏! そこはかとなくステキ!」」

「よぉしわかりました! 大猿の件めっちゃおっかなかったから実は怒ってますね! 謝るから許してください!」

最近の中では一番迫力があった大猿の強襲はさすがに一言言っておくべきだったかもしれない。

でもホウレンソウしっかりやっちゃうと、この場合足が竦んじゃわない?

ちなみに僕は足が震える派だった。