軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 交渉は現物を持つ方が強い

「まず、少し落ち着こうか」

「は、はい」

軽く殺気を交えてそう告げれば、先ほどまでの勢いなんてなんのその。

興奮気味だった表情も、今は恐怖で真っ青に染まっているのがわかる。

怯える姿を見ても哀れとは思わない。

むしろ怯えて貰わないと困る。

「俺と交渉したいなら、大声を出すな。誰かに聞かれたらどうする?」

「……すみませんでした」

魔物が蔓延るダンジョンで、それも誰が聞いているかもわからないところでデカい声を出すのは頂けない。ましてそれがポーションなんて貴重品に関わることであればなおさらだ。

まぁ、今回に限ればなんとかリカバリーできる範囲ではあるのだが。

「君の要望は『藤本興業の伝手を使ってポーションを手に入れて欲しい』ってことでいいかな?」

さて、気付くか?

気付かなければ交渉はここで終わりだが。

「え? あ、はい! そうです! 藤本興業さんにお願いしたいです!」

「……そうか」

大声を出すなと言ったばかりだろうが!

お前は俺を舐めているのか?

なんて叱責はしない。

なぜなら今のは、彼女が俺の(用があるのは俺個人じゃなくて藤本興業だよな? わかっているよな?)という意図に気付いた上で敢えて大きな声を上げたのだから。

その察しの良さを褒めることはあっても、怒ることはない。

むしろこっちが設定した関門を突破した以上、彼女には交渉する権利を与えるべきではなかろうか。

何だコイツ、上から目線で偉そうだな。

なんて思われるかもしれないが、元々用があるのは向こうであって俺ではない。

そして、俺は向こうが欲しいモノを持っている。

よって交渉の主導権は俺にある。

さらに俺は藤本興業の課長で、龍星会の支部長でもある。

つまり俺は 偉(・) そ(・) う(・) なのではなく 偉(・) い(・) のだ!

なんて自己肯定をしてみても虚しくなるだけなので、さっさと話を進めよう。

とはいえ、こんなところで話し込む気はないので移動する必要があるのだが、さてどうしたものか。

具体的には、奥に進むべきかダンジョンから出るべきか。

奥に進む場合は、人がいないところで話を聞いたあとそのままレベリングに向かえるという利点がある。

元々ダンジョンに来たのはレベリングのためなのだから、初志を貫徹しているといえる。

ダンジョンから出る場合は、どこか個室で話を聞くことになるだろう。

レベリングに支障が出ることになるが、誰にも話を聞かれたくないのであればこっちだ。

「うん」

考えるまでもないな。

ダンジョンの中で人がいないところとなると下層以下になるが、話が終わった後に彼女をそんな場所に放置したらそのまま死にかねない。というか確実に死ぬ。

彼女が一人で下層に挑んで死ぬなら自業自得で済む話だが、俺が下層に連れて行った結果彼女が死んだら俺が殺したのと同じこと。

いくら俺でも、仕事でもなければ恨みも辛みもない相手を殺すつもりはない。

では下層に行って話を聞いてから彼女を連れて戻るのか? と言われると、これも微妙。

面倒だし、なにより今の彼女に俺の実力を見せるつもりはないからだ。

そもそも、話をするためだけに下層に行くのもおかしな話。

交渉をするなら落ち着いた場所で話した方がいい。

故に、ここは『引き返す』一択。

「とりあえず場所を移そうか」

「は、はい」

ふむ。

なんともしおらしい態度だが、さっき結構な勢いで突っかかってきたことを考えれば、本性は違うんだろうな。

女って怖いわぁ。

―――

そうこうして、やってきたのは新宿ダンジョンの近くにある喫茶店……ではなく、藤本興業が運営しているビルに入っている和食屋さんだ。

藤本興業のバッヂを付けていることもあってか、頼んだら学生相手でも快く個室を使わせてくれた。

尤も、ここは但馬さんから『あんまり外ではできない話をするときに使ってくれ』と紹介された場所なので、こういうときに使わせてもらえなかったら困るのだが、今回は大丈夫だったようでなによりである。

