軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話 馬鹿もーん! そいつが本物の〇〇だっ!

「くっ!」

戦って死ぬか、逃げて死ぬか。

武器を失い絶体絶命の弓聖が選んだのは、懐から黒くてごつごつとしたモノを取り出すことでした。

「ふぅん」

知ってますよ。あれは自分では勝てない魔物や探索者に遭遇した際に利用する 閃光手榴弾(フラッシュバン) ってやつですね。

その名の通り相手の目を眩ませる強力な光と相手を委縮させる大きな音を放つ非殺傷の武器で、主に目を使う魔物相手に有効とされます。

似たような武器に 音響手榴弾(スタングレネード) というのもあります。

これも音と光でダメージを与える武器なのですが、その名の通り強い光を出すことよりも大きな音を出すことに重きを置いているのが特徴で、耳を使うタイプの魔物にはこちらが有効とされています。

共通するのは、どちらも『自分たちでは勝てない魔物や悪質な探索者に遭遇した際に逃走するために使用するモノ』ってことですね。

それなりに大きいので「どうやって懐に入れていたの?」と思いましたが、弓聖くらいになればあれが入る程度のアイテムバッグを持っていて当然。懐から出すのも納得できます。

でも取り出す際に胸元が大きくはだけるような動作をしたのはなんでですかねぇ?

もしかしたら男性である支部長の目を自分の胸に引き付けようとした、なんてことはありませんよねぇ?

いい歳したおばさんが高校生を相手にナニをやっているんだか。

……死ねばいいのに。

「はっ!」

なんて思っていたら、おばさんが勢いよく閃光手榴弾を地面にたたきつけようとしていました。

不自然なほどゆっくりしているように見えるのは、私とおばさんのSPDに差があるからでしょう。

こういうところにも違いが出てくるからステータスの差って怖いですよねぇ。

私ですらそうなんですから、私よりもずっと強いはずの支部長からすれば、もっとゆっくりしているように見えるでしょう。

距離も近いので、おばさんが閃光手榴弾を地面に叩きつける前にその手から搔っ攫うことだって可能なはず。

でも支部長はおばさんの動きを止めようとはしませんでした。

やろうと思えばいつでも止めることができるにも拘らず、あえておばさんの邪魔をしなかったのは、おそらく私たちを殺しに来たおばさんに絶望を叩きつけるためでしょう。

……そうですよね?

絶対に『見せびらかすようにはだけたおばさんのだらしない胸を凝視していた』なんてことはないですよね?

いくら年頃の男の子でも『自分を殺しにきた相手の胸を凝視するために閃光手榴弾を使わせる』なんてことはないですよね?

んーむ。でも年頃の男の子は性欲の塊って言いますからねぇ。

命が懸っている場であればともかく、絶対に安全だと考えているならそのくらいのことはするのかも?

……一応あとで確認しましょうか。

もし年相応に熱いパトスをため込んでいるようなら、その発散をお手伝いすることもやぶさかではありません。というか、変な女に引っかかる前に私がなんとかしてあげるべきでしょう。

少なくとも目の前のおばさんや、技師というジョブを利用してすり寄ってきた泥棒猫には絶対に渡さない。

そう決心すると同時に閃光手榴弾が地面に激突……って。

チュドッ!!

過剰ともいえる爆発音とともに放たれた強烈な閃光が、おばさんの動きを凝視していた私の網膜を容赦なく焼きにきました!

流石の私も光より早く瞼を閉じることなんてできません。

畢竟、私は閃光手榴弾が発する光を直視することになり……。

「あぁ! 目がぁぁぁ。目がぁぁぁぁぁ!」

―――

派手な音を立てて爆発する閃光手榴弾。

その音や光量は、現在軍で使われているモノよりもずっと強い。

さすがは深層をメイン狩場にしているギルドナイトが持つだけのことはある。

おそらくだが、普通の軍人や警察が持つソレでさえ凶悪犯を問答無用で行動不能にできる程度の威力を有するこの武器を、探索者や魔物にも効くように強化したのだろう。

もしかしたらギルドナイトを鎮圧するために造られたのかもしれない。

そう思う程度には強い光だった。

まぁ、だからなんだって話だが。

基本的な話として、閃光手榴弾や音響手榴弾とは人工的に造った音と光で相手の目と耳、つまり鼓膜と網膜にダメージを与える武器だ。

つまりこれらの武器は、あくまで相手の身体にダメージを与えた結果対象の目と耳を潰すのであって、ダンジョンに仕掛けられている理不尽な罠のように、原理もへったくれもなく強制的に状態異常を引き起こしているわけではない。

で、探索者や魔物には魔力的なフィルターのようなものがあるらしく、どれだけ光ろうが、どれだけ音を鳴らそうが、対象のDEFを突破できなければダメージは通らない。

ステータスは大事。

もはや常識である。

この常識を踏まえたうえで、今回使われた閃光手榴弾について見てみよう。

ギルドナイトにも効果があるほどの威力?

