ヒロインの実家を潰しましたがなにか?
作者: 作者不明
本文
「イベリス、今こそ君の 悪行(あくぎょう) を断罪する」
「誰にものをいっていらっしゃるの?」
卒業パーティーの日。第一王子であるアンヌウス王子がパーティーの進行を務める中、第3王子殿下で元私の婚約者のクラスト王子が壇上に上がってきました。
「まず、お前は」
「クラスト王子、わたくしをお前などと呼ばないでいただきたいですわ。礼儀作法もできないんですの?」
はぁ、とわざとらしくため息をついて不快だと伝えてみます。
「っ、揚げ足をとるな!そもそもお前が悪人で性悪な女だからだ!罪人に礼儀など必要ない!」
罪人相手でもそれは最低限は必用でしょう。少なくとも、罪を決める立場に近い位置にいるなら、公平を心がけるぐらいはしてほしいものです。まあ、もう遠い地位になるので、そこまでガミガミ言うつもりはありませんが。
「まず、お前はこのわたしを 侮辱(ぶじょく) している」
「思い当たることがございません」
侮辱?うーん、できるだけ関わりたくなかったので、言葉も最低限だったはずです。
「マナー、言葉遣い、歩き方まで!いちいち指図してくる」
「婚約者でしたもの。隣に立つわたくしが、恥をかくような言動を慎むようにいうのは当然ですわ。しかも、当時はお立場がありましたから、放置すれば国益を損ないますわ」
「王族に対する言動ではない」
「王族として十全なマナーを身に着けてから言っていたえだきたいと当時もよく言っていましたわね。それらの言動については、陛下にもご報告済みですし、無礼には当たらないとすでに国王陛下からお言葉をいただいておりますわ。クラスト王子にもお伝えしたでしょう」
困ったものだわ。手を頬に添えて、こてん、と首をかしげる。
「ああ言えばこういう・・・それだけでなく、学園の生徒をいじめただろう」
「ああ、ローリー様のことですか?ええ。それがなにか?」
「何かではない!孤立させ、ドレスを破き、持ち物を隠しただろう!」
「ドレスと、持ち物については覚えがありませんわ。私がやったのはローリー様の実家の取り潰しただけですわ」
「覚えがないなどと・・・いや、まて、実家の取り潰し・・・?」
「ええ。周辺の土地を買い、通行料をローリー様の家だけ倍にして、ローリー様が私の怒りを買ったことを商人に話して領地の物流を孤立させ、優秀な人材すべてに引き抜き労働力を減らし、ローリー様のご実家である男爵家が参加するパーティーを全部男爵を吊し上げる場にしました。謝罪文も届きましたので、ローリー様を退学させるように言ったのですが、ご本人が学生の利権を使用し学園から出ていかなかったので、根をあげた男爵が領地と爵位を返還いたしましたわ。ローリー様は現在、学園在学中に爵位を失った平民の扱いになります」
学園には家庭の事情で絶縁したい場合や無理な結婚から優秀な人が逃れられるように爵位がなくても卒業までは通えるという制度がございます。
そう、優秀な人が、ですが。優秀な人なら絶縁後に懇意となった貴族と結婚するか、優秀さから後見人を得て侍女や家庭教師、官僚や研究者になる道があります。
「わたくしの実家を潰したですって?!なんて 傲慢(ごうまん) なの!?」
「まあ、身分の下の者は高位の者に話しかけてはいけないというのを忘れてしまったのかしら・・・?高音がうるさいので、静かにしてくださいませ」
扇子を広げ、口元を隠し、少し顎を上げて数ミリ眉をよせ、不快であると伝えます。
「そのような 悪事(あくじ) を働いたのか!」
「どのあたりが悪事なのですか?」
まったく、何をおっしゃっているのか。
「1人の令嬢の実家を潰しておいて、どのあたりが悪事ではないというのか!」
「通行料」
「え」
