助けてください夜鷹さん!執着系幼馴染に外堀を埋められています!!
作者: 乃間いち葉
本文
「この世界にストーカー規制法は存在しないのですか!?」
私は叫びました。助けて欲しい、切実に。
『お前は俺のものだ』と素で言ってくる幼馴染──『好き』『付き合って』『婚約してください』の言葉はなし──しかも私の全行動を把握していたい遊び人。このままではその幼馴染と強制ゴールインしそうです。
「なにそれ」
夜鷹さん──まさしく喋る鷹さん──は窓辺で鳥らしく首を傾げます。
私の名前はリコリス・エティエン。エティエン伯爵家の一人娘で、今年十六歳になりました。
そして私には幼馴染がいます。
レイヴァン・ヴィクラム──ヴィクラム子爵の令息。そして私の遠縁の親戚でもあります。彼は六歳の頃から呼吸器が弱く──静養という形で遠縁のエティエン伯爵領にきました。七歳の私はいつも苦しそうなレイヴァンが気がかりで、十歳ですべてを諦めた顔の彼の元へ足繁く通いました。
そう、それがすべての始まりだったのです。
「聞いてください夜鷹さん!」
私と夜鷹さんの出会いは偶然でした。三日前に怪我をした彼が、私が部屋の窓を開けた瞬間に飛び込んできて正面衝突したのです。
そのおかげで私は前世を思い出しました。そして置かれている境遇も。
夜鷹さんはしばらく私の部屋で静養しています。「俺は紳士な鷹だからね」と寝る時はいなくなりますが……他の鷹に狙われないか私はいつも心配です。
詰め寄った私に「うん」と頷く夜鷹さんの声は落ち着いた男性のものです。そのギャップにまだ慣れません。
彼の足にはまだ包帯が残っていました。私の慣れない手で巻いた、不恰好な包帯。
「幼馴染が……外堀を埋めてきます」
「外堀ねえ」
「私の幼馴染はですね、とんでもない遊び人なんです」
「遊び人」
鷹なのに鸚鵡返し。きょとんとつぶらな瞳が瞬きます。
「数多の女に手を出して、朝帰りをしてきます。それはいいんです。婚約者でも交際相手でもないんで」
「それはいいんだ」
「なのに、私と会うたびに『昨日の女はつまらなかった』『リコリスが一番』『というか、リコリスは昨日何をしてたんだ? 出かけたと聞いたが……男じゃないよな?』と……」
「うざいね」
夜鷹さんは吐き捨てるように言いました。私はその罵倒に感涙しました。世界でただ一人、言語の通じる人間に会った気分です。
「ぞゔな"ん"でずゔ……ッ!!」
「えっ大丈夫?」
必死に頷きながら嗚咽が漏れるのが止められずそのまま五分も肩を震わせていました。夜鷹さんが窓辺から飛んできて、床に座り込む私の前に降り立ちました。
「好きも付き合ってくださいも結婚してくださいも何も言われてないのに、めちゃくちゃ彼氏ヅラしてくるんです……ッ!!」
「めっちゃうざいね」
「ぞゔな"ん"でずゔ……ッ!!」
「落ち着いてね? 話なら聞くよ」
これほど優しい「どしたん?話聞こか?」が世界にあったでしょうか。しかも鷹。イケメンすぎてもはや涙も引っ込みます。私はハンカチで鼻を噛みました。
そうなのです。幼馴染のレイヴァンは、なぜか私に執着しているのです。そのくせ、女遊びはやめない。朝帰りで香水の匂いを漂わせながら、『俺にはリコリスだけだから』と笑うのです!
