軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔導卿との出会い。

夜会に出られるようになるまでは、貴族学校への入学から、2年が必要だった。

エイデス魔導卿に出会うまでの間……入学してからのウェルミィは、学校ではイオーラお義姉様からアーバインの目をこちらに向けさせ、一緒にいることに全力を注いでいた。

基本的には、初対面のお義姉様の姿にガッカリしていた彼を自分に靡かせるなんて容易いことだった。

ーーーこの人は、駄目だわ。

ウェルミィは、この頃には自分が他の人々とは少し違う能力があることを自覚していた。

相手の本質が、直観的に分かる。

どういう理由かまでは分からないけれど、熱を出した日の夜、両親の内心を見抜いたこととそれは似ていた。

お義姉様を目にし、その後に頭を下げて自己紹介をしたウェルミィを見たアーバインは、露骨に二人に向ける目線が違った。

その上、目の奥に下卑た光が見えた。

ーーー人の外見にしか、興味がない。

それは、一度見たきりのお義姉様に婚約を申し込んだことでも分かっていた。

アーバインは次男坊で、家格も伯爵家であり、政略的にも落ち目のエルネスト伯爵家への婿入りは旨味が少ない。

本当に、お義姉様の外見の美しさだけが目当ての。

顔立ちだけは良いが、それだけの男だった。

女は、自分の欲望を満たすための道具程度にしか思っていないだろう。

お義姉様を預けるに足る人材ではなかった。

同時にウェルミィは、どんな人間とどんな風に付き合うか、立ち居振る舞いを考えた。

貴族の子女に、気が合う友達としての立場など一切求めなかった。

ただ、お義姉様をアーバインから遠ざけるために、腰巾着気質の令息や、人の陰口や噂話が大好きな令嬢を好んで引き込んだ。

お義姉様を嫌うそぶりを見せて、アーバインに対してシナを作って見せれば、すぐに悪評を……ウェルミィとイオーラお義姉様両方の悪評を広めてくれる彼らの存在は、非常に有難かった。

婚約者を寝取る妹と、婚約者を寝取られた姉。

腹違いで同い年で、外見が全然違う二人。

格好の餌食だ。

お義姉様に婚約者がいる、という事実は、男を遠ざけるのに役に立つ。

だがその婚約者自体は、自分が簡単に遠ざけられる……非常に好都合な構図を容易く作り出せた。

お義姉様が家だけでなく学校でまでも肩身の狭い生活を強いられることだけは心が痛んだが、まともな……貴族としてではなく、人間としてまともな感性を持つ人ならば、お義姉様と少し関わればその真価に気づくだろう。

