軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奇妙な誘拐事件。

そうして、ウェルミィが晴れて出歩けるようになった後。

早速スフィーアを連れて王城に上がり、彼女の侍女のエリンと共にライガ殿下の勉強部屋に放り込んで、ウェルミィは外交日程会議に参加した。

やることはほぼ中央大陸一周である為、色々手配が多いことがよく分かる。

なるべく最短で日程を消化する為に、ルート的に左回り……アーバインが大公国に向かった形を取り、そこから大公国内の鉄道を使い北東へ横断、内海に抜けて帝都へ。

帝都から聖教領国に向かい、そのままさらに帝国東端、東の大陸との間にある古代文明の遺産……二点間大規模転移魔導陣『 門(ゲート) 』を使って大陸間を移動し、東の海を南下。

南東の大島を支配するアトランテ王国を最後に訪問して、ライオネル王国に帰る、というルートだ。

何事もなければ3ヶ月、天候や移動のトラブル等があれば最長で半年程の日程である。

各国への協力感謝と謝礼交渉は早急にこなさなければならない対応ではあるけれど、まだ貴族学校にも入学していないスフィーアを、自分もエイデスもいない状況で置いていくわけにもいかない。

なので、あの子やエリンの負担が少ないように、余裕を持たせた旅程だった。

そんな王城での会議が終わった後、ウェルミィはレオやお義姉様、エイデスと共に王宮側に移動することになった。

ペソティカ男爵の調査が終わったということで、二人に古語で書かれた家系図を見せて、ルトリアノが現れるかどうかを確かめる……前に、きちんと二人にそれを説明しておかなければならない。

特にミザリは体のこともある為、相応の心の準備が必要になる。

呼び出しの際に同席させるのはヘーゼルだけになることもあれば、最悪、呼び出し自体を取り止めることもエイデスと話し合っていた。

情報は欲しいけれど、その為に二人に更なる心労を掛けるのが、あまり好ましくないことに変わりはない。

なのでウェルミィは、二人にどうするかを選んでもらうつもりだった。

その為に、侍女の待機室にヘーゼルを、部屋の前で待機していたオレイアに王妃宮にいるミザリを呼びに行かせた……のだけれど。

「ヘーゼルがいない……?」

「はい! どこにも姿が見えません!」

侍女が一人、待機室からいなくなっただけなのに、王宮の使用人が血相を変えて現れたのには理由があった。

「侍女の待機室の前には、陛下の許可の下、帯剣したオルミラージュ私設騎士団副長、シドゥ氏が立っておられました。中には彼女一人しか居られなかったのですが……ノックしても返事がなく」

中で何かあったのか、と管理人から鍵を使って貰って中に入ると、忽然と姿を消していたのだという。

「シドゥ氏が、『御当主様がたに伝えろ』と言い置いて、飛び出して行かれました! ど、どうやら何者かが移動した際の魔力の痕跡が残っているらしく、おそらく誘拐だと……!」

「エイデス!」

「すぐに向かう。それにミザリも危険に晒される可能性がある。……陛下、早急に人を向かわせていただけますか?」

「ああ。聞いたな?」

人目のある場なので、レオに対してそう告げたエイデスに、レオは別の使用人に声を掛ける。

多分、王城内であればツルギス卿含む騎士団の精鋭か、アダムス様を向かわせるのだろう。

「ヘーゼル失踪に関して、他に何か不審な点はあるか」

「少なくとも、侵入者に反応する魔導陣等の発動は報告されておりません……!」

「部屋の中で、窓や天井裏などの経路を使った可能性は」

「窓は人が通れる大きさではなく、見る限り、部屋の中に不審な点は特にございませんでした」

カツン、と杖をついて歩き出したエイデスが次々と問いかけるのに、使用人は必死で答えている。

その後ろについて行きながら、ウェルミィは考えた。

ーーーこのタイミングで?

ルトリアノの出現が、ヘーゼルや〝精霊の愛し子〟に関連した話ではないか、とエイデスが疑問を覚えた後に、この状況。

偶然にしては出来すぎてはいないだろうか。

しかも、ここは王城である。

人を……それもウェルミィの側付き侍女であるヘーゼルを拐うなら、もっと楽な状況がある筈だ。

侯爵邸本邸からあの子に言付けの用事で出すこともあるし、ウェルミィと二人で買い物に出かけることもある。

「わざわざ、何でここなのかしら……」

ウェルミィがポツリと呟くと、エイデスが耳聡く聞いていて、あっさりと答えを口にした。

「お前とヘーゼルが離れることは少ない。まして、先日まで外出を控えていたから、誰かと連絡を取ることもなかっただろう。……お前が外出する際に、私は必ずヌーアを護衛につけている」

「……そうね」

オルミラージュ侯爵家の侍女長で、年齢不詳の女性の名である。

今も目立たないけれど、密やかにウェルミィ達の側に控える彼女は、オルミラージュ侯爵家の〝影〟の長でもあり、裏の世界でも〝至高の暗殺人形〟と恐れられる存在なのだ。

彼女の目をくぐり抜けるのは、確かに難しいだろう。

「どっちがより困難か、ってことなのね」

「ああ。シドゥはどうした?」

「王城内なので、兵士が止まるようにと追っておりますが、まだ追いつけていないかと……」

使用人が言うには、シドゥだけ見えている魔力の痕跡がとんでもない経路を通っていたように見えた、らしい。

彼は待機室から魔力の痕跡を追って壁に手をつけた後、隣の部屋に繋がっているのを確認して回り込んでドアを蹴破った。

そして中を眺め、その後、廊下を駆け抜けて五階のテラスから飛び降りて、裏庭に姿を消したらしい。

「……無茶をする」

「相手がヘーゼルだから、仕方ないわ。シドゥを追ってる人達は災難ね」

ウェルミィ自身も逸る気持ちを抑えているけれど、恋人が、自分が護衛していても気づかずに拐われたとなれば、そうなるのも分かる。

ましてシドゥは、そもそも各国の英傑と互角以上に打ち合えるくらい強い為、相当の手練れでも本気になった彼に追いつくのは困難だろう。

待機室の前に着くと、エイデスも魔力の痕跡が見えたのか、軽く目を細めた。

「ヌーア、見えるか?」

「薄く消えかけておりますが、えぇ、まだ追えますねぇ」

「では、行け。王城内を動き回ることに関しては、 陛下(レオ) の追認を得ておく。その先にいるシドゥと共にヘーゼルの救出に向かえ」

「えぇ、えぇ、畏まりました」

ヌーアがするりと動き始めると、エイデスは待機室の中を眺めた。

「何か分かる?」

ウェルミィには……というかそもそも熟練の魔導士以外には……『魔術を使った後の痕跡』というのが視認出来ないので、そう問いかけると。

「……〝土〟の血統固有魔術と、〝水〟の血統固有魔術が、同時に使用された形跡がある……」