そして私が街へ行くたびについてこようとします。私に男性が近づくだけで睨み、しまいには護衛にも帰れと命令する始末。
「……そいつ子爵の息子なんだよね? なんでそんなに伯爵令嬢の子リスちゃんに偉そうなの?」
話を聞いていた夜鷹さんは、至極真っ当なことを聞きました。その真っ当さに涙がさらに出てきそうです。
「この家の義息子ポジションに九年居座っているからです……!!」
「あー……」となんとも言えない声で夜鷹さんは相槌を打ちました。
「メイドからも私の一日の行動を聞いていて……もらったプレゼントはすべて捨てられます! 怒っても『俺が買い直してあげるから』と笑うだけ!! メイドたちも『愛されてますね、キャッ!』と喜ぶだけ! 両親も以下同文! 」
「……伯爵家乗っ取られてない?」
「……八割は乗っ取られてますう……!」
私はエグエグと泣きました。この家の最後の砦は私だけ。全体的に詰んでいる。このままでは私の同意を得ないままに伯爵家にレイヴァンが婿入りしてきます。
「可哀想に……」
「同情するなら良い案をくださいぃ……!!」
「彼氏ヅラうざい、って言えば?」
「言いました!!」
「そいつはなんて?」
「繰り返しますが好きと言われてもないし、付き合ってもいないんです、無論手を繋いだこともありません……。なのにそのとき言われたのは『お前は俺のものだ』プラス壁ドン」
「怖いねそれ」
「キュンより心臓ギュンッとしました!!」
「恐怖体験だね、それはね」
私はコクコクと頷きました。まごうことなき恐怖体験でした。
下手なホラーより確実に怖かった。イケメンに壁ドンされてもときめくどころか心拍数が嫌な上がり方しかしないのです。
ストレス性の動悸でした。診断名がつきます。だからこそ、いま頭を抱えているのです。
「……家庭裁判所はどこですか?」
「なにそれ」
「…………ストーカー規制法は!?」
「なにそれ?」
「………………接近禁止命令は!?!?」
「なにそれ???」
私は絶望しました。この世に己を守ってくれる法は存在しない。
「このまま伯爵家が乗っ取られて私は家に軟禁されて部屋から出してもらえず、朝帰りのレイヴァンから毎日『お前が一番』『他の女と遊んでお前の良さを確認してるだけ』『お前には俺しかいない』『お前みたいな鈍臭い女、俺以外誰が面倒を見るんだ?』と洗脳されて、メイドたちには『奥様愛されてますね♡』と微笑ましい顔をされて死ぬまで囲い込まれるんだあ……ッ!!」
私は頭を抱えます。最悪のバッドエンドしか待っていない未来しか見えません。
「……それ全部言われた言葉だったりしないよね?」
「言われてます。おしまいです。来世に期待」
「ヤバ 男(お) じゃん……」
ぽつりと夜鷹さんの言葉が部屋の中に静かに転がりました。ヤバ 男(お) 。鷹からの評価なのにこれほど真っ当なものはないでしょう。
「新たな男性との出会いを求めたいですが、レイヴァン以上のモラハラ洗脳DV男がさらに出てきたらと思うと……」
私はガタガタと小動物のように震えました。新たな執着系イケメンが登場したら二人のモンスターから追われるホラー映画のヒロインになってしまいます。
「この姿でいい?」
顔を上げたらなぜが新たなイケメンが目の前にいました。あまりにも唐突な展開。
レイヴァンの金髪碧眼とはまた違う、艶のある黒髪と物憂げな赤い目のイケメン──それを見て私の血の気がサッと引きました。戦慄く唇で叫びます。
「チェンジで!!」
「えっ」
夜鷹さんが固まりました。
夜の似合うミステリアスな雰囲気が瓦解して、幼なげにも見えます。明らかにショックを受けている顔でした。
でも、夜鷹の視線の先の私の目は据わっていたことでしょう。
「今イケメンを見るとくびり殺しそうになります……ッ!!」
「わかったチェンジで」と夜鷹さんはまた鷹の姿に戻りました。話のわかる男性です。ただなんとなくふわふわの羽毛がペチャ……と萎れている気はしました。
「初めてそんなこと言われたよ……」
「すみません今すべてを破壊したい衝動に駆られていまして……」
「忙しい子だね、子リスちゃん」
「うっうっ、クソみたいな世界……法は私を守れない」
「そうだね子リスちゃんを守れるのは権力だけだね」
