軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.

「何故、朝方屋敷を出られた筈では……?!」

マーベラ夫人が震えながら言う。彼女程では無いが私も驚いていた。

確かに原作ではケビンは気絶したエリカを寝かせたまま王都へ仕事へ行く。

それから半月ぐらい戻ってこない筈だ。

その期間でエリカと使用人の一部そしてレオたちが打ち解ける。

帰って来たケビンは空気が明るくなった公爵邸に驚くというシーンがあった。

「別に急ぎの仕事では無かったからな」

私の心を読んだようにケビンが答える。

実際はマーベラ夫人の疑問に答えただけだろうが。

(彼女は別に理由が知りたかったわけじゃないでしょうけど)

公爵がいないから好き放題していたのにそれを目撃されたから狼狽えているのだ。

しかも口が滑って公爵を侮辱するような発言までした。

そのタイミングで本人が目の前に現れたから後悔と驚きで青褪めているのだ。

二人の様子を観察しながら新たな疑問が浮かぶ。

急ぎで王都に行く必要が無いのに何故原作のケビンはさっさと屋敷を出て暫く帰ってこなかったのだろう。

もしかして初夜が失敗して気まずかったのだろうか。

(だとしたら本当に情けない男ね)

私は呆れながら険しい顔をしている旅衣装のアベニウス公爵を見つめた。

でも今回も初夜は失敗している。なのに戻って来た謎が更に生まれてしまった。

(私が原作と違う行動をした影響が出ているのかもしれないわね)

漫画ならこうやってケビンがマーベラ夫人に対峙するのはもっと後だし、場所も庭でなく公爵邸の踊り場なのだから。

「マーベラ夫人、貴様は俺が顔と若さで妻を選んだと言ったな?」

「い、いいえ。私はただその娘が旦那様の後妻には相応しくないと……」

「それは俺の判断が間違っているということだろう。何が違う」

流石公爵家当主。一言一言に威圧感がある。

前世の価値観なら部下に対するパワハラでアウトだが相手がそれ以上にアウトな児童虐待犯のマーベラ夫人なので私は静観した。

いや静観していては駄目か。私は手を挙げてケビンに話しかける。

「申し訳ありません、私からも一言宜しいでしょうか」

「何……?」

鬱陶しそうにギロリと青い瞳で睨まれる。しかし私は恐れもせずその目を見返した。

視線での脅しをかけられることなんて前世で社長業をやっていた時に何度もあった。

だからわかる。ケビンのこの眼差しは押し切れる。

「……空気を読まない女だな、言ってみろ」

数秒睨み合った結果ケビンが忌々し気に溜息を吐く。

(勝ったわ)

私は軽く礼を言って本題に入った。

「マーベラ夫人は公爵様だけでなくそのご子息のロン様も侮辱しております」

「ちょっ、小娘……!!」

「そして公爵夫人である私のことも、このように小娘と」

私が付け足すとマーベラ夫人はわなわなと口端を痙攣させた。もうその口は閉じてた方が良いと思う。

「ロンへの侮辱……? どういう内容だ」

「先程ですが……」

「ちっ、違います! 私はただ、二度と弟が兄に決して逆らわないようにと!!」

叫びながらマーベラ夫人は私の口を塞ごうとその手を突き出してくる。

彼女の尖った爪が私の唇に触れそうになった瞬間悲鳴が聞こえた。

「ぎゃっ」

「俺の前で見苦しい真似をするな」

ケビンがその手でマーベラ夫人の手首を掴んでいた。

余程強い力なのか彼女は叫んだ後も痛そうな顔をしている。

そのままへし折るつもりじゃないだろうかと私はケビンを見つめた。

すると氷のような瞳で睨まれる。

「話せ」

私は頷いて口を開く。

「マーベラ夫人はロン様に対し不出来な生まれだと侮辱し、結果ロン様は自分を兄の奴隷だと認識しています」

瞬間、公爵の青く冷たい瞳に炎が宿るのを私は見た。

暗く激しい劫火のような炎だ。

「いっ、いたい、いたい!!ケビン坊ちゃま!!痛い!!」

悲痛な叫びが老女から聞こえる。坊ちゃまと呼ばれた瞬間ケビンはマーベラ夫人から手を離した。

力が抜けたのかマーベラ夫人はへなへなとその場に蹲る。

そしてケビンに握られていた手首を片方の手でさすりながらしくしくと泣きだした。

哀れな老人の姿に、けれど同情する者はこの場に居ない。

「マーベラ、貴様は解雇だ。アベニウスは貴様とその夫の一族とも金輪際縁を切る。リリーの死に様を侮辱する奴はこの屋敷に必要無い」

死刑宣告をされたような顔でマーベラ夫人は小さく呻いた。それは嗚咽だったのかもしれない。

そのようなつもりではとうわごとの様に繰り返す彼女を置いてケビンは去っていく。

「……貴方は息子が傷つけられたことより、奥様が侮辱されたことの方が許せないのね」

私の呟きが聞こえたかはわからない。

ケビンは一度も振り返ることは無かった。