軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢の騒動。それに巻き込まれる王太子殿下。

「……もう大丈夫ですよ」

オレイアの言葉を受けて。

レオは、ツルギスに合図を出した。

それまで、虚空に浮かんだ穴から見えているだけだった外の世界が大きく広がり、レオの足元で木の床がギシ、と音を立てる。

「お前のこの魔術は、本当に便利だな」

「は。お褒めに預かり光栄です」

ツルギスの〝影潜み〟の魔術によって、オレイアたちのやり取りの一部始終を見ていたレオは、特務卿の制服である黒に金縁の 短いマント(ケープ) のフードを下ろして、周りを見回す。

港にある、古い木造倉庫。

潜伏や入れ替わりの為に、特務課が借り上げている場所の一つだった。

中はガランとしており、部屋の隅に緊急用の缶詰や衣服などが入れられた木箱が置かれているだけだ。

「挨拶は、本当にしなくて良かったのか?」

「……はい、閣下」

レオが問いかけたのは、同じくツルギスによって影の中に取り込まれていたアロンナだった。

殿下、や王太子と口にせず、特務卿の敬称を口にしたのは、万一にも誰かに聞かれることを警戒してのことだろう。

その辺りは、流石にオルミラージュの懐刀であるデスターム伯爵家の直系家族だ。

オレイアから、エサノヴァに会いに行くと連絡があった際に、エイデスを通じて連れてきたのは、イオーラの助言があったからだった。

『エサノヴァは、覚悟していたでしょうけれど。彼女はきっとまだ、気持ちの整理がついていないと思うの。本人が望むなら、連れて行ってあげて』

最初は迷った。

これは公務の一環であり、本来であれば逃亡した相手は捕まえなければならない。

エサノヴァを泳がせるだけの理由もあるし、特務卿には取引によってそれを正当とする権限もあるが……それは表沙汰に出来ない話だ。

見逃すところを見せれば、アロンナに特務課の弱味を晒すことにもなりかねない。

しかしそんなレオの不安を正確に感じ取っているのか、イオーラは静かに笑った。

『レオ。今更よ。アロンナは魔導卿に忠実なのだから。だからこそ、一度はエサノヴァを捕縛するのに協力してくれたのよ?』

レオは苦笑した。

『そうだな』

あれは茶番だった。

何せ、レオは彼女が魔術を使えることを知っていたのだから。

ーーーだけど、イオーラのことを交換条件に出されちゃな……。

エサノヴァとレオが当初出会ったのは、ヘーゼルとミザリの事件があった時。

最初に、特務卿として担当したあの事件の時だ。

心を壊して、体にも痛々しい傷跡を持つ彼女らを目にした時のレオが受けた衝撃は、今をもって言葉に出来ない。

話を聞いて、人はここまで残酷になれるのかと、吐き気がするほどの悍ましさを感じた。

社交界での嫌味や意図の交わし合いなど、可愛いものなのだと。

しかし、その裏に潜む悪意に仕事をさせてしまえば、きっとあの二人の少女のような者が世の中に溢れ返るのだろう。

『お前は一度、世の中というものや、治世というものの裏に潜む事実を目の当たりにした方がいい』

そう言った父は、正しかった。

ヘーゼルとミザリのことなど、氷山の一角に過ぎないのだ。

平民には、もっと辛い暮らしをしている者もいる。

助けられただけ運が良かったとすら呼べる者も、助からない方が幸福だったと思えるような不幸も、世の中には当たり前に転がっているのだ。

それを知識ではなく、実感として、事実として知ることは、レオには必要だった。

あまりにも強烈過ぎる事案を見てしまった時は、情けなくイオーラを抱き締めて泣いてしまったこともあった。

しかしその情けないレオを、最初に見たのは、イオーラではない。

『あら、王太子殿下ともあろうお方が、随分情けない顔をなさってるのね』

と、声を掛けてきたのは、貴族ならまだ学校も卒業していないだろう年齢の少女だったのだ。

それがエサノヴァだった。

見ず知らずの相手に正体を口にされたことで、警戒を増したレオは、周りの特務課の面々や王家の〝影〟に指示を出そうとして……いつの間にか、自分が一人であることに気づいた。

ーーー!?