「権力が……欲しい……ッ!! 子爵令息を殺しても闇に葬れるだけの権力が……ッ!!」
「そこまで切実にピンポイントな権力を欲しがる人間も珍しいね」
うんうん、と夜鷹さんは頷きました。
「で、二日後にどこかの公爵家での舞踏会があるんだったよね?」
「レイヴァンは他の女と行くらしいです……でも私が下手に別の男と行くとレイヴァンが面倒くさい、でも一人で行くと嘲笑されるしレイヴァンに『お前は俺しか相手にされないんだよ、まだわかってないのか?』と嬉しそうに言われる……ッ!!」
「控えめに言ってクソ野郎だね」
「はいぃ……!」
控えめに言ってクソ野郎でした。さらに大人しく言っても精神DV男予備軍ですし、モラハラ男の進化前のような存在でもありました。
「じゃ、俺と行く? 人間姿だけど」
「え、夜鷹さんと?」
私は目を丸くしました。
「俺は少なくともストーキングはしないよ? あと女遊びも」
「はい喜んで!!」
私の中で『良い男』のハードルがクソほど低くなっていたのが露見した瞬間でした。たぶんダックスフンドもコーギーも軽々と飛んで超えられるハードルでした。
「現金だねえ、子リスちゃん。でもまあ、助けてもらったお礼だよ」
「鷹の恩返し……!!」と私は歓喜で震えました。顔面衝突で前世の記憶を取り戻してくれた挙句、さらには夜会のパートナーにまでなってくれる。
控えめに言って神様でしかありません。
「あ、一応俺は隣国の第三王子なんだけど」
「なんですって?」
「王位継承権は放棄してあって、王の兄とは仲良しだから気にしないで」
「なんですって???」
とんでもない高物件が棚からではなく出窓から転がりこんできていました。『急募: 権力』が叶った瞬間でもあります。
あまりにも私の人生のコーナリングが激しすぎて脱輪事故でも起きそうな展開でした。
「じゃ、子リスちゃんのドレスの色だけ教えて」
「黒です」
「……黒。そっか」と夜鷹さんはなぜだか噛み締めるように口にしました。それから急いで毛繕いをして「じゃあ、明後日の夜に迎えにくるね」と去っていきました。
部屋にふわりと夜鷹さんの羽根が舞い降りてきました。私はそれを拾って──なぜだか捨てられず、机の引き出しにしまい込みました。
◇ ◇ ◇
夜会当日。元気になってもなおこの家に居座り続けていたレイヴァンは、私のドレスを見て『自分で選んだのか? だから喪服みたいなつまらないデザインなんだな』とケチをつけてから一人で夜会へと向かって行きました。『ごめん、パートナーになれってうるさい子がいてさ』と聞いてもない言い訳を述べながら。
私の理性と法が許せば近くの花瓶でレイヴァンの頭をかち割っていたかもしれません。
そして。外に出ると、夜鷹さんが立派な馬車を私の家の前につけて、私に紳士らしく礼をしました。私も淑女らしく礼を返します。後ろから慌ててやってきた両親が、「もしや隣国の……!?」と慄いていました。
夜鷹さんはただにこりと笑い、「お嬢様をエスコートさせていただきます。もちろん、夜会の後もきちんと送り届けますので」と卒のない返答をして、私を馬車へとエスコートしました。
夜鷹さんの人間姿は、この間よりもさらにレベルアップしていました。夜会用にあつらえたであろう黒く光沢のある生地でできた礼服は私のドレスとよく似ていました。
「……まだくびり殺したい?」
夜鷹さんの目には揶揄いの色がありました。無駄に力が入っていた肩を、私はそっと落としました。
「いいえ。素敵な紳士様を殺すわけには行きません」
「権力もあるから?」
「あなたが私の唯一の理解者だからです」
そう真っ直ぐ言うと、夜鷹さんは困ったように眉尻を垂らして、口元だけで微笑みました。「そういうところだよね、子リスちゃん」と鼻を指で小突かれて驚きます。
「素敵なドレスだね。黒の似合う女の子はそうはいないよ」
夜鷹さんの微笑みと褒め言葉に私は息を詰めて、なにか言おうとして、なにも言えませんでした。そうしてるうちに、舞踏会の会場へと馬車が到着しました。
◇ ◇ ◇
夜会の会場に入った途端、当たり前ですがみなさん騒然としました。あちこちで「隣国の……」「セバスティアン王子?」とヒソヒソと声がして、デビュタントを済ませた令嬢方の目がギラギラと光っていました。
