軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33話 やめて! 私の為に争わないで!

「うわぁ」

……支部長ってばもう、本当に「うわぁ」としか言えません。

もしかしたらここは「私を差し置いて勝手なことを!」と怒るところなのかもしれませんが、完全にその気が失せちゃいましたよ。

なんですこの人?

専務さんも何回か確認していましたけど、本当に堅気ですか?

確かに言っていることは何一つ間違っていませんよ?

クランに所属している人をスカウトすることがマナー違反であることは事実だし、彼のお父さんがギルドのお偉いさんだというのであれば「ギルドの権力を利用して引き抜きをしようとした!」という主張が通るのも分からなくはありません。

でもね?

そもそもそんなの「知らなかった。ゴメン」とか「気付かなかった、ゴメン」で済む話じゃないですか。

こっちだってそう言われたら「学生だから仕方ないね」って言って赦すしかないじゃないですか。

もちろん軽く注意される程度のことはあるでしょうけど、それで終わる話じゃないですか。

それがなんで『四〇〇〇万円を賭けた決闘』になるんでしょうねぇ?

いや、目の前で見て、聞いていましたけど。

懇切丁寧に彼のやったことを説明してあげていましたね。

普通、普通と連呼して。どれだけ馬鹿なことかしているのかを事細やかに説明して。

お父さんやお姉さんとは違うんだからと、フォローしているようで全くフォローしていない論調で。

懇切丁寧に『謝罪すれば赦してあげるよ』って伝えてあげていましたね。

その内容が『馬鹿で注意力が足りない無能ですみませんでした』なんて、年頃の男子が絶対に言えないような内容でしたけど。

決闘を止めてもいいとか言いながら『散々阿呆なことをほざき、散々無知を曝け出し、その上で自分から決闘を申し出ておきながら尻尾を撒いて逃げてもいいじゃないか。だって君は普通なんだから』ですよ。

これで引き下がれたら逆に凄いと思いませんか?

そもそも私の進退が四〇〇〇万円で決まるってどうなんです?

高いの? 安いの?

確かに契約金としてポーション二本頂きましたけど、今の私のステータスってその辺の探索者とは比べ物にならないくらい高いですよね? それを考えると四〇〇〇万円では済まないと思うんですが、そこのところはどうなんでしょうか?

まぁ絶対に負けない賭けごとで四〇〇〇万円稼げると考えれば悪くはないのでしょうけど、なんだか、こう、微妙な感じになりますね。

あと、私より価値が高い支部長に値段が付いていないのは何故でしょうか?

んー。もしかして自分に値段を付けることを嫌がった?

もちろん恥ずかしいとかじゃなくて、ギルドに目を付けられたくないって意味で。

自分は目立ちたくない。でも彼らに、というか彼の後ろにいるギルドに嫌がらせをしたい。

だから私に四〇〇〇万円の値段を付けた。

値段の根拠となる契約書もありますから、不自然というほどではない。

こんなところでしょうか。

うん。ありそうな気がします。

というか間違いなくそうでしょう。

それらを踏まえた上で、私としてはどう思うかと言えば。

「まぁ支部長がそうしたいなら別に構わない」としか言えません。

どうせ負けませんし。

黒羽君でしたか? どれだけ粋がっていても支部長に勝てるはずがないでしょうに。

この人、イレギュラーで出現した黒鬼を瞬殺する人ですよ?

一〇階層のボスにすら勝てない君が勝てる相手じゃないですよ?

言いませんけど。

私だって結構イラついていますからね。

過去の捨て台詞もそうだし、さっきまでの勧誘の言葉もそう。

でも一番は、今。

支部長のことを【商人】って見下している連中の視線にイラついています。

支部長はね? 誰もが私から距離を取る中、手を差し伸べてくれたんです。

ただでさえ品薄のポーションをセットで売ってくれたんです。

それだけで私が彼を尊敬する理由には十分だというのに、凄く貴重なアイテムを使ってレベリングをしてくれたし、その途中で得たアイテムを売って得た利益もきちんと六:四で分けてくれたんです。

そう。本当は全部支部長のモノにしても良かったはずなのに、ちゃんと分けてくれたんです。

黒羽君が私をパーティーに入れたとき、支部長と同じことができるとは思えません。

もしかしたらさっき支部長が言ったように、粗悪なポーションを餌にして好き勝手使われていたかもしれません。

というか、そもそもパーティーメンバーが多いから一人当たりの利益が減るんですよね。

同行するメンバーのレベルが低い。当然得られる利益も少ない。私になんの得があるんです?

それでどうして『君ほどの実力者を活かせるのは俺たちしかいないんだぞ!』なんて言えたのやら。

取り巻きの人たちだってみんな”普通”だし。

彼らの自信はどこから来ているのやら。

ここまでくると逆に凄いですよね。

まぁこれから現実を知ることになるんですけどね。

だって、今更断れないでしょう? 今更謝れないでしょう?

