軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導卿の捜査。

エイデス・オルミラージュは、幾つもの異名を持つ。

〝 万象の魔導卿(ソロモン) 〟〝オルミラージュ侯爵家当主〟〝冷酷非情〟……。

ーーーそして〝呪いの魔導具を駆逐する男〟。

諸外国においては、その一番最後の異名が最も有名であり、財力以上に尊敬される理由でもある。

かつて、火事によって火傷を負った左手を、治癒することなく黒いグローブで隠している。

それが、義母と義姉を呪いの魔導具によって失ったからだということを、その胸の痛みと後悔を忘れぬ為であることを、知る者は少ない。

そして今日、エイデスが民衆に伴侶としてお披露目する少女が、彼の成し遂げ得なかったことを成し遂げたが故に、最愛であるのだということも。

エイデスのウェルミィに対する感情に、負の要素はない。

しかし、胸中に渦巻く気持ちは複雑と言って差し支えないものだった。

憧憬や尊敬、慈愛と庇護欲、放任と執着。

それらが入り混じった比翼連理の想いが、エイデスがウェルミィに向ける感情なのだ。

同志であり、相棒であり、また最愛であること。

エイデスにとって、存在そのものが奇跡と感じるような少女。

ウェルミィ・リロウド。

だからエイデスは、彼女の道を阻まない。

そして、彼女の道を阻もうとするものを、全力で排する。

今日もまた、エイデスはその為に王城の会議室を訪れていた。

侍女のアロンナを入口の脇に控えさせて、歩を進める。

円卓に座る面々は、まだ全員は揃っていないようだが、時間に厳しい二人とコビャク国王陛下が、会議室の奥で談笑しているのが目に入った。

「娘が来ていると聞いたが、会ったのか?」

「ええ。今は妻と共に別室におります。ご温情に感謝しております」

国王陛下の問いかけに答えたのは、ローレラルの父であるヤッフェ・ガワメイダ伯爵だった。

彼の兄であるキルレイン法務卿は元々口数の多い人物ではない為、二人の会話を黙って聞いている。

こちらの入室に気づいた陛下が、軽く手を挙げた。

「来たぞ、今日の主役の一人が」

「ライオネル王国に輝ける太陽、獅子の誉れを身に宿すコビャク・ライオネル国王陛下にご挨拶申し上げます」

エイデスは規則に従い 賢者の礼(ボウアンドウィッチ) の姿勢を取ると、そのまま前に進み出て会話に加わる。

「早くより場を設けていただき、誠にありがとうございます」

「良い。大公国に赴く前に解決しておきたい案件と言われれば、我らにとっても大事ゆえ」

鷹揚に頷いた国王陛下の述べた通り、この場を設けてもらったのはエイデスだった。

陛下の目は、魔導士の正装を纏うこちらの胸元に向けられている。

そこに飾られていたのは、ブローチに加工された〝 希望の朱魔珠(ウィルバーミリオン) 〟である。

以前の、王家主催の夜会での騒動の後。

宰相の息子であるシゾルダ・ラングレーと、その婚約者であるヒルデントライ・イーサよりウェルミィが贈られたという魔宝玉の出所について。

今日の議題は、それに関することだった。

エイデスが見た夢は、明らかに魔術による幻視。

となれば、自分ではない自分が手にしていた朱色の魔宝玉は、どこから来たものなのか。

ーーーもし、危険なものであるのなら。

せっかく贈られたものであっても、封じなければならない。

場に人が揃っていく。

元からいた国王陛下と、法務卿にガワメイダ伯爵。

宰相と軍団長。

彼らに連れられた、魔宝玉をウェルミィに贈った年若い二人。

そして、エイデスの前に外務卿に任命されていた、大人しそうな顔立ちの年嵩の男……ユラフ・アヴェロ伯爵。

エイデスの父である、イングレイ・オルミラージュ前侯爵。

ズミアーノの父である、ハビィ・オルブラン侯爵。

そして、バルザム帝国より祝祭に合わせて帰国した第二王子、タイグリム・ライオネル第二王子と……同様に、辺境より訪れたアバランテ辺境伯。

総勢十三名の顔ぶれが揃ったところで、全員が席についた。

レオは、流石に時間が取れず不在である。

国王陛下が、笑みと共に宣言する。

「では、始めよう。時間もないのに人を集める祝祭の主役が、この場に 居(お) るゆえな」

民衆の前に姿を見せる時とは違い気安い印象の彼は、実のところ全く油断のならない人物だ。

国王陛下は、南方の海辺以外の全てを他国と魔獣の領域に囲まれ、先王の代には帝国や大公国とも険悪な仲だったこの国を、のらりくらりと戦争を回避しながら関係を改善し、徐々に富ませていった古狸である。

その笑顔の奥には冷徹な計算が隠されており、情に厚くはあるものの、それに流されることは決してない。

国益を真に損なうとなれば、旧友ですら切り捨てるだろう鋭さが、その内には隠されている。

ウェルミィやレオの件にしても、聖女と公爵令嬢が起こした事件についても。

大騒動であったにも関わらず見逃しているのは、そこに関わった者たちが次代を担う有用な人材であったから、というただそれだけの理由である。

罰して排除するよりも、恩を売って利用した方が国益に沿うからだ。

イオーラに関して言えば、魔導具の開発や王妃の肌を癒した恩もあるだろうが。

もしレオやエイデスが選択を間違っていれば、『次代を担うに不適格』と切り捨てられていても、おかしくはなかっただろう。

そして、この場で試されているのは、宰相の息子シゾルダと、婚約者のヒルデントライである。

「さて、まずは議題である魔宝玉について。ウェルミィ・リロウドにそれを贈呈した二人に出所の探索を命じたが……何か、進展はあったか?」

片眉を上げた国王陛下の眼光は、些細な嘘すら見逃さないだろう冷たい光を宿していた。