軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.

「兄弟に差をつけて育てるにしても限度があると私は思うわ、しかも二人しかいないのに」

「だからよ!」

私の指摘にマーベラ夫人は即反論した。

多分今檻の中に指を入れたら噛みつかれるだろう。そのような勢いだった。

「二人しかいないから、余計弁えさせる必要があるのよ。決して自分が兄に成り代われると勘違いしないように……!」

「マーベラ夫人!」

咎めるような強い声は私ではない。

今まで女同士のやり取りを困惑したような顔で見守っていた家令のホルガーだった。

「どうか、もうこれ以上は……!」

「うるさい、貴方だって当時私を庇ってくれなかった癖に!!」

憎しみを私ではなくホルガーに向けマーベラ夫人は叫ぶ。

「元々は奥様がアルヴァの事ばかり可愛がって増長させたせいであんなことになったのよ!!」

「マーべラ夫人、もう黙りなさい!」

「何よ、あんただって本当はケビン坊ちゃまよりアルヴァの方が相応しいと思っていた癖に!」

「違う、私はそんなことは思っていない!」

私をそっちのけで意味深な争いをする老人二人。

あのホルガーが黙れと声を荒らげたということは余程聞かれたら困る話のようだ。

二人とも対面の場にこの地下牢を指定した私に感謝してほしい。

(アルヴァって……確かケビンの弟よね)

私はマーベラ夫人から出た名前と同じ名前を持つキャラを頭に浮かべる。

ケビンとレオの中間ぐらいの年齢の青年を思い浮かべた。

アルヴァ・アベニウス。ケビンに良く似た顔をした彼の弟。

ケビンと共にリリーと幼馴染。昔は兄弟仲が良かったが、成長するにつれて対立。

そして既に故人。

子供時代のケビンやアルヴァやリリーが花畑で遊ぶ光景や、成長したケビンとリリーが寄り添っている姿を暗い目で見るアルヴァのシーン。

そしてケビンとアルヴァが掴み合いの喧嘩をし「お前さえ居なければ」という呪いのような台詞の後にケビンが墓参りする姿。

漫画「一輪の花は氷を溶かす」内で出て来た彼の情報は意味深な物ばかりだが、意味深なだけで終わった。

多分本編完結後に描きたいと作者が繰り返し言っていたケビン過去漫画で触れるつもりだったのだろう。

(でも……前世の私にはそれを読む時間が残されていなかった)

私は数年の闘病の末に死亡したのだが、末期は流石に漫画を読んでいる余裕など無かったのだ。

ただ目の前の二人の会話でケビンとアルヴァの関係は多少わかった気がする。

ケビン兄弟の母親は弟ばかり可愛がっていた。

アルヴァは弟の立場でありながら次期公爵の立場を欲し、それを支持する使用人たちもいた。

ただ現時点で公爵はケビンなので家内クーデターは起きなかったか失敗したと思われる。

それが原因かは判らないがアルヴァは死亡している。

(マーベラ夫人はアルヴァの教育失敗を咎められたから弟を過剰に抑圧支配するようになった?)

私はホルガーに唾を飛ばす勢いで怒鳴り続けている彼女を眺めながら思った。

ただそれだと新たな疑問が生まれる。

ケビン兄弟の教育に失敗したと咎められた彼女がその後もアベニウス公爵家で家庭教師を続けられるものだろうか。

アルヴァの反乱がマーベラ夫人の責任問題になったなら解雇されているのでは。

「……私は再び雇用してくださった、ケビン坊ちゃまのお役に立ちたいだけなのよ!」

まるで心の声を聞いていたようにマーベラ夫人が叫ぶ。

成程ケビンが再雇用したのか。それなら納得出来る。

私は考えを纏めると口を開いた。

「マーベラ夫人、つまり貴方は公爵様への恩返しのつもりで、ロン様を絶対兄に反抗しないよう教育したと?」

「そうよ!今度こそ私は失敗しないのよ!」

目を血走らせてマーベラ夫人は笑う。反省も後悔もその狂った瞳には宿っていなかった。

「いいえ、失敗するわ。だって貴方……凄く馬鹿だもの」

「……は?」

私の発言が理解出来なかったのかマーベラ夫人は口をぽかんと開けてこちらを見ていた。

もしかしてこの人、馬鹿って言われたことが無いのだろうか。私は小首を傾げながら言葉を続けた。

「兄弟に仲違いさせたくないなら、兄は王で弟は奴隷なんて一番やってはいけないことだわ」

そう、これは貴族とか関係なく育児の基本だ。

大人たちが子供たちにお前は兄姉だから、或いは弟妹だからという理由で片方だけに不遇を押し付け続ければそれだけで恨み妬みが生まれかねない。

そして限界まで蓄積されたそれは排除意志に変化する。

「奴隷扱いが不満になった時、弟はこう思うでしょうね……自分が先に生まれていれば、兄さえいなければと」

「なっ……」

「つまり貴方のやったことは、全部裏目に出るの。同族経営の長男と次男なんて寧ろ結束させなきゃいけないのに無駄に対立構造作るとか何考えてるのよ!」

しまった、前世の 自分(女社長) が出すぎてしまった。息子たちは上手くやれているだろうか。

そんなことを考えていると場違いな拍手が聞こえる。

「その通りだ、メイドの娘の癖に良く知ってるじゃないか」

「あ、貴方は……!?」

私を睨んでいたマーベラ夫人の顔が驚きに変わる。

厭味ったらしい台詞に振り向くと、そこには何故か王都に出立した筈のケビンが立っていた。