軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

令嬢姉妹のお願い。

「お帰りなさいませ、殿下」

王宮に帰ったレオを出迎えたのは、最近とみに輝くような美しさに磨きをかけたイオーラだった。

「ああ、ただいま。もう少ししたら仕事に戻らなきゃいけないけど、少し時間あるかな?」

ここしばらく離れていたこともあって、彼女の姿を見るとホッとする。

しかし今日は、人目があるところでは完璧な振る舞いを見せるイオーラではなく、二人きりの時に見せてくれる屈託のない笑顔が見たくて、レオは誘いをかけた。

するとイオーラが小首を傾げて、問い返してくる。

「ええ、時間は大丈夫ですけれど。まだご公務が残っておられるのですか?」

「特務課の仕事はとりあえず片付いたんだが、王室の方がな……」

結婚式の件以外にも、王太子として幾つか関わっておけと、父王に投げられている仕事もある。

基本的には特務卿の仕事が優先なので、騎士団や市井の慰問、国家事業の実務ではなく決裁業務、などの軽めの仕事ではあるが、ここ数日なかなか時間が取れていなかったのだ。

「それでしたら、代行しておきましたわ」

「え?」

さらっとイオーラに言われて、レオは瞬きをする。

彼女は、ふふ、と悪戯っぽく笑って目を細めた。

「今は研究所での魔導具開発もお休みをいただいていて、手持ち無沙汰でしたの。両陛下にお手伝いを申し出たら快諾していただけましたわ」

「いや、それは有難いけど……あまり、無理をするなよ」

結婚式については、警備等の振り分けは騎士団、式典の重要な部分は教会と典礼省が担っているものの、それぞれのドレスの調整や披露宴の大まかな流れなどはイオーラの管轄になっている。

前例がないほど大規模な慶事になることもあって、イオーラ自身も忙しいはずなのだ。

しかし。

「その言葉、そっくりお返し致しますよ、殿下。それに、学業と研究と領主業を並行していた頃に比べれば、皆様助けて下さいますし、なんてことありませんわ」

ゆったりとした所作で口元に手を当てたイオーラに、レオは天を仰いで息を吐いた。

「ああ、君がオレより優秀な人材だって事を、すっかり忘れてたよ。正直、助かった。ちょっと色々あって疲れててね」

「存じております。お茶の準備をさせますので、どうぞこちらへ」

そう言って、王族専用区画にある談話室に赴くと、ついて来ていたオレイアとツルギス以外を人払いして、イオーラがお茶を自ら注ぐ。

「どうぞ。気持ちをリラックスさせる効能がある薬草茶よ」

砕けた口調になった彼女に、笑みを返してお茶を口に含むと、爽やかで清涼感のある香りが鼻を抜ける。

「美味いな」

「そうでしょう?」

嬉しそうに表情を緩めているイオーラに、レオはふと問いかけた。

「イオーラ。君は、何かを決める時に、どういう風に考えて判断をしているんだ?」

それは、ギリギリの聞き方だった。

彼女自身に、自らが〝精霊の愛し子〟である事を伝えるのは、危険。

レオにとってはそういう認識だったが、実際に彼女が『そう』であるのかには、未だに確信が持てていない。

だから、もし本当なら、何かあるのではと思ったのだ。

イオーラの背後でオレイアが目配せをするのに反応しないまま、レオは返答を待っていた。

「何かを決める時……?」

「ああ」

思案顔のイオーラは、一度、薬草茶を口に含んでから答えた。

「そうね。たまに『こうした方が良い方向に進むのでは』という気持ちになることはあるわ。その気持ちに従った時は、決断が上手く行くことが多いわね」

「良い方向、っていうのは、具体的な指針なのかな」

「あまり考えたことはないけれど……そうね、伯爵家にいた頃に『ウェルミィを信じた方がいい』と感じたこととか、魔導具の開発が行き詰まった時に『魔鉱について詳しい人に意見をもらったほうが』とか、そういう感じかしら。ロンダリィズ伯爵家のスロード様と知り合いになったのも、それでだもの」