病院の中、周りの景色は変わっていない。

しかし、彼女と自分以外、人一人姿が見当たらず、人がいれば生じる微かなざわめきすら消えていた。

『魔術よ。詳しいことは言えないけど、ここには貴方と私しかいない場所。ま、夢の中だとでも思っておいてくれたらいいわ』

『……何者だ』

『私はエサノヴァ。王太子殿下にお願いと、交渉をしに来たの。どれも決して、貴方に不利になるようなことはないと約束するわ』

エサノヴァは、ニッコリと笑って指を立てた。

『イオーラ・エルネストの正体と、その侍女であるオレイアの正体について。……貴方は、知りたいのではないかしら?』

その姿に。

一瞬、イオーラの妹であり、自分以上に彼女を想っているかもしれない少女、ウェルミィの姿が頭をよぎった。

似ている。

その振る舞いが。

瞳の色が。

かつて学校で見たウェルミィに、酷似している。

エサノヴァが口にした言葉は、確かに気になる。

何を語るつもりなのか、その詳細がひどく知りたいが……。

ーーーそれが欲しいと、素直に出すことを ウェルミィなら(・・・・・・・) 喜ぶだろう。

御し易い相手と感じるからだ。

だからレオは、ウェルミィがめちゃくちゃ嫌がるだろう言い方をすることにした。

『なるほど。何かお前にも守りたいものがあって、交渉しに来ているわけだ。ならまず、その太々しい演技を辞めることから始めたらどうだ?』

すると、エサノヴァがピクリ、と眉を跳ねさせた。

ほんのかすかな綻びだが、動揺を誘うことには成功したらしい。

そしてレオのハッタリは、図星を突いたのだろう。

似ているという直感に従って良かった、と思いながら、レオは朗らかに笑みを浮かべた。

『悪い悪い、ただのハッタリだよ。別にお前の正体やら目的やらを、俺は知らない。ただ、余裕ぶって一方的に下に見られるのは嫌いなんだ。ウェルミィがそういう奴だったからな』

貴族学校時代、ことあるごとにウェルミィに貶められたのは、中々に腹の立つ経験だった。

今も刺々しくはあるが、それは『お義姉様を取られた嫉妬』という可愛らしいものであり、どちらかと言うと対等の立場で必死になっているように見えるので、むしろ微笑ましい。

まぁ、イオーラと想いを通じ合わせた余裕がレオ側に出てきた、というのも、否定はしないが。

ウェルミィなら、レオのこの態度……言い返しておきながら、すぐにその意図を明かすという行動から、逆に深読みをするはずだ。

裏の裏を読んで、結果として勝手にこっちを脅威だと感じてくれれば万々歳、と言うところまで含めて、ハッタリである。

そんな、昔のウェルミィに似たエサノヴァは、同じ相手を巡って競い合っているわけではないからか、すぐに方向を修正したようだった。

大変聡い。

本当にウェルミィを見ているようだった。

『そう。なら、王太子殿下に演技はやめるわ。お察しの通り、私には目的がある。でもそれは貴方たちを害するものではないと約束するわ。むしろ、守りたいのよ』

『初めからそう来てくれた方が、こちらとしてもやり易くてね。で、お願いって言うのは何だ?』

『オレイアの正体と関わりがある話よ』

エサノヴァが口にした〝闇の聖女〟とやらの話は俄かに信じがたかったが、後日顔合わせの場と、その力を使うかどうかを判断する権利をレオに与えるという。

どんな得があるのかが不明だったので、疑問をそのまま口にすると。

『オレイアの手綱は、本当ならイオーラ・エルネストに渡したいんだけど、それはウェルミィ様と同様に、渡したらいけないらしくてね。だから代わりに、貴方なの。ああ、貴方があの人たちにオレイアの正体を喋るのもダメよ?』

『もし喋ったら?』

レオの質問に、エサノヴァは酷薄に目を細める。

『ーーーウェルミィ様以外の誰かを、殺すことになるわ』

確実に、本気の発言だった。

しかしエサノヴァは、すぐに表情を緩める。

『イオーラ・エルネストを殺すのは、ウェルミィ様も私の主人も、皆が許さないでしょうから、王太子殿下か、オレイア本人を殺すことになるわね。そうなりたくはないけれど』

『なるほどな』

自分が死んでも王位継承権に関しては問題ないが、どちらかが死んでイオーラを悲しませるのは本意ではない。

きっとそれが可能なのだろう、と思わせるくらいには、エサノヴァは未知数だった。

何せさっきから、自分を取り込んでいるこの魔術の正体やら、突破方法やらを考えたり探ったりしているのに、全く読めない。

きっと既存の魔術ではなく、何か特殊な……おそらくは血統魔術……に類するものなのだろう。

ウェルミィの解呪の力であれば、あるいは突破可能かもしれないが、おそらくレオには無理である。

レオの血統で受け継げたものは、遠くはライオネル辺境伯家の特殊な身体強化魔術、もしくはオルミラージュ侯爵家に伝わっていた 紫瞳(しどう) の者だけが使える血統魔術だからだ。

