軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45.

ロンと侍女のマーサは私の提案に協力的だった。

マーサなどカーヴェルが訪れるまでに出来るだけ確認しやすいようにしておくと言ってくれた。

その会話の延長で夕食の話になり、ロンはレオを誘っても大丈夫だと私に告げた。

良い子過ぎて少しだけ心配になってくる。

(気持ちを押し殺して良い子を演じてないか定期的に確認しないと)

私はそう思いながらロンの子供部屋を後にする。

ここまで五分程度だ。

ロンでこれならレオのところも精々十分ぐらいかなと楽観的になった。

しかしそう言った都合のいい考えは大抵裏切られる。今回もそうだった。

「本当に、本当に申し訳御座いません、もう少しだけお待ちください……!」

レオの子供部屋の前、顔を蒼白にしたメイドが震えながら私に言う。

この時点でレオの部屋を訪れてから十五分は経過している。

その間このメイドは何度も扉の前と中を往復していた。

レオとは会話どころか顔さえ見ていない。

今私の前にいるメイドはどうやら彼の部屋の受付みたいな役割をしているらしい。

私が家庭教師の件でレオとその侍女に会いに来たと伝えると、一度中に引っ込んでから「少々お待ちください」と言われた。

そして今までずっと廊下で待たされている。流石に少々の範囲は過ぎているだろう。

待たされるのは仕方がないと思う。予定も無しに突然会いに来たのだから。

しかし十分近く待たされた時点で出直した方が双方の為だろうと私は思った。

だから突然来て申し訳ないと謝罪した上で事前に予定確認してから又訪れると告げたのだ。

あからさまに安堵した様子のメイドはしかし自分の一存では決められないと奥に引っ込んだ。

そして泣きそうな顔で戻って来て「もう少しだけお待ちください」と懇願してきた。

しかしレオも彼付きメイドの代表者も顔を見せることも無く、そして私が彼らの部屋の中に招かれることなく現在二十分が経過した。

その間も出直すと告げてはお待ちくださいと必死に引き止められ、待たなければいけない理由をやんわりと尋ねてもろくな答えが得られない。

わかるのは今私を必死に留めようとするメイドが貧乏籤を引いていることだけだ。

それと私をこのように待たせ続けている理由、それは恐らく何者かの悪意。

(前世でもこういう風にひたすら待たせる嫌がらせをした役職持ち居たわね……)

懐かしさとうんざりした気持ちが入り交じる。

相手の時間を自分の為に無駄にさせることで満たされる何かがあるらしい。

私にそれをした他社の役員たちは恐らく上下関係の優劣をつけたつもりでいたのだろう。

確かにそれをきっかけに上下関係は明確につけさせて貰ったけれど。

彼らと同じ理由で今この引き留めが行われているとしたなら、レオの悪戯だろう。

もしくはレオ付きメイドたちが公爵夫人である私に上下関係を叩き込もうとしている。

(流石にそこまで愚かかしら?)

内心で問いかけるが明確に否定出来る材料は無かった。

私は彼女たちの顔も名前もろくに知らないのだ。

漫画内でもレオ付きメイドたちは彼の背景の一部みたいなものだった。

後はエリカに懐いたレオが「俺のメイドに準備させておく」と便利に使っていた。

ロン付き侍女のマーサと違って名前すら覚えていない。まるで数の多さと引き換えに個性を奪われたようだ。

(でもレオがエリカを嫌っていた時に後ろでヒソヒソクスクスはしていたわね)

その集団の中に目の前のメイドは含まれていただろうか。それさえわからなかった。

ただメイド集団の中で権力を持っている者が私に悪意を抱いている可能性が高い。

(ヒソヒソと言えば、そういう気配は先程からずっとしているのよね)

何度も開け閉めするのが面倒になったのか現在子供部屋の扉は半開きになっていた。

そして廊下はとても静かだ。私と受付のメイドが沈黙してしまえば無音になる。

代わりに扉の内側から複数人の気配やざわめきが強くなったのだ。笑い声まで聞こえてくるし、それも大分遠慮なしになっている。

そろそろカーヴェルも食事を終えた頃だろう。私は時間潰しも兼ねた様子見を止めた。

そして目の前のメイドに耳打ちする。彼女の潤んだ眼が見開かれたのがわかった。

次の瞬間私は声を張り上げる。

「やだっ、やたら脚の多い虫が廊下に!!」

そう言いながらドレスのポケットを探り目的の物を掴む。

「レオ君の部屋に入って来るわ!あの子が刺される前に扉を閉めなきゃ!!」

叫ぶと固まっているメイドごと室内に押し入り、パタンと扉を閉める。

「何てこと、虫まで入って来たわ!!まさか飛べるなんて!!」

それと同時に他のメイドが潜んでそうな場所に持っていた物を投げる。

途端複数の女性の悲鳴と何かが割れるような騒音が部屋を満たした。

そこにレオの声が含まれてなかったことに安堵と同時に情けなさを感じた。