軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エサノヴァ・デスタームの正体。

「ーーーよくやったわ! 流石私ね(・・・・) !」

お義姉様が救いだされた瞬間……そう声を上げたのは、エサノヴァだった。

防御結界が解かれ、お義姉様の下に向かおうと体を離したウェルミィと、エイデスの間を、身を屈めるように駆け抜けて……。

ウェルミィとエイデスの胸元から、〝 太古の紫魔晶(ロストヴァイオレット) 〟と〝 希望の朱魔珠(ウィルヴァーミリオン) 〟を引き千切る。

「「!?」」

全く反応出来ない速さで動いた彼女は……朱の瞳を煌めかせて、勢いの緩みかけた瘴気の塊に向かって思い切り地面を蹴った。

「イズィース! 後は任せたわよ!!」

そうしてエサノヴァは、思い切り朱と紫の魔宝玉を、瘴気の穴の中に投げ込んだ。

その途端、空中にある彼女の体から力が抜ける。

地面に叩きつけられる前に、ソフォイル卿達と一緒に吹き飛ばされていたイズィースが、部屋の奥から駆けて来て娘の体を受け止め、勢いで床に転がった。

ーーーエイデス!

どこか聞き覚えのある声が、幻聴のように響くと……そのまま、瘴気の塊に異変が起こる。

漆黒の球体が弾け飛んだ、と見えた直後に、まるで閉じかけていた穴の中に自身を吸い込むように徐々に徐々に縮んで行き……ある程度霧散しながらも、完全に消え失せていく。

ーーーよくやった。

それもまた、聞き覚えのある幻聴。

毎日聞いているその声の主に、ウェルミィが目を向けると……彼は静かに首を横に振る。

「私ではない。先程の私に対する呼び掛けも、お前ではないだろう?」

「ええ……」

先ほど聞こえた幻聴は…… 自分達の声(・・・・・) だったのだ。

「結局……何だったの?」

※※※

ーーー時間は少し遡る。

瘴気の塊に取り込まれた直後から、イオーラは自分の体から魔力が奪われて行き……同時に何かが流れ込んで来るのを感じていた。

それは、意識。

おそらくは、『語り部』のもの。

『ごめんね、ごめんね。こうするしかなかった。なかったんだ。君とウェルミィには、ごめんね』

『何を、謝っているの?』

『こうするしかなかったんだ。僕は生きたい。生きたいから。少しでも自由に外に出たかったんだ。もう少しで、それが叶うんだ』

まるで独り言。

そして老人というよりも、幼い子どものような。

『貴方は、一体何を望んでいるの?』

『ウェルミィが必要だったんだ。必要だった。僕を救って欲しかった。君を救って欲しかった。だから、だからだ』

『ウェルミィが? わたくし達を?』

『そうだよ、そうだ。彼女じゃなければいけなかった。そうでないと、無理だったんだ。どんな未来でも、夢を渡っても、他の誰も、代わりにはならなかったんだ』

イオーラから、瘴気に魔力が奪われる速度が、僅かに緩む。

同時に覚えた僅かに温かいその感覚は……癒しの力だろうか。

『あの子には……ウェルミィには、何があるの?』

『意志だ。意志。誰よりも強い意志がある。突き進む力がある。与えられた力ではなく、彼女自身の力があるんだ。だから来た。ほら来たよ。君を救う力が来るよ』

言われて、イオーラは気付く。

漆黒の闇の外に、輝くような意志の煌めきを感じる。

それはきっと、『語り部』の力なのだろう。

イオーラと混ざろうとしている彼の力が、それを見せている。

13(・・) の、夜空に輝く星のような、意志が見える。

ゴルドレイの、オレイアの、ソフォイル卿の、テレサロの。

バーンズ様の、ブラード様の、ムゥラン様の、イズィースの、エサノヴァの。

そして、特に輝いているのは。

レオの、エイデス様の、そしてウェルミィの。

ーーーあの、もう一つは?

『来るよ! 来るよ! ウェルミィが来るよ!!』

そうしてイオーラに伸ばされたのは……けれど、レオの腕。

ーーーウェルミィ? どういうこと?

『さよなら、さよなら、〝精霊の愛し子〟。ありがとう、君とウェルミィの未来に、これからも幸せを願うよ、願う。だから許して。許してね』

そうして、『語り部』との意識が途切れる。

外に引き出され、レオの腕にしっかりと抱かれたまま、彼女の声を聴く。

愛しい、妹の声を。

「お義姉様!」

イオーラが、薄く目を開いてそちらを見ると。

きらきらと煌めく何かが、視界を掠めた。

それは、二種類の宝石で。

ーーーごめんなさい、お義姉様。

その宝石から、『声』が聞こえて。

ーーーエイデス!

何処か嬉しそうな色合いを帯びたそれが、瘴気の中に消えていった。

※※※

「お義姉様!」

ウェルミィが疑問を抱いたのは、一瞬だけだった。

それよりもまず、お義姉様だ。

駆け寄ってその側に膝をつくと、瘴気の消えた場所を見つめていたお義姉様がこちらを見る。

「大丈夫!? お義姉様!」

「ええ、大丈夫よ」

青白い顔をしているけれど、お義姉様は微笑んだ。

テレサロとオレイアも近付いて来て、テレサロが癒しの魔術を掛ける。

と。

「あ、居たねー」

「「無事ですか!?」」

声のした方向に目を向けると……あの場に居なかった五人が、いつの間にかそこに居た。

声の主は、ズミアーノとツルギス様、それにシゾルダ様。

「良かった……誰の姿も見えなくてね」

「えぇ、えぇ。ご当主夫妻を見失い、人生で初めて死を覚悟致しました」

続いて、ホッとしたようなヒルデとヌーアに、ウェルミィは首を横に振る。

「あなた達のせいじゃないわ」

夢に取り込まれたことに気付くまで、エイデスですら時間が掛かったのだ。

「で、これどういう状況なのかなー?」

彼らからしてみたら、いきなりウェルミィ達が現れたように見えているのだろう。

しかも、お義姉様とエサノヴァが倒れている。

「どういう状況かは……お前に聞けば分かるのか?」

エイデスはまだ警戒を解いていない様子で、エサノヴァを抱き抱えたイズィースを見据えていた。

「ブラード様も、まだ何かご存知の様子だが」

エイデスに声を掛けられた二人は、お互いに目を見交わす。

そしてイズィースは静かに微笑み、ブラードは厳しい表情で目を閉じた。

「知っています」

「ブラード様。私の方から、ご説明しても?」

「ああ……」

イズィースはブラードの了承を得てから、改めて意識を失ったエサノヴァを抱いたまま、こちらに目を向けた。

「ここまでが、お館様と…… ウェルミィ様の(・・・・・・・) 計画通りだったのです」

「私?」

何が計画通りだというのだろうか。

そもそもウェルミィは、ここで会うまで『語り部』のことなど知らなかったというのに。

しかしイズィースは、首を小さく横に振る。

「今ここにあらせられるウェルミィ様ではございません」

「……?」

ウェルミィは、さらに重ねて告げられた彼の言葉の意味を、それでも理解出来なかった。

「この計画を立てたウェルミィ様は……エサノヴァの体を借りてこの世界に存在していた、もう一人のウェルミィ様です」