スロード、という名前は聞き覚えがある。

魔石や鉱物の専門家であるという、今はイオーラが籍だけ置かせてもらっている帝国伯爵家の嫡男だ。

「帝国宰相家でなく、ロンダリィズ伯爵家を選んだのは、それが理由?」

「ええ。知り合いの実家の方が安心できるでしょう?」

「男だろ、そいつ」

レオがへの字に口を曲げると、イオーラが目をパチクリさせ、オレイアとツルギスが揃って呆れた顔をした。

「何だよ」

「レオニール殿下。差し出がましいとは思いますが、男の嫉妬は見苦しいかと」

「ツルギス……お前、後で覚えとけよ」

「まぁ……レオ。スロードとはそういうのではないわ。わたくしが、お、お慕いしてるのは、貴方ですもの」

と、ツルギスが口にしたことでようやく意味に気づいたらしいイオーラが顔を赤らめて、そんな事を言ってくれたので、レオはニヤけた。

「嬉しいな、イオーラ。オレも愛してるよ」

「レオニール殿下。言葉が軽いのでイオーラお嬢様に失礼かと」

「い、良いのよオレイア! そ、それに軽くなんかないわ!」

ピリピリと冷たい侍女の様子と、赤くなったまま慌てるイオーラを楽しみながら、レオは考える。

ーーー精霊の加護、か。具体的な何かではないのかもしれないな。

〝精霊の愛し子〟にはその姿が見えるだとか、そういう話ではないのだろう。

どちらかというと、より良い方向に物事が進むように導く存在として、イオーラ自身が在るのではないか、と思えた。

ーーー今度エイデスと話してみるか。

イオーラの名前は伏せて〝精霊の愛し子〟について、訊いてみよう、とレオは思う。

オルミラージュ侯爵家であれば、何か話が伝わっているかもしれないから。

そう考えていると、ふと、イオーラがこちらを見ているのに気づいた。

艶めく紫の瞳は、いつ見ても綺麗で、健康的になったイオーラの隙なく整った柔らかい美貌は、どれだけ見ていても飽きないけど。

「ねぇ、レオ」

「何だ?」

「ーーーわたくしは、全て話して欲しいとは言わないわ。でも、抱え込み過ぎないでね?」

そう言われて、レオは心臓が跳ねた。

温和そうな雰囲気を纏いながら、その実、瞳の奥に全てを射抜くかのような色を覗かせる彼女。

ーーーそう、これに惹かれたんだよな、最初は。

レオの正体を見抜いた時も、こんな目をしていた。

イオーラに隠し事は通用しないみたいだが、同時に、隠している事を責めたりはしない。

ただ純粋に、レオの身を案じてくれているのだろう。

だから、どこまで気づいているのか、という問いかけは飲み込んで、笑みを浮かべる。

「ああ。飽和する前にイオーラに癒してもらうよ。君はそこにいるだけで、幸せの象徴みたいにオレを和ませてくれるからね」

「そ……そう、かしら?」

するとイオーラは、所在なさげに視線を彷徨わせて、また顔を赤らめるのだった。

※※※

一方、オルミラージュ本邸に帰ったウェルミィは。

『今は出かけている』というエイデスに『話がある』という言付けを届けさせた。

だから、その日の夕食はイングレイ様と二人きりだったけれど。

夜に、エイデスは帰宅してくれて、湯浴みをした後に寝室に訪れた。

「どうした? ウェルミィ」

いつも通りに膝に乗ったウェルミィは、髪を撫でられながらエイデスを睨み上げる。

「私は怒ってるのよ、エイデス」

「ほう」

「今日、ヤハンナ様に会いに行ったの。貴方、いつからどこまで、この件について知っていたの?」

お義姉様に、侍女選定について『エイデスがこの件を仕組んだのではないか』と聞かされた時から、疑っていた。

ヤハンナ様と話した事をエイデスに伝えると、彼は一度目を閉じた後に、小さく告げた。

「驚いている」

「何に?」

「イオーラが〝精霊の愛し子〟であるという話に」

エイデスは、笑みを消して真剣な表情を浮かべる。

「十二氏族の話は、知っていた。古い記録に記されていて、オルミラージュ侯爵家にも連綿と受け継がれている。しかし……〝夢見の一族〟と〝精霊の愛し子〟の伝承以外の他氏族の話は、今初めて聞いたものだ」

