作品タイトル不明
36話 エピローグ
基本的にダンジョン探索とは面倒なモノだ。
特にレベルが高い探索者にとって面倒だと感じられるのは、移動に時間がかかり過ぎる点だろう。
いや、潜る分にはまだいい。
落とし穴を上手く使えば、最短二時間程度で三〇階層に辿り着けるのだから。
問題は帰りである。
『行きはよいよい帰りはこわい』とはよく言ったもので、三〇階層までの往復を例にすると、往路が二時間程度なのに対して復路に掛かる時間はおよそ一六時間と言われている。
おわかりいただけるだろうか。約八倍もかかるのだ。
その理由はいくつかあるが、最大の理由は往路と違って近道がないからだ。
トラップである落とし穴はすぐに塞がるので縄梯子などは仕掛けられないし、人工的に穴を掘っても一〇分もしないうちに塞がってしまうため、階段のようなものも設置できない。
そのため探索者はダンジョンに最初から備え付けられている階段を使って戻るしかないのである。
ちなみにダンジョンの階層の広さや形は、大体一辺が五~一〇kmくらいの正方形になっている。
もちろん真っ平らな草原だけではなく、山もあれば谷もある。迷宮っぽい迷路もある。
それが少なくとも三〇階層あるのだ。
物理的な距離に加え、移動と探索で疲労しているし、ドロップした素材を持っているし、当然帰路にも魔物も出てくる。
これだけのマイナス要素が重なれば移動に時間が掛かるのもお分かりいただけるのではなかろうか。
ちなみにダンジョンの構造に関しては『地殻を貫いている』とか『マントルに到達している』とか『そんなのが世界中にあったら地球そのもののバランスがおかしくなる』などと色々な意見があるが、公式見解として『そんなん知らん。そうなっているのだから仕方がない。諦めろ』という形で決着がついている。
もちろんギルドや研究所に対して定期的に『もう少しちゃんと調べろ! 役目だろ!?』という意見が突き付けられるときもある。
だが、それらの意見に対してギルドは『貴重なご意見をありがとうございます。これからもダンジョンの謎を解き明かすべく鋭意努力してまいりますのでご理解とご協力の程をよろしくお願いします』という形で応じつつ、事実上の放置をしている。
ちなみにこの場合の”ご理解とご協力”とは当然『黙って予算を寄越せ』という意味である。
ちなみのちなみにギルドには『ダンジョンに潜る探索者をサポートするために』という名目で国から莫大な予算が下りているのだが、その予算のほぼ全てが『ギルドの運営費』として消化されている。
過去には国会の予算委員会などでこのことを突っ込まれたこともあったが、ギルドは『個人を優遇するのは不平等になるので。彼らが円滑にダンジョンを探索することができるよう万全の環境を整えることが我々ができる一番のサポートだ』とほざき、探索者が快適に使えるよう全国にあるギルド関係の建物を新しくしたり、探索者を事細かくサポートできるよう新しい役職や部署を作って 信(・) 用(・) で(・) き(・) る(・) 人員を配置したり、 緊(・) 急(・) 時(・) に(・) 備(・) え(・) て(・) ポーションやハイポーションを確保したりしていた。
なお、奥野の両親が放置されていたことからもわかるように、一般の探索者にナニカあったとしても彼らは『不平等だから』と言って備蓄を開放することはない。
彼ら彼女らがいう 緊(・) 急(・) 時(・) とはダンジョンに潜っている探索者にナニカあったときのことではなく、自分たちの身近な誰かが怪我をしたり病気になったときのことなのだから。
端的に言ってクソどもなのだ、連中は。
もし国が調査を強行させようとしても『その分の予算を寄越せ』と主張するだろうことは想像に難くない。その予算がどう使われるかは、まぁ御察し下さい。
こんな連中にまともな調査を望む方が間違っているだろう。
さらに言えば、一五年後の世界でさえ公式に五〇階層以降に挑んでいたのは、世界唯一俺たちギルドナイトだけだった。そしてギルドナイトに求められていたのは『より深い階層の攻略……正確に言えばより深い階層から素材を持ち帰ること』であって、素人の意見を述べることではない。
