作品タイトル不明
47.
何考えてるのだと怒鳴りたくなる衝動を堪える。
落ち着こう。流石に侍女長の行動は常識外れ過ぎる。
何かちゃんとした理由があるのかもしれない。
たとえば交代制の仕事で今は自由時間だとか、中庭の池に落ちたとか、何か納得できる理由が。
そうあってくれという願望の方が強いと自覚しながら私はメイドたちに質問した。
「侍女長は何故今入浴しているの?」
「それは…レオ坊ちゃまが暴れた時に花瓶の水がかかったからです」
「……そう」
私は言葉少なに答える。
ギリギリ納得できないことも無いが微妙でもある。
花瓶の水がかかったぐらいで入浴までするだろうか。
(でも中の水が汚れていた可能性もあるし……ここは一旦流しましょう)
今気になるのはレオが暴れていたという発言だ。
ケビンに威圧され怯え消沈していたが、部屋に戻ってから怒り狂ったということだろうか。
思い出し怒りというのはあるし、怒りを我慢し続けてから一気に発散するという気持ちもわかる。
ただレオが何に対し怒っているのかは確かめなければいけない。
花瓶が落ちる程暴れたというのなら尚更だ。
「それでレオ君は今は落ち着いているの?」
私は彼の状態を確認する。しかしメイドたちは顔を見合わせるだけだった。
「わからないの? なら今彼はどこにいるのかしら」
「た、多分寝室に……」
メイドの一人が口端を引き攣らせながら答える。
夕食前なのにふて寝したのだろうか。その場合変な時間に起きてお腹を空かせそうだけれど。
私がそんなことを考えていると先程まで私の応対をしていたメイドが口を開いた。
「あ、あの……レオ坊ちゃまは少し前に……泣きながら外に出ていかれました」
「泣きながら外に?!」
思わず声が大きくなり、発言したメイドが肩をびくりと震わせた。
けれど彼女を気遣う余裕がない。
「外って、部屋の外よね。 出て行ったのは何分前ぐらい?」
「奥様が来られる二十分程前です」
「それでレオ君はどこに行ったの?」
「わ、わからないです……聞くと怒るので……」
涙目になりながらメイドが言う。溜息を吐きたくなるのを堪えた。
「……それを侍女長には報告したの?」
「い、いいえ。ただアンネさんには報告しました」
そう言って視線で指したのは先程寝室にいると言ったメイドだった。
私が睨みつけると唾を飛ばす勢いで騒ぐ。
「わっ、私そんなこと聞いてないわよ!」
「えっ、でも、報告したらそれが何って……」
「ちょっと、エミリエ!」
「アンネさん貴方、次の就職先を考えておきなさいね」
そう告げながら私は考える。
レオが自室から出たのは四十分以上前。そしてまだ戻ってきていない。
大人なら放置している。けれど彼は子供だ。そして直前まで部屋で暴れて、泣きながら部屋を出た。
自暴自棄になって危険な場所に行ったり、危険な行動をする可能性は否定できない。
実際彼は原作内でケビンとの行き違いで家出をしかけてエリカに危ない所を助けられている。
「今はレオ君を皆で探すわよ」
「えっ、わざわざそんなことしなくても」
「なら貴方は彼が安全な場所にいると断言できるの?」
「それは……その」
私の怒りを逸らす為か卑屈な笑みを浮かべるメイドを引っぱたきたくなるが我慢する。
「笑ってる暇があるなら侍女長に報告してきて。そして心当たりの場所でも聞いてそこを探しなさい!」
「は、はいい!」
「二十分経ったら一度ここに戻るわ。だから一人はここで待機してレオ君が戻ってきたらホルガーかブライアンに報告して」
「わ、わかりました」
「私はホルガーたちに心当たりの場所を確認して探すわ」
「わ、私も一緒にお供させてください!」
気弱なメイドが私に懇願する。
「わ、私が行き先を確認しなかったせいなので……頑張って探します」
「そうね、お願い」
彼女にも注意すべき事柄は幾らでもあるが、それはひとまず後回しにする。
捜索に積極的な姿勢を見せただけでも今この場にいるメイドたちの中では上澄みだ。
その事実に頭が痛くなった。