軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋人からの贈り物【後編】

『ちゃんと体が治って、君が良ければ。俺と、結婚してほしい』

そう言われて、ミザリが目を見張った。

まんまるの目のままで、巾着袋とウーヲンを見比べている。

「君の返事が、俺にとって色良いものなら。その時に、俺はこの実を、指輪にしてもらおうと思う」

ミザリの左手の小指には、ピンキーリングが嵌まっている。

『幸福は左手の小指から流れ出す』と言われており、ウーヲンがそれを逃さない為に作って欲しいと願い、お義姉様が【整魔の腕輪】と同様の効能を持たせたもの。

意匠は 紫月花(ハイドラ) 。

水瓶の意を持つその花の花言葉は『美しく儚いもの』と『水面の如く揺れている』、である。

―――『美しく儚い貴女の幸せが、逃げてしまわないように』。

さらに、夜に花開く 紫月花(ハイドラ) を男性から女性に贈る時の、恋にまつわる花言葉は……『微睡むように柔らかな恋を』。

「ミザリのことを知った後、ずっと考えてた。俺が自分の力で、君に出来ることを。そうしたら、イングレイ爺さんがヒントをくれたんだ」

それが、【賢者の石】を作り出すきっかけになった、と。

「君の体を治せるかもしれない、と言われた。だから、土いじりしか出来ないこの手でも、出来ることを頑張った。ミザリの左手の薬指に、俺から贈るのに相応しいものを、って」

ウーヲンは、大公国〝水〟の公爵家の血統であり、それが判明した後から、生活に困らないだけの金銭を贈られている、と聞いていた。

なのに、基本的にはそれに手をつけず王妃の庭師として働いているから、お金は十分にある筈だ。

でもきっと贅沢なものではなく、ウーヲンはミザリに『真心』を送りかったのだろう。

ウェルミィには、そう感じられた。

「ミザリの傷が、全部、本当に癒えたら……その時に、返事を聞かせてくれないか?」

話すのが苦手な彼らしく、言いづらそうに。

けれどきちんと伝えたいことを言い切ったウーヲンに、ミザリはまた、涙を溢した。

「そんなの、無理だよぉ……」

「……ダメか?」

「違うよぉ!! ミザリ、そんなの待たないよぉーーーー!!!」

ミザリは、膝をついたウーヲンに飛びつくように抱きついた。

「うぉ……!?」

「すぐしよぉ〜〜〜〜〜!! ミザリ、ウーヲンと結婚するよぉ〜〜〜〜!!!」

「いや……もうちょっと、考えても」

受け止めたウーヲンは姿勢を崩しかけたが、そもそも庭師は体力仕事である。

体がしっかりしているので、倒れ込むようなことはなかった。

「考えなくていいよぉ〜〜〜!! ミザリ、ウーヲンのこと好きだもん!!!! 嬉しいよぉ〜〜〜〜!!!」

「……そ、そっか。ありがとう」

「ミザリこそ、ミザリを好きになってくれてありがと〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

わんわん泣かれて、困ったようにこちらを見るウーヲンに、ウェルミィはお義姉様と目を見交わした。

「邪魔みたいだし、お 暇(いとま) しようかしら」

「ええ」

「いや、ちょっと」

狼狽えるウーヲンに、ヘーゼルがちょっと気恥ずかしそうに目を逸らして、シドゥがおかしそうに吹き出す。

「……もっと人目のないところでやってくれない?」

「くっ……幸せにな、お二人さん」

そうして、ウーヲンの訴えは聞かずに、ウェルミィ達は二人を残して部屋を出る。

オルミラージュ本邸の私室に帰り、シドゥとも別れると、二人きりになったヘーゼルがポツリと呟いた。

「結婚、かぁ……」

その声音に、ちょっと羨ましそうな気配を感じて、ウェルミィは反応する。

「あら、ようやくその気になった?」

「ち、違ッ……そういう意味じゃないわよ!!」

「あらそう?」

ーーー素直じゃないわねぇ。

まだ焦らす気らしいヘーゼルに、ウェルミィは片眉を上げる。

ーーーシドゥも大変ね。

はたから見たらどう考えても添い遂げるようにしか見えないのに、いつまで意地を張るのだろう。

シドゥにちょっと同情しながら、ウェルミィは面白いのでさらにヘーゼルをからかう。

「 私がエイデスを(・・・・・・・) 誘惑した(・・・・) 時なんて、まだ19だったんだけど」

「誘……!?」

顔を真っ赤にするヘーゼルに、ウェルミィはふふん、と胸元に手を添える。

あの時は必死だった。

お義姉様を助ける為に何を差し出せるのか、と問われて、ウェルミィはこう答えたのだ。

『この体くらいしかないわよ。でも、少しは楽しめると思わない? ……お義姉様には劣るけど、それなりに綺麗でしょう?』

と。

その後、実際に二人きりになったら恥ずかしがってしまったのだけれど、そんなことヘーゼルは知らない。

ウェルミィは自信満々な態度を作って、そんな事実はなかったかの如く煽っていく。

「グズグズしてると、逃げられても知らないわよ? シドゥはいい男じゃない。背が低いのが気になってるのかしら」

「そんなこと、気にしてるわけないでしょ!!」

ーーーまぁ、知ってるけど。

ヘーゼルが恋心に自信が持てない頃から相談に乗っていたので、当然のことである。

でもこの子は、ちょっと強めに色々周りから刺激が入ると頑張れるけど、落ち着いてくると尻込みしてしまうタイプだ。

多分、ヘーゼルの中での結婚生活そのもののイメージはもう悪くない、と思う。

グリンデル伯爵家の家族生活のイメージは散々なものだっただろうけれど、ウェルミィやお義姉様を見ているのだから、幸せなもの、という意識もある筈だ。

シドゥに問題があって上手くやれない、と思っている訳でもないだろう。

ただ、自分がそうなれるかどうか、については、きっとまだ迷いがある。

ーーー色々無くした経験、って、やっぱり人を臆病にしちゃうものね。

ヘーゼルとシドゥが結婚したって、多分オルミラージュでの生活も二人の関係性も、何も変わらないのだけれど。

そこまで意識が及んでいないまま、今までズルズル来ているのだから。

今回のことは、いい機会である。

「別に結婚したってクビにしたりしないから、本当にちょっと前向きに考えてあげなさいよ」

それに対して、ヘーゼルは返事をしなかった。

代わりに、ちょっと不貞腐れたように横を向いたので、ウェルミィは肩を竦めた。

【おまけ】

ーーー後日。

「そういえば、ウーヲンって何であんな狼狽えてたのかしら? ミザリって泣く時ウーヲンに会いに行ってるって話だったのに」

「気になりますか?」

「シドゥは知ってるの?」

すると、彼は面白そうにこう教えてくれた。

「『悲しくて泣いてる時はただ側にいたらいいけど、嬉し泣きされたらどうしたらいいか分からなかった』んだそうですよ」