軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話 パーティーメンバーを求めて

「これから い(・) つ(・) も(・) 通(・) り(・) ダンジョンに行くんだろう? でもその前に話を聞くだけ聞いてほしい。損はないと思うから。あ、ちなみにこれ、俺の名刺ね」

「名刺? とりあえず貰うけど……」

そう言ってルームから名刺を取り出せば、彼女は”商人と話しても意味なんかない”と思ったのか一瞬眉を顰めたものの、最初に名刺を差し出したことで俺が個人ではなく会社やクランといった組織の意思を伝えに来た人間だと判断したのか、素直に名刺を受け取ってくれた。

「ん、支部長と、課長?」

そして名刺に書かれた肩書を見て動きを止める。

そう、社会人はもちろんのこと、社会に疎い学生にも問答無用で説得力を生み出す。これが肩書の力なのだ。

一度興味を引ければこっちのもの。交渉の第一段階は成功したも同然だ。

「俺の立場は見ての通り。君をスカウトしたくて声を掛けた。ただ、話をする前に場所を移したいんだけどいいかな?」

「……まぁ、いいけど」

というわけで、彼女を連れて学外にある極々普通の喫茶店に入る。

「俺はこのケーキセットで。あ、君も遠慮なく好きなものを注文していいよ。どうせ経費で落ちるから」

実際はそんなことはないが、彼女に太っ腹なところを見せるチャンスだと思えばこの程度は必要経費ですらない。

「……そう。なら同じのを」

俺の内心を知ってか知らずか、彼女はこちらに警戒と遠慮をしつつ同じものを注文してくれた。

一番高いモノを頼むくらいの遠慮のなさがあってもよかったが、初対面だからな。

このくらいが妥当だろう。何もいらないと言われるよりは余程いい。

とりあえず「話は注文したのが来てからにしよう。その間、ウチの情報を調べてみたら?」と、向こうに主導権を渡すかのようなことを言ってみれば、彼女は無言のままスマホを取り出して藤本興業と龍星会について検索し始めた。

その様子を見て、俺はかつての彼女を思い出す。

(いや、やさぐれているようで妙に素直なところがあるのは記憶の中の彼女と一緒だな)

「……なに?」

「いや、なんでもないよ」

もしかしたら微笑ましいものを見るかのような視線になっていたのかもしれない。

訝し気に声を掛けられてしまったが、軽く受け流して彼女と過ごした記憶に思いを馳せる。

といっても別に俺と彼女の間に特別な関係があったわけではないのだが。

――彼女と俺の出会いは俺が二十歳になったときのことである。

当時旅人のもつスキルの検証やらルームの改良やらアイテムの横流しやらと色々詰め込まれて疲れていたときに、とあるギルド職員から成人祝い兼報酬としてギルド直営のお店のタダ券を貰ったのでそれを使ったところ、丁度その日出勤してきたばかりだった彼女と一夜を明かすことになったことが始まりだった。

それからもなぜか俺が行く時間と彼女の出勤時間が重なることが多く、なんやかんやで一〇年近く指名させていただいていた関係である。

ついでに言えば、俺が店の人たちから『タダ券の人』と呼ばれていることを教えてくれたのも彼女だったりする。

あのときは「この券を使ってもらった場合、店の内部では指名料もサービス料金も最高の実績になるんだけどさ。目に見えた報酬が貰えないから微妙な気分になるんだよねぇ」とか「でも私は好きだよ。アンタが来た日はアンタ一人だけ相手すればいいし」とか苦笑いしながら教えてくれた。

それ、客に言わなくてもよくね? と思わなくもないが、そういう会話ができる程度には仲が良かったということだから問題ない。多分。

ともかく、俺と彼女の関係性を言い表すなら【客と嬢】それだけだ。

だが一〇年も付き合いがあれば色々と思うこともあるわけで。

ちなみに彼女は艶のある黒い髪とキリッとした目付きが人気を集めており、若いころはもちろんのこと三〇歳になっても人気に陰りはなかった、と思う。その外見が影響してか二五歳までの二つ名は【性技無双の武踏姫】で、二五歳を超えてからは【夜天の嬢王】と呼ばれていた、はず。

どんなスタイルで仕事をしていたのかがわかるような二つ名についてはさておくとして。

もちろん今の彼女にそんな物騒な二つ名はない。

しかし彼女には、なんと入学してから僅か一か月少々の期間で探索者としての二つ名が付けられている。

まぁ、二つ名と言ってもギルドや熟練の探索者が付けたものではなく、あくまでこの学校内で噂される渾名程度のものだが……ともかく。お遊び程度のモノでも二つ名は二つ名である。

