軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お似合いの二人とおせっかい。

やがて、儀式の最終確認をエイデス達が始めると、ヘーゼルとマイラーが輪の中心に連れて行かれた。

お義姉様はエイデスやズミアーノと共に確認側に回っているので、特にやることもないウェルミィは手持ち無沙汰になった。

なので、ヘーゼルと離された後、壁際に移動して直立不動の姿勢を取ったシドゥに声を掛ける。

丁度いいので、話をしておきたかったのである。

「ねぇ、シドゥ」

「何でしょう、奥方様」

本質はどちらかと言えば陽気で明け透けなシドゥだけれど、こういう場では常に護衛や一騎士としての振る舞いを崩さない。

話しかけられても、現在の護衛対象であるヘーゼルを視線の中心に据え、周りに目を配っていた。

「前にも聞いたけれど、貴方ってヘーゼルと結婚しないの?」

お互いに仕事の方が大切、というのは聞いているけれど、ウェルミィの目にはどう考えても家庭を持つことに二の足を踏んでいるヘーゼルに、彼が遠慮しているようにしか見えないのである。

「そうですね、今のところそのような話はありませんね」

「じゃ、したいかしたくないか、だとどっち?」

「気持ちの話でしょうか?」

「ええ」

「したいですよ」

思いの外あっさりとした返事が戻ってきて、ウェルミィは少し意外に思う。

けれど、よく考えたら彼とこういう話になる時は、大体ヘーゼルが側にいることを思い出して、一人納得した。

ーーーそうね。この人の気質なら、あの子がいるところでそれを言うわけないものね。

「でも、プロポーズはしないのね」

「ヘーゼルの気持ちを無視しようとは思いません。好意は割と早めに口にしましたが、付き合うかどうかも彼女の気持ち一つでしたし」

「散々あの子に相談されたから、よく知ってるけど」

そう伝えても、特に顔色を変えたりもせず、シドゥは黙って肩を竦めた。

傍目に分かりにくくはあるものの、彼がヘーゼルを本当に大切に思っているのは間違いない。

今までウェルミィが見た限り、死線を潜り抜けてきた者は大きく二種類に別れる。

いつ死ぬか分からないから積極的に行動するか。

いつ死ぬか分からないから一歩引くか、である。

ソフォイル卿もシドゥも、どちらかと言えば後者だった。

彼らには本当の意味での自信があるからこそ、好意を持った相手に対して気持ちを口にし、手を貸すことを躊躇わない。

しかし相手がそう望まないと思うと、『待つ』のだ。

それは野生動物が、他の生き物の縄張りを侵すのに慎重になる姿勢とよく似ている、と思っていた。

「ヘーゼルは押しに弱いんだから、踏み込んでしばらく粘ればいいんじゃない? 貴方が嫌いだから結婚しない訳じゃないでしょう?」

「奥方様は、御当主様と納得してご結婚なさったのでは?」

「結構強引だったわよ? 意地悪だったし」

何せ、罠に嵌められてお義姉様への想いを吐露させられた上で、張り巡らせた策略を上回られたのだ。

負けたと思ったし、悔しくもあった。

「ですが、それでも婚約を結ぶに足る理由があったのでしょう」

「そうね。お義姉様を助けるって言ってくれたわ。それに、私自身もエイデスのことは好きだったし。多分、それが最善の形だったとは、今なら思うわね」

「つまり、納得なさっておられたという話です」

動じるでもなく、かといって冷たい訳でもなく、ただ事実を口にするように、シドゥがそう口にする。

「確かにそうね。でも、貴方もエイデスに負けないくらい魅力があると思うけれど」

「光栄ですが、身に余る評価ですね」

シドゥが、そこでようやく小さく笑った。

ーーー本音なのだけれど。

彼はウェルミィよりは背が高いけれど、一般的な男性としてはだいぶ低いので、外見だけを見る者ならその一点だけで、評価を下げるかもしれない。

けれどヘーゼルは、逆に女性では背が高い方であり、彼女もシドゥもお互いにそれを気にしている様子はなかった。

となると、熊のように鍛えた筋肉で身を 鎧(よろ) った彼は、芯もあれば地頭もよく、剣の腕前までライオネルで最高峰に数えられる一人。

正直、相手が事情のあるヘーゼルでなければ、待たせている相手に失望するくらいの傑物なのである。

「奥方様。ジブンは、ヘーゼルの意思を尊重したいんですよ。大切にすることは、どんな形でも出来ます。こちらだけが望むことを押し付けるのではなく、どんな選択であっても、彼女自身に納得して欲しいと思うんです」

「納得して貰う為に話し合う、という選択肢はないのかしら」

「話し合ってますよ。その上で、御当主様夫妻にお仕えすることを優先しているんです」

どうせそれも、ヘーゼルの主張を彼が飲み込むだけで、自分の本心は伝えていないのだろう。

もしかしたらシドゥにとっては、それが『伝える必要のない真実』なのかもしれない。

そう思うと、マイラーがヘーゼルとルトリアノの関係性に一石を投じたのも、分からなくはないとも思った。

「ヘーゼルはあの啖呵で吹っ切れた、と私は思っているけれど」

「ジブンもそう思ってますよ。その内、何か話してくれるかもしれません」

「それまで、また待つの?」

「ええ。ヘーゼルの気持ちに何か変化が起こるまでは。それに、今でも十分幸せですよ。ヘーゼルもそう思っているでしょう」

「頑固ね」

「それだけが取り柄ですから」

「貴方だけじゃなくて、ヘーゼルも、って意味よ。お似合いね、あなた達」

正直、ヘーゼルはシドゥにベタ惚れである。

ミザリとどっちが大切かと問われたら、その質問には答えられないくらいには、信頼して心を預けている。

「奥方様」

「何かしら?」

あくまでも視線は護衛対象であるヘーゼルに向けたまま、表情も変えなかったけれど。

職務から離れた時、彼が笑みと共によく見せる陽気な色を瞳に浮かべて目を細め、シドゥはこう口にした。

「 俺(・) は、そのヘーゼルの頑固さに惚れたんですよ」