軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

消えた髪飾り。

月明かりの中で、『それ』に目をつけたのは、ただの気まぐれだった。

丁度いい大きさで、細長く平べったく、持ち運びしやすい。

触り心地も良かったので、『それ』を持って入ってきた時のように抜け出すと、人目につかないところでしばらく眠ることにした。

夜は、人の姿は少ない。

しかし、見つかると問答無用で殺されそうになる確率が高い。

だから、日が昇り、人の出入りが多くなるまで、ジッとうずくまって待つのだ。

幸い、腹は満たされている。

持ち出した『それ』を触りながら、目を閉じた。

※※※

「髪飾りがない……!?」

側付き侍女のヘーゼルが、傷の走った顔を強ばらせて告げた言葉に、ウェルミィは頬を引き攣らせた。

今日は、街中で顔見せをするパレードの日。

式は後日になるけれど、結婚する五組が翼のない地竜が引く竜車に乗って王都を練り歩くという、国民へのお披露目の日だ。

なので、今日は色の入ったドレスをウェルミィ含む花嫁組は身につけるのだけれど。

ウェルミィの纏う、青みがかった紫の布地銀糸の縫い取りをしているドレスに合わせた、 桔梗藤(リンカリア) をあしらう予定の銀の 髪飾り(パインバレッタ) が、ないのだという。

「な、失くしたの!?」

「いえ、昨夜確認した時は、確かに揃っていたのです。もしかしたら……」

人目が多いので敬語を使っているヘーゼルが、口籠る。

ーーー盗まれた。

彼女が喉の奥に押し込んだ言葉を理解して、ウェルミィはギュッと眉根を寄せた。

「なんって不用心なの……!?」

ウェルミィ達は、パレードの準備の為に前日から王宮に滞在していた。

貴金属類は、用意された支度室に置いてあった筈だ。

大きく息を吐いて動揺を鎮めたウェルミィは、冷静に話を聞いていくことにした。

「窓が開いてたり、鍵が掛かってなかったりした?」

「それはありません。最終確認は、あたしとヌーアさんでやりました」

なら、そういう点に抜かりはない筈。

ヌーアは、オルミラージュ侯爵家に侍女として勤めているが、その実際は、〝侯爵家の懐刀〟と称されるデスターム伯爵家の当主である。

いわゆる〝影〟だ。

小さなものは手元に置いておけば、と思いながらも、過ぎたことを後悔しても仕方がない。

髪飾りがないくらいで、準備を遅らせる事はできない。

侍女に白粉を顔にはたかれながら、ウェルミィはさらに質問を重ねた。

「支度部屋は、ここよね?」

「はい」

ウェルミィは、動けないので部屋の構造を思い浮かべる。

鍵のついた入口。

化粧台の置かれた部屋と、衣装や貴金属を置くための部屋。

そしてベッドがあることから、本来は客間の一つだろうと考える。

中のドアも外のドアも鍵が掛かっている人のいない部屋に、警備の兵は置かない。

夜はもぬけの殻なので、可能性があるとすれば。

「今朝、掃除に誰か入った?」

「いえ。部屋の鍵はヌーアさんの預かりです。合鍵までは分かりませんが……」

「アロンナは?」

ウェルミィは、次にオルミラージュ侯爵家侍女長の名前を口にした。

ヌーアの妹で、侯爵家の備品関係の最終的な責任者は彼女だ。

「今はご当主様のお側に、家令と共におります。呼びますか?」

「いいえ。そうね……セイファルトとラウドンを呼んで。確認するのは、合鍵の有無と、もしあるなら昨日の夜番をしていた使用人の中に、その鍵を持ち出せた人物がいるかどうか、よ」

「畏まりました」

迅速に動き出したヘーゼルの背中を目で追いつつ、ウェルミィは目まぐるしく考える。

セイファルトは伯爵家の長男で、庶子であるからと継承権を放棄して、オルミラージュ侯爵家執事見習いになった変わり者。

ラウドンも公爵家の正統な長男だが、こちらも母親の命令と自分の意思で『〝影〟になりたい』と仕えている変人である。

どちらも有能で、申し分はないのだけれど。

「ズミアーノが動かせたら、一番良かったんだけどね……」

あいにく、ウェルミィと共にパレードに参加する主役の一人である。

それに、エイデスがほぼ対等として扱う、ずば抜けて有能だけれど最悪な性格をしているあの男の支配権は、既に彼の婚約者であるニニーナに譲渡している。

「そもそも、王宮内で盗難事件って……本当、主人に似て間抜けね!」

と、ウェルミィが思い浮かべたのは国王陛下ではなく、今日の一番の主役であるお義姉様の婚約者、レオニール王太子だ。

予備の髪飾りはあるはずだ。

そう思って、ウェルミィは一応、鈴鳴りの桔梗藤に合いそうな髪飾りを見繕うよう、侍女に指示する。

ーーーせっかくのお義姉様との晴れ舞台なのに、アヤつける訳にはいかないのよ!

少々口汚く内心で吐き捨てながら、ウェルミィは他に髪飾りが消える要素が何かないか、目を閉じて考え始めた。