軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 結合の効果

「おはようございます!」

「あぁ、はい。おはよー。今日も元気そうだね」

「はい!」

今日も今日とて元気に挨拶をしてくる奥野せら。

記憶の中に在る彼女はどっちかと言えばアンニュイな感じだったように思えるが、多分こっちの元気な大型犬みたいな感じが彼女の素なんだと思う。

まぁ若い時期に両親が大変なことになり、それを何とかしようとしたら悪い男に騙されて、挙げ句に借金背負わされた上にそれを返す為に風俗店で勤務をさせられていたら、どんなに明るい子でもあぁなるか。

とりあえず元凶であった黒羽の弟君は排除できたので、今回の彼女があんな風になることはないだろう。多分。

弱気? いや、世の中ナニがあるかわからないからね。

『大丈夫だろうと油断していたら何故かあの道に引きずり込まれていた』なんてこともあるかもしれないし。いや、マジで。

特に今はギルドの関係者である黒羽一家と揉めている真っ最中だからな。

追い詰められた連中は手段を選ばずナニカを仕出かす可能性が極めて高い。

だから完全に止めを刺すまでは気を抜いてはいけない……と思っていたのだが、どうやら俺が思っているほど今の黒羽一家が持っている権威は強くはなかったようで。

「不信任案?」

「そうなんです! なんでも一昨日生徒会長が私たちに圧力を掛けるため校内放送で呼び出しをかけたことが切っ掛けらしいですよ?」

「へぇ」

なんの為に俺が教師に対して『明日と明後日休みます』と明言したと思っているのやら。

しかし、校内放送で呼び出しとは、生徒会長とやらも悪手を打ったもんだ。

本当に決闘をなかったことにしようとしたのか、それとも単純に事情を聞こうとしたのかは知らないが、そんなことをしたら『生徒会長が一年に圧力を掛けた』って噂が広まるに決まっているだろうに。

