軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 賢者の時間に考えることは大体間違っている

”生徒会と風紀委員会と選挙管理委員会がなにやらわたわたしているらしい”なんて噂が流れていたものの、警戒していた黒羽派閥の連中や反黒羽派閥の連中に絡まれるようなことはなく、無事に迎えた放課後のこと。

「そんなわけで、彼女は龍星会で抱えることになった。将来的には奥野さんの装備とかを担当してもらうことになると思う」

「なるほど! そういう事情だったんですね!」

授業が終わると同時に飛び込んできた切岸さんから契約書を受け取り、契約書と引き換えにポーションを渡しているところを凄い眼で見つめていた奥野に現在の状況と俺の思惑を簡単に説明したところ、返ってきたのがこのリアクションである。

父親がダンジョンで重傷を負い治療の為にポーションが必要だったことや、ポーションの代金として身売りしたような感じになっていること。

さらには俺たちが彼女の実家を土地と建物ごと乗っ取ろうとしていることや、切岸一家をギリギリまで追い込むことになりそうだということを理解した上で一切同情をしていないのは、このご時世にあってはそれがありふれた話であり、かつ切岸さんには”ポーション”という救いが得られたからだろう。

世の中には選択肢なんてないままにお偉いさんの子供から奴隷みたいな扱いをされたり、飽きたからと借金をさせられたりした上でポーションを手に入れられなかった人もいるからね。

それに比べたら切岸一家なんて、ポーションだけでなく経営判断に関する選択肢まであるのだ。

奥野が”同情に値しない”と判断するのもむべなるかな。

俺としても、現在彼女の一家が追い詰められているのは、自分たちが持つ権力と財力と組織力を利用して自分たちに従わない中小企業を潰そうとしている糞共のせいだけではなく、現実に対応できなかった親父さんの経営方針にも問題があると思っているので、同情はしていない。

そう伝えると、嬉しそうに「ですよねー」なんて言ってくる奥野。

女子高生にしてはドライなこと極まりないが、いろんな意味で探索者が遊びではないことを理解している彼女らしいとも言える。

そんな奥野だが今日はなにやら思うところがあるようで。

「切岸さん? に関してはそれでいいとして、一つ聞いてもいいですか?」

「ん? まぁ聞くだけならいいぞ」

龍星会は言論の自由を保証している真っ当なクランだからな。

もちろん質問されたからといってなんにでも答えるとは限らんが。

「えっとですね。結局のところ支部長って何個くらいポーションを持ってるんです?」

「んー?」

在庫って意味だよな?

俺がどれだけ在庫を抱えているかを知ってどうするつもりだ?

「いえ、単純な興味でして! もちろん言いたくなければ言わなくてもいいんですけど!」

ワタワタと手を振る奥野。

彼女がただの興味でこんな質問をするとは思わない。

なにかしらの理由があるのだろう。

心当たりは……あるな。

「もしかしてご両親のパーティーメンバーの分か?」

「……はい」

「そっかー」

そりゃそうだよな。

彼女の両親からしたら『娘のお陰で自分たちは元気になりました! でもパーティーメンバーはまだ病院のベッドの上です!』って状態だ。

仲が悪かったわけでもないなら後ろめたくもなるわ。

これが”相当ギリギリで助かった”とか”娘が今も身を粉にしている”ってんならまだしも、今のところそんな様子はないもんなぁ。

平日は普通に学校に通い、週末は休んで帰宅できる程度の余裕がある。

その余裕が、両親が抱える後ろめたさを加速させている要因になっているのだろう。

週末に娘を呼び出したのも『なんとか都合がつかないか?』と確認したかった、と。

で、家族思いの彼女はこうして確認をしてきたわけだ。

もしかしたら『内密』に該当する事項であることを理解した上で。

うん。気持ちは理解できる。

身近にポーションがあるなら欲しいって思うのも当然だし、両親から頼まれたら確認しなきゃいけないと思うのも当然だ。

でもなぁ。

「奥野さんのご両親に使うのであれば提供するのも吝かではないんだが、ご両親のパーティーメンバーとなるとなぁ」

「……ですよねー」

奥野も最初から無理な交渉だと思っていたのだろう。

不満を抱くどころか、ただただ納得しているように見える。

いやまぁ、単純に在庫だけの話であればあるよ?

現状二四個しかないが、増やそうと思えば増やせる当てはあるので、何が何でも駄目というわけではない。

でもなぁ。

友人の両親の同僚なんて、俺からすれば他人も他人。

まごうことなき赤の他人。

それを助けてなんの得があるというのか。

まして使うのは市場価格で一個二〇〇〇万円もする貴重品。

それも俺の記憶が確かなら一人あたり最低三個必要だったはず。

負傷しているメンバーは二人。

つまり彼女の両親が望むのは最低で六個。

市場価格にして一億二〇〇〇万円分である。

それを放出する?

さすがに躊躇するわー。

入手手段や経路についても詳しく聞かれそうだし。

これについてはここ一か月で一〇個も放出した時点で些か手遅れ感もあるが、今のところは龍星会が隠れ蓑になっているからな。ギリギリで誤魔化しが利いている感じだ。

しかしここでさらに六個も放出するとなると、誤魔化しようがない。

ギルドから『狩場を荒らしている』と認識されそうでな。

ただでさえ黒羽の件で色々やっているのだ。

奥野の両親のお友達のためにギルドから睨まれるのは避けたいところ。

「結論から言えば、在庫はあるけど今すぐ渡すのは無理だな。渡すにしてももう少し時間を置きたい」

今もベッドの上で呻いている人たちからすれば『何を悠長なことを! 在庫があるなら今すぐよこせ!』と思うかもしれないが、知ったことか。

俺は俺のために生きると決めているのだ。

俺に利のある相手なら考えるが、そうでないなら知らん。

むしろ『時間が経ったらやる』と言っているのだから、それで満足しておけと言いたい。

もしも奥野がこの判断に難色を示すようなら少し”分からせる”必要があるのだが。

「わかりました! 両親にはそう伝えます!」

「お、おう。よろしくな」

なんということでしょう。

難色を示すどころか「これで解決した!」と言わんばかりに輝かしい笑顔を向けてきたではありませんか。

これはおそらく、俺の良心に訴えかける作戦……ではなく、俺から「いずれ売ってもらえる」という言質を取ったことを純粋に喜んでいるのだろう。

なにせブツは金があっても買えない貴重品だからな。

時間が必要なのは当然のこと。

それならば「いずれ買える」という言質が取れただけでも十分両親を納得させることはできるはず。

そういう意味では確かに今回の交渉は奥野の勝ちといえるかもしれない。

(ふっ。やりおる)

思い返せば、彼女は呼吸を読むのが上手かった。

押すべきところは押し、退くべきところで退く。

相手に応じて的確にそれができていたからこそ、彼女は一〇年という長期にわたって人気を保っていたのだ。

それらは夜の店で鍛えられたのかと思えばなんのことはない。

彼女には最初からその素質があったということだ。

今まさに、その片鱗を垣間見た気がする。

(うん。これは仕方ない)

敗けたはずなのにどこか清々しい。

こんな気持ちにさせられたらポーションなんてどうでもいいとさえ思えてくる。

まるで一勝負した後のような爽快感にも似たナニカを覚えた俺は、近いうちに必ず彼女にポーションを渡してやろうと心に決めたのであった。