ある意味で一番の専門家であったギルドナイトがそうなのだから、それよりも浅い階層にしか潜っていない者たちの中に、まともな知見など持っている者などいるはずもなく。
せいぜいが大学の教授とか専門家を名乗る人間がそれっぽいことを語っていたくらいだ。
そのためダンジョンに関しては、先駆者が手探りで潜り、なにかある度に『多分こうなんじゃないか?』という仮説を立てて、その仮説が否定されるようなことが起こらなければ、それがそのまま通説となっていた。
こんな状況でどうやってダンジョンの起源に関係するような情報を得ろというのか。
どうしても知りたいなら自分で潜って調べろといいたい。
とまぁ、長々と語ったが、何を言いたいのかと言えば、ダンジョンには未だ解き明かされていない秘密がたくさんあるということだ。
その中には【ジョブ】のこともあるわけで。
―――
ことは、ダンジョンの三一階層で何体目かの黒鬼を討伐したときに起こった。
『グォアァァァ!』
俺も奥野も今更彼らに苦戦することはないので、レベリングと技術的な慣らしと人型との戦闘経験を重ねることを目的として戦っていた最中、俺の身に不思議なことが起こった。
「お、レベルが上がっ……はぁ?」
「どうしました?」
「いや、今レベルが上がったんだが……」
「おぉ、ということはついにレベル三〇に到達ですか! おめでとうございます!」
レベルが三〇に到達するとジョブが基本職から上位職へ昇華する。
そのため、探索者にとってレベル三〇は一つの目標とされている。
現在のところ世界に数百万人いるとされる探索者の中でも上位職に就いているのは一万人に満たないのではなかろうか。
そういうこともあって、レベル三〇を超えた探索者は一定の尊敬を集めているのが現状である。
また上位職にはいくつか種類があることも知られている。
基本職は同じであっても、三〇に到達するまでに行った行動――おそらくステータスの値――で昇華する先は違うのだ。
具体的な例としては、剣士なら剣聖や剣豪に、騎士なら聖騎士や黒騎士があるし、魔法使いなら大魔導士や賢者などがある。
この派生というか枝分かれというか、ともかく昇華先が一定でないことから、上位職はその全てが明かされているわけではない。
つまり、珍しいジョブであってもレベルが三〇を超えていれば『上位職だからな』と言って誤魔化せるのである。
もちろん【旅人】だってそうだ。
三〇を超えたら、ギルドの連中になにを聞かれても「行商人のレベルを上げたら旅人になった」と言って誤魔化すつもりだったのだ。
検証する方法がない以上、それで全部誤魔化せる。そう思っていたからこそ早々にレベル三〇になっておきたかったのだが……。
「それで、支部長の上位職ってなんなんですか? あぁいえ、もちろん話したくないのであれば話さなくてもいいですよ!」
ステータスを聞くのはマナー違反だが、ジョブはそれほどでもない。
ただし相手のジョブが商人系であった場合は話題そのものが地雷を踏むことになるので注意が必要。
そんな探索者としての常識を思い出したのだろう。無理には聞かないと宣言してきた奥野。
まぁ元が商人系ではないのでその気遣いそのものが無意味なのだが、わざわざそんなことを言う必要はないだろう。
そもそも問題はそこじゃない。
記憶の中では、旅人はレベルが六〇を超えても上位職へ昇華しなかった。
それも含めてレアなのだと結論が出ていた。
だから俺はさっさとレベルを上げてジョブを誤魔化せるようにしたし、いずれもっと強くなるレアなジョブを持った奥野をスカウトしたし、これからもそういう人材を集めようと思っていたのだ。
それらは全て『旅人が昇華しない』という事実からきていた。
それなのになんで。
「なんでジョブの表記が変わっているんだ?」
――
ステータス
名前 :松尾篤史
レベル:三〇
ジョブ: 過客(かかく)
STR(攻撃力) 611 (15)
DEF(防御力) 590 (15)
VIT(体力) 601 (15)
MEN(精神力) 604 (15)
SPD(敏捷) 602 (15)
DEX(器用) 609 (15)
MAG(魔法攻撃力) 600 (15)
REG(魔法防御力) 590 (15)
合計 4807 (120)
※カッコ内は上昇値
スキル 【ルーム】【結合】【雷撃】