軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六話 なんでこんなところにいるんですか?

護衛任務の初日、ダンジョン前で護衛対象であるアイドルたちに自己紹介を兼ねた挨拶をしに行った奥野と切岸さんは、特に文句を言われることもなく彼女らに受け入れられた。

「いや、なんていうかさぁ。黒っ! って感じよね! 装備品だし似合ってるから文句はないけど、可愛さがないのは勿体ないと思うの。アンタもそう思わない?」

「ほぇ~。その上着はいいモノじゃのぉ。いくらくらいしたん? 余でも買える?」

「うわぁ、その剣、っていうか刀? 黒くて格好いいね! 僕も欲しいんだけど!」

「ふふふ。三人とも、あんまり護衛の人を困らせちゃ駄目だよ~? ところでアナタ、良い体幹しているわね。レベルも高いんだろうけど、それだけじゃないでしょ? 普段はどんな感じで鍛えているのかしら?」

「「……」」

流石は若くしてレベル一五に至った探索者とその先輩である。

本能的に奥野の実力に勘付いたのか、自分たちより年下の奥野が『護衛』を名乗っても、実力を疑ったり忌避感を抱くことはなく、それどころか装備や体幹に目を向けてきたではないか。

……少しばかり前のめりな感じな人もいるような気がしないでもないが、護衛対象から距離を置かれるよりは何百倍もマシだろう。

事前に想定していた対応――もっと警戒されると思っていた――とはかけ離れた対応をされて目を白黒させている奥野と切岸さんには少しばかりキツいかもしれないが、これも仕事だ。

諦めてもらうしかない。

なんにせよ、二人のおかげで無事『警戒されるあまり護衛対象から距離を置かれる』という可能性は解消されたわけだ。

対象の近くにいることができるのであれば、あとは護ればいいだけ。

そして奥野の護りを突破できるような存在は二〇階層には居ない。

問題があるとすれば奥野が休憩に入る時間だが、その際は切岸さんや少し離れたところにいるスタッフが目を光らせているし、そもそも奥野はダンジョンで爆睡するような阿呆ではないので、問題があればすぐ対処するだろう。

つまり、護衛任務の成功は約束されたも同然なわけだ。

がはは、勝ったな。風呂入ってくる。

と言いたいところだが、それで終わるほど世の中とは甘くはないわけで。

「いやぁ。あの嬢ちゃんもごっつい思ったが、そこの兄さんはそれ以上やで! ……なぁ、但馬ちゃん。一体全体、どうやったらあの若さであんなバケモンになるんや?」

奥野と切岸さんが護衛対象に絡まれる中、我らが上司である但馬さんもまた、見知らぬ男性に絡まれていた。

「……勘弁してください、西川さん」

いや、どうやら但馬さんとは知り合いらしい。

まぁあんな馴れ馴れしい態度をとっている時点で知り合いなのは明白なのだが。

但馬さんの知り合いっぽい相手、仮称『西川さん』なる男性の身長は一八〇cmくらいある但馬さんと同じか、ちょっと上くらい。

体格はやや細めだが、体幹がぶれないところや所作に無駄がないことから、しっかりと鍛えているのがわかる。

また、黒い髪を後ろに纏めているところや、一見すれば無精ひげっぽいが、よく見ればきっちりと整えられているところを見れば、外見にも気を遣えるタイプらしい。

他にも細々とした特徴はあるが、彼を語るうえで最大の特徴は、その右目を覆っている眼帯と、残った左目が発する眼光の鋭さだろう。

その目を見れば、俺が妙な動きをしたら、即座に攻撃を仕掛けてくるだろうことは想像に難くない。

それが俺に通用するかどうかは関係なく、ただ己の意思を貫くために向かってくる。

それこそ、命を捨てることになろうとも、だ。

ここまで観察すれば、この『西川さん』が誰なのかは俺にもわかる。

「……鬼神会の西川司朗さん、ですね。お初にお目にかかります」

「おぉ! 俺のこと知っとるんか?」

「いや、探索者の端くれとしてAランククランの代表であるアナタの名前を知らない方が問題でしょうに」

「ほぉん。……まぁそういうことにしといたるわ」

そう、一通りの挨拶を交わしても一切油断する様子を見せないこの男こそ、藤本興業の同業である霧谷組の若頭にして、霧谷組が抱えるクラン鬼神会の本部長、西川司朗その人である。

鬼神会がこの場にいるのは、アイドル事務所側が自前で彼らを雇ったからだと思われる。

まぁね。いくらギルドが紹介したとはいえ、見ず知らずのBランククランに全幅の信頼を寄せて自前の護衛を用意しないのは、信用とか信頼とか以前にただの怠慢だからね。

まして今回ダンジョンに挑む面子の中には、霧谷組にとってなによりも大事な娘さんがいるのだ。

万が一のことを考えれば、鬼神会としても護衛任務を受けないわけにはいかない。

尤も、二〇階層の探索ごときで本部長クラスが出てくるとは思っていなかったが。

そう思ったのは俺だけではないようで。

「護衛対象の中にお嬢さんの名前があった時点で鬼神会が関わってくるとは思っていました。ですが、まさか西川さんが出張るとは思ってませんでしたよ」

「あ~」

要約すれば『なんでアンタがここにいるんだ? 何を企んでやがる?』と言ったところであろうか。

「いや、儂らもな? 但馬ちゃんとこの実力を疑ってるわけやないで? けどな、ダンジョンには危険がいっぱいやろ? 万が一のことがあるかもしれんやろ? お嬢になにかあったら俺らもタダじゃ済まんのよ。それを部下に任せっきりって、危ないと思わんか?」