あいにく、身体強化魔術が受け継がれていれば幼少時に病弱で苦労することはなかったし、レオの瞳は『攻撃の金』である。

現在の王家では、父とタイグリムの双子の妹であるナニャオ第二王女のみが、本来のライオネル血統魔術を受け継いでいる状態だ。

ーーーその辺りも、アイツの方が向いていると思う理由なんだけどな……。

タイグリムは『癒しの銀』である為、身体強化魔術自体は相性がいい筈だが、性格の問題からか癒し寄りらしく、使えないのだ。

結局、血統的にも能力的にも、解呪の力については無い物ねだりである為、諦める他はない。

なのでレオは、話を先に進めることにした。

『オレイアの正体については分かった。で、イオーラの正体って言うのは?』

『それが交渉ね。タダで教えてあげる訳にはいかないの』

『条件を聞こう』

『オレイアの能力使用の管理をしてもらうこと。私、もうすぐこの国からいなくなるから、窓口がなくなっちゃうのよね。公爵家は信用出来ないし』

その言葉に、レオは頭を巡らせた。

ここ最近近隣諸国を騒がせている話題と、彼女の口ぶり、このタイミングでの接触と、色々合わせると見えてくる。

『ホリーロと〝土〟が大公選定の為に動いてるって訳か。それと、この国にどういう繋がりがある?』

レオがそう問いかけると、エサノヴァは目を丸くした。

『どうした?』

『驚き……王太子殿下って、結構賢いのね……』

『あのな……』

レオは思わず脱力した。

本当にこの娘、ウェルミィにソックリだ。

『一応、この国の王太子だからな……』

『特務卿もやってるしね……侮っていたのは謝るわ。ごめんなさい』

『いや……』

そんなことを謝られるのも、それはそれで反応に困るのだが。

『交渉の内容だけれど。今、イオーラ・エルネストの侍女を決めるの難航しているでしょう? それをオルミラージュ侯爵に相談して欲しいの。それだけで、本邸で選抜が開始されることになるわ』

『……そう、なのか?』

実際に、選抜が難航しているのは事実だが、エサノヴァはどこからその情報を掴んだのか。

『ええ。それだけで良いわ。その後、オレイアと接触する機会をもらえれば、管理を貴方に任せるわ。王太子妃付きになるんでしょう? 彼女』

『ああ。それで、その後は?』

『本邸での選抜が上手く行ったら、イオーラ・エルネストに関する情報を渡すわ。私のことは調べれば多分、すぐに分かると思うけれど、今の段階で魔導卿を含む彼女たちに私のことを話すのも、手を出すのもオススメしないわよ』

『……良いだろう』

レオとしても、全く裏取りのない状態で彼女を信用は出来ないが、何より、イオーラ達を危険に晒すのは避けたい。

『だが、大公国のことに関しては調べるぞ。何か裏がありそうだからな』

『ええ、それは構わないわ。交換条件はそれだけよ』

エサノヴァは、ニッコリと笑って両手を揃えると、顔の横に持っていって首を傾げる。

『開催して、ヘーゼルがウェルミィ様達と知り合うのが、大事なの。それで磐石になるわ』

『何がだ?』

『ウェルミィ様の、身の安全がよ。イオーラ・エルネスト、エイデス・オルミラージュ、オレイア、ズミアーノ・オルブラン、ツルギス・デルトラーデ、ヒルデントライ・イーサ、ソフォイル・エンダーレン、テレサロ・トラフ、ヌーア・デスターム、ユラフ・アヴェロ、ラウドン・ホリーロ、シドゥ・ゲオランダ……そして、レオニール・ライオネル王太子殿下。これで、彼女の 手駒(・・) が全て揃うのよ』