「通行料を取ることは、国として認められていますし、仲の悪い領地では5倍10倍という数字を出しているところも過去に例があります。違法ではございません。周辺の土地を買取ることも、ただの土地の売買です」
「だが」
「ローリー様が私の怒りを買ったことを商人に話すことは違法ではありません。わたくしの感想を伝えただけでございます」
「だが」
「優秀な人材を引き抜く事は、違法ではありません。ローリー様のご実家である男爵家が参加するパーティーを全部男爵を吊し上げる場にしました事は貴族間でもよくある嫌がらせです。しかも、ローリー様が無礼を働いている抗議という側面もござます。
それに音をあげた男爵が領地と爵位を 返還(へんかん) することは、爵位を守ることができないと当主が判断したからです。他人にとやかく言われることではございません」
「そんな法律を破っていないから自分には罪がないなどとというのか?!ローリーをいじめ、人を陥れた性悪だ!そんな性悪、王族の婚約者にふさわしくない。俺はお前を断罪する!」
「・・・?」
よくわかりません。
「よくわかりません」
あら、声に出てしまったわ。
「馬鹿なのか?悪いに決まっているだろうが!」
「どこが悪いのでしょうか?」
「まず、嫉妬で俺のそばにいる女子生徒を 排斥(はいせき) しようとするところだ」
「・・・、あぁ、クラスト王子の中ではわたくし嫉妬していることになっておりましたの」
「嫉妬以外になにがある!」
「王子妃として王族の子種の流出を止めるよう妃殿下と陛下から依頼されておりました」
「は?」
よく聞こえなかったのでしょうか。
「王子妃として王族の子種の流出を止めるよう妃殿下と陛下から依頼されておりました」
「え」
「ですが、クラスト王子は注意しても聞かず、王子として仕事を投げ出し、ローリー様は学生の利権を使用し学園から出ていかない。
クラスト王子を王太子にすることは不安ということで、クラスト王子との婚約を解消し、最近病状が回復した 人柄(ひとがら) に問題のない第1王子殿下であるアンヌウス王子殿下との婚約が決まりました。
3年前からです。そのため、卒業までの3年間、ローリー様への対処を止め、卒業式まで放置することが決まりました。クラスト王子にも経過と陛下による成約書の写しが陛下から送られているはずです」
「え」
壇上でクラスト王子のあまりにもな行動に頭を抱えていたアンヌウス王太子殿下が自分の名前で我に返り、慌ててクラスト王子との間に立って庇ってくれました。
「クラスト。この3年間はお前が心を入れ替えて王族としての振る舞いを出来るかの猶予の時間だった。父上からの最後の温情だった。残念だよ、 沙汰(さた) は明日陛下から話がある」
「な、何のことですか、イベリスとの婚約が解消されてるって」
「クラスト、イベリスは今はわたしの婚約者だ。呼ぶときはロベリア公爵令嬢と呼べ」
「だって、イベリスは」
「ロベリア公爵令嬢だ。このパーティーでクラストがやらかすとは・・・悪いが、クラストを休憩室に連れて行ってくれ」
「はっ」
「そんな、なんで」
騎士たちがうわ言をつぶやくクラストを引きずって、ついでとばかりにローリー様も引きずられていきます。
「イベリス、済まない、遅くなった」
「まったくですわ、次からは早く来てくださいね」
「ああ、善処する」
言葉とは裏腹に顔がほころびます。
まあ、あの程度でしたら近くに騎士もいましたし、わたくしでも対処できたとは思いますが、遅いとはいえ間に入ってくれたことは普通に嬉しいですわ。比べるのがクラスト王子だからか、わたくし、大分甘くなっている気もしますが。
「以前クラスト王子に対して説明があったとはいえ、騒がせて済まなかった。わたしからよいヴィティス・スパーリングを送ろう」
