軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

公爵令息の含意。【後編】

ラウドンの真意が読めなかったウェルミィは、彼と面会してみることにした。

エイデスも知っていることがないかと相談してみると、彼は薄く笑みを浮かべながら、こう答えた。

『彼の女性関係が問題になった、という話は聞いたことがないな。やり方自体は優れているとは言えんが、情報収集に有用な手法ではある』

要は、ラウドンはただの女好きの無能ではない、ということだ。

そういうわけで、面会してみたのだけれど。

「選抜試験があるんですよね?」

「ええ。本邸の方で行う予定です。基本的には内密の話だったのですけれど、どこからお知りになられまして?」

「え? 最初はズミに教えて貰ったのですけど」

面会に来たラウドンの言葉に、ミシ、と手にした扇に思わず力を込めてしまった。

「……ズミアーノ?」

【服従の腕輪】の譲渡に関する話し合いが、まだ国王陛下を含む上層部で済んでいない関係で、未だセイファルトと交代でウェルミィの侍従として側にいる彼を、思わず睨みつける。

「あはは、まぁ、ラウなら良いかなって」

「良いかなじゃないのよ!」

張り倒してやろうか、とウェルミィがズミアーノを睨みつけると、彼は悪びれもせずに満面の笑みを浮かべた。

「それより、なんでそれを聞いたのか、の方が気になるんじゃないのー?」

内情を知っているっぽい言い草で、ラウドンの方に手を差し出して話を戻そうとするのに、怒りを押し殺しながら向き直る。

「私も雇って貰おうかと思いまして」

「貴方、公爵家の後継者ではないのですかっ!?」

基本的に、高位貴族の爵位というものは長男に与えられる。

後継に男子がいなければ続いて直系女子、もしくは養子か跡取り娘の旦那だ。

そして、後継でない女子は基本的に嫁入り。

後継でない男子で、養子や婿入りしなかった者は、領地を分割した上で当主が複数所持している爵位……例えば、誰かが返上して領地と共に預かったものなど……を賜って、分家領主となる。

貴族は贅沢な暮らしをする代わりに領地を治める存在であり、当然、その子女は教育にかなりの金額が掛かるため、与えられた義務を放り出すのは、基本的に論外なのである。

が、ラウドンは。

「問題ないですよ。公爵は弟に継がせればいい。現王家同様『どっちがスペアでも構わない』という教育方針だったのでね、うちは」

雇ってもらいたい、というのなら、彼の望みはヒャオン王女殿下や侍女候補であるヴィネドとの婚姻で、王室との繋がりを持ちたいのと同様に、オルミラージュ侯爵家との繋がりだろう。

強欲な話である。

ヴィネドに婚約を申し込むだけでは足りないらしい。

「では、執事になるのは弟君の方でもよろしいのでは? というか、偉大なるホリーロ公爵家ともあろう家柄が、そこまでする必要が?」

思わず半眼になって、当て擦りを言うウェルミィに。

「縁は多い方が得ですよ。それに、弟が来ると私が自由に遊べないでしょう? 家に利益をもたらした上で、妻を取らなくていい立場って、凄く魅力的ですから」

「貴方を雇うことに、こちらが魅力を感じないのですが」

と、人がいないからか、女好きを隠しもしない様子で甘ったるい笑みを浮かべる。

「美貌の侯爵夫妻に仕えて、弟に家と綺麗な妻を押しつけ……手渡して、ヒラヒラと自由に飛び回りたいんですよ、私は。色々話を聞けるのも楽しいし」

「……ズミアーノ。アダムス様といい、貴方の周りってこんなのしかいないわけ?」

「失礼じゃない? シゾルダとかツルギスまで一緒くたにしてあげないでよー。あ、後オレはラウと違って、ニニーナ一筋だよ? 一応」

「私を口説いた過去があるのを、調子良くなかったことにしてんじゃないわよ!」

「あはは、それもそうだねー」

自分と同類っぽいのは否定しないズミアーノに、ウェルミィは頭が痛くなった。

「でも、ラウは多分役に立つよ?」

「執事にして貰えたら、侯爵家の中では女性に手を出さないと誓いますよ」

「当たり前でしょう!!」

本邸には保護した貴族の女性がゴロゴロしているので、一部を引き取って貰う分は本来なら構わないと思うのだけれど。

ーーーこの男に限っては、遊ぶ予感しかしないわ……っ!!

ラウドンは、間違いなく女の敵である。

「オレは良いと思うんだけどなー。ミィだって、ラウはそこそこ使えるんじゃないかと思ったから、断らずに面会したんじゃないのー?」

同席させる人選を誤った。

ズミアーノが口にしたことは事実なので、否定も出来ない。

「……本気で、執事として仕える気があるんですか?」

「ええ」

「契約魔術で縛って、手を出さないと誓って貰いますよ?」

「許可があればOKにしてくれるなら、勿論」

そう言って、ラウドンがニッコリ笑うのに、ウェルミィは裏があるのを読み取った。

オルミラージュ本邸。

執事として入りたいという理由。

ラウドンの女好き。

本来の立場を捨てての強行。

「……貴方もしかして、本邸侍女に目当ての女性でもいるんじゃないでしょうね?」

ウェルミィが問いかけると、ラウドンは初めて驚いた表情を見せた。

「へぇ。凄いな……ねぇズミ、君が主人と認めるだけあって、リロウド嬢は流石だね」

「そうだろ? ミィはそういう子なんだよ」

「やっぱりそうなのね!?」

「目当て、というのとはちょっと違うのですが。まぁ、欲しいと望んではいる、という感じですね」

「一緒じゃないの?」

「私の中では違うのですよ。それで、返答の方は?」

ラウドンは、パチリと片目を閉じるのに、エイデスの判断を求めるべきか迷ったけれど。

「オルミラージュ侯爵の下で、働きたいと思っているのは本当です。彼の懐刀である伯爵家の方々と自分、どちらが諜報員として優れているかを測ってほしい、という興味もありますからね」

挑戦的な彼の言葉に、ウェルミィはため息を吐いて、決めた。

「いいわ。ただし、あくまでもまだ 候補(・・) として、です。妙な動きを見せたら、即刻、解雇します」

「ありがとうございます」

嬉しそうに礼を述べるラウドンに、少しだけ後悔して、ちょっとだけワクワクする。

最近気づいたのだけれど。

ウェルミィは、自分の意思で何かに挑戦したり努力する人物が、結構好きなのだ。