「……じゃ、貴方は何を企んだの?」

そんな話では誤魔化されないぞ、と胸元を掴むと、エイデスは何故か心地良さそうに目を細める。

「可愛らしいな。まるで猫のようだ」

「エイデス!」

「誤魔化すつもりはない。侍女選定の話は、裏を考えてのことでもあるが、お前がイオーラと共に過ごせるようにと目論んだのも事実だ。比重としては、そちらの方が大きい」

侍女を選ぶ際に、目ぼしい者に当たりをつけた上で、〝夢見の一族〟であるヤハンナ様に接触させたのだという。

そして、エイデスもオルミラージュ本邸に咲く 月魅香(チャームルナ) の花を目にしていた。

うっかり変化を解いてしまったウェルミィに口づけをした時のことだという。

「イオーラが〝精霊の愛し子〟であることは、薄々疑ってはいた。あれほど雑味のない紫の瞳は、ただ強い魔力を持っている、というだけでは説明がつかないだろうと。それが確信に変わったのが、あの時だ。……しかし誓って、イオーラの事を知っていたわけではない。オルミラージュ侯爵家に、愛し子という存在の外見に関する話は伝わっていなかった」

ただ膨大な魔力を持ち、あらゆる精霊の加護を受け、愛される『真の王』の血脈が存在する、という話が伝わっていただけだという。

「魔力の強さは瞳の色に現れる。故に、膨大な魔力と美しい紫瞳を持つイオーラが、何か特別な存在であることを、疑っていただけだ」

「それが事実だった、ということね」

「ああ。それに、最近の国内外での不穏な動きが、レオの婚約を契機に動き始めたように思えた。その直前に予兆を感じていたこともあって、先んじて手を打っただけだ」

お義姉様に何かあるのであれば、『王太子妃付き侍女の選定』というのは、お義姉様に近づく格好の手段である。

それなら、バラバラに動かれるよりは、一箇所に集めてしまった方が監視がしやすいと思ったと。

「何か動きがあれば、私の庭にいて貰った方が対処もしやすい。その為に、ズミアーノとツルギスにも動いてもらった。意図は明かしていないがな」

「本当に、お義姉様を守るためだったのね?」

「ああ。お前が大切に想う相手だから、イオーラを守ろうと思った。それだけだ、ウェルミィ」

その青みがかった紫の瞳に、隠し事はないように思えた。

エイデスはウェルミィに嘘はつけないけれど、喋らないことは出来るのだ。

けれど、それもないと、思いたかった。

「氏族の争いなど起こるとは思っていなかったし、久しく忘れていた。ただ、〝精霊の愛し子〟という存在は、氏族に関わりなく狙われてもおかしくはない。手厚く遇すればそこにいるだけで益をもたらす存在。……周りを全て排除してでも、手に入れたい勢力は数多くあるだろう。聖女テレサロ以上に危険に晒されないよう周りの動向を掴み、お前を悲しませる可能性を、極力排除しておきたかった」

「エイデス……」

その気持ちが嬉しくて、思わず笑みを浮かべそうになるけど、鉄の自制心で押さえ込んで、ウェルミィはぺしんっ! と、エイデスの頬を両手で挟む。

ひんやりとした感触を掌に感じながら、ウェルミィは少し驚いている彼の目を覗き込んだ。

「今度からは、きちんと、最初から話して」

「……」

「私が何に怒ってるのか、貴方、ちゃんと分かってる?」

エイデスの目に浮かぶ戸惑いに、ウェルミィは唇をへの字に曲げた。

「ねぇ、エイデス。私はね、いいように使われても良いの。だって、私はエイデスの言うことはなんでも聞くんだから。でもね」

ヤハンナ様に近づかせたことも、裏の思惑を持って行動を起こしたことも、別に構わない。

「私は、エイデスに信用して欲しいの。私やお義姉様のことまで未だに一人で全部抱え込むのは、いい加減にして欲しいのよ」

ウェルミィは、エイデスに助けて貰った。

ズミアーノの時だって、彼が助けてくれなかったら、きっと危なかった。

だからこそウェルミィは、これから先も一方的に守られるような自分でいたくなかった。

その為に、出来る限りの事をしているのだから。

「何か策略があるのなら、最初に言っておいて。そうでないと、想定外のことが起こった時に、対処を間違って迷惑を掛けてしまうわ。私は、一方的に守られる関係じゃなくて、貴方と対等で在りたいのよ、エイデス」

