軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26話 選べ。命を捨てるか、尊厳を捨てるか

【上忍】

【侍】同様、日本の探索者しかなれないレアジョブである【忍者】の上位職の一つとして知られるものの、現状このジョブを得た探索者が世界で一人しか確認されていないことや、彼女自身が本名を含む個人情報の公表を控えていることもあって、一般に【上忍】と言えば探索者のジョブではなく彼女個人のことを指す。

ちなみに、弓聖は弟子の募集や育成のため、剣聖や聖騎士は単純な功名心から、大魔導士はその無頓着さ故、そしてギルドナイトを監督する立場にあったはずのギルドもまた世界最強パーティーの看板を誇示するため彼ら彼女らの個人情報の流出を止める気はなかった。

というか、むしろバンバン売り出していたように思われる。

ただ上忍に関しては、世界に一人だけのジョブを持つ探索者ということでギルドにも何度か”どこぞの国の意向を受けた報道機関”から取材の申し込みがあったり、”善良な一般市民を名乗る阿呆”から情報の開示を求める声があったようだが、その都度ギルドの広報担当者は『自分の情報を明かす忍者はいません』と言って、上忍の情報を得ようとする連中からどれだけしつこく言い寄られても彼女の情報だけは漏洩することがなかった。

それはもちろん、あの外道という概念に七つの大罪を混ぜ込んでから五十年間以上煮込み続けて完成した――正確には今も煮込み続けており、完成はしていない――スープよりも真っ黒なブラックな企業がコンプライアンスに目覚めたというわけではない。

単純に、当時から上忍には官僚やギルドの役人や政治家などからの依頼で敵対する連中を送迎する仕事が大量に割り振られていたため、さしもの役人たちでも『彼女の情報を明かす=仕事がやりづらくなる=自分たちにとってよくない』という方程式の存在に気付いていたが故のことであった。

補足があるとすれば、過去に彼女の個人情報を漏洩したとみられる官僚やら議員秘書があからさまに不審な死を遂げていたことも、ギルド連中の口が堅くなった要因の一つと言われている。

ちなみのちなみに、俺に関してはジョブもスキルも機密の塊であったため、名前と性別とレベル以外は全て非公開とされていたりする。

よって、もしも俺のことを誰かに話すなりなんらかの記憶媒体に残そうとした場合、その兆しが見えた時点で派閥や所属に関係なく送迎の使者が派遣される程度には、俺の情報に関しては厳しく管理されていた。

――

げに恐るべきは人の欲。

欲による暴走を抑えるには悲惨な死あるのみ。

秘密を護れないなら処す。

誰に依頼を受けたか徹底的に探ってから、依頼主共々処す。

例外は認めない。

すべては金の卵を産むガチョウを独占するために。

――

聞くところによると、俺が知らないところでこんな紳士協定が組まれていたらしい。

誰だって命は惜しい。

他人の命ならいざ知らず、自分の命は惜しい。

だから探らないし、公表もしない。

突き詰めて言えばそれだけのことなのだが、逆に言えばここまでの制限を掛けないとギルドによる情報の漏洩は防げないということでもあるわけで。

俺がギルドを一切信用しないのも、こういうところがあるからだ。

まぁ俺のことはいい。

今は目の前で右腕を潰されて呻いている上忍のことだ。

「いつから……」

「ん?」

「いつから気付いていた!?」

それ、いま聞かなきゃ駄目か?

いやまぁ、それが遺言なら答えてやるけど。

力を付けた方法とかと違って隠すようなことでもないし。

「しいて言えば最初から、ですね」

「なに?」

いい機会だ。細かく指摘してやろうじゃないの。

溜まってることもあるしな。

「確かに弓聖は近接戦闘もできます。ですが彼女が一番のパフォーマンスを発揮できるのはやっぱり弓による狙撃なんです。故に、もし送迎に来たのが本当の弓聖だった場合、最初の狙撃を外した時点で彼女は依頼元から与えられた情報に粗があると判断し、いったん退くことを選ぶでしょう」

「……」

「さらに言えば、彼女が単独でダンジョンに潜ることはありません。マッピング役やら荷物持ちやら、育成途中の弟子やら連れて潜ります。それは送迎であろうと変わりません。なにせ彼女にとって送迎は隠すようなことではありませんからね」

剣聖も語っていたが、相手が魔物であれ人であれ、殺しても罪に問われない――もちろん人の場合はバレれば罪に問われるが、目撃者を消したり証拠を隠滅することは容易い――ダンジョンは実戦での経験を望む武術家にとって垂涎の場なんだとか。