しかも対象である俺たちは登校すらしていなかったもんだから、交渉もできず、ただ悪評の分だけ損をした感じに収まってしまったわけだ。

ざまぁとしか言いようがない。

で、こんなに早く不信任案が出るってことは、墓穴を掘った生徒会長さんが、これまで身内として付き合っていたはずのギルド関係者たちに裏切られたってことだろう。

連中は肩書と足の引っ張り合いが大好きだからな。

きっと今頃生徒会の周囲では、それだけで小説が一本書けそうなくらいドロドロした人間ドラマが繰り広げられているものと思われる。

正直な話そんなのそっちで勝手にやってくれとしか言えないのだが、今回のケースに限れば俺たちも全くの無関係というわけではない。

というか、当事者の片割れだ。

なので、近いうちに生徒会長と敵対している連中から接触があるはず。

俺としては学校内の権力争いに興味などないのだが、向こうは真剣にやっているからな。

真面目にやっている相手を煽ってわざわざ波風を立てるのも無粋というもの。

もし『被害者の声が聞きたい』なんて言われたら、遠慮なくぶちまけてやる所存である。

それによって黒羽一家がどうなろうと知ったことではない。

ただ、遠慮がなさ過ぎてギルド関係者を刺激しては意味がないので、その辺のさじ加減は間違えないようにしたい。

それはそれとして。

「なぁ奥野さんや」

「はい! なんでしょう!」

「あのさ、ダンジョンで得た魔石なんだけど、全部俺が買い取っていいかな?」

「買取ですか? まぁいいですけど」

何でそんなことを聞くんだろう? って感じだな。

元々探索で得た素材は六:四で分配する契約だし、魔石に至っては藤本興業を通じてギルドに売り、その際に得たお金を分配する予定だった。

このことからも分かるように、彼女にとって重要なのは売上の四割が入ることであって、魔石の所有者が誰になるかはさしたる問題ではない。

当然そのことは俺も理解している。

だからこそ、彼女と契約を交わした俺がわざわざ彼女に許可を求めたことに不信、とまでは言わないが、違和感のようなものを覚えたのだろう。

気持ちはわかる。

俺だって彼女の立場なら不思議に思うだろうからな。

誤魔化そうと思えば誤魔化せるだろう。聞くなと言えば聞かないだろう。

だが、それが彼女の好奇心を刺激することになり、その好奇心のせいで後から問題が発生したら意味がない。

好奇心は猫をも殺すともいうし、交渉の基本にも『本当に必要なとき以外、嘘は吐かない方がいい』というのがあるので、ここは敢えて隠さない方向でいく。

といっても、現時点ではそんなに隠すことがあるわけではないのだが。

「あ~。細かいことは後で説明するが、ちょっと魔石を使った実験がしたくてね」

「実験?」

「うん、そう。実験。いやぁ商人は色々大変だからね。創意工夫ができそうなところに目を向けないとこの先キツいんだよねぇ。そんなわけで、ギルドの買取額よりも少し色を付けるから、魔石を手に入れたら俺に売って欲しいんだ」

「……なるほどぉ」

もちろん、実験といっても学校の授業で行われているような”魔石から魔力的なナニカを抜いてみよう!”なんて実験ではない。

スキルを使って魔石の可能性を探求する実験である。

そう。新たに俺が得た謎ジョブ【過客】に紐づいていた謎スキル【結合】は、魔石に含まれている魔力的なナニカに干渉できるスキルであることが判明したのだ。

昨日の夜にざっとやってみたところ、以下のことが判明している。

一・同時に結合できる魔石は二つのみ。

二・結合させることができるのはおそらく同系統の魔物が落とす魔石同士だけ。

三・同じ魔物の魔石を結合させた場合、大きさや魔力的なナニカは元の一・五倍くらいになる。

四・クラスが違う魔物の魔石を結合させた場合、魔力的なナニカは小さい方から大きい方に流れる。

と、こんな感じだ。

一についてはそのままだな。

二については、ゴブリンの魔石とゴブリンの魔石であれば普通に結合が可能だったが、ゴブリンとオークの魔石は結合できなかった。だがゴブリンとゴブリンの上位種とされるゴブリンソルジャーの魔石は結合できたため、おそらく同系統じゃないと駄目なんじゃないかなぁと思っている。

ただし、もしかしたら”相性がいい組み合わせ”があるかもしれないので、これに関しては要検証。

三と四もそのままといえばそのままだ。

ただし、四の場合は流れる量や比率などが不明なので、詳しく検証する必要があると考えている。

今のところはこれくらいだが、スキルのレベルが上がったり俺のステータスが上がれば何かしらの変化がある可能性は極めて高い。

というか、確実に変化があるはずだ。

それらの確認をしたり各種実験を行うためにはどうしても魔石が必要になるので、奥野がギルドに卸す分も俺が押さえておきたいというわけだ。

ただまぁ、いくら暈して説明するとはいえここは教室。

誰が聞き耳を立てているかわからないし、なによりこの学校は色んな場所にカメラやマイクが仕込まれているので、詳細な説明ができない。というか、したくない。

でも、魔石は欲しい。

もちろん奥野の分だけじゃなく、クラスの連中が集めている魔石も欲しい。

たとえ最低ランクの魔石でも結合すれば上位種の魔石とそん色ないモノになるのだから。

これまでは使い道がなかったから大人しくギルドに売るしかないと思っていたが、使い道があるなら話は別。

ギルドに売るなんてもったいないことはしないし、させない。

そう考えた俺は、今回奥野を通して『魔石を買うよ。ギルドより高く買うよ』とクラスメイトたちに告知したわけだ。

そして奥野は俺のジョブやスキルが普通の商人ではないことを察している。

そんな俺から”実験に使うために魔石を欲しがっている”と言われれば、奥野がそれを否定する理由はないわけで。

「わかりました! これから得た魔石は全部支部長にお売りします! ……高く買って下さいね?」

「もちろんだ。ありがとう」

うん。最後に若干の冗談を交えたものの、大筋では期待通りの返答をしてくれた奥野には後でボーナス的なナニカをあげないとな。