今の時点でそれが付けられているという事実が、彼女が探索者として注目を集めているという何よりの証であろう。

それだけ注目を集めている彼女を、商人と認識されている俺が誘うのは無謀と思われるかもしれない。

普通に考えればそうだろう。だが今の彼女がなんと呼ばれているかを知れば、交渉の余地があることがわかってもらえると思う。

曰く【バーサーカー】

曰く【死にたがり】

曰く【ダンジョン狂い】

極めつけには【守銭奴】

以上、入学してから一か月と少しで付けられるにしては随分と物騒な渾名ではなかろうか。

こんな渾名を付けられている人間とダンジョンに入りたいと思う人間は極めて少ない。というかいない。

そのため俺にも交渉の余地があるのだ。

「お待たせしました」

さて、ケーキセットが届いた。ここからが本番だ。

―――

「それで、ウチのことは調べて貰えたかな?」

「えぇ。藤本興業は土建屋さんで龍星会はBランクのクランだったわ。評判は、特別良くもなければ悪くもない。いえ、どちらかといえば少し勢いが落ちている感じかしら」

コーヒーを飲みながら尋ねれば、やや遠慮のない返事が返ってきた。

これは敢えて挑発しているのか、それとも素なのか。まぁどっちでもいいんだが。

「そうだね。だからこそ君をスカウトしたい」

「話の繋がりが見えないんだけど……」

「そうかな? 【侍】なんて稀少なジョブを持っていて、ソロでダンジョンに潜るほどやる気がある。青田買いの対象になるには十分だと思わないかい?」

「その割には今のところスカウトに来たのは貴方だけなんだけど?」

「それはアレだよ。大手は様子見をしているからさ」

「様子見?」

「そう。君も知っての通り基本的に探索者は個人事業主だ。なにがあっても自己責任が普通なんだけど、クランに所属していると少し事情が違うんだよ」

「具体的には?」

「普通の会社でいう労災っていうのかな。そういうのがあるのさ」

「と、いうと?」

「つまり、クランに所属している探索者が怪我をしたらそれなりの補填をしないと対外的な評価が落ちるし、もし所属している探索者が死んだらギルドからも目を付けられるんだ。それが学生なら尚更ね」

「だったらソロでダンジョンに潜っている私は……」

「将来的には有望。でも今の段階では身内に抱えるには危険な存在ってところだね」

「……なるほど」

大手のクランからスカウトが来ない理由に納得がいったのか、少女は、いや奥野はやや俯きがちになる。

それでもケーキを食べる手を止めないのは、甘いモノを食べるのが久しぶりだからだろう。

彼女の事情を知っている身としては微笑ましいのやら痛ましいのやら、なんとも形容しがたい感情が沸きあがってくるのを自覚してしまう。

しかし、ここで情けをかけたところで双方に意味がない。

「おかわりしたいなら自由にしていいよ。食べきれないならお土産に包んでもらうから」と告げつつ、話を進めることにする。

「そんなわけで大手クランは様子見さ。今の君に声を掛けるのは、ウチみたいに多少危険でも有望な若者を確保して規模の拡大を狙っているクランか、本当に新興のクラン。もしくは君を騙そうとする連中くらいだろうね」

実際、彼女は騙されてあの世界に入ったわけだし。

「話をきかないことには決断できないだろう。まずは俺の利益と君と俺両方の利益。それから君の利益について話をしたい。少し長くなるけどいいかな?」

「うん。どうぞ」

「どうも。まず俺の利益だけど、君のスカウトに成功すると、俺は学校でパーティーを組めるメンバーを得ることになる」

「はい?」

よくわかっていないようなので説明をする。

「なぁ、俺のジョブはなんだと思う?」

「え? アイテムボックスがあったから商人でしょ? それが……あ」

どうやら気付いてくれたようだ。

「そうなんだよ。正確には行商人なんだけど、それはまぁいい。問題は商人とパーティーを組んでくれる人がいないってことだ」

「それはそうでしょう。正直言って私だって嫌だもの」

「正直なご意見ありがとう。でもそうなると学校が定めている【卒業までにレベル一〇の到達。及び一〇階層攻略】という基準を満たせないだろう?」

「そうね」

俺たちが通っているのは探索者を育成するための学校である。

そのため卒業するためには『探索者としてそれなりの力がある』と認められなくてはならない。

その条件が、レベル一〇への到達とダンジョン一〇階層の攻略である。

「一応卒業間近まで自力でその条件を満たせそうにない生徒は、教師なり他の成績優秀な生徒なりにお金を払ってダンジョンへ同行してもらえるっていう救済措置はある。でもそれをやると評価がマイナスになるんだよ」

「まぁ、自力で探索できていないものね」

「その通り。そのことに異を唱えるつもりはない。だけどこのときに付いたマイナス評価は、ずっと消えない」

「それが嫌なら早々にパーティーメンバーを集めて攻略すればいい。でも商人は嫌われているからメンバーが組めない」

「そういうこと。けど同じクランの繋がりでパーティーを組めれば問題は解決するってわけだ」

「ふぅん」

実際にはすでにレベルは一六だし、ダンジョンも一五階層に潜っているのでパーティーを組む必要なんてない。ただし商人がソロで結果を出したと知られると周囲から探りを受ける可能性があるので、それらを誤魔化すための風除け的な役目を担ってもらいたいのだ。

さすがに言わないが。

「今のは学生としての利益。次に会社に勤める人間としての利益の話だ」

「ふぅん。続けて?」

「優秀な人材をスカウトできれば実績になる。その人材が活躍してくれれば尚良し。金銭の利益による評価だけじゃなく、管理職としての評価もプラスになる」

「それはまぁ、わかりやすい話ね」

「そうだろう?」

こういうのは分かりやすい方がいい。

「あとは、さっき君が言ったように、今のウチは少し業績が落ち込み気味なんだ。だから多少のリスクを許容してでも戦力になる人材を確保したいと思っている。ここまでが君をスカウトすることで得られる俺と会社の利益。細かいところではまだあるけど大まかにはこれだね」

「なるほどねぇ。そっちの事情は理解したわ。で、あなたのスカウトに応じることで私にどんな利益があるのかしら?」

俺に下心という下心がないと理解したのか、彼女は先ほどよりも乗り気になっているように感じる。

「まずは双方の利益からだね」

「むっ」

でもな、そうやって感情を表に出すと騙されるぞ。こっちに騙す心算はないけどな。

内心で彼女の危うさに突っ込みを入れていることはおくびにも出さぬまま、俺は用意していた話の続きを語ることにしたのであった。