さながら私はステーキの付け合わせ、マッシュポテトの気分です。つまり添え物のじゃがいも。
「夜鷹さん。お名前を聞いていませんでしたね」
「ああ、そうだね。忘れてた。セバスティアンだよ。セブって呼んで」
「……あの、第三王子なんですよね?」
あまりにもフランクな態度に私は再度確認してしまいました。くすり、と夜鷹さんは笑います。
「そう。実はね?」
その悪戯が成功したような微笑みに、後ろの令嬢たちがよろめきました。サブマシンガン並みの威力があったようです
「あの、鷹さんなんですか? 人間さん?」
「人間さんだよ。まあ……鷹になれるのは異能だね」
さらっと夜鷹さんは白状しました。なんでもないことのように、とんでもない秘密を話してくれたのです。
私は固まったあと、ゆっくりと肩の力を抜きました。それは多分、夜鷹さんの信頼の形でした。
「せっかく踊ろうか、子リスちゃん」
「リコリスです」
「知ってるよ」
そのとき、私の危機管理センサーが反応しました。ヤバ男接近中。人混みの合間を縫ってどんどん近づいてくる奴に緊張と恐怖で肩が上がります。
夜鷹さんがそれに気づいて眉を顰めて、肩を抱いてきました。不思議と嫌ではありません。
「……リコリス、そいつは誰だ?」
レイヴァン──ヤバ 男(お) こと幼馴染の襲来でした。後ろから「レイ、待ってよお」とパートナーである女性が追いかけてきます。
「お前は俺のものだろ」
力強く腕を掴まれました。
その言葉に周囲が色めき立ちました。会場の温度が二度ほど上がった気がしますが、私と夜鷹さんの温度は氷点下に下がりました。
「……やめてください、レイヴァン……! 私はあなたのものではありません」
「ほら、リコリスもそう言ってるよ? 暴力なんてダサいなあ」
夜鷹さんがニコニコしていますが、これはあれです。冷静な人間特有の怒髪天をついたときの反応でした。
「黙れ。何者だお前?」
「隣国の第三王子ことセバスティアン・ド・メルティア。以後お見知り置きはしないでその脳内から削除してね。その単細胞なら心配なさそうだけど」
あわわわ、と私はおろおろしました。煽ってます、夜鷹さんがめちゃくちゃ煽ってます。そして私の腕を掴んだレイヴァンの手を捻り上げました。グッ、とレイヴァンが呻きます。
「夜鷹さん……!」
「大丈夫」と夜鷹さんは困ったように微笑んでから、レイヴァンを突き放しました。レイヴァンの青い目が、私を貫くように見つめてきます。
「なぜだ、リコリス! 俺がいるのに!」
「私はあなたのものじゃありません!!」
大声でそう言いました。そうすると、レイヴァンの青い目が酷薄そうに細められます。
「お前はその男に騙されてるだけだ……! お前は騙されやすい、だから俺がいつも管理して、」
「もう騙されてても構いません!」と私はワッと泣き出しました。
修羅場か? となぜかワクワクしていた周囲の人たちの視線が怪訝そうなものに変わります。
「リコリス、良い子だから俺の話を聞け。お前にそんな男は似合わな──」
「婚約者でも恋人でもない家に居座る幼馴染以下の人に言われたくないです!!キモい!!」
その瞬間、明らかに会場のボルテージが下がりました。レイヴァンは硬直し、そのパートナーの令嬢は口をぽかんと開け、そして私は泣き崩れて、夜鷹さんは「ぜんぶ言っちゃえ言っちゃえ」と煽ってきます。
「『今日どこ行ってたの?』『あのアクセサリーは一人で買ったのか? 似合わないから捨てろ』とか! 『あのドレス選んだのデザイナーの男だろう? 燃やしておいた』とか!! もう無理〜〜!! あなた私の婚約者でも恋人でもないしただ静養場所を提供したら勝手に居直った他人なのにぃ!!」
私はわんわん泣き叫びました。この舞踏会の主催の公爵令嬢も『場を乱された不快』よりも『私への同情』の顔を私に向けてきています。
「可哀想に……。リコリス、ずっと我慢してきたんだね。ご両親にも気を使って言えなかったんだ?」
夜鷹さんフォローという名のトドメを刺してきます。若干楽しそうなのは気のせいだと思いたいです。
「ただの幼馴染に『俺のもの』とか言われても困るよね? あれ? 告白とかされてないの? 婚約はしてないよね?」