それが出来る相手を、そして風評をものともしない人を、慎重に選んだ。

一人、この人なら、と目星をつけたのが、子爵令嬢のカーラ。

大人しく振る舞っているが、その中身はかなり勝ち気で、野心はあるが付き合う相手は慎重に、適度な距離感を保ちつつ選ぼうとしている様に好感を覚えた。

知り合った時には、すでに噂好きな取り巻き達がウェルミィにはいたけれど、それなりに力のある家の子女が集まっていたこちらのグループに近づいて来たのだ。

身の上を調べると、商売で成功しており、しかも平民の大商人や辺境伯と結びついている、勢いがある家の娘だった。

子爵家といえど侮れない……それこそ、力のある相手に媚びを売る必要がない、伯爵に叙せられてもおかしくない後ろ盾がある。

この子だ、と思った。

人を見る目があり、如才なく振る舞う。

なのに、皆がいる前でウェルミィにハッキリと意見を述べた。

『アーバイン様は、貴女のお義姉様の婚約者なのでしょう? ……そのような振る舞いをしておられると、どちらにも得がないと思いますけれど』

と。

得がない。

側から見れば全くもってその通り。

何故なら、ウェルミィの目的を知らなければ、自ら悪評を振り撒いているせいで、片方は無能な取り巻きに囲まれて、片方は孤立しているのだから。

だから、この子はーーーお義姉様の側にいてもらうべきだと思った。

『そんなに礼儀正しく、お行儀よく、清廉潔白でいらしたいのでしたら、お義姉様と一緒にいれば良いのではなくて?』

冷笑と共に伝えた願いを、カーラはどう受け取ったのか。

ジッとウェルミィを見つめ、ニヤニヤとやり取りを見守っていた取り巻きたちの姿を見て、黙ってその場を去った。

そして二度と、こちらには関わって来なかった。

将来的にも価値がないと判断したのだろう。

さらに数日後には、二人の間にどんなやり取りがあったのか、お義姉様の側で姿を見かけるようになった。

ーーーこれでいいわ。

外から近づいてくる悪い虫は、彼女が払ってくれるだろう。

そしてカーラが友好を結ぶに値すると思う人々は、きっとお義姉様にとって良き友となるはず。

どうせ、ウェルミィは言っている間に社交界から消える。

その時にはすでに、破滅の未来を見つめて動いていた。

ただ一人誤算だったのが、貧乏男爵家の令息である、レオだった。

ダメだ、と一目見た時に思った。

内面は悪くない。

もしお義姉様と良い仲になっても、不幸にすることはないだろうけれど……あの、全てを見抜くような静かな目線が、危険だと思った。

レオは、いつの間にかお義姉様やカーラの側にいた。

お義姉様の本質を見抜くまでは良い。

しかし、くすんだカーテンを暴いて着飾ったり、お義姉様が自分の美しさを外に出そうと思ってしまったら。

ウェルミィの計画が破綻してしまう。

せめて貴族学校を卒業して、成人として独り立ちするまでは。

お義姉様の姿は隠し通さなければならない。

もし、お義姉様が後見人が必要な状態で、誰か悪い奴や、アーバインに気づかれて目をつけられてしまったら。

レオには、お義姉様を守る力がない。

特にアーバインは、婚約者という正当な立場をカサに来て彼を排除する権利がある。

今は所有権を嫌がらせのためだけに使っているけれど、それが独占欲の為に使われたら、学生の間に結婚の段取りを進めかねない。

今はウェルミィが、親やアーバインに好意を伝える事で抑え込めているとしても。

自分では、本当の美しさを取り戻したお義姉様の輝きに太刀打ちできるわけがないことを、誰よりも理解していたから。

懸念は常に心の片隅にありながらも、卒業まで彼らが行動に移さずにホッとした。

その学生生活の間にあった、デビュタント。

夜会デビューは16歳。

14歳から18歳まで通うことになる貴族学校の、ちょうど真ん中から参加出来るようになる。

そこでウェルミィは、アーバインに婚約を破棄させた後に、お義姉様を預けるに足る相手を見定めるつもりだった。

婚約者のいない女性は、基本的に父親にエスコートされて夜会に出ることになる。

婚約者として、入場だけはアーバインにお義姉様を預けなければいけないのは業腹だったけれど。

基本的に彼はすぐに離れてこちらに来るし、さらにお義姉様はウェルミィの引き立て役だと父母に見なされていた為、あまり離れることもなかった。

当然、自分を差し置いて一人で夜会に参加することもない。

しかし。

ーーーお義姉様を預けるに足るほどの人は、いないわね……。

どいつもこいつも、婚約者がいない人物は獲物を狙うハイエナか、夜会そのものに興味もなければ力もないような連中ばかりだった。

優良な令息には、当然ながらもうほぼ婚約者がいるか、ウェルミィのように特定の相手がいない上で人気のある子女は、お義姉様をわざわざ選ぶ意味が薄い。

少しガッカリしていると、よそ見をしていたからか、アーバインが側にいる時に会場に入ってきた人物とぶつかってしまった。

「あっ」

「失礼、御令嬢。怪我はございませんか?」

低く静かな声音。

興味を惹かれて目を上げたウェルミィは……そのまま、吸い込まれるかと思った。

青みがかった、知性と自信を湛える紫の瞳。

無表情だが、純粋に、欲もなくただこちらを心配していることが分かった。

倒れかけたウェルミィの腰を支える手つきも、いやらしさはなく、かといって失礼とは思わない程度の力の入れ具合。

顔立ちそのものがとんでもなく整っていて、緩やかにうねる銀の髪が神秘的な彩りを添えていることに気づいたのは、その後のことだった。

素の驚きは、ほんの一瞬。

すぐに隙なく猫を被り、うっとりしているフリをして、猫撫で声を上げる。

厚顔で男好きな、ウェルミィ・エルネストの皮を。

「ええ、大丈夫ですわ。こちらこそ申し訳ございません」

すると、男の目に宿っていた心配の色が消えて、代わりに侮蔑のような色が浮かぶ。

そうすると、恐ろしく整った顔立ちが、まるで悪魔のように冷え切って見えた。

「では、これで」

即座に手を離され、挨拶や言葉を交わす間もなく立ち去る背中を、ジッと見つめた。

一瞬で相手の本質を見抜く自分の目が、告げていた。

ーーー彼なら、と。

ウェルミィの視線が気に入らなかったのか、ふてくされた様子のアーバインをあやした後、離れた時にそれとなく、どこにいても目立つ彼のことを他の御令嬢に訊ねてみると。

「ああ、魔導卿ね。侯爵の家の方で、今は実力で国から賜った魔導爵を叙されているはずよ。社交も女性も嫌いで、氷のようだと噂でね。顔立ちも良くて権力もお金もあるのに勿体ないったら……」

魔術に関して、類稀な功績を持つ者に与えられる爵位。

さらに彼はあの若さで魔導省の長でもあるという。

女性嫌い。

きっとそれは、仮面だ。

あの時に見せた一瞬の表情は、決して相手を不快にさせることに痛痒を感じない人間のものではなかった。

何らかの理由で、女性を避けている。

きっと顔立ちばかりを気にするような相手に、うんざりでもしているのだろう。

わざと流させた噂のように、ウェルミィは感じた。

エイデス・オルミラージュ魔導卿。

ーーーお義姉様を預けるに足る人を、見つけた。

ウェルミィは、そう思った。