軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話 ダグラス隊長の聞き取り調査

エルシャがどこか嬉しそうに、部屋を出て行った。

子供らしい様子にホッとするが、案外全てわかった上で、俺を立ててくれたのかも知れない。

あの子の聞き分けの良過ぎるところについては思うところがあるが、今回は正直引いてくれて助かった。

いくら当事者だとしても、さすがに六歳児を事情聴取に同席させるわけにはいかない。それが両親のことに関係しているならば、尚更だ。

気分を切り替えて、早速本題に入る。

「では……エドワード氏は、グリーンウッド伯爵家を建て直すための婿養子として迎えられたと?」

「ええ、あの頃の伯爵家は財政破綻寸前でしたから……。エドワード坊ちゃんは幼い頃から優秀でしたし、アリッサお嬢様とも年齢も近いこともあって、話はすぐにまとまりました」

ここまでは公文書の届出などで、王都でも大まかにはつかんでいた情報だ。

「二人の関係は? 悪いものではなかった?」

「アリッサお嬢様は、お心を尽くされていましたよ。縁があって結婚するんだから、家族になりたいと。ですが、エドワード坊ちゃんは、これはビジネスだと……」

本来ならば、前伯爵夫人に話を聞きたかったのだが、病床の身ではそれも難しい。事情に詳しいこの人がいてくれて良かった。

「現在、後妻に入っているキャサリン夫人について、知っていることは?」

「いいえ、少しも知りません。再婚していたことも取り調べ官からの手紙で知りました。アリッサお嬢様が亡くなっていたことすら知らなかったのです! 奥様も私も!」

感情が声に乗り、カチャリとテーブルのティーカップが鳴った。

「すみません。そうでしたね……。前伯爵夫妻が王都へ一度も足を運ばなかったのは、何故でしょう?」

「それは……。旦那様は由緒ある伯爵家を、没落させてしまったことや、自分の失敗のせいでお嬢様を結婚させることになったことに、大変責任を感じていらして……。奥様も、アリッサお嬢様に好いた方との結婚を諦めさせてしまったことで、会わす顔がないと……」

「アリッサさんは、他に恋人がいらしたんですか?」

「想う方はおられた様子でした。私共にお相手を話してはくれませんでしたが」

「そうですか……」

貴族の結婚は平民とは違う。想う相手のいる娘と、契約で婚姻を結ぶとしたら……。エドワード氏が『ビジネスだ』と言いたくなるのも無理はない。

だが、だからといって、何をしても良いわけではない。

「では、別の質問を。現在、エドワード氏の立場は『伯爵代理』。前伯爵夫人もその認識でおられますか?」

「はい。婿養子に入って伯爵家を建て直す条件として、アリッサお嬢様が『伯爵』とならず、エドワード坊ちゃんを『伯爵代理』とすることを求められました。これはお二人が結婚する際に、文書で残してあります」

「実際には現在の“グリーンウッド伯爵家の当主”は空席ということですか?」

「はい。お二人の子供が生まれたら……つまりエルシャお嬢様が成人した際に、正式に爵位を継承するという契約です」

「エルシャ嬢に、精神的・身体的、または性格などが理由で継承の資格が失われた場合は?」

「そうなると、アリッサお嬢様と旦那様……ヘンリー様は亡くなっていますし、エドワード坊ちゃんに権利があるはずです。実績もあり、血筋的にも問題ありません。ですが、エルシャお嬢様は、あんなにも利発で……しっかりされているではありませんか!」

なるほど……。これで、少なくとも“動機”の線は見えてきたな。

「ええ、今は。だが、保護された時の彼女は、痩せ細って精神的にも追い詰められていました。あの状態が、あと数年続いたならば、どうなっていたかわかりません」

「そんな! じゃあエドワード坊ちゃんは爵位が欲しかったから、エルシャお嬢様をあんな目に遭わせていたんですか?」

「……話を戻します。継承の権利について、前伯爵夫妻も通例通りの認識でおられた? エドワード氏やアリッサさんと新たな契約書のようなものは交わしていませんか?」

「私は聞いておりません。ですが、奥様は具合が悪くなった三年前から、大切なことは私と共有してくれています」

「そうですか……。後ほど、アリッサさんからの手紙……偽装されていたものも含めて、全てを確認させてもらうことは可能ですか?」

「それは、奥様に許可を頂かないと……」

「わかりました。ではもうひとつ。前伯爵は事故で亡くなったと聞きました。その詳しい経緯と、奥様の病気について詳しく」

「ま、まさか……」

「いえ、可能性の話です。俺は捜査のために来たのですから」

「はい……すみません。つい感情的になってしまって」

「無理もない話です。ですが、エルシャのためにも、真実を明らかにしたい。まずは、前伯爵の事故について聞かせてもらえますか?」

すっかり顔色の悪くなった彼女には申し訳ないが、前伯爵夫人が病床にある現状、この人がいてくれて良かった。

『エルシャのために』。

つい口にしてしまった言葉に、自分の情が乗ってしまったことに気づく。もう二度と、捜査に私情を挟まないと誓ったはずなのに。

「ソフィアさん。一旦、休憩を入れましょう。俺は席を外しますから、紅茶が温かいうちに飲んで下さい」

少しぬるくなった紅茶を飲み干して席を立つ。鼻に抜ける香りが、嫌な方向に流れかけた気持ちを落ち着かせてくれる。

なるべく音を立てないよう、静かにドアを閉める。

俺のほうこそ、少し頭を冷やさなければ……。