それがどうした。

現在ギルドナイトのレベルは高くても四五前後。

彼らの中で最もDEFが高いのは聖騎士だが、彼のステータスは。

騎士 聖騎士 四五レベル

STR(攻撃力) 8 15 465

DEF(防御力) 12 20 660

VIT(体力) 10 18 570

MEN(精神力) 8 17 495

SPD(敏捷) 4 7 125

DEX(器用) 4 7 125

MAG(魔法攻撃力)0 5 75

REG(魔法防御力)5 12 330

合計 51 101 2845

となる。一番高いDEFですら660。

補正を加えても最大で+45の705だ。

対してレベル三九になった俺のステータスは、平均で860。

これに全能力+350の指輪の効果を加えて1210。

基準値だけで500以上の差があることになる。

また、ダンジョンの攻略が進んでいない現状、ギルドには聖騎士の動きを掣肘できるレベルの閃光手榴弾を造ることはできない。

技術的にも素材的にも不可能だ。

そうである以上、彼女が持つそれは今の聖騎士にすら通用しない武器だ。そんな武器が俺に通用するはずもなく。

彼女が使った閃光手榴弾は、俺の網膜を焼くことも鼓膜を破ることもできはしなかった。

奇しくも先ほど彼女が言ったステータスの差が如実に表れた結果である。

もちろん遠目で見ている奥野にもダメージは通らない……と思ったんだけどなぁ。

「あぁ! 目がぁぁぁ。目がぁぁぁぁぁ!」

ちょっと離れたところで転げまわっている奥野を見ると、さっきまでの持論に自信がなくなるんだが。

あぁいや、よく見ると口元が緩んでいる。

つまり彼女は敵の油断を誘うためにわざと大きなリアクションをしているわけだ。

隙だらけだと思って近寄ったところを斬るつもりだろう。

誰に似たかはしらないが、なんとも性格の悪いことで。

大穴で、過去の名作として数年に一回放送されているアレの様式美に則って遊んでいるだけって可能性もあるが、まさかダンジョンでネタに走ることはないだろう。ないよな?

「ふっ!」

『目を抑えながらダンジョンで転がる』という迫真の演技に騙されたのか、間抜けが短い呼気と共に間合いを詰めてきた。

その手に持つのは 彼(・) 女(・) 本(・) 来(・) の(・) 武(・) 器(・) で(・) あ(・) る(・) 短(・) 刀(・) と(・) 隠(・) し(・) 千(・) 本(・) だ。

どうやら目と耳を潰せば勝てると思ったようだが……阿呆が。

「そんな眠っちまうようなすっとろい攻撃が今の俺に当たるわけねぇだろうが!」

二週間前ならヤバかったけどな。

短刀を握った右腕を掴みつつ、左手に隠し持っていた千本の投擲を避ける。

「なんだとっ!?」

「なにを驚く? これ見よがしに振られた右手の攻撃を避けられたことはまだしも、左手の千本を回避されたのがそんなに意外だったか?」

「ぐっ!」

図星か。

しかしあれだな。千本で片付かなければ、口内に隠していた含み針を放ち相手の目を物理的に潰すのが俺の知る彼女の常套手段だったはずだが、今回はそこまで仕込んではいなかったようだ。