「……ハッタリだ」

ほら。根拠のない断定。

さっき取り巻きの……スズキ君? と同じことを言いだしましたよ。

「ん?」

「てめぇは決闘になったら負けるから、そうやって掛け金を釣り上げて俺が下りるように仕向けているんだろう!」

カジノとかでいう 上乗せ(レイズ) ってやつですね。

自信満々に掛け金を上げることで相手にプレッシャーをかける技術です。

確かに支部長がただの【商人】だったら、決闘から逃れるためにその手を使う可能性はあったかもしれません。でもねぇ。

「あぁ、そう思っちゃったかぁ」

如何にも『バレたか』みたいな顔をしていますけど、私にはわかりますよ。

アレは『釣れた』って顔です。

でも、それがわかるのは私が支部長の実力を多少なりとも知っているから。

もしそれを知らない人が見たら……。

「はっ! 図星みてぇだな!」

こうなりますよねぇ。

「いいぜ。お前が勝ったら四〇〇〇万支払ってやるよ! 俺が勝ったらその分働いてもらうぜ! お前はもちろん奥野にもなぁ!」

働かせる、ねぇ。一体ナニをさせるつもりなんだか。

何となくわかりますけど。

「……本当にいいのかい? 今なら謝罪すればそれで済むんだよ?」

決闘を避けていると見せかけて、絶対に逃げないよう釣り針をより深いところまで差し込もうとしているんですよね。わかります。

「もうその手には乗らねぇよ! 俺が出した条件をお前が認め、お前が出した条件を俺が認めた! これで決闘成立だ!」

「はぁ……」

あ~あ。何度も警告してもらったにも拘わらず自分から成立させちゃいましたか。

これで逃げられませんよ。

馬鹿ですねぇ。本当に馬鹿ですよねぇ。

「時間は今日の放課後一五:三〇! 場所は第三実習室! 時間通りにこなければ不戦敗だ! ……絶対に逃げるんじゃねぇぞ!」

「時間と場所は一方的に決めるもんじゃないんだけどねぇ。まぁいいけど。あぁ条件に関して追加してもらわないといけない事項がある」

「あぁ!?」

「これでも社会人なんでね。クランを辞めるならそれなりの手続きってのがあるんだ。だから、どちらが勝つにせよ『契約の履行は一週間以内にすること。それが成されなかった場合は一連の流れをギルドに報告し、その裁定を仰ぐ』ってのを加えて欲しい。君だって今日中に四〇〇〇万円用意しろって言われても困るだろう?」

「~~~っ! どこまでもっ舐め腐りやがって!!」

「黒羽さん、ここは……」

「……わかってる! いいぜ。せいぜい手続きでもなんでもしろや。もちろん負けた後でクランに泣きついたって取り消しは認めねぇぞ!」

「それはどうも。君もちゃんと四〇〇〇万円用意してね」

「はっ! もうはったりは通じねえんだよ!」

そう言って二人は、クラスに常備されている決闘に必要な書類にサインをしました。

これで本当に決闘成立です。

ちなみにこの一連の流れは、教室に設置されている監視カメラで録画されているので、誤魔化しなどはできません。

つまり、黒羽君が一週間以内に四〇〇〇万円を支払わなかった場合、ギルドには決闘の契約書と一緒に一部始終が録画された映像も添付されるということです。

負けたら地獄。

億が一彼が勝ったとしても、ギルドが学生の遊びとクランのビジネスを混同するはずがないので、契約自体が不成立。というか、ギルドの方から龍星会に謝罪の連絡が入るでしょう。そうなれば彼のお父さんの面目は丸つぶれです。彼はただでは済まないでしょう。

その際、大人の事情で決闘の契約を免れた私たちが周囲から冷めた目で見られるかもしれませんが、所詮はその程度。

支部長が言ったように、所詮は三年で終わる関係ですから、彼らにどう見られようとも特に問題はありません。

つまり今回の決闘は黒羽君にとって、勝っても地獄負けても地獄の罰ゲームです。

いやはや、ここまで自分を追い込める人っているんですねぇ。

この人のパーティから追い出されて本当に良かった。

あ、そういえば。

「支部長?」

「ん?」

「おいおい、今更決闘をなかったことにしようだなんて……」

「四〇〇〇万円の取り分ってどうなるんです? 私は四割の一六〇〇万円貰えるんですか?」

「はぁ!?」

「もちろんだ。なんなら今回に限り半々でもいいぞ」

「こっ!」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「~~~っっっ!!」

なにやら黒羽君たちの顔が歪んでいますけど、関係ありません。

お金はいくらあっても困りませんからね。

貰えるときに貰いますよ!