「君は俺のことを知っているみたいだけど、俺は君のことを知らない。まず君の名前を教えてくれ」

「 切岸(きりぎし) です。 切岸若葉(きりぎしわかば) 」

「切岸さんね。で、ポーションが欲しいんだっけ?」

「……はい」

個室とはいえちゃんと小声で返事をする切岸さん。

奥野もそうだが、察しが良いのは悪くない。

彼女がポーションを欲する理由に関しては、わざわざ聞こうとは思わない。

このご時世ポーションを欲しがっている連中はごまんといるからな。

なので俺が確認するのはそこじゃあない。

「正直に答えてくれ。君が俺に接触してきたのは、例の決闘騒ぎで俺が支度金代わりにポーションを用意したって情報を得たからか?」

「はい」

「決闘から数日経ってから接触したのは、俺が学校を休んでいたから? それとも決闘の細かい経緯を知ったのが最近だから?」

「はい。昨日知りました」

「そうか」

そうだろうな。

学校内で行われた決闘に関する情報は、同じ学校に通う生徒であれば誰でもその内容や経緯を閲覧できる。

普通なら他人の決闘、それも終わったモノになんて興味なんて湧かないだろう。

だが”生徒会長に不信任案が付きつけられた切っ掛け”と考えれば、決闘に興味を抱く者も出てくるだろうことも、決闘に敗けた黒羽弟が四〇〇〇万円の借金を背負ったことも、四〇〇〇万円の根拠についてポーションの対価だということを知ったら、ポーションが欲しいヤツはなんとかして俺に接触しようとするだろうことも想像に難くない。

で、実際にこうして接触してきた。

ここまでは予定通り。

重要なのはこれからだ。

「結論から言おう。確かに藤本興業ならポーションを用意できる」

「!」

「でもタダで渡すつもりはない。俺たちが奥野さんにポーションを支度金として用意したのは、彼女が【侍】というレアなジョブを持っていたからだ。俺たちが彼女の将来性を買ったとも言えるが、同時に彼女は自身と引き換えにポーションを手に入れたとも言える」

事実、彼女は最低三年間龍星会に所属すること――俺の部下であること――や俺の許可なくダンジョン探索を禁止されるなど、いくつかの制約を強いられている。

決して慈善事業ではないのだ。

尤も、彼女は三年経っても勝ち馬から降りるつもりはないとのことなので、制約なんて有って無いようなものなのだが、そんなことは教えない。

もちろん、記憶の中で俺が彼女に 色(・) 々(・) と(・) お(・) 世(・) 話(・) に(・) な(・) っ(・) て(・) い(・) た(・) という事情も教えない。

むしろこっちがポーションを使ってまで彼女をスカウトした理由の大半なのだが、これは俺しか知らないことだからな。

説明されても困惑するだけだろうし、変に曲解されて『体を張ればポーションを貰える』なんて勘違いされても困る。

「君がポーションを求める動機は聞かない。興味がない。俺たちにとって重要なのは”なぜ欲しいのか”ではなく”君がナニを支払えるか”ってことだけだ」

「……」

「君にはあるのか? 俺たちがポーションを渡してもいいと言えるようなナニカが。もちろん金なんかじゃないぞ」

重要なのはここ。

もし彼女に俺を納得させるナニカがあるのであれば、俺は喜んで彼女にポーションを渡そう。

でも、それがないのであれば、ここで話は終わり。

金が欲しいなら普通に売ればいいだけだし、彼女に優先して売る理由もない。

尤も、ポーションを買える金があったらわざわざ俺に頼みにきたりはしないだろうけどな。

「さ、PRの時間だ」

「ぴ、PR?」

「そう。PR。上手くいけばポーションを手にできるが、失敗すればポーションを貰えない。それだけのこと」

「それだけって……」

ポーションの扱いが軽すぎるってか?

なにやら呆気に取られているが、世の中なんてそんなもんだぞ。

ともかく俺から言えることは一つ。

「別に失敗したところで取って喰おうってわけじゃないからね。気楽にやってくれて構わないよ」

「そ、それは……」

ポーションを求めて命懸けでダンジョンに潜るよりはマシだろう?

今どき初対面の少女にこんな面接をしてくれる会社なんてそうそうないぞ?

だから切岸さんとやら。

ポーションが欲しかったら頑張って自分をアピールしておくれ。

俺だって無駄な時間を過ごすよりは、有益な時間を過ごしたいんだから。