何も知らないままでは、万が一エイデスが危なくなった時に、自分が助けることが出来ないのだから。

「私は、お義姉様だけじゃなくて 貴方も(・・・) 大切なのよ、エイデス。だから、信用して。私たちはパートナーでしょう?」

「……そうだな、済まなかった」

エイデスは、ふと表情を和らげる。

「忘れていた。ウェルミィは、ただ庇護されて満足するような女ではないと、知っていたはずだったが、あまりにも可愛いから、失念してしまうようだ」

「そっ……そういうのは良いから! もう!」

茶化しているわけではないのだろうけど、そんな表情で頬を撫でられたら、思わず赤くなってしまう。

「分かった? これから、隠し事もなしだからね!? 確信がないとかそういう言い訳もしちゃダメよ!?」

「分かっているとも、ウェルミィ。では、一つだけ質問に答えてくれ。ホリーロ公爵夫人は、信用に値するか?」

問われて、ウェルミィは考える。

ヤハンナ様の思いは、彼女が隠そうとすればウェルミィには伝わらない。

だけど、多分。

「信用できる、と思うわ。だって、もしこっち側に付くつもりがないのなら、ヤハンナ様にあんな話をするメリットはないもの。ラウドンにしたって、もう少し上手く使うのではないかしら」

「そうか。なら、多少は安心できる。……私は、〝夢見の一族〟本家については、まだイオーラに手を出すのではないか、という疑いを捨て切れていない」

「それは、私にとってもそうだけれど」

『語り部』が隣国にいるとはいえ、〝夢見の一族〟との繋がりが絶たれていない可能性は捨て切れない。

ウェルミィはエサノヴァを信用出来ないし、多分彼女は、『語り部』と繋がっている。

敵か味方か分からない相手を警戒するのは、当然の話だ。

「もう少し探ってみよう。それともう一つ、私が感じた予兆の内容を、お前に話そう」

「何?」

「私は、しばらく前に夢を見たのだ。あれはちょうど、レオが侍女の話を持ちかけてくる直前くらいのことだった」

「! ……それ、ただの夢、じゃ、ないのよね?」

夢見の話は、昼にヤハンナ様に聞いたばかりだ。

エイデスも氏族の一人なのだから、そういう力があってもおかしくない。

そう思っていたら。

「おそらく、私自身の力ではない現象だ。将来的には分からないが」

「……? どういう意味?」

「私はその夢から覚めた時に、お前から貰った魔宝玉……〝 希望の朱魔珠(ウィルバーミリオン) 〟から、魔力の気配を感じた。あの夢の内容は、これから起こること、ではないだろう。だがおそらく、 起こり得た(・・・・・) ことだと感じた」

エイデスには珍しい、歯に物が挟まったような抽象的な物言いに、ウェルミィは先を促す。

「どんな夢だったの?」

要領を得なくとも、エイデスがわざわざ口にするのなら、決して無視していい話ではないのだろう。

エイデスはウェルミィの目の前で一度、目を閉じると……その光景を思い起こしたのか、微かに眉根を寄せてから、答えた。

「―――お前が死に、私がレオに処刑される夢だ」

「レオ、に……?」

「ああ」

あり得ない。

ウェルミィは最初にそう思った。

一体何が起こったら、彼がエイデスを処刑するような事態になるのか。

そのままエイデスが語り始めた夢の始まりは、自分が帝国のどこかの土地に立っているところだったらしい。

「夢の中で、私は随分憔悴していた。そして見知らぬ土地にある屋敷に向かい、真正面から攻撃魔術を駆使して侵入した。夢の中で私は、ウェルミィを探していたのだ」

そして、その屋敷の奥に辿り着き、夢のエイデスは絶望したらしい。

「見つけたお前は、既に死んでいた。おそらくは自殺だろうと思われる状況だった。……その死体の横に座っていたのは、ズミアーノだ」

「ズミアーノが……?」

やっぱり状況がよく分からない。

ウェルミィは帝国を知らないし、ズミアーノとその屋敷に行くような状況も理解出来ない。

ましてエイデスが探しに来るのなら、まるでウェルミィが誘拐されたかのような状況。

「ズミアーノは笑顔で、ウェルミィが死んだ事を私に告げ、こう言った」

『見つかっちゃった。チェックメイトだね』と。

そう嘯くズミアーノを殺して……エイデスは、その 誘拐(・・) に協力したツルギスやシゾルダ……軍団長の息子と宰相の息子を殺し、コビャク国王陛下とレオによって、拘束されたのだという。

