軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウェルミィの決意。

「物を奪った後は」

エイデスは、さらに話を続ける。

「髪を染めるように強要し、メガネをかけさせて顔を隠し、粗末な服を着せて使用人のようにこき使ったのだろう? 挙句に、離れに押し込めた」

全くもって、それは事実だった。

ウェルミィが自らの意思で、両親に行わせたことだ。

あれは、12歳の時だった。

侍女でも嫌がるような仕事まで押し付けられて、お義姉様は疲れ切っていた。

両親の目を盗んで手助けをしていたのは、侍女のオレイアだけで、母が一新した使用人たちは皆、見て見ぬふりをしていた。

ーーーこのままでは、お義姉様が死んでしまう。

些細なミス一つで、すぐに食事を抜かれたり怒鳴りつけられたりする、お義姉様。

どうすればいいのか、と、ウェルミィは必死に考えた。

お義姉様を可哀想だと、あの悪魔どもにいくら甘えるように遠回しに言っても、『まぁ、ウェルミィは優しいわねぇ、それに比べてイオーラときたら……』と悪口につなげて、全然聞き入れようとはしない。

だから、逆に、お義姉様を虐げるような形で、お義姉様を守らなければいけない、と思い至った。

後二年もすれば、二人は貴族学校に入ることになる。

ウェルミィには家庭教師がいたが、お義姉様にはいなかった。

そうなると、授業は遅れるだろうから、成績が悪くなるかも知れない。

さらに、もし勉強が出来なかったとしても、お義姉様の美しさや魔力に満ち溢れた瞳の色に、気づく人たちも出てくるだろう。

授業では、『魔術をまともに使うな』と言えばいいだけ、だとしても。

伯爵家でありながら守る者もいないお義姉様が、もし悪意ある連中に目をつけられたら。

そう考えてウェルミィは、まずお義姉様の美しさを隠すことにした。

『ねぇお父様、お義姉様の髪の毛の色、目の毒だわ』

美し過ぎて、ともすれば目で追ってしまうから。

『ねぇお母様、お義姉様が睨むの。もしかして目が悪いんじゃないかしら』

その輝かんばかりの瞳の色を、髪以外にも隠すものが必要だから。

食事を満足にとらせてもらえなくて、痩せていっているお義姉様が、ちゃんと見窄らしく見えるようになってから。

『ねぇ、お父様、お母様。私、あんな汚いお義姉様は見たくないわ』

本当は、美しく着飾って、欲しかった。

でも、今のウェルミィではお義姉様は、こんな方法でしか守れないから。

『だから、離れに暮らしてもらいましょう?』

その狙いは、上手くいった。

侍女のオレイアが気に入らないからと、一緒に離れに押し込んだ。

彼女ならきっと、イオーラお義姉様を本邸の悪意から多少なりとも守ってくれる。

オレイア以外の使用人は誰も出入りしないようにと、母に命じさせて。

「誤解ですわ、エイデス様」

当時の、初めてお義姉様を守る方法を思いついた自分を褒めながら、ウェルミィはエイデスに言い返す。

「お義姉様は、自分から使用人の仕事を覚えたいと、手伝っておられたのですもの。そして自分の意思で、離れに赴いたのですわ。私たちの顔など、見たくもなかったのでしょう」

にっこりと笑ってみせたウェルミィに、エイデスは鼻を鳴らす。

「よく分かっているな。そう、お前達の顔など見たくもなかっただろう。だが、薪も毛布もまともに与えず、そのせいで病気になっても医者に見せなかったのは、どうした訳だろうな?」

「そ、それはお義姉様が、お医者様が嫌いで」

「ほう。うちにきた時には、大人しく医者の診療を受け、その博識で仲良くなっていたがな」

ーーーでしょうね。

当然、お義姉様がお医者様が嫌いなんて事実はない。

オレイアから『倒れて熱を出した』と聞いても、家令が『まずい状況だ』と伝えても、父母は全く動こうとしなかったのだ。

その時も、ウェルミィは知恵を絞った。

父母は、お茶会や夜会に頻繁に出かけている。

二人で連れ立つのは、基本的には夜会だ。

お義姉様が熱を出した、次の日の夜も、両親は出かける予定だった。

だから。

ウェルミィは、母から預かった 裸(ルース) の小さな宝石を一つ、手紙と一緒に封筒に入れて。

家令に命じて、オレイアにこっそりと『夜中に来てくれるよう、先生のところへ伝えに行け』と伝えさせた。

誰がそれを言っているのかは、伝えないようにとキツく口止めして。

ついでに、使っていない毛布を引っ張り出してお義姉様に与えることと、宝石をもう一つ渡して、それでお義姉様の分の薪を余分に購入するように命じた。

どうせあの人たちは離れには行かないし、ゴルドレイなら上手くやるだろう。

父母は『寝ているのなら飯は食えないだろうから、イオーラの分はいらん』と言って出て行った。

そうなると、大した食事はないだろうけれど、口に入れるものを準備しなければ。

ウェルミィは自分のパンを一つだけ隠して、使用人達もまかないを食べ終える頃に、厨房に向かった。

『やっぱり足りなかったから、スープを頂戴』と伝えると、具はほとんど残ってないですよ、と料理人は盆にスープをよそった皿を乗せて出してくれた。

そのスープに、隠していたパンを浸して、パン粥にして、離れから出て来たオレイアに押し付けた。

ビックリして目を丸くする彼女に『役立たずのお義姉様には、このゴミみたいなご飯で丁度いいそうよ』と憎まれ口を叩いて、さっさと本邸に戻った。

その後、多分お医者様らしき誰かが馬車で来た後に、こっそり家令に見送られて帰って行くのを、少しホッとした気持ちで見てから、眠った。

熱が下がったと聞いて、『悪運が強い』と 憚(はばか) ることもなく口にする両親に、ウェルミィは理解した。

ーーーああ、この人たちは、お義姉様に死んで欲しいんだわ。

何故そこまで辛く当たるのか、その理由は分からなかったけれど。

ウェルミィは、その後もどうにか、お義姉様がなるべく困らないよう、でも自分が助けようとしていることが悟られないように振る舞った。

その中でも、一番よくできたと思うのが、お義姉様に家庭教師をつけた時だ。

『お母様。あの家庭教師、口うるさいの。私もう嫌だわ。お義姉様にでもつけてよ。私は、もっと優しい人がいい!』

お母様のつけてくれた家庭教師は、すごく優秀な人だった。

厳格だけれど、礼儀は教えられた通りにやれば上手く出来たし、勉強もきちんと見てくれる。

ーーーこの人なら、お義姉様が貴族学校に入っても恥をかかない教養を身につけさせてくれるわ。

そう願って、母にそれとなく『虐めに使える人』だと匂わせて、お義姉様の家庭教師にすることに、成功した。

次に来たウェルミィ自身の家庭教師は凡庸な人だったけれど、それで構わなかった。

入学まで後一年に迫った頃には、ウェルミィは一つの決意をしていたから。

ーーーお義姉様を、この家から逃すのよ。

その為なら、自分が破滅しても構わないから。