「ざれ"だごどあ"り"ま"ぜん"……!」
「可哀想に、よしよし」
夜鷹さんが懐からハンカチを差し出して、眦に当ててくれます。エグエグ泣いていた私の涙腺は決壊しました。
「ち、違う……!! 俺は、お前だけは特別だったから……!!」
レイヴァンがなにか喚いていましたが、もはやどうでもよかったです。目の前に夜鷹さんが、崩れ落ちた私の前に膝をつけてハンカチで涙を拭ってくれたので。
周りはヒソヒソと『確かに、婚約してなかったわよね……』『子爵令息だから伯爵家を乗っ取りたかったんだろう』『遊び人で有名だしな』と追撃を勝手にしてくれました。ありがとうゴシップ好きの貴族の方。もっとやってください。
「俺は……お前だけは特別で手が出せなかったんだ……!!」
レイヴァンの言葉に「……意味わかんないぃ……」と私はさらに泣きました。マジで意味がわかりませんでした。別の星から来た宇宙人並みに意味不明です。
「……ねえ、リコリス。俺と婚約する?」
夜鷹さんの言葉に会場のボルテージが一瞬で上がりました。たぶんフェス並みに上がった気がします。
「え?」
私はぱちくりと瞬きしました。夜鷹さんは真剣な顔をしています。
「ストーキングもしないし、女遊びもしないよ、俺」
「はい喜んでぇ……!!」
返答が居酒屋店員になりましたが、私の良い男のハードルはかなり低いので仕方がありません。後ろでレイヴァンが「なっ……!?」と呆然としています。
「リコリス! 待て、俺は、お前が好きなんだ……!!」
レイヴァンが何かを言う前にさっと夜鷹さんが私の耳を塞ぎました。そのあと、手を外して私の耳元で囁きます。
「それに君の好きなものを好きなだけ買って良いからね。俺のお金で。俺は何を買っても口を出さないから」
「はわわわ……!!」
思わずはわりました。はわるしかありません。こんな高待遇、DVモラハラ予備軍の遊び人の幼馴染の次に来たらこうなります。
「俺はね、権力と金と顔だけはあるから、君の自由な姿を見たいだけなんだ。ストーキングをしていちいち居場所を把握したり会った男の顔と会話内容を詰問したりしないからね? 安心して」
「結婚じでぐだざいぃ……!!」
「うんいいよ」
あまりにも軽い返答でした。でも激重執着男の次からこの羽根のような軽さも私に安心感をくれます。
レイヴァンは後ろで固まっているし、そのパートナーの令嬢は「よし」となぜか頷いていました。控えめに言って邪魔者が片付いたときの暗殺者の顔でした。
「でも……」
夜鷹さんが珍しく言い淀みました。言うか言わないか迷っている顔です。
「……他の男と仲良さそうなのは嫉妬しちゃうかも……」
ぽつりと小さな声で、恥ずかしそうに夜鷹さんが言うので、私はもはやキャパオーバーでさらに泣きました。
「しゅきぃ……」
あまりにも情けない告白ですが、夜鷹さんは照れながら「うん、俺も」と言ってはにかみました。
そうして、公爵令嬢が「素敵な婚約が決まりましたね」と手を叩いて舞踏会を再開して、私はずっと泣きながら夜鷹さんにハンカチを目に押し付けられるという舞踏会であるまじき恥をさらしましたが……私はこの夜、執着系幼馴染を手放して羽根のような軽やかさの素敵な王子様を手に入れました。
「俺は、好きな子のものになりたいタイプなんだよね」
夜鷹さんが秘密を囁くように言って笑います。なので、私は小首を傾げました。
「夜鷹さん……いえ、セブは物じゃありません。私の婚約者です」
人間を物扱いしてはいけません。
私がそう言うと、夜鷹さんは顔を真っ赤にして「君の言うとおりだね……」とぎこちなく頷きました。
それから、「本当にそういうところ」と鼻を軽く小突いて、私が驚いてぱちくり瞬きするのを、眩しいものを見るような目で見つめたのです。
私はその奥にあるものを見つけて、泣き止みました。
──軽くはない愛。だけど私を縛り付けるものではない、たしかな愛。自由に空を飛べる夜鷹さんには、たしかにお似合いの愛を、彼は私に見出していたのです。熱くなる頬を隠すように「よくわかりません」と私はそっぽを向きました。
くすり、と笑う声も、今はもう。胸の奥がくすぐったくてたまりませんでした。