『俺も、アイツの駒扱いか』

レオは思わず苦笑した。

しかし、彼女の言葉は、口にした通りの意味なのだろう。

今挙げられた名前は、シドゥという人物以外は全員、レオとエイデスが大公国選定の場に赴く際に、連れて行こうとしている主要メンバーの名前なのだ。

現在国を回しているエイデスと元・外務卿であるユラフ・アヴェロ以外は、次世代のライオネル王国を担う人材である。

その中心にいるのは、間違いなくウェルミィ。

エイデスとやり合ったあの夜会から……いや、きっと彼女がイオーラを救うと志した時から。

ウェルミィは、常にライオネル王国を取り巻く危機の中心にいて、それらを解決しているのだから。

『アイツは、また何かに巻き込まれるんだな』

エサノヴァの画策する、何らかの騒動に。

『王太子殿下の考えは、あまり正しくないかもね。全てはウェルミィ様を中心に動いているの。私たちは、守れる限り守り、整えているだけ。彼女の意思で、最良を選び続けてくれることを、ただ望んでいるのよ』

『操っているわけではない、と?』

『もしそうするつもりであれば、とっくに私たち自身が彼女に接触して事情を明かしているわ。そうしないのは、あくまでも彼女自身が選び取ることが重要だから。魔導卿やイオーラ・エルネストとの関係も。その他も。私たちは強要しない。ただ好きに、生き続けて貰いたいのよ』

『よく分からんが、まぁ、あの破天荒なヤツが好き勝手してるのを見ておきたい気持ちくらいは、オレにも分かる』

ウェルミィは見ていて気持ちがいい。

間違っても、エイデスみたいに自分の伴侶にしたいとは思わないが。

そうしてエサノヴァと手を組んだレオは、どうやってか元の場所に戻り。

オレイアと接触してウーヲンの件を聞き、イングレイ・オルミラージュ前侯爵の協力も得て、大公選定に対する準備を整えた。

約束通り、脱走したエサノヴァと彼女の元々住んでいた子爵邸に突入するという体で、彼女の『父』やエサノヴァ自身と話をして、レオは信じがたい事実を知った。

『イオーラ・エルネストは、〝精霊の愛し子〟よ。あの真なる紫の瞳は、精霊に愛された証なの』

『精霊に愛されるのは、リロウドの血筋じゃないのか?』

『そうね。でも、リロウドの血筋は、精霊術士の血筋よ。好かれはするけど、愛し子とは違うわ。イオーラ・エルネストの行動は、全てに精霊の加護がある。彼女の母親が掛けた魔術によって存在が隠されていたせいで、エルネスト伯爵家では不遇を囲っていたけれど』

その話には、覚えがあった。

昔からウェルミィだけには見えていた真なる紫の瞳は、彼女の母親が掛けた魔術が解け掛けていたことによって、レオも目にすることが出来……確かにそこから、彼女を取り巻く状況が好転していったのだ。

『あの人を伴侶とした貴方の担うライオネル王国は、この先真の安泰が約束されているでしょうね。でも、ウェルミィ様本人には、そういう加護はない。だからこそ、危険があるの』

『それでもお前たちは、ウェルミィを守りたいんだな?』

『ええ。これから、私たちは大公国に向かうわ。見逃してくれるでしょう?』

『次期大公が誰になるのか、お前たちは知っているのか?』

レオの問いかけに、エサノヴァは肩を竦める。

『一応ね。ただ、私たちにはあまり興味がないことでもあるわね』

『お前たちの真の目的は……教えてはくれないんだろうな』

『ええ。時がくれば分かることだから』

そうして、今に至る。

寂れた倉庫の中で、オレイアが少し痛ましげな目をアロンナに向けていた。

「アロンナ様。伝言は改めてお伝えしなくても、大丈夫でしょうか」

「聞こえていました。……ええ、確かに」

答えるアロンナは無表情だったが、その目が少し潤んでいるような気がした。

「それで、これからどうするんだ?」

レオとオレイア、そしてツルギスはこのまま王宮に戻り、ラウドンとアロンナはオルミラージュ本邸に向かう。

レオの質問には、ラウドンが答えた。

「しばらくは、この件については様子見でしょう。今、ウェルミィ様が 母上(ヤハンナ) を訪ねてホリーロ公爵邸に向かっています。後は母上の判断になるでしょうね」

ウェルミィにどこまで話すのか、と言う話だろう。

「エイデスやウェルミィ、イオーラには何も伝えちゃいけないんじゃないのか?」

「これからの先行きに関しては、そうですね。ですが、我がホリーロ公爵家の……と言うよりも、母の血筋に関しては、別に話しても構わない、とあの人なら判断する気がしますよ。元はエサノヴァの企みですが、母自身、ウェルミィ様のことは気に入っている様子ですし」

