軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大公国からの手紙。

ーーー大公国来訪の二ヶ月前。

「どうしたの?」

ウェルミィが入浴を終えて、本邸の執務机の前に立って難しい顔をしているエイデスに声を掛けると、彼はチラリとこちらに視線を向けた。

「……大公国から手紙が来た」

「大公選定の時の招待状?」

「いや、封の形から、〝土〟の領地より送られたものだと推測している。おそらく、相手はエサノヴァか父である元・子爵だろう」

何処となく沈んだ様子のエイデスに、ウェルミィはそっと近づいた。

机には手紙の他に、何度も読み返したと思われる跡のついた古い書類を綴ったものが置かれている。

「どんなことが書かれていたの?」

裏で色々動いていたらしい二人。

目的が読めない彼らから、また何か仕掛けられたのか、とウェルミィは身構えていたけれど。

「ーーー 義母(はは) と 義姉(あね) を害した魔導具を仕掛けたのは、〝水〟の大公であるという告発だ」

想像よりも衝撃的なその内容に、ウェルミィは息を呑んだ。

「確かな話なの? それは」

エイデスが、呪いの魔導具を憎むようになった元凶。

そして左手の火傷痕の原因となった、その事件の犯人が分かったというのなら……それは、冗談では済まされない話だ。

「証拠となりそうな流通ルート、実行犯と思しき人物名、魔導具に秘められた大公国式魔導陣との類似性などが、記されている。……魔導陣の類似性に関しては、こちらで調べたものと一致する」

それは、エイデスの追い求め続けていたもの。

彼が、魔導省の長に上り詰める程の努力をする原動力となった心の傷なのだ。

「……信じたい?」

ウェルミィの言葉掛けに、エイデスは弾かれたように顔を上げた。

「どうしたの?」

エサノヴァは、お義姉様を守る側の人間だと、ヤハンナ様は言っていた。

正直ウェルミィ自身にはまだ疑わしいと感じられる話だけれど……味方なのなら、嘘の情報で惑わすような真似はしない筈だ。

「信じたいかどうか……か」

「ええ」

ウェルミィは、何故エイデスが驚いているのか分からなかった。

「だって、エイデスが悩んでるってことは、情報が正しそうに見えるのでしょう? 多分、情報を送ってきた相手は何か企んでいると思うけれど、それが良いようにこちらを操ろうとしてるだけなら、貴方なら気付く筈だわ」

偽の情報、というものに、エイデスは基本的に踊らされない。

ウェルミィの仕掛けも、ズミアーノの行動の違和感も、最初に気付いたのはエイデスなのだ。

エサノヴァの怪しさに気づいて、イングレイお義父様を庭師として本邸に潜り込ませたのも。

「でも、気持ちの整理だけが、ついてないのよね?」

追い求めたものが、突然ぽん、と目の前に置かれたら、普通は戸惑う。

エイデスに全てをひっくり返された時に、ウェルミィが混乱してしまったのと同じように。

そして差し出されたものが真実であるかどうかを、咄嗟に疑ってしまうのだ。

「そうか。……そうなのかもしれんな」

「実際、どうなの?」

「裏取りは必要だが、おそらく確度が高い情報だと思えた」

「なら、良いじゃない」

ウェルミィはわざと、エイデスに向かって酷薄な笑みを浮かべてみせる。

「追い求めた犯人が、とうとう見つかったのよ? だったら後は、他人の人生を踏み躙ったらどうなるか、思い知らせてやるのよ!」

エイデスは、いつだって弱い相手の味方だった。

悩んで、もがいて、苦しんでいる人々の味方だった。

お義姉様やテレサロみたいな境遇の相手だけじゃなくて。

アーバインだって、ズミアーノやその周りの人たちだって、あるいは、ローレラルまでも。

間違いを犯したからって見捨てるんじゃなくて、少しでも助ける余地があると思えば手を差し伸べてしまうのが、エイデスだから。

ウェルミィ一人じゃ、どうすることも出来なかった。

陛下に自分の意向を伝えられる程の信頼を勝ち取り、オルミラージュの権威を潰さないように、誰よりも努力して生きて来たエイデスが居なかったら、ウェルミィの関わってきた出来事は、全然違う結末を迎えていた。

そんなエイデスが、ずっと抱えてきた『間違い』と『後悔』を……義母と義姉に対する想いを、少しでも晴らせる機会が巡ってきたのだ。

「ウェルミィ……お前は、いつも私に必要な言葉を与えてくれる」

エイデスが微笑んで腕を広げるのに、ウェルミィは大人しくその胸元に収まる。

黒い手袋をつけた左手で頭を撫でられた。

「ありがとう」

「どういたしまして。私は貴方の妻なんだから、当然だわ」

そんな風に言うエイデスだって、いつもウェルミィに一番必要な言葉や後押しをくれるんだから、お互い様だ。

「因果応報よ、エイデス。やったことの責任は、きちんと取らせないとね」

「ああ。だがその前に……」

ひょい、とエイデスに抱き上げられて、ウェルミィは首に腕を回しながら首を傾げた。

「その前に?」

「可愛いお前を愛でたくなった。寝室に行くぞ」

そう言われて、ウェルミィはボッ! と顔に熱が集まるのを感じた。

「いいい、今から……!?」

「もう入浴を済ませたのだろう? 後は 寝る(・・) だけだ」

ーーーそれ、明らかに意味が違うわよね!?

エイデスとウェルミィは新婚である。

当然、八大婚姻祝儀祭の夜に、 そういうこと(・・・・・・) も済ませている。

済ませているけれど、未だに恥ずかしいのだ。

まして、直接そういうことを宣言されると。

「可愛いな、ウェルミィ。初めてお前を引き取った時のようだ」

「いちいち言わなくて良いのよ! 離して!」

「ダメだ。『何でも言うことを聞く』んだろう? 『黙るな、嘘を吐くな』と言ったのも、お前の方だと思ったが」

「〜〜〜〜〜ッ!」

ーーーそれは、そういう意味で言ったんじゃないわよ!!

あれから二年以上も経っているのに。

エイデスは、相変わらず意地悪だった。