軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 ドアマット幼女と取り調べ官 その壱

皆さまこんにちは。

エルシャ・グリーンウッド六歳です。

西区八番街警ら隊長のダグラスさんに、しがみついて離れずに駄々を捏ねまくった幼女です。

だってわたしの生存本能が、『喰らいついて放すな』と言ったのです。わたしも同意しかありません。

あるいは、刷り込みのようなものでしょうか。ダグラスさんの姿が見えないと、キョロキョロと探してしまいます。

これではまるで、困った子供のようですね。ちょっと改めなくてはいけません。

お医者さまの診察を受けて、立派な栄養失調だとお墨付きを頂きました。しばらくは点滴が必要なため、週に三回ほど通院することになりました。

点滴とは注射のようなもので、ゆっくりと時間をかけて針で血管に栄養を流し込む最新の施術だそうです。言葉にすると恐ろしく感じますが、体力の回復や栄養補給に効果的なのです。走馬灯の記憶で知った知識です。

ちょっと痛かったですが、わたしはドアマット幼女なので痛いことには慣れています。……自分で言っていて、悲しくなりました。

身体にある無数のアザは、内臓を傷つけるほどのものはなく、時間がたてば消えてゆくのだそうです。

ただ、額の傷と背中や肩のムチの 痕(あと) は、大人になっても残るかも知れないと言われました。

警ら隊の皆さんは、女の子なのにと心配してくれましたが、走馬灯の知識によると心の傷の方が深刻らしいです。

傷やアザにはお医者さまが、緑色の軟膏をペタペタと塗ってくれました。とても臭いです。心の傷に塗る薬もあれば良いのにと思いました。臭くても我慢出来ます。……我慢は得意なのです。

警ら隊の詰所で寝起きするようになって、今日で三日目です。食事はダグラスさんや、他の隊員の方たちが用意してくれます。

皆さんが外食に出た際にお店のメニューを持ち帰ってくれたり、屋台で買って来てくれたりします。時には甘いものや果物を差し入れして下さる方もいて、食生活は大変充実しています。怖いくらいです。

夜は夜勤の方と一緒に、仮眠室で寝ています。ベッドはひとつきりですが、使っていないハンモックを倉庫から出して来てくれたので、それに寝ています。

大丈夫です、落ちたりしません。わたしは寝相が良いのです。

昼間は隊員の皆さんの邪魔にならないよう大人しくしていますが、お掃除など少しだけお手伝いをさせてもらっています。

昨日は詰所の中庭の草取りをしました。グリーンウッド邸では庭にも出してもらえなくなっていたので、お日様の下に出たのは半年ぶりくらいです。

秋の小春日和で陽射しが暖かく、風がとても気持ち良かったです。

毎日が夢のようです。ずっとここに居たいと思ってしまいます。けれどもここは警ら隊の人たちの仕事場です。幼女がいつまでも居ていい場所ではありません。

この先、わたしはどこで暮らしてゆくことになるのでしょう。考えると不安で胸が苦しくなります。

可能性として一番高いのは、教会や国の運営している養護院でしょうか。事情のある子供や身重の女の人を保護してくれる施設です。

わたしの身の振り方を決めるのは、役所のお役人さんだそうです。そのための聞き取りや調査、取り調べなどをする必要があるのだそうです。

聞き取り調査は、警ら隊の本部から専門の取り調べ官が派遣されて 行(おこな) っています。

まずは虐待が疑われるグリーンウッド邸。後妻とその娘、父親はもとより、使用人やメイドたちも個別の聞き取りが進められています。

ちなみに、彼らの聞き取り調査は現地で行われています。顔を合わせずに済んで、ホッとしています。

次にわたしを保護してくれた、西区八番街警ら隊長のダグラスさんと隊員のお二人です。当時のわたしの様子と、後妻や父親とのやり取りを詳しく聞き取って、すでに書類になっているそうです。

お医者さまの診断書も昨日の夕方、届きました。

そうして本日、わたしの聞き取り調査が行われることになりました。

* * *

やって来た取り調べ官は、品の良い中年男性でした。片眼鏡がグリーンウッド邸の家令を思い出させます。家令は、わたしのことが見えない人でした。

「エルシャ・グリーンウッド、六歳です。本日はよろしくお願いします」

貴族の作法通りに挨拶をすると、その人は片眼鏡をクイッと持ち上げてから「座って下さい」と自分の向かいの席を手のひらで示して言いました。

「私はチャーリー・エバンス。西区全体の聞き取り調査を担当しています。今日はあなたのグリーンウッド邸での生活について、色々と質問させて頂きます」

感情の乗らない声です。少し、萎縮してしまいます。

「朝、起きてから寝るまで、普段の生活を教えて下さい」

「はい。朝はひとつ目の鐘が鳴る頃に起きます。キッチンに行って掃除をしてから、かまどに火を入れます。それから玄関と階段の掃除をして、屋根裏部屋に戻ります」

「朝食は屋根裏部屋で食べるのですか?」

「朝食は食べません」

「なぜですか?」

エバンスさんがメモを取る手を止めて、顔を上げて言いました。また、片眼鏡をクイッと上げています。

「わたしの分は、ないからです」

「両親やメイドは、『食事は毎回用意しているが、屋根裏部屋に閉じこもって降りて来ない』と言っていましたよ。『用意した食事は屋根裏部屋へ持って行くようメイドに言ってある』と」

わかっていました。グリーンウッド邸の人たちが、わたしへの仕打ちを正直に話すはずがありません。

「わたしの言い分と、 あ(・) ち(・) ら(・) の言い分が食い違った場合は、どうなりますか?」

「それは両者の言い分が、出揃ってから検分することになりますね。警ら隊が現場検証も行なっていますから、その結果も判断の材料になります」

「犯罪にはならない、裁判にはならないということですか?」

「家庭内のことなので、犯罪とするのは難しいです。子供は親に属していますから、教育方針であり躾だと言われれば、司法は介入できません」

「それがこの国の、法律なのですね……」

エバンスさんはわたしの言葉に頷くことも、首を横に振ることもありませんでした。

壁の時計の振り子が揺れて、カチカチと音を立てています。エバンスさんの万年筆が書類の余白を埋めてゆきます。

わたしはたった五分間で、打つ手がなくなってしまいました。