そうでなければ、自分を送り込んだりはしない、とラウドンは口の端を上げた。

「では、これにて」

「ああ。……これから、しばらく忙しいしな……せっかく仕事が一つ片付いたと思ったのにな……」

すると、げんなりしているレオに向かって、ラウドンとツルギスも苦笑する。

「まさか、ウェルミィ様からあんな提案があるとは思いませんでしたね」

「考えもつきませんでした」

「だが確かに、経済効果は絶大だろう。何せ、王室、アバッカム公爵家、リロウド公爵家、オルミラージュ侯爵家、オルブラン侯爵家、デルトラーデ侯爵家、ラングレー公爵家の合同慶事だ。下手をすれば、他国の王族どころか国王陛下が参列してくる可能性すらある」

それは、本当にとんでもない企みだった。

侍女をやっている最中に思いついたらしいその企みに、イオーラとエイデスが乗り気になってしまい、父王と交渉して取り纏めてしまったのだ。

レオは、事後承諾の形だった。

いや、自分がやること自体は元々決まっていたし日取りの調整も必要なかったので、異議はないのだが。

「ーーーまさか、全家合同での結婚式なんざ、誰が想像するんだ」

事の発端は、いつものウェルミィのワガママ。

彼女は『お義姉様と一緒に結婚式がしたいわ!』と言い出し、イオーラが『出来たら素敵ね』とそれに乗った。

するとエイデスが『では、大公国に赴く前に箔をつけよう』と言い出し、父王が『そこまで大規模にするのなら、他もついでにやってしまおう』と宰相閣下に打診した。

すると横で聞いていた母上が『もう一組、より関係を強固にしたい人たちがいるでしょう』と口を挟み……。

その結果。

ウェルミィ・リロウド伯爵令嬢とエイデス・オルミラージュ侯爵。

イオーラ・ロンダリィズ伯爵令嬢とレオニール・ライオネル王太子。

ツルギス・デルトラーデ侯爵令息とダリステア・アバッカム公爵令嬢。

ズミアーノ・オルブラン侯爵令息とニニーナ・カルクフェルト伯爵令嬢。

そして〝光の騎士〟ソフォイル・エンダーレンと〝桃色の髪と銀の瞳の乙女〟テレサロ・トラフ。

この五組が王都全域を巻き込んで式を挙げる、という前代未聞の慶事を執り行うことになったのだ。

王室とオルミラージュ侯爵家は言うに及ばず。

前王家の血筋であるアバッカム公爵家は、当主のマレフィデントも先日、ナニャオ第二王女との婚約を発表したばかりであり、『前王家と現王家の血筋が統合する』と話題になったばかり。

国の穀物庫で、バルザム帝国とも繋がりのあるオルブラン侯爵家は、薬草と治療魔術の申し子、国の宝とまで呼ばれるニニーナを迎えることになり。

テレサロとソフォイルは、この式を執り行うことによって、教会のみならずライオネル王家の庇護を明確に得る。

しかも、教会内部には現在、王弟タイグリムが次期枢機卿として迎え入れられていて、彼の昇進にも実家が桃色の髪の聖女と光の戦士を厚遇しているという事実は追い風になるだろう。

彼が枢機卿となれば、ライオネル王室は更なる力を得る。

発想はとんでもないが、利益もとんでもない。

その発端となったのはやっぱりウェルミィ・エルネストで。

『イオーラを救いたい』と動けば、魔導卿の心を射止め、また社交界を掌握し。

イオーラと一緒に式を挙げたいと望めば国を巻き込む一大慶事に発展する。

アイツが動くと、何故か騒動を引き起こすのだ。

割りを食って忙しくなる相手のことなどお構いなしである。

もっとも、それが嫌なのかといえば、イオーラと結婚出来るので、全然嫌ではないのだが。

『私が画策したわけじゃないわよ! どれもエイデスのせいじゃない!』

という、ウェルミィの幻聴を聴きながら……レオはその場を辞して、王宮に戻った。