確かに、そう言われれば筋は通っているように思える。

だが、残念。

「……そんなの今までだって何度もあったでしょう? けどこれまで俺は西川さんが霧谷のお嬢さんの護衛としてダンジョンに潜ったなんて話は聞いたことがねぇ」

「ま、まぁ、そうかもなぁ」

普段から、組織の運営をしつつ、時に自分で部隊を率いて深層の探索を行うAランククランの本部長が、お嬢さんの【アイドル活動】に付き合うほど暇なはずがない。

そんな暇があるなら、ダンジョンに潜ってレベリングするなり素材の回収をしているだろう。

そうであるにも拘わらず、本部長である西川さん自らこの任務に参加しているのだ。

このことから、彼らにはお嬢さんの護衛以外にも、なんらかの目的があると思われる。

その目的とは……。

「大方、俺らの邪魔をしにきたってところでしょうか?」

「……」

まぁそうなるよな。

依頼主はギルドの役員か?

目的は、我ら龍星会をAランクにしないこと、ではなく、今回の任務に龍星会を充てるよう決めた役員への嫌がらせだろうな。

「まぁ、確かに俺らがいなくても、西川さんたちがいればお嬢さん方は無事に帰れますからね。ギルド全体として見れば損はない」

「……」

損をするのは俺らと特定の役員だけってな。

龍星会が邪魔を跳ねのけて任務を成功させてもヨシ。

邪魔を跳ねのけられずに、任務を失敗させてもヨシ。

鬼神会と龍星会の仲が悪くなろうが、ヨシ。

そもそも連中は、ギルドの対抗勢力となる可能性を潰すためにも、上位のクランには適度に敵対してもらった方が都合がいいと考えているので、龍星会の恨みが鬼神会へ向くことを望んでいるのかもしれない。

そう考えれば、当て馬にされた西川さんたちも被害者であると言えよう。

相変わらず陰険な連中だ。

と思わなくもないが、常時相手の足を引っ張ることしか考えていないナマモノどもにとって、この程度のことは遊びの延長に過ぎないのだから、文句を言ってもしょうがない。

言ったところで鼻で嗤われるだけだしな。

連中に文句を言いたいのであれば、彼らの目論見を跳ねのけるほどの強さを得なければならないのだからして。

「西川さんの立場もわかります。ですが、こっちだってむざむざと邪魔をされるわけにもいかねぇんですよ」

「……ふむ」

但馬さんの言うとおりだ。

向こうの目的がなんにせよ、今回の仕事は必ず達成しなくてはならない。

そうしなければAランクの昇格が流れるどころか、違約金まで毟り取られることになるしな。

ではさっさと鬼神会を処理する……というわけにもいかないのが辛いところ。

なにせ、今までの話はすべて但馬さんの憶測にすぎないのだ。

どれだけ確度が高い憶測であっても、証拠がなければただの言いがかりでしかない。

加えて、彼らはギルドが用意した人員ではなく、アイドル事務所が自発的に用意した人員だということも忘れてはならない。

現時点で俺たちが鬼神会の目的を訴えたところで、事務所側がそれを認めることはない。

むしろ『龍星会が邪まな考えから護衛を貶めようとしている』と考える可能性が高い。

誰だってそう思う。

俺だって龍星会側でなければそう思う。

鬼神会側とて、お嬢さんがいる以上露骨な真似はしないだろうし。

なので、下手に先んじて動けば龍星会が悪者に見えてしまう。

それでも俺たちが先んじて鬼神会の排除などに動いた場合、彼女たちは、帰還後にギルドに対して俺たちの行動を悪しざまに報告するだろう。

そうなれば、当然任務は失敗扱いとなり、Aランクへの昇格はおろか、報告の内容によっては違約金を取られる可能性さえある。

後手に回ったとしたら?

Aランククランを相手に先手を譲ってタダで済むはずがない。

鬼神会の面目にかけて、お嬢さんにはかすり傷一つ負わせないだろうが、他のメンバーは別。

向こうはお嬢さん以外の二人とお目付け役の先輩、この三人の内、誰か一人に重傷を負わせればいいのだ。

どんな手段を使うかは分からないが、Aランクのクランに名を連ねる彼らにそのくらいのことができないとは思えない。

先んじて対処しても駄目、対処しなくても駄目。

王手飛車取りどころの話ではない、盤面はもう詰んでいる。

「……」

「……」

鋭い目つきで睨む但馬さんと、その眼光を正面から受け止める西川さん。

両者の戦いは、始まる前から終わっていたのであった。