「そして、処刑された。……ウェルミィ。あれは、 起こり得た過去(・・・・・・・) なのだ」

夢の中で、ウェルミィは予想通り、攫われていたのだという。

ダリステア様の洗脳に気づかず、ウェルミィが令息たちを誘惑しているという断罪が、遂行されてしまった『過去の分岐点』の先だと、エイデスは告げた。

「あの夜会の時……?」

確かに、テレサロがレオに話しかけた時。

咄嗟に庇って、彼女を連れ出さなければ。

あるいは、第二王子のタイグリム様が『ダリステア様とツルギスが一緒に居た事』をウェルミィ達に告げなければ。

一個の事実が、一つでもズレていたら、あの断罪劇の場で、ウェルミィの周りが即座に動くことは出来なかっただろう。

「あの夢は、ウェルミィが冤罪によって投獄され、私が救い出す前にズミアーノによって連れ去られた、その後の話、なのだろう」

だから『起こり得た過去』だと、エイデスは言ったのだ。

それが、ウェルミィにも理解出来た。

―――でも、夢の話なのに。

エイデスは、苦しそうな顔をしていた。

その夢が、本当に真に迫ったものだったのかもしれない。

あり得ない、と断じられないくらい……もう一つの人生を歩み、記憶を刻んだような気持ちになっているのかもしれない。

そう思って、ウェルミィは頬に添えられているエイデスの手に、自分の手を重ねる。

「エイデス。夢の話よ」

握った手に力を込めると、エイデスは瞬きをしてから、静かに深く、息を吐いた。

「そうだな。お前は、ここにいる」

「夢の中で、エイデスは処刑されて……どうなったの?」

「おそらくは死んだのだろうと思う。しかし私の夢は、そこから遥か未来に飛んだ」

そして、〝見た〟のだという。

片目は紫瞳のまま、片目が紅玉の如く変わり、両目の白目が漆黒に染まり、髪が、黒くも、赤くも、あるいは白くも見える謎の輝きを放つ、禍々しい自分の姿を。

「白目の部分が黒くなってると……何かあるの?」

髪もおかしいけれど、魔力やそれに関わりが深いのは、瞳である。

「オルミラージュ侯爵家の伝承には、十二氏族が分たれる原因となった、一つの事件が伝わっている。十二氏族がまだ十二氏族として纏まっていた、最後の時に起こった話だ」

当時の十二氏族で『語り部』だった男が、瘴気に犯されて正気を失い、当時の氏族長……すなわち、〝精霊の愛し子〟を殺したのだと。

「それが、〝目を黒と赤に染めた魔王〟だと、伝承には記されていた」

「魔王……? 魔族王や、魔王獣ではなくて?」

「ああ。魔王だ。おそらく私のあの姿は、伝承の魔王と呼ばれた者と同じ姿なのだろう、と思う。私は、まるで全てを吹き飛ばす嵐が荒れ狂った後のような、荒野の中に一人で立っていた」

そしてその手には、朱色の宝玉が握られていたと。

「えっと。それってもしかして」

「―――〝 希望の朱魔珠(ウィルバーミリオン) 〟のように見えた」

そして、黒い目のエイデスは、未来に飛んだエイデスをはっきり見て、手の中の輝く宝玉を浮かせると、こう口にしたという。

『―――お前は守れ』

と。

「これが、私が見た夢の全てだ。」

「あの宝玉……なんなの?」

「不明だ。しかし、気配こそ禍々しい物だったが、赤い目の私から、敵意は感じなかった。……起こり得た未来と合わせて、謎が多いが、一つ言えることは」

エイデスは、ふわりとウェルミィの背を抱き寄せて、不意に唇に口づけを落としてくる。

「もし仮に、この先何が起ころうとも。私は、お前を死なせる気はない、ということだ。ウェルミィ。……愛している」

「……っ!」

不意打ちは卑怯よ、と思いながら、頬を染めたウェルミィは、上目遣いにエイデスを見上げながら、その首に手を回した。

「わ、私も、愛してるわ。みすみす死なないし……貴方も、その魔王、とかにならないように、私が助けてあげる」

分からないことは多い。

魔人王でも魔王獣でもない、魔王という存在の話も。

十二氏族の話も、お義姉様が〝精霊の愛し子〟だという話も。

エサノヴァ達の目的も。

全然、身近なことには感じられないけれど。

ただ一つ、言えることがあるとすれば。

「私は、私の大切な人たちを、不幸になんてさせない。……皆で、幸せになるのよ。そうでしょう? エイデス」

ウェルミィが耳元で囁くと、エイデスは笑みの気配を漏らして、ウェルミィを抱き締める腕に力を込める。

「もちろんだ、ウェルミィ。その中でも、お前を誰よりも幸せにするのが、私の目的だからな」