軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第118話これは悪い例

戦闘が終わって、月読さん達はいったん休憩していたようだが、その表情は心地よい疲れと、達成感で全員が笑顔を浮かべていた。

……いや、正確には月読さんだけは、笑顔というより無表情で様子がおかしかった。

「今のは良かったな! 綺麗に連携がハマった!」

「ああ……苦労したがようやく形になって来たってことだろう」

「楽勝じゃない! もっとどんどん進んでいいんじゃない? 今の私達ならもっと深く行けるって!」

彼らの戦闘は、彼らの納得のいくものだったらしい。

ただ一人黙り込んでいる月読さんは自分の杖をじっと眺めて、そして他のパーティメンバーを見回して困惑しているようだった。

「……」

「どうしたんだ?」

草薙君は月読さんに話しかけたが、浮かない表情は変わらず彼女は首を横に振った。

「い、いえ。別になんでもないわ。……でも、急ぎすぎじゃないかしら? 少しずつ慣らしていかないと危険だわ」

消極的なセリフが、彼女の不安を物語っている。

一方で他のメンバーは、なぜそんなセリフが出るのかまるで理解出来ないと言う感じである。

同じ魔法使いの天音さんも、訳が分からないと肩をすくめた。

「そう? 今のモンスターも楽勝だったじゃない。この感じだと、もっと深く潜っても全然大丈夫そうだけど?」

「ボクもそう思う。カナタ……お前はどう思う?」

「俺も行けると思うけど。今までの苦労が報われてる感じがするよ」

満場一致で意見が合うことに、月読さんは益々表情を曇らせた。

「でも……」

「何がそんなに心配なのかわからないけど。どんなモンスターが来ても俺が絶対守るよ。だから信頼してくれないか? な!」

おかしな空気になっていることをどうにかしようとしたのか、草薙君は月読さんを宥めようとしたようだが、これが逆効果だった。

「……やっぱりダメ、だと思うわ。このまま先に進むべきじゃない」

「……それは俺が信用できないってことか?」

「そうね……信用できない。だって―――」

「何かあるのか?」

「―――今、楽に倒せているのが、私の魔法の威力が上がったからだって、気がついていないんでしょう?」

迷っていた月読さんは意を決してそう口にした。

懸念はあったのだろう。

ただ、実力が上がったと喜んでいるパーティメンバーにしたらその言葉は気分がいいわけがなかった。

「なにそれ? 自分の手柄だって言いたいの?」

まず嚙みついたのは天音さんだった。

気の強い彼女は月読さんの言葉を飲み込めなかったようだが、月読さんは意見を変えなかった。

「……事実よ」

空気がピリつく。だからこそ月読さんは説明しようと口を開いた。

「私の魔力が上がったのはレベルが上がったからだけじゃない。もっと不確定なものよ、だから不確実なことは言えないけど……」

「話にならないな」

だが要領を得ない月読さんの言葉をハバキリ君がメガネを光らせバッサリと切り捨てる。

「待ってくれ」

そして草薙君は間に入ったが、どちらかと言えば月読さんを逆に諭すように言った。

「……確かに、君の魔法は成長していると思う。だけどそれだけってことはないだろう? 俺達はここまで努力してきたし、ようやく壁を突破したとは考えられないか?」

「残念だけど……そうは思えないわ」

「そうか……だが多数決だ。ここから先には進む。様子を見ながら慎重に、それでいいかな?」

「……わかったわ」

******

「うーむ……」

そこで険悪なまま、会話が終わってしまう。

腰を上げた彼らはそこから一言も言葉を発することなく、探索を続行するようだった。

僕はこりゃまずいと唸った。

「やばーい……きまずい!」

「あらら……大丈夫かな?」

水筒に持ってきていたらしいティーを啜る浦島先輩の感想からも、たぶんダメだろうなってニュアンスを感じた。

「……やっぱまずいですかね?」

答えは分かっていたが聞いてみると、浦島先輩は即答した。

「まずいね。これ崩壊する感じのやつだわ。ただ今回の場合、あの月読って子の勘違いだったらいいんだけど……たぶんあの子の見立て、正しいんでしょ?」

「……おそらく」

「それで、ワタヌキ君はその原因を知っていると」

「うちの売店で精霊ガチャが大当たり……」

白状した僕のセリフを聞いた浦島先輩は、苦笑いだった。

「ああー……なるほど。で、彼女はパーティメンバーにも言わずに精霊パワーを検証中と。わけわかんないもんね精霊」

仲間にするだけで様々なことができる精霊は、触れれば触れるだけよくわからなさが増している。

頼りになる仲間の様であり、杖に入れば魔法の威力を上げ、絆を結べばパワーアップ。

機械の中に入れば、現代の精密機器ですら動かせる、凄い奴だ。

だがそんな事実はまだ世の中には広まっていない。

精霊を目撃していてもモンスターの一種というのが、探索者の常識だった。

僕は苦い表情で、月読さんを目で追った。

「……そうですね。でも、強くなること自体は問題ないはずなんですけど……よりにもよって悪い方の例を引いてる感じがありますね」

「なー。そんな感じだねぇ」

一人だけいきなり急激に実力が上がるなんて、現実的ではないという意見はよくわかる。

手札を積極的に見せ合わないのはお互いに切磋琢磨するライバルであるが故だろうか?

いや、まぁ精霊が不確定要素過ぎて、十分に確証を得られるまでは戦闘で頼りにしすぎることは出来ないという可能性もある。

僕としては積極的に使って、バンバン戦闘に組み込んでいってほしいところだったが、それは僕の都合である。

僕がはらはらしながら彼女達を見ていると、浦島先輩は言う。

「うーん。じゃあもう少し様子見てようか?」

「……いいですか?」

「もちろん。どうせ、ブラブラテイム出来そうなモンスター探すだけなんだから。ちょうどいいでしょ?」

「ありがとうございます!」

思わず僕が頭を下げると浦島先輩は軽く笑い飛ばした。

そして持ってきていたらしいクッキーをパキリと齧って、休憩終了と立ち上がった。

「よいよい。まぁでも精霊がくっついてるんなら逆立ちしてもこんな所じゃ負けないと思うけどね……その精霊って例の守護者階層のやつでしょ?」

「そのはずなんですけどね……」

あまり他所のパーティ事情に首を突っ込むのはタブーに近い。

だが原因が原因だけに、気が気じゃないのは確かだった。

「とりあえずカメラ君には尾行を継続指示! よろしく!」

「御意!」

しかし、これもストーキングというやつになるのかな?

なんだかすごく悪いことをしている気がして来たが、僕らは十分に距離をとって、草薙パーティの追跡を開始した。