用意周到を地で行く彼女にしては珍しい失敗だな。

まぁ、さすがの俺もこれを以て彼女の準備不足と罵る気はないぞ。

もし俺が彼女の立場であっても『今年四月にジョブを得たばかりの学生が、世界最強の探索者が放つ奇襲攻撃を完全に捌く』なんて状況を想定できたとは思えないからな。

想定できないことに対して準備なんてできるはずがない。

敢えて強くいうなら、最初の攻撃を回避された時点で違和感を覚えるべきだった。

いや、違和感は覚えたのかもしれないが、気のせい――もしくはまぐれ――と判断したのだろう。

結果として、違和感を見逃したことが彼女が犯した致命的な失敗となったわけだ。

油断大敵とはよく言ったもの。

俺も気を付けないとな。

具体的には、奥野の裏切りとか。

今の俺を殺せるのは彼女くらいのものだし、なにより目に見えない裏切りほど恐ろしいものはないって言葉もある。

うん。違和感を覚えたらちゃんと餌をやろう。

というか、定期的に餌をやろう。あと休みもな。

それはそれとして。

今は片付けるべき相手を片付けようか。

いつまでも右腕を掴んだままってのも問題だし、なによりここでナニカされて逆転されるのも馬鹿臭い。

だがその前に一つだけ。

「先ほど貴女は言ったな? 『最期の情けだ。言い残すことがあるなら聞いてやろう』と。同じ言葉を貴女に送ろう。最期の情けだ。なにか言い残すことはあるか?」

言いながら、右腕を握りつぶす。

「……ぐっ! 先月探索者になったばかりの子供がどうやってここまでの力を!?」

「それが遺言ですか。わかりました」

もちろん答えは教えない。

これから死ぬ人に教える必要はないからな。

単純な握力による破壊だからこそ、彼我の間に存在する絶対的なステータスの差を理解できたのだろう。

今の彼女には、先ほどまで見せていた余裕や嘲りもない。

だからと言って赦すつもりはないが。

今更”手を出すべき相手を間違えた”と後悔したところで、もう遅いのだ。

「わ、私を殺せばギルドが黙っていないぞ!」

これまたありきたりな命乞いを。

そんなのが通用するわけないだろうに。

「もし俺が殺したとバレればそうなるかもしれませんねぇ」

「は? あぁそうか。貴様は知らないかもしれないが、私の予定は逐一記録されている。そうでなくともダンジョンから帰還しなければ調査が入る。調査が入れば貴様と私がここで接触したこともバレるぞ!」

さて、それはどうだろう?

「そもそも貴女ほどの探索者が子供を送迎するためだけに週末にダンジョンに潜るはずがない。他にも依頼を受けているのでしょう? 例えば『深層の貴重な素材を採取してきてほしい』とか」

「そ、それは!?」

図星か。

わかるぞ。俺もそうだったし。

「貴女が帰還しなかった場合、ギルドはその理由を『子供の送迎に失敗した』と考えるか、それとも『深層での採取に失敗した』と考えるか。……どっちだと思います?」

「……っ!」

普通は後者だろう?

世界最強の一角が子供に負けた! なんて考える奴なんかいるはずがないからな。

深層で潜って死んだなら、彼女が俺と接触したかどうかは不明となる。

いや、常識的に考えたら俺と接触する前に死んだと思われるだろうよ。

「貴女の死因は”深層にソロで挑んで失敗したから”。公式にはそう発表されるでしょうねぇ」

「ぐっ!」

ギルド役員からの依頼? 連中がわざわざ自分たちに不利になるようなことを公表するはずがない。

あくまで単独行動の結果ってことに落とし込まれるだろうよ。

ギルドナイトの面々だってそれは同じ。

どれだけ探ろうが、彼らが辿り着けるのは”ギルド関係者が採取の依頼を出していたこと”まで。

俺の送迎云々に関しては、送迎を依頼した当人が口に出さない限り表に出ることはない。

仮に表に出たとしても、学生と彼女の死を関連付けることはできまいよ。

少なくとも数年は、な。

よって、ここで彼女を始末したところで俺が危険に晒されることはない。

むしろここで彼女を逃がす方が危険だ。

それになにより、俺には彼女をここで殺さなくてはならない理由がある。

「あぁ。今の段階で貴女を始末できてよかった」

「いずれこちらから出向く予定だったのですが、正直助かりました」

「いやぁ、本当によかった。ギルドナイトが五十階層を攻略する前に貴女を始末できて、ね」

「な、なにを言っている!?」

「ん? わかりませんか?」

「ここでギルドナイトの索敵・罠の解除・遊撃・マッピングを担当する【上忍】を殺せば、ギルドナイトのダンジョン攻略は大幅に遅れることになる、違いますか?」

「なっ!?」

そう。彼女は弓聖ではない。

弓聖の振りをした【上忍】だ。

すぐにわかったよ。

だって、本物の弓聖なら最初の狙撃に失敗した時点で逃げているからな。

間違っても素顔を晒すような真似はしない。

彼女がガワを装ったのは、第三者に見られた際に誤魔化すため、いや、少し前に噂になった『姿を見せない凄腕の護衛』の存在を警戒したが故だろう。

もちろん、送迎に失敗したときの保険という意味合いもある。

こうしておけば、俺やその護衛がお偉いさんと繋がっていた場合でも、糾弾されるのは弓聖だからな。

で、糾弾された弓聖にはアリバイがあるため、彼女が罪に問われることはない。多少不快な思いをするだけだ。

もちろん上忍と弓聖の間でガワを利用した迷惑料のようなモノは発生するだろうが、それだけだ。

実行者である上忍に傷が付くことはない。

うん。安全に安全を重ねると言えば聞こえはいいが、他人に罪を被せることを前提としている時点で人間として終わっている。

ヤるなら堂々とヤれ。

前々から嫌いだったんだよ。

この人のこういうところがな。