軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウェルミィの御旗の下に。

ヌーアの言葉に、ブラードは苦笑した。

「確かに『ウェルミィ・リロウド』嬢の訪れがもう少し早ければ、このような事にはならなかったでしょうね」

彼女が現れたのは、その後のことだ。

『もう一人のウェルミィを連れて来て、協力して貰おうと思う』

そう宣言した『語り部』の手で彼女が連れて来られてから……彼は徐々に変わった。

自分の目的の為には手段を選ばなかった冷酷な彼に、『罪悪感』というものが芽生えた様子が、見えるようになって来たのだ。

たまに〝夢〟で顔を合わせる程度であったが、いつ見ても幼な子を教育するように、『ウェルミィ』は『語り部』に容赦がなかった。

『何でこんな、頭でっかちの赤ん坊に、あなた達は良いように使われてるのよ!? 信じらんないわ!』

と、一度ブラードも怒鳴られたことがある。

あの時は、呆気に取られたものだ。

だが『語り部』が『ごめんね、ごめんね』と、人に謝るような素振りを見せるようになったのは。

『どうしたら良いかな? どうしたら悪くなくなる?』と、人を気遣う素振りを見せるようになったのは。

紛れもなく、彼女の功績だった。

『どうしよう、どうしよう。ウェルミィ』

過去にやったことを怒られる『語り部』は、『ウェルミィ』を頼るようになった。

しかし彼女は、それ自体を重ねるように責めることは一度もなかった。

『やっちゃったものは仕方ないでしょ! 後悔したって時間は戻らないのよ! 迷惑掛けたと思うなら、これから良くするのよ!』

と。

ブラードは、オルミラージュ侯爵に対しても、思わず笑みを向けてしまう。

こんな場だというのに不謹慎だとは思うが。

そう、あの『ウェルミィ』は確かに、思い出だけですら、人を笑顔にする力を持っていたのだ。

「本当に、貴方の奥方は凄まじい人です。あの『語り部』すらも、あっという間に籠絡してしまった。ヌーアの言う通り、イズィースを通した養護院への支援や、帝国への根回しの指示等、私の知る限り彼女が関わった件は全てより良い方向に向かうようになりました」

オルミラージュに対する刺客の情報等も、ブラードの知り及ばぬことまで『ウェルミィ』は『語り部』から聞き出し、ヌーアに流すように命じたのだ。

「……だから、何か事が起こる際には、ヌーアが確実にオルミラージュ本邸に居たのか」

「そうですねぇ。あれ以来、殺しはありませんでしたがねぇ。ウーヲンも、えぇ、私はブラードとは違い、しばらく眺めることが出来ましたねぇ」

強かで冷徹な妻の物言いに、ブラードは思わず眉根を寄せる。

「……不公平だな」

「役得ですねぇ。ウーヲンも良い職場に入り、好い人も出来たようで、何よりですねぇ」

ヌーアの言葉に首を横に振り、話を戻す。

「オルミラージュ侯。これでも貴方は、私を許しますか?」

※※※

「……ハイドラ公爵代理」

エイデスは、目の前の自責の念が強い男に、どう声を掛けるべきか、少しの間迷った。

だがきっと、ウェルミィなら。

『人は神ではないのよ。何が正解かなんて分からないんだから、そんなこと考えるだけ無駄よ』

『エイデスのやりたいように、やったら良いのよ』

彼女なら、そう言うのだろう。

だからエイデスは、なるべく素直な自分の気持ちを告げる。

「父母らの件、義母と義姉の件は、貴方の責任ではありません。正確には、この期に及んで誰かの責任を問うことを、私はしません」

すると、ブラードはどこか諦めたような表情になり、一つ頷いた。

エイデスは、さらに言葉を重ねる。

「個人の感情としては、誰一人『語り部』を止められなかったことに対する負の想いはあります。……ですが、それは私も同様」

止められなかったブラードに責任があると言うのなら、何も知らなかったエイデスにも責任はあるのだ。

ルトリアノの事に、気づいていれば止められたことと、それは同様。

だが、そうはならなかった。

人は、神ではないからだ。

だから、エイデスは元凶以外の責任を問うことを、しない。

「私は願います。後悔に苛まれようとも、その死を悲しむ誰かがいる限りは、貴方に生きて欲しいと思う。……義母と義姉は、策略によって。私の友人は、罪と後悔に押し潰されて死んでしまった。そんな気持ちを、私は他の誰かに味わって欲しくはないのです」

ブラードは、守る為に戦ったのだ。

己の破滅と引き換えに、最愛のイオーラの幸せを願ったウェルミィのように。

感情を失ってしまった自らを封じてでも、皆の幸せを願ったズミアーノのように。

「幸せになる権利は、全ての者にあるのです。……ブラード・ハイドラ公爵代理、貴方にも」

人は救われていいのだ。

絶望の、後悔の先に、それでも幸せが待っていることがあるのを、エイデスは知っている。

他者の為に、幸せな未来を志したのなら。

たとえ間違った行いをしたのだとしても……許されて良いのだと、知っているから。

「これからは、ご自身の幸せの為に生きて下さい。生きられなかった、迷惑をかけた者達の為にも。それが、今を生きる者の為すべきことだと、私は思います」

すると、ブラードは体から力を抜き……ゆらりと顔の辺りが揺らめいて、容姿の印象が変わった。

ウーヲンによく似た、しかし彼よりも年老いた顔。

それが、ブラードの本当の顔なのだろう。

偽りの仮面を脱いだ彼が、小さく頭を下げる。

「エイデス・オルミラージュ侯爵。御温情に、感謝を」

「私は何もしておりません。感謝は、私の知らない、あなた方の『ウェルミィ』に」

それだけを告げて、エイデスは彼に背を向けた。

「ヌーア。話すのであれば、しばらく側を離れることを許すが」

「不要にございますねぇ。えぇ。会いたければ、ブラードが来れば宜しいことですのでねぇ」

彼女は変わらない。

ブラードもそれで良さそうなので、エイデスはその場を去る。

この胸に渦巻く感情は、すぐには収まりそうにはないが……ウェルミィと話し、この腕に抱けば、きっと晴れるだろう。

エイデスの最愛の妻は。

ただ側にいるだけでも至上の幸福を自分に与えてくれる、唯一無二の女性なのだから。