ヴィティス・スパーリングはスパークリングワインの銘柄名です。気軽に飲めないぐらい高いので、会場に明るい表情が戻りました。
全校生徒には、クラスト王子とわたくしとの婚約の解消、アンヌウス王太子殿下の病状の回復に伴う再婚約があり、クラスト王子から話しかけられない限り、その話をしてはいけないという 箝口令(かんこうれい) をこの3年間守ってくださいました。
「わたくしも、この3年間箝口令を守り、見守ってくださった生徒の皆様に、プレゼントを用意しております。よろしければ、この場の華として添えてくださいませ」
いろいろと迷惑をかけた部分もあるので、お土産にわたすつもりだったものをスパークリングワインと一緒に侍女に配ってもらいます。女性には絹で作った組み紐の飾りで、Uピン型ですぐに髪型に足せます。男性には同じ組み紐で作られたネクタイピンです。
硬い組み紐で、この者は3年間箝口令を守ったという証でもあり、1年箝口令を守ったものは黄色、2年は緑、3年は青という形にしております。一緒に過ごした先輩には先に卒業した際にわたしております。
「皆、今日この日を迎えられたことを嬉しく思う。これから先、多くの幸福が皆の元に 訪(おとづ) れんことを!乾杯」
「「「乾杯」」」
友人や懐いてくれた後輩とおしゃべりしたりと、その後は楽しい時を過ごせました。
「おつかれさまでした、アンヌウス様」
「ああ、君もおつかれ、イベリス」
会場の片付けも終わり、バルコニーで風にあたって一息つきました。
夕日が綺麗です。照らされるアンヌウス様の目と髪が夕日にそまって綺麗で、ぼんやり眺めます。
「きれいですわねぇ」
「ああ、きれいだね。・・・よかった、やっと終わったって感覚がきたよ」
よくわかりませんわ
「よくわかりませんわ」
あら、また口に出てしまいました。
「ああ、ずっとクラストにイベリスはもうわたしの婚約者だって言いたかったんだよ。それをずっと我慢していて、今日ようやく終わった。・・・兄としては弟の駄目さとそれをとめられなかったのは残念だけど」
「しかたがありませんわ」
クラスト様は病気で王太子になれなかった兄であるアンヌウス様のことを軽んじていました。馬鹿ほど自分の実力や人の良いところがわからないものです。
「わたくしは、アンヌウス様が婚約者だと言ってくださり、嬉しかったですわ」
「イベリス、約束するよ。わたしは君とこの国を護る。体が弱いわたしでは、苦労を掛けるだろう。それでも、君に誠実であることを誓うよ」
「まあ、良いのですの?わたくし、男爵家を潰した性悪だそうですけど?」
「できるだけそういう事はわたしがやりたいと思う。君が手をださなくてもいいぐらい。そのうえで、わたしはイベリスのそういうところを、頼もしく思っているんだ」
「あら、わたくしにぞっこんですのね」
「ぞっこん・・・?」
「ええ、お友達が教えてくれたのですけど、 脇芽(わきめ) も見ずに相手のことが好きなことらしいですわ」
「そっか、ぞっこんか」
「ええ、わたくしも、誠実なアンヌウス様にぞっこんなのですよ」
「そうか」
「はい」
見つめているとちょっと照れてしまいますわ。このかたとなら、きっと、良い未来を 掴(つか) める気がするのです。駄目そうなときは、わたくしが赤く血で染めても道を切り開きますわ。
だって、わたくし、性悪な王子妃ですもの。
容赦いたしません。
後世に名を残したアンヌウス王の隣にいた王妃の名前はあまり知られていない。アンヌウス王は味方は厚遇するが、敵対したものに対しての厳しさは群を抜いていたそうだ。
だが、アンヌウス王が病に臥せっていたあいだ、王国の反国王派は数々の要因から転落していった。この時期についてはアンヌウス王が実は病ではなく暗躍していた、悪魔に呪われていた、王妃が暗躍していたなど、様々な噂話が当時の貴族の日記で語られている。