なんともろくでもねぇ価値観だが、連中にとってダンジョンはそういうものらしい。

仕事場としか思っていない上忍や俺とは違うのだよ。

「彼女は送迎の対象が連れてきた弟子でも勝てると判断したなら弟子に任せます。あたかも獅子が子供に狩りの仕方を教えるように、ね」

尤も彼女がやるのは、対象が逃げられないよう退路を断つことであって、親ライオンのように親切丁寧に獲物の足を折ってやったりはしないが。

ともかく。生粋の武術家である弓聖は殺しを忌避していないので送迎の際にも普通に弟子を連れて歩くし、そもそも勝てると判断した敵としか戦わない。

よって、もしも相手が『勝てないかもしれない』と思うほどの存在だったら、万全を期して『勝てる』と思える環境を作ってから挑む。

間違っても、単独でダンジョンには潜らないし、初撃を凌いだ相手に姿を晒すような真似もしない。

翻って、上忍である。

彼女が初撃を防がれたにも拘わらずこうして姿を晒したのは、偏に自分の弓術の腕前をそこまで評価していなかったからだろう。

小田原流弓術も中伝までしか修めていなかったはずだし。

それでは表面上の真似はできても、弓聖ほどの拘りは持てんわな。

「まとめるとこんなところですね。わかりましたか? 最初の狙撃に失敗したにも拘わらず、自信満々に単独で姿を現したお間抜けさん」

あとは、そうだな。

おそらくだが、弓を外しても近接戦闘や忍術で勝てるとでも思ったのではなかろうか。

普通弓聖が相手なら間合いを詰めることを選ぶだろう。実際俺も間合いを詰めたしな。

で、間合いを詰めてきたら、弓術で牽制しつつ忍術や暗器で仕留める、と。

なんとも忍者らしい汚さであるが、効果はある。

バレても弓聖のせいにできるし。

だがまぁ、それもこれも擬態を得意とする刺客の存在を知っていればどうということはない。

剣聖曰く『不自然なことがあれば全部上忍だと思え』ってな。

……思い返せば、この人のせいで当時の俺がどんだけ被害を受けたことか。

行ったこともない場所で俺の目撃情報があったり、知らない場所で俺の顔と名前を使って犯罪行為をしていたり、ダンジョンに潜っていない日になぜかダンジョン内で送迎しているところを目撃されていたりよぉ。

あれ、全部わざとだよなぁ?

あんたなら、誰にも見られないようにできるはずだよなぁ?

そもそも、なんでわざわざ俺の顔を使うんですかねぇ?

おかげで警察にアリバイとか調べられるんだぞ?

一回だけじゃないんだぞ? 毎回だぞ?

散々調べた結果、毎回俺がギルドとダンジョンと店にしか寄ってないって再確認した刑事が向けてくる目を知っているか?

女性の刑事から向けられる『いい歳した大人が、恥ずかしくないの?』くらいならまだマシだぞ?

『タダ券? ギルドナイトだろう?』とか『かわいそうに』とか『なんてむなしい人生だ』とか、俺の生き様を憐れむような目を向けてくるんだぞ。場合によっては口に出してくるんだぞ?

普通に傷付くわ。

警察の捜査を乗り切った後もよぉ。

納得しねぇ連中がいるんだわ。

具体的には、警察から『彼にはアリバイがありました。おそらく彼を装った何者かによる犯行でしょう。真犯人は鋭意捜索中です』なんて報告をされたものの、全然信じていない遺族が。

恨みを向ける方向をなくした連中が、俺のことを”権力を使って真相を握りつぶした悪党”呼ばわりして襲ってくるんだよなぁ。

俺がやったことならまだしも、なんの関係もねぇ相手に襲われて、反撃したら向こうが「くっ! 無念っ」って言いながら死んでいくんだぞ?

後味が悪すぎる。

こういう場合、元凶の八割が俺に擬態したこの人で、残りの二割が俺を騙ったギルドの関係者だったんだよな。

クソどもが。〇ね。

もちろんそれもこれも俺の記憶の中にある一五年の間にあったことなので、今の彼女には関係のないことではある。

だが間違いなく同一人物だ。

弓聖の姿を使って送迎しにきた時点で性根が腐っていることに違いはない。

故にこの松尾篤史。

容赦はせん。

とはいえ、せっかくの上忍だ。

ただ〇すのも勿体ないな。

さて、どうするか……あ、そうだ。

アレを使ってみよう。

「……さて、このまま間抜けの頭を潰して〇すのは簡単なんですが、それでは少々味気ない。そう思いませんか?」

「……なにが言いたい」

「選ばせてあげようと思いましてね。ここで〇ぬか、私が使える特殊な魔法を受けて ギ(・) ル(・) ド(・) の(・) 貴(・) 重(・) 品(・) 室(・) に(・) 飾(・) ら(・) れ(・) る(・) か(・) 、を」

アンタならこの意味、わかるよなぁ?

「き、貴様! 歳に見合わぬ力といい、弓聖に詳し過ぎるほど詳しいことといい、やはりギルドの関係者か!」

「さて、それを知ってどうします? あぁ、先ほども言いましたが、貴女に”無傷で生き残る”なんて選択肢はありませんよ」

命乞いは聞かない。

今はまだギルドに俺らの情報を流されても困るからな。

誰にも喋らない?

死ねば同じだろうが。

第一、送迎しにきた相手を生かして帰す理由なんざねぇのよな。

「貴女が選べるのは、ここで〇ぬか、それとも貴重品室で生き永らえるか、それだけです」

アレが”生きている”と言えるかどうかは微妙だし、もし”生きている”と分類されたとしても、すぐに出荷されることになるだろうが、それに関しては知らん。文句は管理しているギルドに言え。

「さぁ、選んでください。選べないならこちらで決めますが、どうします?」

お勧めはここで俺に〇されることだが、はてさてどちらを選ぶやら。